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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第八章 『machine head 著・伊勢周』
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反面教師と共に物語に同化する

 一方神様は焦っていた。


「百円玉、これほどまでにありがたい通貨もなしかの」


 金髪のちんちくりんは百円玉をピンピンと指で跳ねながら駄菓子屋さんで何を買おうかと考えていた。

 今日はセシャトにマフデトが誰かお客さんを呼んでいるとか聞いた為、きっとご馳走にありつけるだろうと、今日のお小遣いはもう散財してしまって構わないだろう。


 ビックチョコ、五十円を二枚購入すると神様は二刀流の剣士のようにそれを持ち、これをどう食べてやろうかと思った時である。


 ドカンと、爆発音。

 

「ぬぉおおおお!」


 ベリーロールで華麗に回避する神様。何が起きたのかと思ったところ、目の前には絶対人間殺すマンな機械の巨人。

 神様は手に持っていた筈のチョコレートがない。


「あっ……貴様やりおったな?」


 ビックチョコは飛んでいき、見る影もない姿に、神様はアホ毛を触りながらじっと見つめる。謎の人型機械としばし見つめ合い。


「くそう! 馬鹿者めがっ……覚えていろっ!」


 神様、泣きながら逃走。

 さて、今から戦場に運ばれているらしい。手元には対人型機械端末用の無反動砲。

 そしてこのトラックの隅に後生大事にロックされている何か……恐らくは久遠あるいはクオン型の専用決戦兵器。


「欄先生、あの……戦地に行くまでの間『machine head 著・伊勢周』という物語のお話をしませんか? 僕が……そのここ最近読んだ物語なんですけど」

「へぇ、多時空からきたインベーダーとその殺戮兵器のお話っすか……機械が人を殺せるなんて、ファンタジーなお話っすね。いいっすよ。教えてくださいっす」


 クオンは少しばかり自分たちの常識。

 機械はどんな事があっても人に危害を加える事ができないというものは異常なのではないか? 

 しかし、超天才科学者であるメイカーの助手がそう言うならファンタジーなんだろう。


「ですよね。ましてや人間が、機械の兵器を破壊できるなんてナンセンスです」

「これに関しては、実はそうとも言い切れねーんすよね。ロボット工学を突き詰めていくと人間の進化に突き当たるっす。ドライブ能力という物がその副産物として現れたとしたら、自分なら新兵器転用にと考えるっすね……逆に言えばクオンの言う天屋さんの努力とは自分は双璧のところにいるっすかね? どちらかと言えばマオさん側っすかね? 記憶や経験は継承できるところにきてるっすから。それを行おうとしているのが、マシンヘッドの科学者達って事なんすかね? にしても、あまりにもこのスワロウという組織モロすぎるっすね」


 トニックウォーターを取り出すと欄先生は王冠を外してクオンに渡す。

 欄先生、天才科学者、大は小を兼ねるを形にしたような人間。

 この世界におけるアーセナルおよびスワロウの人間のか弱さはマシンヘッド相手への体の頑丈さやドライブなる異能力との基礎値以外の部分。


「イレギュラーに弱すぎるという事でしょうか?」

「さすがはラストナンバー! メイカーのお気に入りっす。正直稲葉さんの敗北はとてもつまらないっす。そしてとてもくだらないやられ方っす……但し、とても素晴らしい演出っすね」

「どういう事ですか? 僕は大変悲しいなとそう感じましたが」

「稲葉さん、クオンの話からするに割と最強クラスの力だったわけっすよね? それが、ブルームさん、ミラルヴァさんと連戦、故に普段であればそれ程の脅威ではなかったかもしれないマシンヘッドにやられたわけっすよね? 実際の人の死に感して案外こんなもんなんすよ。そして、そうせざるおえないような組織体系であったスワロウってところっすね。冒頭から聞くに寄せ集めの組織っすから、力押しで解決、或いは巨大な力押しをされるともろともなんすよ」


 欄先生は遠い目をしてそう言う。

 心という物をプログラムとしてしか持っていないクオンには理解が遠く及ばない。


「悪と正義を対比すると面白い事が分かるんすよ。あー! 何を持って正義がという思想は排除っすよ! それを言い出したら悪魔の証明を証明しなければいけないっすので、一年以上かかるっすから、この場合の悪はリルさんを狙うヴィラン達、正義をスワロウ一味っす。精神力がずば抜けてヴィラン側の方が高いんすよ。なりふり構わないというべきか、持つべき物がないからというべきか、方やスワロウ一味は守る者が多すぎる。身内であったり、他人であったり、さらに人間らしくトロッコの選択ができない。この歯痒さは組織としてはどうかと思うっすけど、自分は嫌いじゃねーっすよ。人間くさいドラマっすね。また人間同士の戦がどれだけ酷いかも理解できるっす。良かったっすね? これがファンタジーで」


 欄先生は微笑む。人型機械端末同士の戦は人間が死ぬ事はないし、どれだけ壊れようと機械はまた作り直せる。

 悲しみやら苦しみでの精神的モチベーションの強弱は存在しない。本作でも語られる。機械は部品があれば修理できるが、命は損なえば次はない。


「もし、先生。もし帝都をマシンヘッド或いは人間を襲う事ができる機械が襲ったらなら、いいえ。ドライブ能力をもつ人間が襲ったならばどうされますか? アーセナルの方々よりも上手く守れるのでしょうか?」


 物語と現実をごっちゃにしてはいけないよクオン。

 そう彼女は言うのだろうかと思ったが、欄先生は当然のようにこう答えた。


「そうっすね。マシンヘッド相手にはクオン達人型機械端末を差し向けるっす。君のスペックは帝都製量産機としては最高っすから応戦撃破を想定。不可能なら自爆っすね。同じくドライブ能力者相手には手動でクオン達を自爆させるっす。まぁ、物理法則を超えるような能力っすから解析ができればそれ相応の応戦。或いは鹵獲して人体実験、その力を手に入れるっす。もし不可能ならば、降伏の二文字のない帝都人として、全員での自決っすかね……まぁ科学者の自分としては興味深い事象ではあると思うっすよ。そういう仮想敵とのチェスは」


 帝国として、クオンを作った人々はあまりにも潔い。死すら尊い物として考える。

 この人は読者として自分以上にダメな感じだとクオンは少し考える。


「なるほど、皆さん。こんな感じで僕とお話をされていたのですか……納得のウザさです。欄先生。双子なのに、能力の有無があると言うのは何故でしょう?」

「クオン。人間は機械みたいに完璧じゃないんすよ! そして、人間とは双子という物に幻想を抱きすぎなんす。ユニゾンも勘違いっす。或いはそれを喜ぶ周囲の人間を見て学習してどちらかが合わせてるんすよ。ただし、遺伝子情報は極めて似ているので行動や好き嫌いが似やすいかもしれねーですけど、はっきり言って別人っす。能力の有無に差が出るのは当然すね。そんな事より、自分と同じ考えに至ってるっすね。魂の概念は作品の中の物に従うとして、私も同じく、ドライブ能力なんてものがあれば、先程話した通り人工抽出、或いは仕組みを調べて発生させることを考えるっすよ」


 クオンは目の前の科学者が不可解な事を言ったことに驚く、そして作中のど外道であるマオとほぼ同等の考えに達している先生。


「それは、有用だからということですか?」

「マオという人物はまぁ、正直人間としては最低と評価されるっすね。でもトロッコの原理でいけば、レナちゃん一人の命で百万の命が救われるとすれば……自分も平気で同じ手段に出るっすよ。パラレルワールド、なんのメリットがあるか不明の並行世界の扉を探すより有益でかつ結果が出やすいっすからね。当然、そんな事に我が子を使われた両親の憤怒は想像がつかないっすけど何故、並行世界にみんなが来たのか、拗らせたって事がようやくここで繋がったわけっすね」


 本作には外道が多く登場する。

 その行動理念以外、アーセナル職員にしても、妙に物語的には美味しくないリアルさという物が随所で見られる。このあたりは作者の性癖なのかもしれない。宗助の主人公補正に関してもよくある主人公を演出しながらも裏があるのだろうという伏線が動く。


「この物語を書いた人物は要するにペシミストって事っすね。でも、自分の中のヒーロー像や流れのような物に忠実でもあるっす。絶望を上塗りするような展開、実際インベーダーと言ってもいい連中に襲われた組織は士気低くもちろん体制も整えられねーっすよ。方や攻め手側は機械化なんてチートっすからね。にしても案外ブルームさんは良いパパさんっすね」


 今にしてクオンはようやくこの欄先生が少しばかり偏った意見で話す理由が見えてきた。彼女は、ヴィラン側の感覚に、考えに、同化しているのである。合理的に考え物を答えていた。


「欄先生は僕が人型機械端末だから、そんな風にお話に付き合ってくれたんですか?」

「それもあるっすね! ただ自分はクオンに、単純に正義と悪だけで片付けられないようなややこしい相関があって、事件を起こす側もそれを止める側にもドラマがあるっすよね? そんなカオスな中でも自分は宗助さんのように、間違っている事は間違っていると! 単純に素直に物語を楽しむという事がで来てくれれば技術者冥利に尽きるっすね」


 本作は実のところ、物語の進行に関してやりたい事というベースは意外と単純でわかりやすい反面、それを動かすギミック部分、要するにその中身が少しややこしい。どこに主眼を置くかに迷った際は、最初から最後までブレる事のないとてつもなくいい奴、宗助にスポットライトを当てて読んでいく事をお勧めする。本作のパラレルワールド概念が完全に別の異世界であるという事も意外と混乱要素の一つであったりする。


「そんな単純な読み方でいいですか?」

「作品という物はその時には見えない顔ってのを持ってるんすよ。二回目に読んだ時に気づく事、久しぶりに読んだときに発見する事。あんまり考えすぎてよむと疲れちゃうっすから……にしてもそろそろおしゃべりはおしまいっすかね?」


 ガタン…………

 トラックは停車する。

 そして今まで死んだように動かなかった同型機の同胞達が銃火器を持って次々と降りていく。


「いってらっしゃいクオン。人類の代わりに闘争という無意味な時間を費やして欲しいっす。君が帝都の守護神たる事を祈っているっすよ」


 クオンは敬礼をして背中に体重を預けるように同じくトラックを降りる。

 マシンヘッドというオーバーテクノロジーが人間の行き着く先なのか? 

 いよいよクライマックス、ブルーム達の目的もクリアに見えてきたというのに、クオンは少しばかり戦場というものに閉口しながら、未確認敵性兵器・マシンヘッドを捉えると大事に抱えている無反動砲を放った。


「ふむ……謎が深まりますが……戦場じゃなくなった事は少々ありがたいというべきでしょうか?」

 

 クオンは振り出しに戻った。

 バスの中、もうそろそろ古書店『ふしぎのくに』の近くにバスは停車する筈だ。


 その時、大きな爆発音を聞いた。

『machine head 著・伊勢周』今月の紹介作品ですが皆様読み終わった頃でしょうか? 今回は本作の描写に関してお話をしてみました。人間ドラマも戦闘シーンもとても面白いのですが、当方は多分無視してても問題ないようなちょっとした仕掛けが気になったり、なるほどなーと感じてしまいます。国や世界にマシンヘッドやドライブ能力者が認知されていない為か、圧倒的に攻められる側の士気が低いというのは現実的すぎます。何をやらされているのか分からない事ってストレス溜まりますからね。

 残すところあと少しですが、まだ読まれていない方はこれを機会に『machine head 著・伊勢周』を読まれてみてはいかがでしょうか?

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