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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第七章 アラカルト 一話紹介形式
58/126

『お兄ちゃんは『妹が!』心配です 著・斐古』

毎回前書きに何か書いてあると思うなよ! このスケベ!

 インターフォンを押すがその部屋の家主はどうやら留守らしい。仕方がないので、頭に王冠を乗せた少年は合鍵でその部屋に入る。


「師匠ちゃんのヤロー、どこに行ったのですか……せっかく私が来てやったのに」


 部屋に入ると壁にウィスキーやブランデー等酒類を保管するリカーラックが並ぶ。

 少年は未成年だしお酒には興味がないので部屋に備え付けの冷蔵庫を開ける。そこに少年の為に買い置かれている牛乳パックを取り出すとストローでそれを啜る。


「ぷはぁ! やっぱり牛乳は最高なのですよ!」


 自分の為に買ってくれた一人がけのソファーに腰を預けながらスマホで何を読もうかと思った時、ガチャリと玄関の扉が開く。それに少年は嬉しそうに家主をお出迎えに行くと表情が曇った。


「テメェ! 母様、なんでいるのですか!」


 桃色の髪をした露出度の高い服を着た女性。目の前の少年。


「ヤッホー! マフちゃん! たまにはアタシと物語を一緒によもーよー!」

「ゼッテー嫌なのですよ!」


 そう、少年はマフデト。

 そしてそのマフデトを生み出した書の大悪魔ダンタリアン。他人の部屋に勝手に入るやいなや、ダンタリアンは壁のリカーラックから勝手にお酒を飲もうとする。


「テメェ! 上段と下段の酒を勝手に少しでも舐めたらぶち殺すのですよ!」


 とある小説の横に飾ってある赤鳥居の印刷されたジンをダンタリアンは徐に取ると、ショットグラスに勝手に注いだ。


「てめっ!」

「マフちゃん、何か面白い話してよ。聞いてあげるから」


 二人の瞳は獣のように縦割れしている。しばらく見つめ合うとマフデトは目を瞑ってからこういった。


「『お兄ちゃんは『妹が!』心配です 著・斐古』ざっと読んだ感じで、まず想像してしまうのが、ジュマンジ、そしてノゲノラってとこなのですよ。そこからどう独自性を見出していくのかという興味をそそるのですよ!」

「ふーん」


 国産の高級ジンを舐めるようにちびちびやりながら、ダンタリアンはゆっくりとジンのボタリカルな香りを楽しみ、そして再び少量口の中で転がした。


「これ、文章わかり易くて上手いじゃん」

「わかるのですか母様?」

「でもさ、これを読んでジュマンジって、マフちゃん最近の子だよねー! 元々ジュマンジはボードゲームなのよ? まぁ、アタシ的には……ナイトメア……だなんて多分フリーゲーム通のアヌさんくらいしか分からないかもね。とても掴みはいいと思うの。誰がどんなで、何が好きで何が嫌いか、端的に述べられていてストレスを感じにくいもんね……それにしても師匠ちゃん、ブラントンなんて飲んでるの? アタシももーらお」


 競走馬がキャップになった高級ウィスキーを勝手に開けるダンタリアンにマフデトは閉口しながら続きを語った。


「スーパーファミコンなんてゲームカフェでしか見た事ねーのですよ……」

「えー! その一世代前のファミコンなんて、有志で勝手にハックロムなんか大量に縁日で出回ってたのよ? だってあれ、カセットテープでコピーできたんだから……マフちゃんはカセットテープ分からないか……ほら、ゲームを始めたら起動が魔法の発生条件になってその世界に入っちゃったじゃない……さてこれでホラー路線なら懐かしみを感じるんだけど……残念異世界でした! つて感じなのかな?」


 マフデトはグラスに牛乳を入れながら同じ作品を読んでいたが、目を輝かせ、狂気的な表情で作品を読む自分を生み出したダンタリアンに苦笑した。


「冒頭から始まった物語は、キャラクター紹介と一定の起承転結を持って、本編に戻るのですよ。長すぎず、端折りすぎず、本作品の魅力と興味を大きく募らせたところで、さぁ本編だ! なのです! 構成もとても上手なのです」

「確かにねぇ……マフちゃん、マフちゃん! その牛乳にウィスキー入れたらラムみたいな味になるんだよ! 飲んでみる! かわいいね! マフちゃん」


「飲まなねーのですよ! こちらとら未成年なのです! そんな事より、主人公の一人、妹のヒナの特殊能力もといチートが判明したのですよ、割とパロディを多めに挟んでくるあたりが2000年代のラノベ、要するにラノベ二次ブームの頃の作品に近いのですね」


 ブラントンのゴールドを勝手になみなみと注いで度数の高さに目を瞑りながら香りをゆっくりと楽しむダンタリアンは頷く。


「そうだねー。掛け合いがなんというか懐かしさすら感じるよ。この手の作品の強みは何処にあるかわかるかい? マフちゃん」

「主人公の周囲で完結させやすいという感じです?」


 ダンタリアンはマフデトを見上げるように頭を下げてクイっとショットグラスの中を飲み干すと話し出した。


「まぁ及第点かなぁー! 八尋くんとヒナちゃん。この二人を中心に物語が展開してるでしょ? そこから離れていく情報というのは読者的にはそこまで重要じゃないのね? ギャグコメディ、かつ一人称の圧倒的なアドバンテージはここにあるの、実はこれ、異世界じゃなくても十分二人を中心に展開されるストーリーであれば、読者は十分楽しめたりするんじゃない?」


 当然、物語のベースや流れ、どういう世界体系を持っているかなどは考えられているのだろうが、本作において面白い! と思えて、かつ重要なファクターは読者を置いてきぼりにしない速度で展開されるヒナのノリと八尋のツッコミにある。


「要するに、この二人が動いているところを遮ってでも世界設定や常識を文章で説明して押し通らなくても、世界のルールや設定は後付けや補足程度に突然出てきてもなんの不自然さも感じずにこの手の作品って楽しめるのよ! だから、木の魔物、キミー君に関してもそこまで情報がないでしょ?」


 物語の展開、あるいは主人公のタイプはふた通りしかない。

 巻き込まれ型と、自ら首を突っ込む型である。本作のように主人公の中心にパワーバランスを大きく振ってある場合、この両刀が使いやすい。キミーに関しては前者、途中で出会うセージ氏に関しては後者といった風に主人公の行動パターンに矛盾を作らずにスムーズに展開できる。反面、これがギャグやコメディ色が強くない物語で展開しようとすると、物凄い薄い物となるのでジャンル選びや、キャラクターの動かし方は注意が必要である。


「勢いや、言葉の応酬で楽しませるこの作品は母様としてはどうなんです?」

「そうだね! 非常に面白い、声を出して笑ってしまうね! いいラノベだとアタシは思うよ」


 ショットグラスのフチを指でなぞりながら言うダンタリアンはある事に気づいた。

 この作品はマフデトが好きで楽しんで読んでいるわけだ。その作品を素直にダンタリアンが褒めた事で、マフデトはただでさえ大きな瞳を大きくして縦割れしている瞳孔を大きくした。

 要するに嬉しいわけだ。が、それを忌み嫌っているダンタリアンに見抜かれたくないのが、バレバレである。


「もう一つ、妹のヒナちゃん。中々のぶっ飛びぶりだよね? こんな感じでぶっ飛んだ女の子が数人いて地球から転生した主人公のお話がかつて人気を博したけど、キャラクターが増えれば増える程、動かすのが難しいけど、今のところ、ヒナちゃんだけだし、そういう意味でも読ませる事に力を振れるのもこの物語の強みかな?」


 マフデトの反応をダンタリアンはウィスキーを舐めながら確かめてみる。マフデトは牛乳を一気飲みしてから答える。


「妹の事は大事に思っているけど、割と兄貴の八尋のやつは辛辣なのですよ。いや、歳の離れた兄妹だからなのかもしれねーですね。母様は妹のヒナだけがぶっ飛んでると言ってるのですけど、まぁまぁ他のヒロイン達も大概なのですよ。このあたりは昨今のラノベに通じるものがあるのです。かといって八尋もまともとは言い難いのです。一応年長の成人なのに、十六歳の幼馴染頼みに全振りなのです。いわゆる反復や被せって奴なのです」


 ギャグという物を表現しようとすると、当然面白くないとダメなわけで案外労力や筆力を試される部分がある。面白いと思って書いてみたものの当人しか面白くなく寒い笑いという物はテレビをつければ大半のお笑い芸人がやってくれるので参考にすればいい。

 笑い、というよりは小噺や噺家でも使われる笑いのテクニックに、被せあるいは反復という手法がある。本作においては、ポンコツというわけではないのだが、どこか欠陥があるように感じさせる主人公達のテンポのいい会話である。

 これら滑りにくく、そしてキャラクターへの好感も持ちやすい。


「この作品、やたらとあらすじを本編に載せたり、主人公の回想を入れるのを笑いに変えるのは上手ね。じわじわくるよ。主人公達の手の届く範囲を中心に動いているのにしっかりと、物語は進行……というか、伊織くんはリアルだね。こういう子こそ異世界に転生すればお悩み解決、魔王討伐じゃん?」


 第三の主人公というよりはヒロインであり、お助けキャラ伊織。彼女の存在は面白い。主人公達だけでももちろん物語は面白おかしく展開するのだが、彼女という有能スイッチがしっかり可動する事で、異世界という謎多き世界で、ご都合主義以外でもしっかりと世界観という舞台にキャラクター達が映える。


「ぷぷぷぷぷ! ヒナちゃんビーストマスターになっちゃったじゃん! 少し前まで引きこもりだったに……いや、逆にギフテッドだからかな? おっと、そろそろ師匠ちゃんが帰ってくる時間だね。これでにて私はかーえろっと! マフちゃん、また今度ね? アタシと東京デートしよーね!」


 マフデトの額にキスするダンタリアン。つたこらつーと、嵐のように去って行った。のみ散らかした酒瓶を前にマフデトはため息をつく。


「母さまとデートなんて死んでもしねーのですよ……というかこれどうするのです? 絶対師匠ちゃん帰ってきたらカンカンなのですよ……」


 そんな師匠ちゃんが戻ってくる足音が聞こえる。それにマフデトは獣のような瞳を大きく見開く。


「師匠ちゃんなのです! 一緒に『『お兄ちゃんは『妹が!』心配です 著・斐古』』読むのです!」


 今回のアポなしでの募集の為、大きくネタバレなどは回避していますが、本作は実にいいラノベと言えるでしょう。疲れた時に数話読みながら楽しんでみてはいかがですか?

『お兄ちゃんは『妹が!』心配です 著・斐古』を今回はご紹介させていただきました。このキャラクター中心の物語って最近減ってきたような気もしますね。何かに転生してしまっただの、無双物だのとジャンルは多い中で、それ異世界でやる必要ある? と、いい意味で思える作品が昔はたくさん存在していました。本作もそれに準じたような作りになっており比較的どこから読んでも面白おかしく楽しめるのではないでしょうか? 昨今富士山登頂をダンタリアンにさせようと目論んでいるサタが推薦させていただきました!

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