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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第八章 『machine head 著・伊勢周』
64/126

不思議と人気が出るキャラクターがいるという事

 赤銅の鍵に口づけをした少女リィグヴェーダ。


「576562e5b08fe8aaace693ace4bcbce58face5969a(Web小説擬似召喚)」


 古書店『ふしぎのくに』店主の彼女は赤黒い金属の球体を二つタブレット端末から取り出してそれを手の中で遊ばせる。


「ニュクスさんでもバッカスさんでもなく、私が最初に行きますよぉ!」


 二つの金属の球体は陰陽を描き大きく、大きく人型の形を取っていく。そしてリィグヴェーダよりも大きなそれは鈍色の光を放つ巨人となった。それにリィグヴェーダは抱きしめるとそれに名前をつけた。


「さぁ、マシンヘッド・二ガーター。宗助さんとリルさん。お二人を否定して作品世界を改変してくださいねー!」


 リィグヴェーダは小さな旗をパタパタと振って我が子を応援するようにそれをどこかに送った。

 天満橋商店街。


「さて、オーサカ・シティと来ましたか……完全に別の地域のハズですが……あれですね確か食の宮とも聞きましたし」


 商店街の中を歩いていると、喫茶店の上に小さな古書店『おべりすく』というお店を見つけた。

 クオンはそこを尋ねてみようかと階段を上がった。


「ごめんください」

「えらっしゃせー!」


 にこやかに笑う男性の店員。癖毛が犬の耳のように逆立っている。クオンはこのオオサカ・シティはノリツッコミの街と観光ガイドに書いてあるのでこう言った。

 古より説明の代わりに使われる言葉。


「あの、かくかくしかじか!」

「おぉ! クオンさんかいな。ワシはこの店の店員のアヌや! で、色々変なところに迷うとると! で『machine head 著・伊勢周』を読んどる……と」

「つ、通じた!」

「まぁええわ。とりあえず母屋いこか!」


 驚くことに古書店『ふしぎのくに』と真逆の間取りだった。

 母屋は古書店『ふしぎのくに』のカフェバースタイルではなく、和の茶室という形式。

 炬燵にみかん、満月ぽん、稲荷寿司、赤福、そして※御座候 ※回転焼き。


「飲みもんはジュースか? 茶か? ビールでもええで!」

「お茶でお願いします」

「はいはい、おまっとさん! ほな読もか! 岬ちゃん可愛えぇな! ワシも怪我したら治して欲しいわ! このあたりから、この作品、散りじりになってるもんが一つになりはじめるねんな!」

「普通に考えれば、宗助さんと並行世界のお二人が探しているコウスケさんは同一人物か、あるいは並行世界線状における同じ情報を持つ別人なのか、という事ですよね」


 どうやら本作の並行世界とはどうやら文明レベルで微妙に違うらしい。

 一方通行でドライブ能力者が多い世界からは認知されているというのは何気に恐ろしい話である。


「行き来する方法が確立したら、詰みやな。文化的な存在が多かったとしても、まぁ間違いなく並行世界側は植民地として使うやろう。それは逆も然りやからな。かっかっか! クオン、それにしても岬ちゃんにデートの誘っとる男に宗助みたいにあしらわれたらなんて言う?」


 所謂コイガタキという奴かとクオンはいくつかのパターンを考えてから答えてみた。


「岬さん、嫌がってるじゃないですか! とかですか?」

「あかんあかん。クオン、全然あかんわ! こういうアホにはな! ワレ! 誰に物言うとんねんボケェ! 岬ちゃんにわワシの怪我直してもらうんじゃい! 薬局でマキロンでも買ってこいやカス! っちゅーねん! 言うてみ」

「これが、オオサカ・ベンですね!」

「ワシは京都人じゃボケぇ! 京都人に大阪人言うたら戦争やぞ!」


 クオンはとにかく笑う事にした。

 人間は色恋沙汰や、地域性に関して凶暴になるという事。


「宗助さんはもう少し、自分を出してもいいって事ですね」


 気がつくとアヌさんはビールを飲んで顔を真っ赤にしている。クオンに※御座候 ※回転焼きを食え食え! と言うのでいただく。


「これが……地域で呼び方の違う甘い豆の餡が入ったケーキですね! 実に素朴な味です。しかし、アヌさん。このあたりで本作は起承転結の転あたりに突入しているんじゃないでしょうか?」

「おっ、よう分かっとるやん」


 冒頭、謎の事件と異能力の集団に宗助が巻き込まれたあたりを起として、物語の設定がある程度分かったあたりを承とすると、多くの伏線回収と情報開示がなされた17章から転と読めるだろう。


「ギャハハハハハ! 頑張る言うて怒られとるぞ! どないせーちゅーねん!」

「作戦遂行時間でもお答えすれば良かったんじゃないでしょうか?」

「え…………クオン、お前おもろいな」


 大体何を言っても突っ込まれるのだ。

 おそらく最初に“必ず役に立ちます“と言ったらこの手の人間は当たり前だと言ってくるなとアヌは思ったのだが、クオンのように新人に“十五分で仕留めます!“とか言われたら閉口ものだろうなとアヌさんはクオンの頭をガシガシと撫でた。

 それにクオンは興味を持って質問。


「では、アヌさんならなんと?」

「死なない程度に頑張りーやーす! やな!」

「怒られたら?」

「どさくさに紛れて後ろからフレンドリファイアや!」

「え!」

「嘘や! 嘘! まぁ、どつくくらいはするかものワシ、桜庭、宗助みたいに大人ちゃうからな」


 クオンは元々軍隊の備品だったわけだが、戦場という物を殆ど経験した事がない。

 最終ロットとして作られたが、その頃には敗戦武装解除、さらには将校機として外交の場のお飾り。


「人間の戦場というのは上手くいかないんですね。僕はこの項は実に感銘を受けます」

「あー、まぁそやな。正直このシーン正直あってもなくてもええんやろーけど、宗助の感じる理不尽さ、いたたまれなさというのはかなりリアルや、基本的に集団組織は保守的やからな。そういう意味では読んでる奴で、あー分かる分かる! って気になるやつも割とおるはずやで」


 そう言ってアヌさんはクオンに鼻ピンをすると冷蔵庫から瓶ビールを持ってくる。

 そして続けた。


「戦場にずっとおる連中は、大体どうしたらいいか分かんねん。いわゆる同じ釜の飯を食った中っちゅーやつやな。だから、いちいち言わんでも分かるやろー! と勝手に思って宗助みたいな奴に当たり散らすんやが、これは一概にどっちが悪いとも言われへん、何故なら、命っちゅーチップ賭けとるからな。隊長も必死なんや、できれば部隊も宗助も自分だって死なせなたくない。でも損切りは必要や、この軍人らの問題はよう分からん機械・マシンヘッド相手に何故か突撃銃っちゅー事やな」

「あー、確かに、フルサイズかタンサムとかの方が良さそうですよね」

「人狩り用センサー付きのコブラやアパッチとかな!」


 アヌさんがウィンクして冗談を言ったのだが、機械の瞳をパチパチさせてクオンは驚く。


「アヌさんは軍師か何かですか」

「冗談やん! 突撃銃の地上部隊ってのは日本人の戦場のイメージやねん。ポリ公でも本気出したらカスタムサブマシンガンもっとる国やのにアニメ、映画、その他インプットとしてのイメージがこれなんやろな。人間相手じゃなかったら実際重機関銃か手榴弾、対戦車砲や、人間避難させながらやからタンサム使うのがベターやな。まぁ、脱線はこのくらいや。この乱戦の中、転の伏線回収は進むデェ!」


 リルが大体何者なのか、クロムシルバーが誰なのか薄々理解が進んだあたりで、並行世界の兄弟により物語は助走を始める。


「にしてもや……フラウアくん、メンヘラ拗らせた彼女気取りの電波くんやのぉ……少年誌とかのライバルって大体こんな感じやねんけどな。愛憎とは言ったもんやな。世界中に襲撃を開始したマシンヘッド事変とでも表現しよか? これ、宗助らの世界、ワシらの世界と完全にちゃう部分が表現されとる」


「国道三号線ですか?」

「そや、世界で三十前後の都市を狙っとる。そこから把握すると日本の大都市は東京・大阪だけやねん。この二つが走ってるのは国道一号と二号。で、このマシンヘッド事変はほぼまちがないく東京で起きてるけど、近くに三号線があるやろ? 地図がワシらのそれとちゃう。分かるかクオン?」

「第二、第三の並行世界という事ですか?」


 アヌさんは再びクオンの鼻にパチンと鼻ピン。


「ようわかったな? ワシらのここが第一やと仮定すると……そういう読み取りもできなくもないわな?」

「まぁ、僕なんか気がつくとバスの中にいて、先ほどまでトウキョウ・シティにいたのに今、オオサカ・シティですからね。全く気にもしなくなってきました」

「クオン、お前人間っぽいのぉ! 創作なんて気にしたら負けや! 例えばフラウワくんがちょっと壊れたラジオみたいになっているのとか、これライター目線でいくと先を予想したくなるのもあかんな」

「と言いますと?」

「この手の喋り方する奴。書くのめんどいねん。まぁ読んでいけば分かるわ。話の流れもまだ後半やというのに、アーセナルも事実上の陥落、ちょっとこのあたりから物語展開の速度感が速いわな。或いはこのあたりからクライマックスに繋げる予定だったがもう少し書きたくなった週刊誌の法則か、或いはほとんど読者の頭に相関図ができ上がったので、今までの風呂敷は不要になった。所謂ここから本編やな」


 作者としては大事に育て書き上げてきたキャラクター達は主人公側であれヴィラン側であれ大事なキャストである。それを退場させるというのはある種儀式的な覚悟……完結への道を作る為の決意の表れだろう。19章の速度感はやや急いでいるようにも思える。

 多くの犠牲を出し、怒涛の展開の数々だったが、アヌさんとクオンは両手を合わせて喜んだ。


 フラウアの生存を!


 完全に死亡フラグ満載だった彼だが、やはり馬鹿な子程可愛いというべきか、読者人気はおそらく高い。


「アヌさん、楽しかったです。多分、時間的にそろそろ僕は……」

「クオン、酒はいける口やろ? 一杯飲んでいけや! どうせ世の中なるようにしかならへん、なら今の環境楽しんだらええねんって!」


 そう言って栓抜きで箕面ビールを開けると手渡した。

 クオンは作品に倣ってこの僅かな時間に質問をしてみる。


「アヌさん、もし神様に願いを叶えてもらえるとすれば何を願いますか?」

「神様? あー、あのちんちくりん、なんもできへんからな……強いて言えば、今みたいに誰かとビール飲んで話するくらいやな! ワシの人生、手の届く範囲の幸せでええねんて! な? よう分からん奴に勝手に願い叶えられるとか気持ち悪いやろ」


 瓶をコンと当てるとクオンは目を開け、そこがバス……いや、トラックの中にいることを知る。


「おや……次は輸送車ですか」


 硝煙の匂い、周りにいる同型、或いは旧型の同じ代理戦争用人型機械端末達。彼らは起動していないようでもある。

 そんな皆を整備しているのは癖毛の白衣を着た女性。会った事はない。が、自分を作ったメイカーと一緒に写真に写っていた人物と一致する。


「欄先生ですか?」

「マジっすか、一機目覚めてるっすね……君は後期型クオンの最終ロットか……代理戦争の最中、君たちをこんなところに放り込むのは自分としては納得が行かねーっすけどまぁ自分も一緒なんで覚悟してくださいっす!」

「今からどこへ?」

「激戦地に突如介入してきた謎の新兵器……どこが作ったのか分からねーっすけど……こう呼ばれてるっす。マシンヘッド」

『machine head 著・伊勢周』みんな読んどるかー! 実は紹介小説はクオン事案と、ワシが構想してたいろは&欄先生事案と二つあって、後者は没案になってんでー! 

 この作品、よく物語としては綺麗に纏まっとるし場面切り替えの多ささえ慣れれば楽しめると思うねん。そんな中で強烈に記憶に残るのはやっぱりフラウア君やな。なんか、しつこいを通り越して怖いくらいある彼やけど、どうも憎めない。作品内では大量虐殺者やから許せるべき行為ではないねんけど、なんかじわじわくるよな。こういうのワシだけじゃなくて割と本作を読むとそういう考えになる奴いるみたいで、魅力的なキャラクターにはなんかそういう魔力があるんやろな!

 みんなは誰が好きか、また教えてやー! 次回! クオン対マシンヘッド対ワシ対宗助のフラウア争奪戦勃発! 絶対読んでくれや!はい、うそー!

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