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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第八章 『machine head 著・伊勢周』
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読書と恋愛は似ている。機械仕掛けの読者と

 福引というものが私は嫌いだ。

 紙切れがポケットティッシュになったり、時には旅行券になったりする。


 私の手の中には福引の券が25枚ある。5枚で一度あのガラガラを回すことができる。

 あのガラガラは心躍り、人を絶望に足らしめる悪魔の道具でもある。

 時折、洗剤などを民草に与え、異常な程によろこばせる。よく考えて欲しい、そんな異常に嬉しくはなかろう?


 人とは、ギャンブルに弱い生き物なのである。

 ギャンブル依存とは当たる時よりも外れる時に依存物質が分泌されるらしい、故に、確率で考えればハズレの方が圧倒的に母数が大きいため、ギャンブル依存は抜けられにくのだ。


 かたや私は違う。今回のガラ抽は最低ハズレがポケットティッシュではないのだ。

 なんと……うまい棒、それも味を選べる。


 私は五回の抽選券を持っており、五本のうまい棒を交換できる手筈だ。わかるか? 

 私は外れる事がほとんどあり得ないのだ! 


 いざ参ろうか! 


 一回目……


「ボク、おめでとう! 入浴剤です!」


 いいではないか、今日の晩の風呂は豪勢になったの!


 二回目……


「また入浴剤だね」


 三回目……以下略

 四回目……以下略


「最後の勝負じゃああ! うりゃああ!」


 ぐるぐると回し、カランと落ちた玉。私は目を瞑りゆっくりと目を開けた。


 カランカランと鳴り響く鐘……


「おめでとうございます! 詰め替えようクイックルワイパー 4等です!」


「何故だぁああああ!」


 神様、お小遣い0円、次の小遣い日まであと……26日

 やや大きめの40Lサイズのリュックを揺らしながら。旅人は歩く。

 その人物は歩き慣れているように、商店街らしきところをやや広い歩幅で機械的に少しスキップするように歩いているようだった。

 その人物は言葉通り、作られたようなと表現するのが間違いない黄金比の身体的特徴を持っていた。

 長い手足に細いウェスト、ショートパンツにスポーツタイプのスパッツを履いて、黒いシャツに丈の短いジャケット。そして大きなリュックに鞘付きの山刀を腰のベルトに填めてる。


 何処に出しても恥ずかしくないトラベルウォーカー。


 紅色の髪を結うリボンはお気にいりの藍色で、とある國の伝統的な模様が刺繍されている。それは棘を模しており魔除けの意味があるらしい。前髪には三本ピンで止められていてお洒落というよりはセットが面倒だという事の方が意味合いが強かった。

 スタイルに負けないくらい端正に、いや均整が異様にとれた表情にガラス玉のようなパープルアイ。まじまじと中を覗き込んで見つめるとその瞳が機械。

 露某木人(ロボクト)であることがわかる。お姫様のような、あるいは王子様のようなその人物は口元を緩め、独り言を呟く。


「ここが、トウキョウシティ・ジンボチョウ」


 美味しそうなパン屋さんで足を止めて、塩バケットが有名だというのでそれを購入。硬貨を入れて飲み物を買える自動販売機がそこら中にあることに旅人は少し驚く。


「さて、ここですね。古書店『ふしぎのくに』。ごめんください!」


 ガチャリと扉を開いた。そこは古書の香りと、少し甘い。

 そして、少しばかり古書店らしからぬ匂いも混じったいた。


「いらっしゃいませぇ! お客様。古書店『ふしぎのくに』へようこそ! 店主のリィグヴェーダと申します。皆さんからリィグさんと呼ばれていますよぅ」


 胸に右手を、左手は後ろにパンツスタイルのやや緑がかったロングヘアの褐色の店主。


「お探し物はなんですか?」

「物語のお話を聞きながら、お茶とお菓子が食べられる不思議な古書店があると聞いたのですが? これ、お土産です!」


 塩バケットを見せると口元に手をやってリィグは驚く振りをしてからこう言った。


「これはご丁寧に! 奥の母屋へどうぞ!」


 母屋は銀髪、褐色の女性、金髪褐色の子供、銀髪に真っ白な髪の少年。桃色の髪をした女性、黒髪おかっぱの少女が並んで映った古い写真が飾ってあった。


「初代〜二代目古書店『ふしぎのくに』創立メンバー……」

「お客様、お飲み物はどうなさいますかぁ?」

「ボクはクオンと申します! オススメの物をお願いします!」

「では、コーヒーに、ザラメの入ったカステラ。そして物語もオススメでよろしいですか?」

「お願いします!」


 少し考えたリィグは薄い下敷きのような物を取り出してそれをクオンに渡した。

 そこに表示されたタイトル。


「『machine head 著・伊勢周』。おや、機械の人が人間を襲うというのは、少しばかりホラーですね」


 綺麗に等間隔に切り分けられたカステラに、風味のいいグアデマラ産のダークロースト。それに口をつけてクオンは答えた。


「実に……実に怖い話ですね。例えば、僕は宗助さんの妹を拉致するという事ができません……それを行なってしまう機械というのは……ホーキング博士の警鐘です」

「ホーキング博士はAIの研究も反対されていましたからねぇ。それにしてもクオンさんは機械は人間を襲えないというお考えのようで……ではお話とはそれますが、クオンさん神隠し、とは何故神隠しと呼ばれるか知っていますか?」


 少し目を瞑り考える仕草を見せるクオン。

 頭の中をジンベイザメが泳ぐようにアンサーを手繰り寄せる。


「動物、或いは人に襲われて姿形がなくなる事ですか? それとも事故死して見つからず忘れられてしまう事でしょうか?」


 リィグはコーヒーを飲む振りをして頷く。


「それは神隠しの正体です。神隠しとはその過程と結果が分からない失踪の事です。これはドーナツの穴とも言います。そこで、人型機械端末のクオンさんにお尋ねします。宗助さんを助けたスワロウ。彼らはその組織を迅速にツバメのように動く組織だとおっしゃいます。私は勝手ながら別の意味を考えていました。アンサーいただけますか?」


 これは読者的視点や感想、想像の一端でしかない。

 が、Lが一つ足りないというワードがどうしても気になるというのが読み手だろう。


「どうでしょう。僕は特殊な力を持った人間というのが、凄く引っ掛かるのですが……リィグさんが言いたいのは、隠している組織というスラングでしょうか?」

「今回は正解です!」


 スワロウとは黙っている。

 や隠しているというスラングや意味がある、そして単体のLは組織の一員を意味している。

 それが一つ足りない。まさに特殊組織を読者側に伝えているとすればそれはとても面白い。

 クオンはここまで話を聞いて一つ納得のいかないものがあった。


「宗助さん、トマトと酢の物が嫌いとは、小一時間お話をしたいです」

「そこですか? やっぱり人間とは気になるベクトルの矛先が違うので面白いですね! 本来この手の作品は必ずと言っていいほど特殊組織や、対策組織が登場します。これは物語進行におけるスイッチの役割を果たします。ある意味ではテンプレートと言ってもいいでしょう。主人公はそこに所属するか助力を受けるかで関わっていくんです。これをフラッグ。スラングではフラグですねぇ! そしてポイントする事を回収と言います。クオンさんのような機械の兵隊。マシンヘッドは管制する人間がいて、それらと戦う為の特異な力を持った宗助さん達との物語が始まるわけです! どうでしょう? 一章はざっと序章です」


 コーヒーを一口、そしてザラメのカステラをもふもふと食べてクオンは機械の瞳をパチパチと何度か瞬きする。


「特殊能力者というのが存在するのがリアルです」

「特殊能力者が現実的というのは珍しいご感想です。詳しくお話いただけますか?」

「人は機械に人の力を授けます。そしてそれはいつか逆輸入されていきます。機械から人間は新しい力をもらいます。それが文明が爆発的な速度で進化する結論です。であれば、マシンヘッドという未知のテクノロジーを応用すれば人は今の人智を越えられるかもしれないなって思っちゃいました! ファンタジーですね。すみません、コーヒーとお菓子お代わりいただけますか?」


 特殊能力という意味だけで言えば、人間の体に機械を埋め込んで欠損した体の代わりに用いられる実験はすでに成功している。遺伝子レベル、ナノレベルの機械を用いる事ができるようになれば、人間は物理法則を超えた力を得る事も可能なのかもしれないと説いた者がいた。

 クオンは二杯目のコーヒーの香りを楽しみながらリィグに尋ねる。


「このスワロウの方々、宗助さんに入隊して欲しいなら。妹さんの入院。就職先の安定感、そして身の保障、さらにはメロンでも持って頭を下げてお願いすれば宗助さんも入ってくれそうですけどね?」

「メロンはどうか分からないけど……クオンさん身も蓋もないですねぇ。ノンノンですよ! そりゃ現実世界であれば、最大限宗助さんに有利な条件を提示して入隊を試みるのですけど……篠崎副司令のお言葉は、作者さんのまさに物語展開! 千咲さんへのオーダーなんです」


 クオンは手をポンと叩いた。


「フラグとポイントですね! まさにゲーミフィケーション!」

「ですです! ある程度物語はこんな流れなんだ! から、やっぱりか! あるいはそうきたか! を楽しむ物なのです! これからの展開の次回予告のような説明ですね」


 クオンの疑問は読み進め、リィグの言う意味を理解した。仕事として処理する場合は一度により多い情報をまとめた方が効率がいいが、創作物はそれらを一つ一つ処理していく事でポイントにフラグを置くポイントに到達するを繰り返している事。


「あおいさんがスワロウ管轄の病院に転院。この宗助さんの家へのお泊まりフラグによってポイントに到達したわけですね。実に興味深いです。宗助さんが頑なにスワロウに関わろうとしない事、そして彼の夢の話……次のページを開きたくなります!」


「クオンさん、人間らしい読書の楽しみ方ができてきましたねぇ! では、ご褒美のプリンですよぅ! 読書と恋愛は似ているんですよ」


 これはトトさんという旅好きの持論である。作者は不特定多数の読者に対して、あるいは自分に対して面白いと思う作品を書くわけだ。どう面白いのか? キャラクターが魅力なのか? 続きが気になるのか? 巧みな表現を楽しませるのか? いずれにしても読者の何かに刺さる物を用意する為、時には焦らす。そしてよりいっそう魅力を感じさせる。それがなくなった時、夢中にさせていた恋人もとい読者は去っていく。


「僕は心というプログラムはありますが、恋愛というものは情報でしか分かりません……ですが、一度に全ての魅力を出してしまうとそれらが打ち消しあい。そこで満足してしまうかもしれませんね……リィグさん、奥が深いです。僕は本作を通して、人間の恋愛についても学べるとは思えませんでした!」


 生クリームと安物の缶詰のチェリーが乗ったプリンに舌鼓を打っているクオンにリィグは少し悪い笑顔で尋ねてみた。


「宗助さんの力、空気で何かを切断するという能力についてどう思いますか?」

「空気単体では不可能なので、おそらく大気をプラズマ化しているじゃないですか? マシンヘッドに使われている金属が何かにもよりますが、空気や酸素、あるいは風単体で金属を切断する事は不可能です。ですが、プラズマ化したそれらなら、瞬時に融解切断するでしょう。ちなみに僕の右手にも振動兵器がついていますが、これは物質の振動に合わせて耐久性を限りなく0にして破砕する技術です。いずれにしても熱と考えられますが……これだと出血はしないんですよね。宗助さんの力、謎は深まるばかりです」


 当方はそんな事は現実的には不可能だ! という事をあまり好ましく思わない。異世界物で風の魔法が何かを切り裂く事は風単体では不可能だが、砂塵や砂鉄を起こしているのであれば可能。本作においては主人公の宗助の能力において、考察するに、大きめのなんらかの人型兵器を真っ二つにしてしまった事から、風のような運動量ではない事が確定。風でそれを行うとなると、多分地球消滅レベルの為、排除。瞬時金属切断。それができるとすればもう焼き切っていると仮定、それらから考察されるに可能な力はプラズマ。宗助は大気を操っている能力者であると考えられる。この能力で出血までさせるとなると、もう砂塵や砂鉄などを組み込まないと不可能な為、現実的な理論考証ではここまで、あとは作品内における設定上の演出的部分も多いのかもしれない。


「ちょっとそこまで考えると少し引きますねぇ……クオンさん、悪い癖ですね」

「僕は宗助さんの能力よりも、敵に会ったら逃げるという事の方が誇らしいと思います。あらゆる争いは逃げる事が一番強いです……どうしても逃げられない物や事に立ち向かう……というのは無謀で無意味とも言えますが……人間らしくて少し羨ましいですね」


 プリンを美味しそうに食べているクオンを頬杖をついて見つめるリィグは一言。


「どこまで行ってもクオンさんは人間じゃないですもんね? それに、機械であるマシンヘッドを軽々と倒してしまう異能力を持った人間だなんてそれはとても機械兵器へのアンチテーゼですね」

 

 クオンは人が人を殺さないように、機械と機械が戦争するそんな世界から機械を凌駕する人間が現れてしまったらそれはもうまさに黄昏時だなと考えていると、景色が変わった。


 そしてアナウンスが聞こえる。


“神保町交差点北……次は神保町交差点北“


 誰かがブーと停車ブザーを鳴らす。金髪、褐色の子供。クオンはあのリィグという女店主がいない事。人型機械端末である自分が信じられない事に白昼夢を見たのか? 疑問に思いながら、ちんちくりんの子供と共にバスを降りた。

 

「デジャヴですね。神保町到着二回目です」

 

『machine head 著・伊勢周』今月の紹介作品はこちらです。なんというか飾りのないタイトルです。だがそれがいい。本作において、タイトルをこうした理由、当初読み初めは想像していた内容と違うなというのが個人的な意見でした。章管理も多すぎず少なすぎない文庫本5冊分くらいで完結します。最後まで読み終えた時に……終わってしまった。

 という感想にぼくは少なくとも感じました。他薦紹介という中々珍しい形で選ばせていただいた作品でしたが、当方のトトさんが割と早い段階から推していた作品でもありました。この作品の全体像は一度では見えてこないかもしれない。彼はそう言った。皆様、人型機械端末のクオンと共になんだか懐かしくも新しい伊勢周ワールドを楽しみましょうか!

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