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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第八章 『machine head 著・伊勢周』
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全書全読の神様は駄菓子を食べながら

 ヘカそして一文字いろはは空港のラウンジでモンスターエナジーを飲みながら語らっていた。


「白神の奴は、ヘタレなんな!」

「ヘカちゃん、そうかしら? 見守る愛もあるじゃない! 素敵だわ!」


 二人はある作品の話をしていると待ち人がやってきた。癖毛に眼鏡の美女、何処の国に今までいたのか、随分軽装だ。


「うはー寒いっすねぇ! ヤーパンの夏と冬は自分苦手っすよ」

「欄ちゃん、おかえりなん!」

「ただいまっす! ヘカ先生に、爆弾魔のいろはさん、それにしても何の格好すかそれ?」


 二人はなんらかの制服を着ている。無言でいろはに同じ制服を渡されて、ヘカが説明。


「アーセナルの制服なんな! またいろはちゃんが著作権無視して作ったん!」

「へぇ〜世界的テロリストはやる事が違うっすね。自分、お風呂入ってヘカ先生のマンションで寝たいんすけど......」

「欄! あんたも世界的指名手配でしょ! そんな事よりアンタと私の力が必要なの!」


 ヘカといろはは腰に手をやり目が輝いている。


「要件はなんすか?」

「スナークハントなんな! 神保町に良くない物が来るん! モンエナ部全員集合なん!」


 他三名に連絡するも家事やら遠方やらで参加は見送り。ヘカは頬を膨らませて言い直す。


「アーセナル モンエナ部クロウ! 現場へ直行なん!」


 おかっぱのサラ毛からヘカはカラスの羽根で作られた羽根ペンを取り出すと歩き出した。それに遠い顔をしてついていくいろはに、ラウンジの机でお弁当とビールを飲食しようとした欄はヘカに怒鳴られる。


 さぁゆけ! アーセナル臨時職員。


 次回 最終決戦!

 見るからに廃れている東京。今までと違い人がいない。

 爆発音が聞こえるところに向かうと、そこには身の丈三メートルを超える機械の身体を持った何か、クオンは敵性ではない信号を発信しながら近づく。



「こんにちは! 僕は帝都製本土決戦型人型機械端末の後期型クオンです。敵対意思はありません!」


 そう言って近づくもクオンの信号を無視しているのか、反応がない。

 それどころからクオンに目掛けて……大きな手を見せる。想像に容易い、この壊れ果てている東京はこの巨人兵器によってもたらされたのだろう。クオンは元々備え付けられている左手の超振動兵器のロックを解除する。

 間合いをとる必要もない、瞬く間にクオンは状況判断し、巨大兵器に超振動の手を向けた。

 行動不能にできればいい。そんな戦術計算だったが……


「身体が……液体みたいに……いけない!」


 クオンの超振動で大穴が空いた巨大兵器だったが、それは液体のように広がり、クオンの腕を飲み込んだ。


「左腕を破棄します」


 自分の腕を捨ててクオンは退避、それは追いかけてくることもない。とりあえず、現状確認をとクオンは古書店『ふしぎのくに』へと向かうとクオンを待っていたかのように赤い長靴を履いた金髪の子供。


「貴様、クオンか」

「確かに僕はクオンです。その古書店『ふしぎのくに』は」

「中には入るな、見てもつまらないものしかないの」


 パーティーの準備がなされていたであろうケーキ等のお菓子、オムライスなどのご馳走が散乱していた。母屋だった場所は……


「助けないと!」

「もうならん、それより貴様。少し私に手伝え」

「あなたは?」

「私は神様だ。ついてこい。良い子にしておればうまい棒をやろう」


 うまい棒ってなんだろうと思いながらクオンはついていく。そこは飛行場行きのバス停留場。

 そのベンチに座ると神様はパンパンとベンチを叩いて自分の横に座るように促す。


「のぉクオンよ。『machine head 著・伊勢周』どこまで読んだ?」


 そう言うと神様は何もないところから辞書のような本を取り出し、それをクオンに手渡す。


「『machine head 著・伊勢周』の本……ですか?」

「貴様、そういう方が好きであろう?」

「えぇ、まぁそうですね。神様はすごいですね!」

「うむ! 私は凄い。まぁ、この仲間が敵に回るような幻覚や幻想、或いは仲間に化けているとかそういう展開は古来より使い古されとるな。精神面を揺さぶるのにこの演出は鉄板ともいえるの」

「幼い頃の岬さんと千咲の因縁の相手ですね。それにしても動悸がなんとも利己的で許し難い方ですね。同時にリルさん達、捕まってしまった側も大きな動きがありました」


 神様はグリコのキャラメルをクオンに一粒くれるのでありがたく頂く。

 しばらく咀嚼していると神様が歯にはさまったキャラメルに悪戦苦闘しながら話す。


「この敵の巣窟。腹の中からの脱出というものもお約束だの。クオン貴様、警備ザルすぎるだろう! とか思っておるな。まぁ、物語の敵の拠点は何故か警備がザルだったり、逃亡も想定の範疇と判断して大体逃げられるまでがオチなのだ。ここはエンディングへの布石の話と言ったところかの……しかしその腕大丈夫か?」


 クオンは肘から下がなくなった事を心配してくれる神様に微笑んだ。痛みも当然存在しないし問題はない。


「えぇ、問題ありません! それにしても神様、魂を操るというのは実にオカルティックで興味深い力をリルさんのお母さんはお持ちなんですね」

「まぁ、人は何かを成すべく為に生まれてきて、成し終えた時に死んでいく。そういう法則から考えると恐るべき力だの、自分の力が恐ろしいから娘の力が恐ろしいと思ってもなんらおかしくはなかろう。が、そこは母親という事なのかもの」


 同時にクオンは絶句した。

 この物語の根幹にある問題。並行世界側はとばっちりもいいところなのだ。マオという悪党は物凄い狭い範囲の私利私欲の為、その結果起きてしまった惨事により鬼と化したブルームとミラルヴァ。

 そして本来は同じ道を歩んでいた筈のコウスケとも袂を分つことになる。

 実際、震撼するような事態の始まりとはこんな関係者の中では大事で、世間的には小事、それが波のように大きく広がっていくのかもしれない。


「神様……この作品の人々は僕が生み出される前の人間の業そのものです」

「うむ。人間という者は愚かだの。そして健気で、美しいものだ。マオにしても、ブルーム達にしても、当然コウスケもな。肯定できる部分も否定できる部分もあるの、どれか一つ、狂わなければとな。ストーリーの構成よりもこういう部分が恐ろしく上手いの」


 物語における宗助とコウスケの関係性が明確になり、理不尽な世界の選択を知り、宗助はいわゆる……


「覚醒ですね」

「ほぉ、よう知っておるのクオン。そうだの。まぁ主人公補正の中でも最強クラスのやつだの。全ての顛末を知った宗助だからこそ、終わらせれる。いや、終わらせねばならんとな。だから、魂の在り方が同じであればブルームはもしかすると宗助は自分の考えに助力すると思ったんだろう。だが、コウスケ同様そうはならなかった。因縁の好敵手であったフラウアも退場し、一気に物語はクライマックス一直線。そして……クオン。貴様もその道を歩んでおる事を薄々気づいておるのだろ?」


 クオンは最終章を読み終える前に、なんとなく自分がどういう状況に置かれているのかを理解していた。


「僕は何かを成すべく為に今ここにいるんでしょう。おそらくですが……先ほどの古書店『ふしぎのくに』あそこに誰かがいらしたんじゃないですか?」

「四人おったな……楽しそうにパーティーを始めようとしておったが……」

「成程、理解しました。……作品側はスワロウの最後の作戦、なんとも決死隊のようですね」


 戦力を大きく失った状態で、最後のオーダーを切ったスワロウの精鋭達。盛り上がりとしては上々。数多にあった伏線をこの前の章でほぼ回収されている事で、読み手としては純粋にラストを、タイトル通り、どのようにファイナルアタックを決めるのかに集中して読み進める事ができる。


「おや! 美雪さんが助っ人に登場ですね。これは、読者としては嬉しい展開じゃないでしょうか?」

「そうだの。あのキャラクターが参戦! という奴だ。ただ、一つ気をつけねばならん事があってな。皆殺し系の作者だとあえてキャラクターを消費する為に登場させる場合もある。某有名な作品で昭和から令和までシリーズ展開している総監督なんかがよくやるの。故に、突然のゲストは死亡フラグも兼ねていると思っておった方が心に良いぞ!」


 この最後の戦いにおいて、一人名前を上げるとすれば、ミラルヴァだろう。

 彼は過去でもコウスケから最強戦力として数えられ、初出の際もスワロウ職員を絶望させるレベルのビックネーム。宗助との交戦、稲葉との交戦にてダメージを負うもなんら戦闘に問題がない状態で最後の戦場に立つ。

 まさに、作中最強を謳えるキャラクターと言える。この非常に魅力的でかつ扱いづらいキャラクターをどう昇華させるのか……


「まぁ……このミラルヴァを退場させようと思うとこの方法だの」

「ドライブ能力を使えば間違いなくミラルヴァさんは不破さんに勝ちましたよね?」


 これもまた使い古された古典とでも言えるかもしれない。自分への救済という奥の手を封じて自分が勝つ事があればもはや止まる事はない。ただし、もしかすれば、万が一自分が敗北される事があれば、自分を止めてくれるかもしれないと……


「ハマーンカーンがジュドー相手にファンネルを全く使わなかった感じだの」

「誰ですかそれ? まぁでもミラルヴァさんも心の奥底では葛藤してたんですね……ただの戦闘狂かと思ってました」


 神様はガブリチュウを齧り、それをクオンにも渡しながら質問した。


「貴様、リルの記憶を消して全てのマシンヘッドを止めるかどうかの二択。どうする?」

「簡単ですよ。全てのマシンヘッドを僕達が破壊します」

「貴様主役級だの、しかしその手。先ほどのマシンヘッドに持っていかれたであろ? その作戦失敗せんか?」


 肘から下がなくなった左腕を見てクオンは頷く。胸に手を当てて笑う。


「僕はどれだけ壊れても痛みも恐怖も感じませんから、僕のガイスト機関を自爆させれば相当多くのマシンヘッドを連れて行けるでしょう。それに後継機に妹みたいな子がいるんです。試作型で作られた未知の技術だらけの人型機械端末。彼女ならマシンヘッド相手でも善戦するでしょう」


 神様はセコイヤチョコレートをクオンに渡すと自分も同じものを食べてからこう言った。


「お前みたいな奴を失いたくないからリルは自ら、終焉の笛を鳴らしたんだろうの」

「かもしれません。僕の心というプログラムが先ほどから異常値を示しています。宗助さんは本当に憧れる主人公像ですね。きっと僕が人間なら、リルさんが動かなくなったところでこの心というプログラムが停止するでしょう。なのに、オーバーロードしているブルームさんと戦うつもりだ」


 ドライブ能力を失ったラスボスたるブルームの奥の手はまさに大都市その物となった。


「かつて内容があまりにも青年誌寄りすぎて幼男児向け雑誌で連載が変わった漫画があっての、それのラスボスが東京全土の人間の意思と電気エネルギーいう物で世界観もよう似ておる作品だったのだが、主人公。勝てなかったのだ。私はあの展開は少し気に入らなんだ。が、やはりと言うべきか本作も自壊という形で幕となったな」


 気になる方は調べて欲しい。

 本作とは関連性はないのだが、本作が好きな読者は楽しめるかもしれない。

 少年誌や青年誌で刊行されてそういな今でもウケそうな作品が何故か小学生向け雑誌で掲載されていた理由は不明である。


「事件は収束しましたが、忙しくなるのはこれからですね。僕的には千咲さんが一つの形で自分の気持ちに決着をつけてしまったところがなんともいじらしいですね……」

「まぁ、私は不破の奴がさっさと美雪を安心させる言葉の一つでも言えんのかと! 胃がキリキリしよるがな……いわゆる大円団って奴だの」


 クオンは、何度も何度も彼らの物語を反芻し、そして神様に尋ねた。


「僕がここにいる理由は、きっと並行世界のマシンヘッド、あれを古書店『ふしぎのくに』へ持ち込ませない事でしょうか?」

「過去改変するつもりか? 貴様にできると思っているのか? いくら模造品とはいえ、これだけの熱量の作品から生み出された怪物だぞ」


 クオンは神様が取り出した『machine head 著・伊勢周』の擬似小説文庫を胸につけてウィンクする。

 機械の瞳が一瞬煌めく。


「この作品のファンの一人として、全てを救った宗助さんを……僕が守ります。神様、お願いできますか?」


 神様は仕方ないのぉと言うとクオンに美味い棒を渡す。

 そして神様が自分のうまい棒を食べている時、バスが到着した。


「そうだクオン、貴様。私がビックチョコを放り投げてしまうからその救出も頼んだゾッ!」


 何を言っているのか正直意味不明だったが、クオンは人なっこい表情で頷いた。

 物語を読了する為にクオンの最後の東京観光が始まる。

『machine head 著・伊勢周』人間ドラマと物語の巧みさを主軸においているんでしょうか? 千咲ちゃん。ヒロインとしては非常に魅力的だと思いますね。

並行世界側を実質植民地化してリルちゃんの生存をかけようとたパパはこんな面倒な方法を取らずして、他にやりようがいくらでもあったような気もしますが、娘の言う事を否定しないくらい前が見えなかったと言う事なんですかね? さて、いよいよ本作のご紹介もあとわずかとなりました。今月もあと数日ですが、『machine head 著・伊勢周』をお楽しみいただければ幸いですね!

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