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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
2021セシャトのWeb小説文庫小説文庫
68/126

2021年より始まる脅威

 三人の美女達は棺の前で傅く。年の瀬、偉大なる御方の目覚めに一人は歓喜し、一人は閉口し、もう一人は無表情で出迎える。

  棺の中から現れしは銀髪の長髪。そして真っ白い肌に獣のようなパープルアイ。頭に大きな王冠を乗せた十七、八の異様に綺麗な美少年。

 彼は彼の為に用意された豪華な椅子に腰を下ろす。


「お目覚めを喜ばしく思います! プライム! リィグヴェーダです!」


 同じく銀髪、真っ白い肌をした美女は喜びのあまり表情が緩み今にも飛びつきそうなくらい身を乗り出してそう言う。


「リィグヴェーダ、ニュクス、バッカス……後一柱足りぬな? 何処に」


 それには黒い髪の美女ニュクスが答えた。


「偉大なる我らが御方プライム、夜も再び出会えた事を喜び、かの者の所在について答えり、紅い門の先に至り、帰らず」


 その答えにプライムと呼ばれた少年は頬杖をつきながら頭を地面にずっとつけている最後の美女に尋ねた。

 

「バッカス、面をあげ、祖が眠っていた間、直近の話をせよ」


 微動だにしなかったバッカスと呼ばれたショートの桃色の髪の美女はゆっくりと顔をあげる。そしてプライムと呼ばれた少年に話す。


「そうだね。プライムが望みそうなお話はいくつかある。どれがいいかな?」


 鼻で笑うプライム、指をいくつか動かすとリィグヴェーダと名乗った美女はすぐさまワイングラスを用意。そしてそこに純白の液体。そう、牛乳を注ぎ込む。グラスを振り、飲まないプライムに氷を用意し、グラスに落とす。

 そこで初めてプライムは牛乳を飲み干した。


「既に古書店『ふしぎのくに』はクリス・棚田が屠り、手中に収めたか?」


 その話になり、三人の顔色が変わる。それがただごとではないとプライムは理解すると、トントンとグラスを鳴らし、再び牛乳を注がせる。そして、次はゆっくりと堪能した後に冷たくいった。


「何があった? バッカス、答える事を許す」

「恐れ多い事だよ。我らが御方プライムと並ぶと思われたただの人間、クリス・棚田は失脚したんだよ。彼は牙を抜かれ、今では古書店『ふしぎのくに』へ遊びにいくくらいにね」

「それは誠か?」

「えぇ、誠で」


 プライムはガタガタと震え、そして牛乳の入っているワイングラスを握りつぶした。


「ありえぬ……祖をこんな深く冷たい場所に送り込んだあの憎き、そして愛しきただの人間が、何故……」

「さぁ? プライム、一言言えるのは人間の心はただならぬという事じゃないかな?」


 プライムと呼ばれた少年は、手の怪我など気にも止めず、代わりに一筋の涙を流した。棚田クリスの古書店『ふしぎのくに』攻略失敗はプライムからすれば長年連れ添ったツガイを失ったようなすくような気持ちになった。


「ニュクス、語れ。棚田クリスをも心を振るわせたという今年の物語を」


 ニュクスは目を瞑ると六作品名前をあげた。

 

 ・『隻眼隻腕の魔女と少年 著・麻酔』

 ・『サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持― 著・玉屋ボールショップ』

 ・『飛べない天狗とひなの旅 著・ちはやれいめい』

 ・林檎転生  ~禁断の果実は今日もコロコロと無双する~』『プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜』著ガトー

 ・ 『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』

 ・『machine head 著・伊勢周』

 それらの名前を聞くと、プライムは三人に急かすように言う。

 

「語れ、語る事を許す」

「はい! このリィグヴェーダが! 御方の為にお読みしますよぅ!」


 どの作品を読み聞かせようかとしたところ、無表情のバッカスは顔をあげたまま一言申し立てた。

 

「先月……リィグヴェーダは失敗されたんだけれど、良いのかい?」

「バッカスさん、それを御方の前で言うのはどうでしょう? 陰湿ですよぅ!」

「フン、古書店『ふしぎのくに』店主の真似事?」

 

 睨みつけるリィグヴェーダにあしらうバッカス二人を見て、プライムは口を開いた。


「リィグヴェーダは黙って伏せよ。代わりにバッカス、読むことを許す」

「どうでしょう? 御方自ら古書店『ふしぎのくに』に出向いてみては? 我らが天上の君、プライム・アザートス」

「バッカスさん! プライムに」

「喋るなと申した」


 プライムとバッカスは見つめ合う。そして、しばらくするとプライムはクスクスと笑った。


「面白い……そのざれ遊び付き合ってやろう。では参る前に問う。先ほどの中で貴様らのより良い物を二つあげよ。ニュクスから」


 ニュクスは少し考え語る。


「甲乙つけがたいが、夜がおすすめするのは、『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』。そして『飛べない天狗とひなの旅 著・ちはやれいめい』」

「バッカス」

「そうだね。強いて言えば、『machine head 著・伊勢周』、林檎転生  ~禁断の果実は今日もコロコロと無双する~』『プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜』著ガトーかな?」 

「リィグヴェーダ。これに限り言葉を許す」

「お二人は分かっていませんねぇ! 『隻眼隻腕の魔女と少年 著・麻酔』。そして『サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持― 著・玉屋ボールショップ』がおすすめかと」


 綺麗に意見が別れた。それにプライムは口元を緩める。概ね想像通りであった事。プライムは足を上げる。すると右、左とブーツをリィグヴェーダが履かせてくれると立ち上がった。青薔薇のコサージュのついたジャケットにステッキを持って言い放った。


「祖が古書店『ふしぎのくに』に参る。貴様らはゆるりとしているがいい」


 二人が頭を垂れる中、バッカスと呼ばれた女性はその場から去ろうとしているプライムに向けて思い出したように言う。


「偉大なる御方、プライム……プライム・アザートス。こちらをつけて行くのが今のマナーだよ」

「ほぉ」


 そう言ってプライムの耳元に触れてバッカスは白いマスクをプライムにつける。今はマスクをつけて生活するのがマストである事をバッカスが話すと、何度か頷きプライムは理解した。


「浅ましき人間達の礼儀というのであれば祖は倣おう、では行ってくるとする」

 

 プライム・アザートスが外に出て五分、誰がというわけでもなく、リィグ・ヴェーダが、ニュクスが、そしてバッカスが外出の準備を始めるとプライムのあとをつけ始めた。

 

 プライムは外に一歩出て外の空気、人間の営み、それらを煩わしく思いながら歩く。すると対面側から同じ歳くらいの少年少女が歩いてくる。

 

「そこな卑しき人間の子等よ」

「あぁ? 喧嘩売ってんのかテメェ! 表でろ!」

「理穂子、ここは表だ。よく見てみろって、多分、古書店『ふしぎのくに』のちょっと変わった人だろう。なんとなくだけど、あの生意気な中学生の子に似てね?」


 理穂子と呼ばれた女子高生は覗き込むようにガン垂れてプライムを見つめる。そんな理穂子をプライムは冷ややかに見つめる。そしてプライムがド級の美少年である事に気づいた理穂子は答えた。


「で? 私らに何の用だよ?」

「古書店『ふしぎのくに』という場所を知っているか? 知っていれば案内する事を許す」

「お前どんだけ偉そうなんだよ? あぁ? イケメンじゃなかったら五回は殺してんぞ! あぁ?」

「待て待て、理穂子。この人、古書店『ふしぎのくに』って今言ったぞ。今日、夕方に俺たちも行くわけだし招待されてんじゃねーの? 俺は、満月さじ、でこっちが茜ヶ崎理穂子。一蘭大附属高校の文芸部員だよ。君は?」

「浅ましい人間に名乗る名はない。恥を知れ、とうもろこしのような色の頭をした人間の雄よ」

「オーケー! 表でろ! 簀巻きにして東京湾に沈めてやる」


 二人の学生と海外の美少年が揉めているところ、関わりたくないなぁと遠くから見ていたもう一人の学生はこのままだと海外の美少年が怪我をするかも知れないと意を決してその場に介入。

 

「先輩達、やめてくださいよ! きっと、日本語が少し苦手なだけだと思うんです。すみません。僕たちも今日の夕方に古書店『ふしぎのくに』へは向かうんですが、今月最後の部活をしに学校にいくんですよ。その後であれば、一緒に古書店『ふしぎのくに』へいきませんか? 僕も同じ文芸部の大熊ミハイルです。先輩達にはミーシャって呼ばれてます」

 

 ミーシャがそう言って中を持つも……

 

 

「また一人、浅ましい人間の雄か、害虫のように貴様らはわらわらと湧いてくるな」

 

 さじと理穂子はもうブチギレているが、ミーシャは、あははと苦笑するのみ、ようやく話が進むというフラグが立った。ここでの最適解は沈黙だったのである。プライムは話す。

 

「そこの野犬のような二人に対して、貴様はまだマシな犬らしい。祖の名はいずれ浅ましく卑しい貴様ら人類を導くべく目覚めたプライムだ。この名を呼ぶ事を許す。そして、貴様らが文芸部という事に少々の驚きを感じた。良い。案内せよ。その部活とやらに、わずかばかりの興味を持ってやった。泣いて喜ぶといい」

 

 めちゃくちゃ煽ってくるプライムだったが、部活についてくるというのだ。それに断固拒否の姿勢を見せる部長満月さじと茜ヶ崎理穂子だったが、埒があかないので、ミーシャに説得されてプライムをとりあえず学校の部室へと案内する事になった。学校の北校舎、その最上階の離れた部屋。

 そこに入るや否やプライムはいった。

 

「侘しく狭く、汚い部屋だな」

 

 もう殴りかかろうとした理穂子だったが、続きの台詞に止まった。

 

「だが、悪くない。とてもいい物語の匂いがここはする。貴様ら、相当読み書くようだな。良い、許す。今年興味深かった作品を話すといい」

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