創作に必要なのは理屈を超える設定
「おじさん、私15万だよ! 今買えば何でもしてあげる」
まだ幼い、小さい顔だ。
彼女を買って夜は一緒に寝るもいい。この華奢な身体を弄べはどれだけ支配欲が満たされてるだろう。
「今なら、色んな玩具もついてくるよ? ぜーんぶ、おじさんの物だよ?」
ブローカーはいかにこの子が俺のあらゆる欲求に応えてくれるかを1000の言葉で語った。
「よし、買おう。これから私はお前のパパだ」
この子、犬を飼ってから私は髪がフサフサになり、宝くじが当たり、なんと結婚もできたんです。
人身売買? そんな事を1ミリでも考える奴に私はこう言いたいですね!
このエロ魔殿! ツイッターの@の後ろにエロ魔殿を付けて生活して欲しい。気分が悪い。
日本愛カレー同好会組員 ジェフリーさんの挨拶より抜粋
何度となく同じ道を歩いた気がした。旅人、クオンはさすがに地図を見る必要もなく現実なのか、そもそも人型機械端末の自分が夢なんて見るのかと自分の異常検索及び隠しシステムがないのか確認しながら再び古書店『ふしぎのくに』へと足を運ぶと、そこには定休日の看板が……
困ったなと途方に暮れ、歩いていた先に、姉妹店のような店を見つけたクオン。ブックカフェ『ふしぎのくに』と書かれているのだ。クオンは顔をパンと叩くと機械の瞳を大きくしてドアを開いた。
「ごめんください」
「いらっしゃいませ。ブックカフェ『ふしぎのくに』へようこそ。からくりの君」
そこにはペンギンのような燕尾服を着て細い目をしたスタイルの良い男性と、奥でグラスを拭いている片メガネの少年。そしてその少年は笑顔のままこういった。
「ロキさん、お客様をからかわないでください。お席にご案内を」
「はいはい。オーナーは冗談が通じませんね。ではこちらのカウンターへどうぞ。お飲み物はそうですねぇ。珍しくあのレディキラーがいるのでオーナー特性のフルーツティーはいかがでしょう? そしてそしてぇ! からくりの君にはこの作品がおすすめではないかと!」
「もしかして『machine head 著・伊勢周』だったりしますか?」
クオンのこの言葉に、ロキと呼ばれた男性はわざとらしく驚き、オーナーと呼ばれた少年は白い手袋の指を口元に運ぶ。そしてにこやかに笑った。
「ではこの出会いに感謝して、お客様のご希望の章から読み聞かせをロキさん、お願いできますか?」
「あいあいさー、ではからくりの君。ご希望は?」
クオンは、先ほどまで読んでいた続きを所望すると、ロキと呼ばれた美形の年齢を感じさせないされど少し子供っぽい男性はびしっと敬礼。
「では、僭越ながら、ヨーソロー!」
冗談が過ぎるのに、やや低めの声で心地よいロキの朗読がはじまった。そしてオーナーだという少年がクオンにフルーツティーを差し出して言った。
「世の中には確かに息をのむような美人が、何故か配達の仕事をしていたりと、アイドルやモデルにでもなれるんじゃないか? って方がいますよね? 職業差別ではないですが、単純に生活をしていくためです。ジィーナさんの項はリアルだと僕は思います。まともに働くルート以外は危険だと知っているからなのかもしれませんね」
「確かに、僕もたまにアルバイトをして旅を続けてますから、よく分かります」
クオンが出されたフルーツティーを一口含み、目を丸くする。ブックカフェ『ふしぎのくに』名物、トトさんのフルーツティー。彼がそれを自ら作って出すのは女性客に対してのみ、フルーツの切り方ひとつとってしても真似できない。驚く事に、同じ分量、材料で作ってもトトさんと他では味に雲泥の差がある。
「物体を瞬間的に熱する能力とは実に便利そうで危険な能力ですね。それにしても個性みたいな物が能力になるというのは実に謎が深まりますね」
クオンの何気ない疑問にトトさんは眼鏡を直し、朗読していたロキさんは一旦朗読を止め、グラスに水を入れると一口。
「能力の把握って部分ですよね? からくりの君」
「えぇ、組織的に動いているアーセナル職員でも大体会敵した相手に対して情報が殆どない状況でオーダーを組まないとならないのは厄介ですね。そういう意味では最強最悪とはいえミラルヴァさんの方がまだ備えやすいですね」
クオンの言い分として、どれだけの力を持っていても初見殺しが起きかねないとそう言った。そういう意味でもジィーナとリルを保護兼戦力増強として迎えるのは言葉は悪いが効率的である。
朗読をやめたロキさんの代わりにトトが十章を声に出して読み、そしてウィンクした。
「知っていますかクオンさん、練習や修行シーンというものは基本的に読者を飽きさせます。今では人気が止まる事のない某鬼狩の作品も修行シーンがあまりにもダレるので打ち切り手前まで行ったとか言われてますしね」
強敵を命からがらやっつけた! と、鍛錬し、鍛錬し力をつけた! 脳の報酬系の違いである。同じ努力なのかもしれないが、基本的に読者は現実味のある事にストレスを感じる。主人公の努力は興味を削がれやすい。これが作品を読んでていてダレる正体である。
非現実、非日常から乖離していたのに、興味のない現実を読んでいると文字が頭に入ってこなかったりする。
「そうでしょうか? 僕は、宗助さんの類まれな素質に驚き、一旦ここで緩急を感じます。各キャラクター達の事も落ち着いて考えられますしね」
実際、十章は緩急を入れられた章である。クオンのように読むことができれば御の字なのだが、Web小説の読者は少しばかり視点が違う。
「そうそう、たとえば視点移動が多いのも、いろんな状況を説明したい気持ちと裏腹に読者の理解を超えていたりするんですよぉ」
ロキさんがホットココアを作りながら小休止と言った風に一口舐める。そして一番言いたかった言葉を呟く。
「からくりの君、まさに貴殿ならパラレルワールドを行くという事を存じているのでは?」
クオンの量子演算ではパラレルワールドという概念はありえない。何故なら世界A、世界Bとそれらを行き来する事ができるドライブ能力があったとして、同じ名前、見た目の遺伝情報の人物がいたとしても、それは同一軸上に存在する別世界であり、それらには何の関連もない事になる。
が、バタフライエフェクトが支配するIFの世界があると仮定する。これは同一軸別分岐概念上に存在する為、パラレルワールドという結果を、パラレルワールドという仕組みで否定する事ができる。量子物理学は基本的に矛盾の証明である為、クオンのような機械には否定しかできないのである。
「可能性があるとすれば過去に戻れるという事でしょうか?」
「概念上はですね……ですが作品としては飛び越えてしまうんでしょう。時間や空間のしがらみなくですね」
眼鏡の位置を直しながらトトさんがクオンを否定するわけでもなく捕捉した。そしてクオンがそれに頷いて一言。
「別世界があるという事で、この不思議な力と、明らかにフルオーバースペックの謎多き機械。マシンヘッドの核心に迫れそうですねぇ! 実に謎が深まります」
本作のこのパラレルワールドと言うパワーワードは、大抵の事を“あぁ、なるほど“で片付けさせる威力がある。実はこのあたりに関しては当方は深く感銘を受けた。
創作はこれこれ! こういうの! という盛り上げ方、クオンの言うように強烈な強制的説得力とでも言うべきだろうか? 読者はこれより、核心に入るんだなと心の準備に入れる。
「同じく殺戮兵器であるからくりの君の感想を伺いたい。ブラックボックスの章に関してはいかに?」
ロキさんの質問にクオンは少しばかり閉口してから答えた。本作においてのここまでで最大の作戦。総力戦が開始されようとしている中でクオンは別側面から本作の核心に迫る。
「僕は人間に危害を加える事ができないので、対機械としての殺戮兵器です。それはさておき、かなりの数の不可解な金属でできたマシンヘッドの群れ、普通に考えると、この世界にそれ程の純度の不可解な金属が精製できるとは思えません。何故ならこの世界の資源の最高潮は第二次世界大戦時です。現在はそこまでの純度の良い良質な鉄鋼資源はありません。それらは飛び越えてきたんでしょう。パラレルワールドより。それならば、謎は深まりますが、アンサーは先送りできます」
「いいですねいいですね! からくりの君。ようやく人間みたいな読書ができるようになりましたね!」
ロキさんは冷蔵庫よりベイクドチーズケーキを取り出すと、大きく切り分けてクオンの手元に置く。
「オーナー! 甘く、狂おしいコーヒーでも淹れてはいただけませんか?」
「仕方ありませんね」
トトさんはコーヒー豆を選び、それをミルに通す。そして暗記している内容の朗読を続けた。機械は成長しない、方や恐るべき速度で成長する宗助。思えばこの何処にでもある主人公の急成長もまた伏線の一つではないのかと、そろそろ読者が考え出す頃合いに入る。
「からくりの君。この章は読者と書き手に面白い効果を与えているのをご存知です?」
「はて、2チームに分かれているので視点移動の動きがとても多くは感じますけど……僕は文章を書きませんので分からないですね」
目まぐるしい視点移動は正直ストレスが大きい。しかし、それだけ火急を要する状況であるという同時進行の表現としては悪くない。そしてこれはもし当方がこの場面を書いたならというライターベースの視点で語ると、書きやすいのである。
「創作はどうしても飽きが来ます。同じシーンを書き続けているとパフォーマンスが落ちるんですよ。唐突に今取り組んでいる事を止めて新作を書き出したりするパターンなどですね。創作の一番の天敵は飽きです。それを同じ場所ですが、別チームを表現することで随分書き手側ストレスが低減されます」
なるほど、そういうものかとクオンは頷く。素直な読者であるクオンにロキさんは少しばかり苦笑してから尋ねた。
「この章で、からくりの君が一番気になる事って何ですか? マシンヘッドがいかにして生み出されているかとかですか?」
確かにそこも興味深いなと思いながらもある程度の予測がつく伏線が語られているのであえてクオンはこういった。
「僕が興味深いのはフラウアさんでしょうか?」
「おや、なぜに?」
「この人、恐らくここまでの敵としてはミラルヴァさんに続く最強クラスだと思うんですけど、初めて会った時も二回目も舐めプして負けてますよね? 実力だとか、プライドだとかいう前に、自分が読み違えた事が敗因である事を理解しない限り、このフラウアさん、絶対宗助さんに勝てませんよね? これが本当に人間らしくて面白いなと思いました。家の扉の鍵を何度も閉め忘れて外出するようで結果は原因に伴うの典型だなと!」
トトさんとロキさんは固まった。フラウアは自分を追い詰めたハイパーモードの宗助を討ち倒して自分の完全勝利のロードを作りたいという目的で戦ったわけだが、彼の行動や言動、実は初戦と対して変わらないのだ。よって機械的に考察するとクオンの言っている通り、彼は人間として、自身の行動パターンのままに学習せずに敗北したとも言える。
そんな高度なツッコミに二人は言葉が出ない。クオンは一度チーズケーキを食べてと思った時、目の前がホワイトアウトする。
「さて……僕はパラレルワールドにでも迷い込んだんでしょうか?」
気がつくと彼は再びバスの中。アナウンスはやはり……
神保町のバス停をアナウンスしていた。
『machine head 著・伊勢周』お楽しみ頂いてますでしょうか? いよいよ。物語は盛り上がりをみせますがクオンさんは振り出しに戻ります。実はこれ、バタフライエフェクトを意味しています。クオンがいた神保町、そこから時間が戻るようにバスの中、しかし今いたクオンや世界はどうなったのか? あの分岐で世界が一つ増える事になります。そんなのは矛盾している! そう思う人も多いでしょう。それは宇宙の拡大速度
のようなものかもしれません。
要するに作品は矛盾してるのです。それはそれで楽しめなくなった時人間の感性は死んだのかもしれません。
書いている筆者はそんなに頭が良くないので『machine head 著・伊勢周』は異能バトル物として楽しんでます。
それでは次回また会いましょう! ヨーソロー




