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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第七章 アラカルト 一話紹介形式
57/126

『ハガネイヌ 著・ミノ』

 切符は誰が落とした物だろう?


 何処へ行く切符なのだろうか?


 そんな夢を見た。小さなテーブルには空になった缶ビールが4、5本。空になった1リットルのマミー。


 ボクはビールを飲めないし、マミーも好んでは飲まない。私のは端にある茶色のペットボトルに入ったほうじ茶だ。

 であればこれは誰のだ?

 

 これは生意気な年下の男の子と無礼な年上の男性だ。一応、ボクのチームメイトである。ことある事にボクを誘う。コロナ明けで週四で焼肉はエンゲル係数的にどうなんだろう? 締め切りに疲れて眠ってしまったボクを置いて二人はクラブにでも行ったんだろう。


 しかしだ。一応ボクも女である。そんなに魅力はないのだろうか? 鏡に映る自分、すっぴんに不自然に開いた左耳の四つの穴が物悲しい。


 今日はどうしようか? とりあえず全部オフで美容院にいこう。そうしよう。髪は少し明るくしよう。


 そんな時にスマホが鳴った。LINEらしい。


"レシェフさん、焼肉行くですよ! →強制"


どうやら、また油臭くなるらしい。

ボクは少しばかり軽い足取りで家を出た。

「さて、秋文さん。そして神様のご友人のニュクスさんですね? お店は閉めていたハズなんですが、勝手に入っちゃダメですよぅ!」


 母屋でダンタリアンがお酒を飲み散らかしたのを片付けて、古書店『ふしぎのくに』店主であるセシャトは目を瞑り、二人の前に銀座の某有名なチーズケーキをコトンと置く。


「本日はお休みだったのですけど、せっかくお二人が来られたので何かご紹介しましょうか?」


 秋文は嬉しそうに「はい! お願いします!」とセシャトを見つめるので、ニュクスは少しばかり面白くなさそうに呟く。


「まぁ、全書全読の末裔が何を語るか聞いてやろう! よい、許す。話せ!」


 セシャトは二人にタブレットの端末を渡すと、今回紹介する作品の名前を話した。


「では犬のお巡りさん、ファンタジーパンク版作品とでも言いましょうか? 『ハガネイヌ 著・ミノ』という物語ですよぅ! 作品のベースに、巨人。神々というべきか、絶対支配者に全ての種族は支配され、そこからの独立をした後の世界ということですね。ニュクスさんは少し耳が痛い話かもしれませんね?」


 黄昏の後であるとそう聞いたニュクスは笑う。


「エリクサーを人間が作ったのは今から二百年ほど前であろうが? あと夜は巨人ではない、どちらかと言えばこの作品の登場人物に崇められるもの。オレイカルコス。混沌よ」


 簡単に説明すると、世の中のエリクサーの元ネタはとあるリキュールである。不老不死とまではいかないが、気付け薬として死にかけていた人を救った事くらいはあるシャルトリューズ エリクシール ヴェジェタルと言う物凄いアルコール度数の高いお酒である。

 人類が生み出した最強最悪の酒、蒸留酒として錬金術の如く精製された為、カルト的な人気があったりする。


「あらあら、ニュクスさんのお酒のお話も興味深くはありますが! 本作は、魔法、錬金術と言った力を私たちの世界カラーサイドで言うところの化学や常識として、展開されるファンタジーアクションとなりますよぅ! 騎士団などではなく、警察。軍警でしょうか? そこに焦点を当てている事がポイントです。世界設定はある程度文明レベルが高いんです」


 特務捜査官という設定を持つ主人公達は、重犯罪者達から市民を守り、悪を駆逐する。彼らは場合によれば公務中による容疑者撃滅も行うのかもしれないが、基本命を奪えない。


「戦争と違って悪を根絶やしにすることは難しいですからね! いかして情報を引き出して、そして一網打尽が警察官ですもんね! この作品、なんとなくやりたい事が見えてきました」

 

 秋文の言葉にセシャトは微笑む。

 きらきらした目で語り合う二人になんだかのけものにされたような気分になるニュクスは口を尖らせる。


「あれではないか、どこぞの国の銃撃戦を異世界ファンタジーでやっておるのだろうよ?」


 そう、いわゆる銃口ホールインワンや、手を狙って狙撃、など訓練された警察の犯人の無力化に使われる手法を上手い事、この世界観で表現されている。

 本作を読んでいると会話文が多い、これはリアルタイムの状況を表現するのに一躍買う分、場面がわかりにくくなりやすい。今、誰が何をどうしているのか? かつて、これを一人称で全ての環境説明した凄腕作家がいたが、少し難しい部分であったりする。



「こちらに関してはいい意味で一話完結となっています。というのもストーリーは続いているのですが、一話で一旦結を入れている手法を取られていますね? これはWeb小説らしく。ストレスを感じさせにくい作りとなっていますよぅ!」


 当方が何度も語るようにWeb小説というジャンルで考えると、リアルタイムで生きている物語になり、読者と並走する形になる。一話一話に起承転結を入れていく方が読者にストレスを感じさせにくいと一般的には考えられる。

 その為、毎日更新される作者などもいるわけである。


「キャラクターが割と多いですけど、しっかり刑事物の流れを組んであるんですね」


 スーパー中学生、秋文くんはあらゆる小説のジャンルを網羅している。本作の面白い部分というのはもしかすると異世界アクション部分なのかもしれないが、当方が推したい部分はハガネイヌの構成員達は、公僕としての公務をこなし、またこれが面白いくらいに異世界と私達の世界における起きうるであろう事象などとをクロスオーバーさせている事。


「あらあら、そうなんです! 錬金術師さんを技術者と考えると、巨神崇拝をされている方々、カルト教団と、それを追うハガネイヌの方々という実に、アメリカなどでは……いいえ、日本でも思い当たるような事件がありますからねぇ! 本作は異世界作品にも関わらず頭に構図がパッと浮かぶところに面白みを感じます! そしてヴァイさん、彼がメイスを使うという部分が実に趣があると思いませんか?」


 セシャトが目を瞑り、錬金術師誘拐事件を追っているハガネイヌ達に胸躍らせている。Web小説を心から愛し、楽しむ彼女にやや焼き餅を焼いていたニュクスですら口を開いた。


「続きを話すことを許す。どういうことか?」


 セシャトは二人がチーズケーキを食べ終えたことを確認すると、ケンズカフェのガトーショコラにエスプレッソを出した。


「ふふふのふ! ヴァイさんの武器は大怪我をします。ですが、当たりどころをしっかり見極めれば、死に至らない武器です。かつての十手や、今の警棒のような感じでしょうか? 刃物ではないという部分が非常に考えられていると思いませんか?」


 本作をお勧めしたい部分は細々としたところの芸が細かい。一つ指摘点を上げるとすれば、描写がたまに読んでいて読者の思考と重ならず追いつかなくなる。これはWeb小説ならではの、編集や校閲を一人で行う故、どうしても頭の中で完結してしまっている部分がある。前項において編集や改変されることもあるだろう。

 これはWeb小説が生きているという証でもあったりする。


「なるほどな。Web小説故のと……夜は思うに、作品世界の中の固有名詞をいちいち説明していない部分は大いに評価するが? いかに? 秋文に色目を使う全書全読の末裔よ」

「あらあら、いいところに気がつきましたねニュクスさん! そうなんです。固有名詞はルビを打ち、ある程度なんとなく理解できる物が多いです。これらを逐一説明されると読み疲れます。本作は三人称で多方面の説明が多く必要になりますから、しっかりと省くところは省かれていますね」


 実はWeb小説のテクニックの一つに情報量は限りなく少なめの方がリピート率が高い傾向にある。

 誰が、どんなで何をしたか? 極論をいえばこれだけである。

 今現在書籍化やアニメ化しているタイトルも大体この三つを主軸にしている。当方は逆に、本作のように情報量が多い作品を好むメンバーが多いので、一概には言えないのではあるが…………


「さてさて、ヴァイさんは頼れる可愛いお仲間、ムウさんとユーリエさんと合流されますよぅ! ここはラノベらしく、ややハーレムの相関図がポイントです! そして捜査官ではありますが、実にファンタジーパーティーらしくなってきました! そして、化学プラントならぬ錬金術プラントへの突入です!」


 そう、本作の第一章は作品世界の紹介そのものと言ってもいいだろう。

 いきなり中々クライマックスな展開と臨場感を楽しみながら、この世界はどうで、ヴァイ達、そして助けるべきエルフのリノンは何が好きで、何が嫌いか、倒すべきエネミーは? 本作を言うなれば……


「よく、人間は知っている物しか表現できないと言う方がいますよね? 逆に本作はどこか可視化できる非現実を表現されていると言えるのではないでしょうか?」


 セシャトはそう言ってエスプレッソの代わりに次はムレスナのフレーバーティーを入れた。先ほどまで神楽坂でお茶をしていた時に購入した物である。


「ほう、セシャトと申したな? 全書全読の娘よ! この茶葉、香りを後付けしとるのか……錬金術といいたいか? お前達は作品にあった茶に茶菓子に、全書全読とまるで変わらんな」


 そう言いながら作品世界に意識を巡らせ香りを楽しみ紅茶を口にするニュクス。彼女にセシャトは微笑んだ。


「神様から、お話はたくさん聞いていますよぅ! 是非とも、秋文さんも本作の続きを読んでお話ししませんか?」

 

 今回は突発募集に応募頂いた作品の中から選んでご紹介しております。

 月間紹介ではない単発の為、またアポをとっていない為、ネタバレ回避にざっくりと作品世界に触れる形となりました。

 本作は読み進めていくと、その面白さが段々と深まります。ヴァイさん達ハガネイヌのカッコいい立ち回り、彼らの葛藤、ゆっくりと時間をかけて少し香りのついた紅茶でも飲みながら楽しまれてはいかがでしょうか?


 それでは今回はここでお時間です。

『ハガネイヌ 著・ミノ』さて、今回紹介させていただいた本作ですが、いかにして巨神が万物の霊長から交代を余儀なくされたのか、そして人間に亜人たちはいかにして今を勝ちとったのか? 本作はそんな疑問もさておき、ヴァイ達は組織の尖兵でしかない。ファンタジー世界でありながらももしかするとこの物語は語られない事によって想像力を掻き立てられるのかもしれない。是非、ありそうでない鏡の世界を楽しんで欲しい。

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