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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第六章 『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』
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結局、作者が楽しんでいるかどうかに至る話

 ぐるぐるぐるとぐるぐるぐると、一片も影のない光り輝く場所。そんな場所が陰った時、不思議な者は顔を出す。

 今宵今晩この時は……と、深淵という身近な場所から神有月を眺めては羨み、妬み、そして震える。


 陰は、深淵は、嫉妬はゆっくりと人の形をもつ。人の形を持てばあとは早い、知恵の実は等しく愚者の手にわたり、忌するは言葉を教養を知恵を産む。

 そして寺院や教会はそれらを抑制し、何かを祀る。


 一人の短髪、桃色の髪をした女性は一件のカジノバーで自然に隣に座った人物から手渡された写真、手渡したらその人物は女性にマカオビールをご馳走して席をたつ。

 駄菓子を食べながらあほヅラで写っているちんちくりん、そして酒瓶に淫らな格好で抱きついている女。


「神様、そしてダンタリアン。そろそろ退場の時と知れ」


 女性はマカオビールをグラスに移さずにそのままクイっと飲む。そして聞き耳を立てると小悪党の二人が、中華系マフィアらしき男に財宝だなんだという話をしている。

 修道女と子供がどうとか、もう一度ビールに口をつけて余韻に浸る。


「さぁ、ここは現実か、それとも幻か、見習いシスターの彼女は笑顔こそがふさわしい。このバッカスが保証しよう」


 9月紹介作品、最終回 はじまりまじまりと

 

「こんにちは、本を売って欲しいのだけれど?」


 呼び鈴を鳴らせど鳴らせど店員は出てこない。それに声が聞こえる母屋を一人の女性はノックし尋ねた。扉を開いた先では、少年、青年、女子高生、飲み物はワイン、牛乳。紅茶……お菓子、果物、サンドイッチ。


「ははっ、マッドティーパーティーだな」


 短髪の桃色の髪をした女性は当たり前のように、3人が座るテーブル。その空いている椅子を引いて座った。


「テメェ! バッカスなのです」

「お客様にテメェはまずいと思うよ愛らしい少年。この前の続きを読んでいるのかな? 私も混ぜてもらおうか? そちらの給仕の少女、何か強いお酒を」

「は? 頭わいてるのかなこの女、ボクは客だよ」


 一触即発のその時、師匠ちゃんが眉間に皺を寄せながら、カバンから一つの便を取り出した。

 電気ブラン。それをブランデーグラスに注ぐと無言で出す。


「おや、人間にしては気がきく。ありがとう。ただのシスター見習いがギャングと関わってしまった。ラブソングを聞いてくれるような相手なんだろうか? そこの人間、お代わり」


 コトンとグラスの音を立ててお代わりを所望する。それに舌打ちをしながら師匠ちゃんは電気ブランを注いだ。


「宝探しネタってのは大体、物語においてテンプレの一つだからな。それにポンコツ悪党の組み合わせは古き良き形式美だっつーの、チェイサーはビールか?」


 王冠を外したハイネケンを手元に置く。「悪いね人間」と受け取り、ブラックベリーの画面を見る。

 3人はタブレットで作品を読んでいる中、ブラックベリーを使うバッカスを見て、口にこそ出さないが、クソ端末にドン引きしていた。


「フランチェスカは形から入るタイプなんだね。インディージョーンズばりの格好だ。物語ってのはいいよね? 欲しい物が欲しい時に手に入る。そして読者はそれを気にせず受容できる。これもまた君のいう形式美かな?」


 三分の一程電気ブランを飲み、ビールをチェイサーに流して飲む。

 東京上野の飲み方を堪能しながら片目を閉じて、バッカスは一言。


「クァンとフランチェスカのは蟷螂の鎌だね」


 突然やってきたこの女に、もう我慢の限界だった師匠ちゃんは拳を握りしめてぶん殴ろうとした時。


「無謀な勇気こそ、物語の本懐であり、楽しみじゃないか」


 世界的には比較的治安が良いとはいえ、少女と幼い少年の二人組がガチの宝探しで、さらに神聖な教会の立ち入りを許可されていない場所にズンズンと進んでいく。

 その無謀さ、ありえなさ、非日常を楽しむことが物語の本懐であるとバッカスは電気ブランを飲み干して、3人を小馬鹿にしたように嗤う。


「昔はこうやって子供たちの冒険譚が多く、それを読んだ子供たちは胸躍らせ、作品に没頭したものさ。しかし、この作品は人を選ぶね」


 3人はいつしか、バッカスのペースに乗せられていた。誰かも分からない変な女。されど、彼女の語る言葉は離れているようで核心をつきつつ、疑問に思わせる。本作は比較的、万人受けしやすいとそう思われる構成を持っている。


「バッカスくんだったか? それはどういう? 教えてもらおうじゃないか」


 レシェフさんが切り込んだ。

 それにグラスのさらに三分の一の電気ブランを口に含み、転がし、ビールで流す。


「本作の流れは短編連作の水戸黄門よろしくお助け物と取れるだろ? これは割と読まれやすく親しまれやすい。逆に言えば視点移動における各キャラクターの掘り下げまでは説明が少し欲張りすぎている。進行形の物語を好む読者からはやはり外れているんじゃないかい?」


 先に言っておくと、Web媒体で公開されている作品は何をしてもいいし、作者の好きに構成すればいい事を念頭に語る。本作に限らず。作者の努力というべきか? 多くの状況説明をしてくれるものが多数ある。

 しかし、小説というベースで話す場合。大抵不要だったりするのだ。


「これは昨今における作品の怠惰さにおける問題点とも言えるんじゃないか? 時間軸や時系列の整合性を使ってよくアニメなんかがやっているよね?」


 少しだけ説明しよう。尺の問題やら、マネーの動きなど大人の事情で、原作ではさらっと流されていた場面に主人公やその他キャラクターが何をしていたかを完全新作などと看板を立てて公開するアレである。そういうものを見たり経験してきた世代はその手法を取り入れるのも致し方なしと……


「それって誰か気にする奴いるのです?」

「一定数、どうでも良いから先を進めという人種はいるよ。それも割と多めにね。あと人間、お代わり、チェイサーなんだけど、薫るエールにしてくれるかい? そういう意味ではこの宝探しのお話は本当に面白い。斜め上をいくね」


 舌打ちを司ながらも言われた通り、薫るエールをデリバリーで注文し、自分は一度も口をつけていない電気ブランを並々と注いだ。


「痛快な冒険活劇としてフランチェスカは可もなく不可もなしに物語を終えるわけだ。さて、この作品は面白いかい?」

「おもしれぇのですよ」

「面白いんじゃないの?」

「面白いじゃろ?」


 三人は面白いという。並々に注がれたブランデーグラスとチェイサーのビールを並べる。

 そしてバッカスは話す。


「面白い。それはいいことだ。かくいう私も面白いと思うよ。作者もきっと自分が読んで楽しいものを書いているんだろうね。実に素晴らしい事だ。自分が面白いと思うことで、誰かを面白いと思わせられる。高尚だよ。じゃあ君たちは、物語の、というよりWeb小説という物の三つの死について知っているかい?」


 三人は初めて聞いた単語に言葉が出ない。

 いや、そこまでバカでもなかった。最初に口を開いたのはマフデトさん。


「誰も読みに来なくなるってやつですか?」

「そう、それは作品の死というやつだね。誰も読まないので、どれだけいい作品でも日の目を見ないというやつだ。あと二つは?」


 難しい事を言ってくる。

 Web小説という物の死。今まで考えた事もなかったが、続いてレシェフさんが話す。


「物語が未完として更新されなくなることかな?」

「そう、それは読者には全く関係なく、作者が飽きた、あるいは亡くなった等の色々な理由でやってくる唐突な死だね。特に病気や不幸があったとしても誰も報告もしてくれなければ、誰も何も知らずに時が止まったようにあり続けるか、いずれ削除処理されるだろう。じゃあ、あと一つは?」


 マフデトさんとレシェフさんが答えないでいるので、師匠ちゃんはワインを飲み干して答えた。


「作者の心が死んだ時じゃろ?」


 レシェフさんの瞳孔が開いた。何か面白い事を言うんだろうと、それにバッカスはブランデーグラスを持ち上げるとビールジョッキに中身を注いだ。


「詳しく」

「例えば批判された時、例えば病気や事故等執筆から離れてしまった時、例えば創作の興味が失せた時、作者自身が作品を面白くないとか、どうでもよくなっ時……とか?」


 それを聞いてバッカスはジョッキの中にあるビールと電気ブランが混ざり合ったカオスなものを飲み干す。


「正解、唐突なラブコメが始まるじゃない? 甘いのか、酸っぱいのか、はっきりは分からないけど、きっと作者は楽しいんだと思うんだよね? この気持ち、物語というものは突き詰めていけば作者のエゴや性癖、そしてこうありたい世界を表現した物なんだよ。作り手が面白いと思わなくなった時、即ち作者の心が死んだ時、一番Web小説という物が死んでしまう時だね。最近は多いらしいよ。作者が筆を折るってさ……それに比べて、本作の安定感はどうだい?」


 いわゆる、水着回をしてバッカスに質問される三人。

 基本的には温泉やら海、プールでの何気ない物語というのはいつの間にやら最近は緩急のつけごろに使われる事が基本となった。

 なんなら、その派生系として、最終回や、続編第一話にこれらをもってくるという構成も昨今では見られる。


「まぁ、あれじゃねーのですか? ボーイミーツガール。そして悲しいかな、一歩進める空気感じゃねぇ、あくまで読者にしか分からない示唆ってところじゃねーです?」

「……あとは、ボクは作者が色恋沙汰や、さらにもう一歩進んだ展開への苦手意識か禁忌のような物を感じるかな?」

「まぁ、Web小説は自分の作品に対してデリケートな部分があるから、この作品や作者に限った話でもないけどな。誰も傷付かず、平和で、優しい世界観ってのは少なくとも表現できてるんじゃね?」


 師匠ちゃんが電気ブランをショットグラスに注ごうとした時、バッカスはショットグラスを逆さにテーブルに置いた。もういらないという意思表示。


「そうだね。それぞれ、今の作者の気持ちを答えよ! の美味しいところに触れているんじゃないかな? 舞やフランチェスカがいかに可愛くあれるか、どういう関係性が好ましいのか、そしてどんな展開が楽しいのか、これは性癖と言ってもいいし、書き手の世界観だよ。それこそ、命を塗り込んでいるといってもいい。この展開が一番楽しいんだと、こうありたいんだという気持ちだね? これこそが、作品に命を吹き込み。この気持ちがある限り、読み手も何かを受け取る事ができるんだよ。さて、私はそろそろお暇しようかな? ダンタリアンがやってきても面倒だしね。ご馳走様」


 バッカスを名乗る女性は三人を横目に母屋を去り、しばらくするとからガランと店の扉が開かれ、彼女が帰っていったことを告げる。


「あの女。なんだったんだ?」

「実に不愉快な女だったね。マフデトの母親のようで全く違う。実に不快だ。この3人のお茶会を邪魔したことも含めて……」


 師匠ちゃんとレシェフさんが困惑している中で、マフデトさんは作品を読み返し、そして頷く。


「さっきのバッカスのヤローが言ってた事は間違いねーのですよ。この作品がおもしれーのは、作品を作り手がおもしれーと心から思って書いてるからなのです。案外、私たちはいつの間にか取り繕って物語を色眼鏡で見てたのかもしれねーですね」


 マフデトさんがそう言うので、牛のマグカップに牛乳を注ぐ師匠ちゃん。自らには白ワインを、そして、レシェフさんにフルーツティーを入れる。少しの余韻の後に、こういった。


「とりあえず、『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』続き読もうぜ」


 9月末。最も空気の澄んだ夕刻に暮れる空と共に読書の秋は時間を盗む。

 そしてまた客を放置して。


「Hola(お邪魔します)……ちょっと、誰かいないの? 開いてるわよね? ……お出かけ中? また出直すか」


 一人の修道女が最新コミックの中古本をもってカウンターに来ていた事を作品に没頭していた三人が知るはずもなく、その日の営業は終える。

 さて、今回の紹介にて『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』は一旦終了とさせていただくのですよ! ネタバレが許されていた部分までできる限り作品の事を知ってもらえるように構成して行ったのですけど、どうでしたか? 本作はまだまだ面白い展開が次々に登場します。是非、今後も追いかけてほしいのですよ! そして、一ヶ月間、ご紹介させていただきました。通りすがりの冒険者さん。素晴らしい作品をありがとうございました! とても勉強になりつつ、時折ニヤリと笑ってしまうような作り込みに楽しませていただきました。 ふしぎのくに一同、御礼申し上げます!

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