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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第八章 『machine head 著・伊勢周』
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理不尽なくらいに主人公がいい奴な理由

 マフデトさんはご飯のおかずの中で、“ウィンナー“が大好きである。ある朝の食事はバターロール一個、牛乳200ml、ふかしジャガイモ、ウィンナー。

 CoCo壱カレーではポークカレー小にウィンナートッピング、そしてバイキングでは最初に牛乳とウィンナーを探す。パン屋さんではウィンナーが入っている惣菜パンを必ず購入。


 ふしぎのくにのお兄さん、お姉さん達とファミレスに行く事があれば、フォークにウィンナーを刺して渡してもらうまさに王子のような生活。

 バーに行けば、未成年なのでリアルミルクを頼み、チョリソーを一緒に来た成人の友人と楽しむ。


 マフデト、師匠ちゃん、レシェフさん。所謂第三世代と呼ばれる三人組は多い時は週7で焼肉に行っていた。正直、これを書いている筆者も頭おかしいんじゃないかコイツらと思った事は内緒だ。基本的に一日一食派の三人は効率よくタンパク質とカロリーを摂取できる焼肉が生活に合っているとか、ちょっと意味が分からない事を語っていた。

 そんな焼肉について行った筆者であったが……メニューをみて一言。


「マフデトくん、ウィンナー頼もうか?」

「は? テメェ、寝言は寝て言えなのですよ! 焼肉来てウィンナーはよくて最後なんですよ。ここは牛さんと私たちの一騎打ちなのです。豚さんの出る幕は基本ねーのですよ」


 まず怒られる。


「えーマジ焼肉来てウィンナー?」

「初手ウィンナーが許されるのは小学生までじゃろ、死ね」


 筆者は大体、肉を焼く周囲でウィンナーを燻製のように焼いて食べるのですが、なんか心を折られたような気がします。

 そして、ちょっとお高い焼肉のお店に連れて行ってもらったんですよね。ヘカさん行きつけだとかいう……


 そこで、ヘカさんがこう言ったんです。


「マフデトさん、ここはウィンナーがうまいん! 食べるんな!」


 これはまずい、ヘカさんへの点数稼ぎではないが、彼女を守るために何か誤魔化さないと……そう思ったが


「はいなのです! 私は焼肉ではウィンナーなのですよ〜!」


 そして、師匠ちゃん、レシェフさんとうんうんと頷く。



 マフデト、コラァ! お前達の血は何色じゃーい!

 という緊急事態宣言明けのある焼肉屋で筆者が味わった悲しい出来事、とりあえずマフデト死ね。

デリバリーでピザが何枚も届けられる。ヘカにいろはにクオン。山積みになったピザを三人で平らげれるとは到底思えない。

  

「さぁ、食べながら続きを話すんな! ピザにはタバスコとコーラなん! これがマナーなんよ!」


 日本の食べ方の一例である。マナーであればとクオンはタバスコを一振りしてペパロニのピザを一口、そしてコーラを一飲み。


「これは実に野蛮でいて美味しいですね」

 

 いつの間にか赤色のだっさいジャージに着替えたいろははメガネをかけて髪の毛を後ろで雑に括っている。

 いわゆるダル着スタイルなんだろう。


「今さらだけど千咲って、私の関係者かしら? 同じ一文字性だし」

「そうなんですか? 言われてみれば確かに同じ名前ですね」


 いろはは冗談を言ったつもりだったのだが見事に間に受けられた。

 その為、聞いてみたいことがあった。


「クオン。貴方、正義と悪ってどっちが強いか分かる?」

「どうでしょう。何を持ってしての正義かにもよりますが、正義じゃないでしょうか?」

「半分正解ね。一般的には悪は強すぎるわ。世の中だけで見ても悪の方が特権があり、そして守られている。ただしそれをより大きな力で叩き潰せる者の事を正義って言うのよ。じゃないと世界は悪に支配されるでしょ? そして正義は悪を使うのが上手なの」


 ヘカは世界的な指名手配犯の言う事はよく分からないと思ってピザをかじっているとパチンと指を鳴らしたクオン。


「なるほど。なら、この透明化できる人を倒す方法はあれですね。多面に向けての無差別攻撃。音と空気である程度の場所が分かる宗助さんなら、逆手にとって空間支配。まさに悪を叩き潰す圧倒的な力ですか?」

「それは違うわね。それは悪のやり方よ。それにまだ宗助は力を扱えてないでしょ? 例えば、私の頭に千咲のように死のカウントダウンが表示されたら正義は千咲のように抗おうとするの。でも私みたいにいつ殺されても分からない人間はどうするか分かる? 周りの事なんてどうでもいいの、道連れにして自爆よ」


 そう言って普段の道具である信管起爆のスイッチをカチっと押してみせる。

 ヘカは虚な目でコーラをゴクゴクと飲みながら、どうして自分の周りには努力・友情・勝利で事を運ぼうとする人間が集まってこないのかと考える。


「ダメダメなんな! 物語というのは基本的には夢や希望を与える物なんよ。ジャンルにもよるんけどな? 勝てないから自爆します! とか、ないん! ありえないん! 昔、有名なゲームキャラはこう言ったんよ! 誰かを助けるのに理由が必要なん? って、それが正義なん! そして宗助なんよ! 理不尽なくらいにいい奴が主人公なのは、その作品の読者のストレスを軽減する良心の一つなん」


 ヘカは拳を上げてそう言うと、目を瞑ってうんうんと頷くいろはに対して、クオンはまた空気の読めない事を尋ねた。


「レスターさんはリルさんを渡せば千咲さんの呪いを解くと言ってますよ。従った方がよくないですか?」


 クオンの言い分はこうだ。

 リルを攫いたいという時点でリルの人命はほぼどちらの手にあっても安心。

 まずは千咲。そしてこの約束が無碍にされるのであれば、次は実質お荷物であるリルと共にいるレスターを強襲すればいい、また呪いを解いてくれたのであれば同時に強襲してリルを奪い返せばいい。

 そう、大体このその娘を渡せパターンの物語に言える最大限効率的な対処法であるが、知る限り実行された例は今まで見たことがない。

 まぁそれも当然。


「だーかーらー! クオンはもう驚くくらいのすかんチンなんな! そんなんカッコ良くないん! 最後まで諦めないん。そして勝利するんよ! クオンみたいな効率厨ばっかりだったら、戦いは常に相手の出方を見て硬直状態なん、そして勝負が決する時は、何の見せ場もなく、読み勝った方のワンキルで終わるん。一部のマニアにしか受けないんよ! そして第六章〜七章ではこれまたベタな、護衛任務なんな? 秘密兵器だったり、今回みたいに敵の秘密が暴けるかもしれない重要な物なん! 昔は大抵邪魔が入るんよ! 実際は七章で語られんけどな」


 かつてはこの流れもお約束というくらいよくあったのだが、尺の問題で映像作品では昨今見られなくなり、漫画等でも使われにくくなった。本作においは逆に当然というべきか。個人創作は永久に拡張できるわけで、このあたりは作者の見てきたり、触れた作品に左右されるのかもしれない。


「今回の章は実は、白神というキャラクターにスポットライトを当てたかったんな?」

「このキョウトシティのフクチヤマというところはこの国の軍隊。ジエイタイの基地もあるので割と安全な場所という事何ですかね?」


 パラパラと日本の観光雑誌をめくりながらクオンがヘカの言葉を遮る質問するので、ヘカは分からない事はスルーすることにした。


「いきなりの元カノ登場なん。説明もなしの、超展開なんな? 白神弥太郎が深そうでそれでいて割と坊やだった衝撃の後の謎展開なん」

「正直厄介な女よね。この篠崎あかね……たまにいるのよね。自分の世界で生きている名女優ような感性をもった人」


 独特な世界を持つ人は現実にも割と存在し、不思議な魅力を持っている。そして本作においては彼女も能力の保有者だったというオチに宗助は才能の延長戦と考えていた。

 そこでいろはは二人に尋ねた。


「二人はドライブ能力に関してどう考えるのかしら?」


 ヘカは目を瞑り、クオンの袖を引っ張る。代わりに話せという事かとクオンは色々と作品の前後関係から独自の想定を話した。


「才能の延長線と宗助さんは考えました。僕はそこをもう少し掘り下げて……その本人のアイデンティティ、あるいは……信念。さらに噛み砕けばワガママな部分なのかもしれないですね。透明化の人の能力も、不破さんの能力も、当然、主人公の宗助さんも……すなわち才能とは本人の我たる部分なのでは?」


 クオンの実に現実味があり、かつ面白くない考察にヘカは目を瞑る。補足をすれば人間誰しも才能があるという考えがあるが、その延長戦上にある秘めたる力の根源がドライブと呼ばれる物なのかもしれない。

 本作を読んでいて、いろはが少しばかり閉口する。


「この作品ってキャラクター多いわよね……たまに読み返さないとダメな時があるわ」


 基本的には主要キャラクターで固めているのだが、大掛かりな組織を出している代償というべきか、やや読者にストレスを与えやすい要因の一つであったりする。


「こればかりは仕方がないんな。やや説明調になってしまうんけど、名前だけでも出しておかないと後々収集がつかなくなるん。そんな事より、お待ちかねなん! 電車という半密室空間内におけるテロなん。これもお約束なんな!」


 いや応にも本作のトレインジャックは某事件を思い出してしまう方もいるかもしれない。少なくとも西のおべりすくのメンツは某事件の話を出していた。このトレインジャックにおいて、要するに超えられない壁たる強敵が現れる。

 これに関してヘカが二人に聞いてみた。


「いろはちゃんとクオンは逆立ちしても勝てない相手がきたらどうするん?」

「「自爆ね(ですね)」」


 ほらそう言うという目をして、ヘカはコーラをグビグビと飲んだ。

 そしてため息をついて話す。


「ミラルヴァが強い理由はアレなんな。いわゆる強化系という事なんけど、ドライブは想像する力が強ければより効果的なんと説明があるん。分かるん? 何気に特殊な火とか扱う能力より、自分の五体は毎日使ってるん。これを強くするという想像は割と簡単なんよ。あと、身体能力特化は、結果として五体の強化、要するにそれそのものがマルチスキルなんな!」


 恐るべき強敵に会敵し、宗助が覚醒しつつあるようなこの描写において、そして彼を取り巻くヒロイン達の気持ちの変化が見て取れる本編はフラグが色々と立つ事になる。


「いよいよ回収できるか怪しくなってきたわね」

「えぇ! 何というか、主人公の宗助さんを含めて、死亡フラグが皆さん立ちまくりですからね……」


 エビの乗ったピザを上品に食べてクオンは目を瞑る。それを記憶の奥底へとメモリーする。

 トレインジャックは長編であった為、次の章は幕間のような立ち位置で伏線を引きながら展開される。5話かけてゆっくり前章の補足とそして今後の展開を左右する小さなフラグがいくつか立つ。


「こういう仲良し組織って憧れるわよね。物語の組織って何だかいつも輝いて見えて、そして羨ましいわよね」


 ヘカが虚な瞳でいろはを見つめ、クオンが“ふむ“と声を出して独り言のように語った。


「物語だからという部分もあるんでしょうね。でも深く読めば、彼らはいつ死んでもおかしくないですし、もし死んでも事故死扱いを受けるような方々でしょう。そこには覚悟と信頼が必要なんじゃないでしょうか? ある意味血縁よりも信頼した中で生まれる組織のあり方が外から見れば仲間に入りたい、だけど自分とは違う日のあたる世界の人みたいに見えるのかもしれませんね。それにしても僕は“ピッキングパパ“というパワーワードが気になって仕方ないですが……完全に犯罪者ですよね」


 クオンが戯けてそういうので、ピザを食べているというのに、ヘカが「オムライス食べたいんな」と言うのでクオンは冷蔵庫の中の物を見て二人にベーシックなオムライスを作ってみせた。


「んまいん! クオン、今日は泊まって行くといいんよ! いろはちゃんもそうするん!」


 宿を探そうと思っていたのでクオンはヘカの申し出に喜んで頷いた。この母屋の奥が仮眠スペースとなっている。ヘカはクオンに布団を出すように指示して川の字に並べる。ヘカは真ん中に両隣にクオンといろは。


「まだまだ夜は長いんよ! パジャマパーティーなんな! これから物語はめちゃくちゃ盛り上がるん! 眠たくなったらモンエナなんよ!」


 そう言って話を聞いていたクオンはうつらうつらと目を瞑る。睡眠は取るが、こうして眠くなった事なんて今まであっただろうかと……


「はっ!」


 目を覚ますと、クオンはバスに乗っている。

 そして再び神保町へ……少しばかり悔しいような気持ちになりながらクオンはこう独り言を呟いた。


「謎は深まるばかりですね」

『machine head 著・伊勢周』皆様、そろそろ読み終えた頃でしょうか? 本作はどうでしょう。個人的には10章くらいから物語のエンジンがかかり始めるとそう思います。読書の楽しみ方は人それぞれですが、そこまではキャラクターの関係性なんかを考えながら読んでいると、あーなるほどねぇと盛り上がり、そしてだんだんと終局へと広かった道は一本道に変わります。とりあえず一度通して読み、二回目は何にスポットライトを当てるかなんて考えながら当方は読んでいます。そして紹介小説はできる限り、最初の気持ちに近い一回目の感想に重きを置くようにしていたりします。皆さんはどう感想を持たれるのか独自の読書の楽しみ方を探してみてくださいね。

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