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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第七章 アラカルト 一話紹介形式
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一話紹介③『ドジっ子ポーターは平和の鐘を鳴らす 著・みぱぱ』

 桃色の長い髪を持った女性は手首に隠し持っている虫ぴんをとし出すと、日中堂々と、“古書店『ふしぎのくに』“の鍵穴にそれをカチャカチャと突っ込んだ。


「あれ? 昔はこれで開いたのに……ダブルロックになってるよ……じゃあ次はこれだ」


 女性はキャラメルくらいのサイズのピンクの固形物を取り出す。それを掲げてこういった。


「怪盗とかが持っている。ピッキング専用ダンタリアンガムー(コニャック味)!」


 青い狸型ロボットの真似をして商品名を名乗るとそのガムをくちゃくちゃと噛んで柔らかくすると鍵穴に突っ込む。そして取ってをつけてから硬化スプレーをかける。

 しばらく待ってゆっくりとそれを回すと“ガチャリ“鍵が外れた。硬化したガムを引き抜いてテッシュに包むと女性はハンドバックにそれを閉まって中に入った。


「うん、懐かしや我が元城。冷蔵庫の中身はお菓子ばっかり……血糖値大丈夫かなこのお店の子達。なんだか面白い連中がここに向かっている様だし、少し飲んで待とうかな?」

「うっはー、久しぶりにこの店にやってきたなぁ! さぁ、いらっしゃい諸君! 君は確か秋文君、そして全く何やってるんだい? 神君は島根の方に今飲み会に行ってるよニュクス君」


 秋文は、普段よく通っている古書店にやってきて全く知らない桃色の髪の女性がカウンターに酒瓶を置いて受付をしているその店を見て、念のため、看板を見に行き、ここが古書店『ふしぎのくに』である事を再認識してから尋ねた。


「こ、こんにちは。えっと……」

「ノンノンノン! 秋文君。残念ながら君の想い人は今はおらず。代わりに君のケイオスの友。マフちゃんの母。だーんたーりあーん! がお相手をしてあげよう! さぁさ! ニュクス君も上がって上がって!」


 母屋、普段はコーヒーとお菓子を食べ、飲みWeb小説を語るそこには、ワインクーラーに冷やされたシャンパン、ポッキーにブルーチーズ。


「ぼ、僕帰ります!」


 秋文は何か身の危険を感じたこの店を出ようとしたが、桃色の髪をした女性。

 ダンタリアンを名乗る彼女はこういった。


「そうだね。今の秋文君にもってこいの作品は『ドジっ子ポーターは平和の鐘を鳴らす 著・みぱぱ』。要するに追放系スタートなんてどうだろうか? 昨今の異世界ファンタジーの王道の一つだね。これが困った事に、ほぼ役立たずの荷物持ちのエルシー君が主人公なわけだ。今まではワガママボディでなんとか勇者パーティーにいたわけだけど、別の女の子がきて、彼女の勇者パーティー時代に終わりを告げるわけだね。さぁ、二人とも小さいスマホで覗き込むように見ないでこれを使いないよ“ хуxотоxунихуxакутоxуноберу(Web小説物質化)“」


 シャンパンにコニャックを混ぜたカクテルを作るとそれを一飲みして、二人にWeb小説の画面から2冊の書籍を取り出した。それは今しがた話していた『ドジっ子ポーターは平和の鐘を鳴らす 著・みぱぱ』の擬似小説書籍。

 ダンタリアンは秋文とニュクスにコーヒーを淹れる。母屋の椅子に体育座りをしながらニュクスはそれを読んで一言。


「ほぉ、注意力散漫なエルシーがどうしても注意しなければならん童達の面倒を見る流れになるという事か、でこれいかに?」


 ニュクスがつまらなさそうな顔をしているので、秋文が捕捉した。この物語の面白い点の一つ。


「ニュクスさん、本作はポーターという職業、本来あって然るべきだけど、中々パーティーとしては着眼されていない職業と、そのエルシーが、二人の幼い冒険者を育てるっていう興味深い内容なんですよ! 剣士や魔法使いでもない。でも元々最上級パーティーにいた彼女というロケーションが興味深く、そしてとても面白おかしく書かれているんです!」


 秋文は目を瞑り自分の世界に入る、いわゆる同化しながらそう語るので、ダンタリアンは嬉しそうにシャンパングラスにシャンパンを注ぎ、ニュクスはお気に入りの秋文が楽しんでいる事を自分が共感できない為、テーブルにトントンと指で叩き、ダンタリアンに同じお酒を所望し、そして言う。


「大悪魔。その穢れた口を開く事を許す、夜に分かるように語れや」


 はいはいと、ダンタリアンはグラスを少しニュクスに向けるとニュクスはグラスをカチンと合わせる。

 そして一口飲んで語る。


「じゃあ、一つ面白いところから話そうかな? エルシー君。彼女の家は3LDK。この世界の不動産がどうなっているかは唐揚げ定食すらあるので日本と同等と考えようか? まぁ、相当高いのね? 本来冒険者なんてその日暮らしの職業で拠点を持っているなんてよほどの高級取り、ここのロケーションは元勇者パーティーだったから、ピンハネされてようが、荷物持ちだろうが、相当良かったんじゃないかな? そしてゴミ屋敷。ここまで面倒見の良いこのエルシー君がドジっ子とは言えこうなるかな? まぁ、疎外感や自分がポーターである負い目を何処か感じていた表現でしょう。ゴミ屋敷の女性の精神状況は結構ヤバいところにいたのね? 勇者パーティーを出て良かったんだよ。そして、エルシー君が出会った二人の子供はどんな子だい?」


 流石にそれは深読みしすぎだろうと秋文は思った。

 思ったが……それなら整合性が取れる。ニュクスはシャンパングラスを蛍光灯に掲げ片目を瞑る。


「なるほど、エルシーを仲間と認めてくれる者共か」

「ニュクスさん、これ経験や知識的なレベル差で、ある種のチートでもあるんです」

「は?」

「初心者冒険者のトリステンとオルコットに対して、少しおっちょこちょいかもしれないですけど、エルシーは勇者パーティーのクエストを生き残ってきたんです。経験や知識は……」

「よいよい、皆まで言うな。アキフミ。注意力散漫とは関係がないといいたいのか、まぁ、この娘がどこまで足を引っ張るのか、先を読もうではないかアキフミぃ!」


 ようやく自分もこの作品の面白さに触れ、気分よくなったところで、読書会が再開される。


「秋文くんの言った通り、エルシー君は案外クエスト中はとても先輩冒険者として安心できるよね? それにサンドイッチにマヨネーズの代わりにからしって、マヨネーズとからしは混ぜて使うものだから、マヨネーズのサンドイッチと一緒に食べれば問題ないし、それに美味しい。甘い卵の方が運動量の回復にもってこいでしょ? 彼女のドジなんて正直、彼女の冒険者としての能力を差し引けば可愛いものだよね。こんなエルシー君がついてくれる二人の子供、どうやら思ったより能力が高いらしい、さぁ面白くなってきたんじゃない?」


 うんうんと二人は頷くので、ダンタリアンは冷蔵庫からカスクードを取り出すとテーブルに置いた。

 大ピンチの福音もとい“平和の鐘“彼女らがポイズンウルフに襲われているそのシーン、あわやというところでお決まりの助け舟が入るのだが…………ニュクスが停止を入れた。


「ちょっと待て大悪魔、日本刀が出てきたが? 夜は今一度読み直したのだが、日本刀が出てきた。そして着物。これはいかに? おい! 勇者とやらはキプロクスを簡単に殺害するのか?」


 夜の女神の頭は大混乱である。酒に酔ったかと自分の手元を見るニュクスにダンタリアンは苦笑する。

 そしてグラスを指さした。


「たとえば、このシャンパン。これがこのエルシー達の世界にあったとしたらニュクス君はどう思うんだい? しかし君胸でかいな。アタシよりあるんじゃないか?」


 ダンタリアンの唐突な下ネタに秋文は赤くなり、面白そうにそれを見るダンタリアンの顔を無理やりニュクスは自分の方に向ける。


「大悪魔。アキフミを見ることを許可しない。この酒くらいあっても問題なかろう? が日本刀は変であろうよ?」


 これにはダンタリアンの矛盾に対する矛盾の返しである。異世界系の小説とは遥か昔から言われていることがある。地球の固有名称が何故あるのか? 日本刀は片刃の刀剣。要するに刀なのだが、刀だとカトラスかもしれない。日本刀は日本にしか存在しない武器の為、表現としては致し方がない。しかし、性格の悪い読者はこの世界には日本があるのかと問うだろう。


「日本人が書いている作品だからね。だけど、この異世界について今のところ何も語られていない。単純に日本刀という武器があるのかもしれないし、文章表現として日本刀を日本人が認識しやすいように書かれているのかもしれないし、異世界転生なのか、転移者なのかが持ち込んだか、あるいは地球の未来の姿なのか、日本刀という物が継承されたのか、この世界には日乃本という日本らしき場所が存在するらしい。けどそんな事は正直気にする事じゃない。そして今しがた君がシャンパンはこの世界にあってもいいと言っただろう? それもおかしいんだぜ? シャンパンも日本刀と同じで、フランスの地名付きの酒なんだから、シャンパーニュ地方がこの世界にあるのかい? と君に問いただそう」


 テラーであるダンタリアンはこういう、揚げ足取りの読者への対処法を熟知していた。

 そしてニュクスは素直になるほどなと頷く。


「勉強になった。よい。続けよ」


 補足ではあるが、本作の世界観はいわゆるミラーリングであり、我々が生きる世界と常識的概念がほぼ同じである。これは“平和の鐘“を中心としたストーリー展開に力を入れる為、各種概念はその次であるローファンタジーの手法でもある。逆に重厚な世界観と情報量で作品を惹きつける物をハイファンタジーと呼ばれていたりするが……


「まぁ、人の作りし幻想文学になんで? を持ち込むのは野暮ってものなんだよ。それをそれとして楽しむのはお酒に酔った様な物なのさ。お決まりのエルシーにも何かユニークスキルがあるかもしれない。そこを引っ張りつつ、子供達の才能の高さ、ここに着眼を当てているね。あと、この作者君は女性の胸に並々ならない宗教観をお持ちのようだ」


 桃を薄く切って、フラスコに入れる。コニャックと冷やしたシャンパンをそこに注いでひとつまみ砂糖を落とす。即席のカクテルを作るとダンタリアンはそれを自分のロンググラスに入れて軽くステア。

 王様のカクテルなどと言われるそれをニュクスに差し出すとニュクスはそれに口をつけて目を瞑る。


「なるほど、エルシー。こやつ、人脈と人望が恐ろしい程にあるわけか、自分でできない事は適材適所に……経営者の様だな」


 本作を語る上で、いい意味で主人公エルシーはトリステンとオルコットに自身が与えてあげられるものは愛以外にはないのだが……彼女の元勇者パーティーという設定が全く腐らない。彼女はいい奴だ。それはどこでもそうで、元パーティーメンバー達からも同じく愛されていたし信用されていた。そんな彼女の知識、経験、人脈、人望があって物語は面白いくらいに噛み合う。


「秋文君が言った通り、ある意味ではチート系の亜種と言っても過言じゃないよ。いいところに着眼している……さて、それではアタシは勝手に元・自分の店に忍び込んでいた事が神君の可愛いセシャトさんや、アタシの可愛いマフちゃんいバレる前におさらばしますので、若いお二人はごゆっくり! ケイ・おーす!」


 そう言って酒瓶を持ってすたこらさっさとダンタリアンは古書店『ふしぎのくに』から去っていった。

 その十分後に、秋文くんの恋い焦がれるセシャトさんが、母屋での飲酒後、秋文くんと、見知らぬ女性を見て小一時間状況を問いただされる事となる。

 

 さて、今回のお話は異世界系作品ですが、ドジっ子サイコーなる作品と思いきや、非常に面白い作りを持った間接的チート作品と言って過言ではないでしょう。

 作品のアプローチの仕方や切り込み方、決してエルシーはなんでもできるわけではないけれど、何もできないわけでもない。アポなし紹介の為、ネタバレのない程度のご紹介となりましたが、是非是非。

 本作の優しい世界観で癒されてみてはいかがでしょうか?

『ドジっ子ポーターは平和の鐘を鳴らす 著・みぱぱ』本作は異世界系チート系が好きな方に読んでいただきたいと思います。今まで読んできた作品とは違うのにも関わらず納得できる部分も多いんじゃないかと思います。読んでていて作品の展望がいくつか予想されるのも非常に楽しいと思われます。どうして、エルシーがいなくなった後、勇者パーティーは不調になったのか? エルシー率いる“平和の鐘“はどうしてこうもうまく事が運ばれるのか? そしてエルシーはどうしてドジっ子なのか? さぁさ! ダンタリアンさんが珍しく異世界系作品を推した理由、興味のある方は是非とも楽しんでくださいね!

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