宗教という物について語ろう
教徒でなくとも、焼きそば食べられるという謎の謳い文句に日曜学校に向かったのは実は師匠ちゃんとマフデトさんです。
歌を歌うという事を平気で行えるマフデトさんに対して、きた瞬間に帰りたくなった師匠ちゃん。
真剣に聖書の話を頷いているマフデトさんに対して、聖書のあらゆる矛盾を指摘する師匠ちゃん。もう既に営業妨害レベルある。
そもそも何故焼きそばなのかという事は誰も語ってはくれない。
しかしそんな師匠ちゃんも清潔に保たれた教会は、芸術的建造物として彼の心を十分に魅了していた。
そして焼きそばである。あの、持ち帰り用の容器に入った焼きそばと割り箸を並んで受け取るのだが……
「おい、まーふー。あれ食いたいんだろ。もらってこいよ。俺ぁいらねぇ」
「師匠ちゃんが取って来るのですよ」
「は? なんでだよ殺すぞお前」
ガチコンとマフデトさんの頭にゲンコツを叩き込んでいると教会関係者にその騒動が見つける。
「どうしましたか? いずれにせよ暴力はよくありませんよ」
神父様だろうか? 二人は顔を見合わせて聞くしかないと思ったのだろう。師匠ちゃんは少し深呼吸して聞いた。
「殴っていいのは化け物と異教徒だけ?」
「いえ、化け物も異教徒も殴ってはいけません。父が見ていますよ!」
実は化け物も異教徒も殴ってはいけなかったと、興奮して師匠ちゃんとマフデトさんがミーティングでみんなに話していた。
「おいダンカス。悪魔がこんなところきていいのか?」
日曜学校で焼きそばが貰えると聞いて、ダンタリアンは、相方のシステムエンジニア、サタさんを連れて九段近くにある小さな教会にやってきた。
「サタさん、悪魔じゃなくてアタシは大・悪魔なの! それに悪魔信仰だってあるんだからいいんじゃない! そんな事言ったら、サタさんだって蛇じゃんか! ほらほら、賛美歌だって、一緒に歌おうよー! だーん! たーり! あーん!」
「うるせーって、またマフデトさんにうざがられるよ? それに僕はアルビノの蛇だ。失楽園じゃなくて、復活の象徴だろーが」
教会には様々な人が来る。
そこに悪魔、いや大悪魔が来てもおかしくはないのかもしれない。
周囲にビクビクしている少女の領域にズケズケと入り込み、そしてダンタリアンは手を差し出した。
「やぁ、エンジェル。君の事をアタシは見えているよ。どうぞお手を」
背中に手を、そして胸に当てた利き手を差し出す。
少女は自閉症スペクトラム。母親が慌てて止めようとしたが、少女はダンタリアンの手を取った。
「さぁ、神くんは何もしてくれないけど、アタシは君を笑わせて見せよう!」
そう言って、賛美歌を歌うダンタリアン。大悪魔が人の為に歌うそれは見事で教会の人々は拍手で評価した。
サタの元に戻ってくるダンタリアンは獣の瞳をぎらつかせて話す。
「日本という国は、本当に遅れている。そう思わないかい? サタさん」
「『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』でもそう語られているな。何気に社会問題にちょくちょく切り込む作品だよね。僕は嫌いじゃないなこういうの。意味がある事だ」
最近SDGsという言葉を聞いた事がないだろうか? 日本はあらゆる面において遅れている。福祉も、軍事も、政治も、そして国民の意識も、はっきり言おう。この国は確実に滅びに向かっている。物語とは現実から逃げる為であるとJ・R・R・トールキンは言っていたが、今の日本人は現実に向き合わなければならない。
そういう意味では本作のようにちょいちょい社会問題を意識させる事はどうあれ面白い。
「そうね。最近は漫画でもそうだけど、昔から物語で知識を増やしたりしてたんだよ。今はネットがお盛んだからなんでも調べて分かったつもりになるけどね。へぇ、そうだったんだ! という気持ちになれる作品ってWeb小説では随分ないよね。携帯小説時代は結構あったんだけどね。サタさんバルだってさ! 昔は二人でよく飲み歩いたよね?」
「ステイツではホットドックにモヒート、シュツトガルドでは食事の後にビールだけがぶ飲みしてたなお前」
「そうそう! マイジョッキ持ってねぇ!」
バルの概念は日本を含み世界中で違ったりする。
フランチェスカの育ったユーロ圏では酒場、小料理屋あるいは出会いの場である事が多く。アメリカはザ・バー。日本だと居酒屋、ドイツだと地域にもよるがビールだけ飲む場所だったりする。
そして、お酒大好きな日本人はどこでもやっていけたりする。
「フランチェスカ凄くない? 言語ルール似てるとはいえ何ヶ国語しゃべれるのよ! こういうチラチラできるキャラクター出していくの昔よくあったよね!」
「あぁ、確かに、こういうキャラクター造形懐かしいな」
システム部はプログラムを扱うので割と英語は日常、ビジネス程度では扱うが、第三言語は誰も使えない。
ここは日本人の言語認識の弱さとも言える。
「フランチェスカのお父さん、超日本の親父じゃない? 押し入れに放り込んで反省させる的な力技を行使しちゃったよ。まぁあれだよね? 親の心、子知らず。子の心、親知らずってさ」
「本当にフランチェスカはなんかあれだな。王道やってのけてくれるな。あのカーテンで脱出するとか、一度お前達試してなかったか?」
そう、幼い頃のフランチェスカが軟禁された部屋から脱出する際、そしてあらゆる作品において使い古されたあの目を瞑れば思い返せる脱出方法を試した連中がいる。
システム部である。
結果としては確かに降りられるが、カーテンがダメになり、地域の人に通報されてお巡りさんに超怒られる結果となった。
そして危ないので、決して真似をしてはいけない。
システム部は訓練された馬鹿な連中なので一般人がしようと思ってもしない事を平気で行えるのだ。
「おいダンカス。この作品って妙に動きを感じるのはなんでなんだろうな?」
子供達と一緒に讃美歌を歌っている大悪魔・ダンタリアン。
サタさんの話を聞いて静かに一歩下がる。
「無駄な描写説明がないからでしょ? 文章ってのは基本的には一人称より三人称の方が広い目線で語れるけど、それ故に説明的になりがちなのよね。この作品、いろんな文化圏の事も必要最低限の説明に抑えて、場面を切り替えてるでしょ? だからくどくないの」
「なるほどな、いいよ。子供達と歌ってきて」
「サタさん酷くない? そんなんじゃバレンタインにチョコあげないよ」
「お前からはもらった事ないな。あぁ、タリスカーは毎年くれるな。代わりにポールジローくれてやってるけど」
チョコレートはいつもお酒のオツマミに誰かが買っているからと、システム部の世界ではバレンタインはチョコじゃなくて友酒交換会と化している。
「アンジローモテすぎでしょ、いや案外こういう子がモテるのかもね」
「まぁ、僕はバレンタインの日に呼び出されたら、普通に意識するけどな。お前以外からわな。後書きにも書いてるけど、海外のバレンタインって適当なんだよな」
「あれでしょ? スニッカーズみたいなキャンディーバーとか果物とかがメインなのよね」
日本はお祭りを盛大にしやすく、一発の贈り物に力を込めるが、海外は贈り物文化なのでしょっちゅう良い物を送り合わない。
まさに気持ちというやつである。
「フランチェスカってさ、なんかお前らと既視感あるんだよな。駄菓子でご飯を作ろうとしたり、お前達と同種か?」
「誰しもが一度はやろうとすることでしょ? 親がいると絶対怒られるような事を大人になったらやっちゃうし、フランチェスカは割と一人で生活しているから開放感全力でやっちゃったんじゃいの? それに駄菓子ご飯割と美味しいよ。オツマミだけど」
ちなみに駄菓子が大好きなのは神様とマフデトさんである。
鞄の中にガブリチュウは必須らしい。
「まぁ、そんなことよりやはり王道の虫歯回だね。最近、こう言うのも減ったよな? だいぶ可愛いフランチェスカが次々に弱点を露呈するのが嫌味がなくて共感持てるよな。キャラクター物としては逸品だろ」
サタさんはヘビ故に厚着をしてたまに体を擦り、作品をそう評した。
それに子供達と手を繋ぎ踊りながらダンタリアンは語る。
「それを思わせるのは、どこか現実離れした当然コミック的物語でしっかり線引きしているのに、読み手を飽きさせない表現力でしょ? 話変わるけど、アヌさんが確か、虫歯の神経横まで麻酔使わずに治療して気絶したよね」
ブログのネタに協力をしてもらった結果、歯医者もドン引きだった。
「お前、あれ系今後やめろよ? 病院にも迷惑だし、その内ショック死するぞ。ほら、フランチェスカイタリア行くってさ、お前も行ってこいよ」
「揚げピザとハイネケンでいっぱいやりたくない? 今日朝から飲んでないから、調子悪くなってきたかも、サタさん買ってきてよ!」
サタは返答する代わりに、ウーバーイーツでビールをコンビニ購入した。そして、教会関係者、若い少女のありがたいお話、というか聖書の物語を耳に入れながら話した。
「イタリアって結構ホテル高くなかったか?」
「ピンキリだけど大体一泊一万円くらいじゃない? びっくりするくらい汚くて、身元不明の人が泊まれるような宿泊施設だと二、三千円くらいからあると思うけど、フランチェスカが泊まったところは普通の宿だからそれなりに良心的な宿ね。これ値段の文句をフランチェスカが言うあたりがユーロ圏だとアタシ思うよ」
「あぁ、日常会話くらい値切るもんなあいつら。外国の人と大阪人が気が合うってのがこの辺の文化だろ。今回はホームシックネタ&ピンチのお助けか、正直俺なら、呼び出されても絶対行かないな」
「えぇ、サタさんひどーい! アタシはイタリアならすぐ行くよ。本場のグラッパをストレートでちびちびやれるぢゃん! フランチェスカは本当に良い子だから怒りながらも助けてくれるじゃん? でもシステム部のメンバーなら赤毛のアンナちゃん詰みだよね」
古書店『ふしぎのくに』のチーム、システム部はフレキシブル・ワーク方式なので自分の仕事は自分でしろという極めて実力至上主義なのである。
「逆にいい意味でフランチェスカは僕らの職場には来れるな? まずはやれると宣言して、そっから方法を考えるじゃないか、日本人にはない外資系の思考回路だよ。でも、昔はこういう主人公多かったよな?」
「ほら、現実的なお話だよ。キリスト教は全てを救ってくれる筈なんだけど、田舎の小さな教会一つ救ってあげれない。今現在あらゆる宗教において神よりも崇められる最高神である共通麻薬・お金様には抗えないのね。仏教だって檀家不足で閉める寺院も増えたし、世界はリアリストが増えているでしょ? 今はもう殆どの宗教にとっての黄昏時が来てるんじゃない?」
暴論であるが事実、宗教が流行った時期は各国中世をお盛んに段々と衰退傾向にある。
お金にならないものはいずれ廃れる。
「だから、フランチェスカが流行らせると……確かに逆転の発想だよな。宗教も今風にしていかないと生きていけないもんな。萌寺院とかいい例じゃん。この作品、なんか色々面白さのベクトルがやばいよな」
これは当方、システム部の勝手な深読みにすぎないが、本作の面白さはキリスト教をリスペクトしながらも現実への切り込みとその一つのアンサーが実に面白い。
「サタさん、フランチェスカがお願いしてくれたらいくらで映像作る?」
「美少女格安価格で十万くらい?」
「酷っ……あとリアル……くくっ」
「当たり前だろ、こっちはプロだ。タダで技術を売るのはキリストの考えに反してるだろって言ったらフランチェスカは“私たちに与えられた恵“について説法してくれるかもな。したら貸しにしておいてもいいかな」
二人はあらゆる宗教を否定もしないが肯定もしない。
が宗教の考え方は面白くある程度の知識は持っている。お互い教会なので静かに笑っていると、教会のドアが開かれる。
「配達だ。ハイネケン6瓶。サタさんに」
東京のバイト戦士、彼女はスタスタと周りの視線に臆せず、サタさんにビールの入ったビニール袋を渡して去っていく。
その騒動に分級で聖書を朗読していた少女が面を挙げて二人を注意した。
「アンタ達、教会にお酒デリバリーしてんじゃないわよ!」
金髪の愛らしい少女の顔を見て少し驚くとダンタリアンは手を振って、サタさんは「マジかよ……すんません」と謝罪した。
悪魔と蛇も暇さえあれば日曜学校に参加したりする。
まさに、“コリント人への手紙“の一節である。
『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』楽しんでますか? 俺自身なんで師匠ちゃんなのか分からないけど師匠ちゃんです。
実は目を患って現在治療中です。目は一生物というので、スマホやパソコンを毎日見ている人は気をつけた方がいいですが、俺の場合は職業柄気をつける術がないので、やむなしだろう。実は俺はキリスト教徒だったりする。別にそのつもりはないけど生まれた時、クソ親共がそうだったからそうなのだろうが、神なんてものは信じてないし俺よりも優れた存在もいないと思っている。死ねば灰なるし、死んだ後に外人のオッサンが俺の親父になるなんて勘弁してほしいとすら思う。
ただ宗教は大事だと思う。信じる者は救われるらしいし、信じている者は信じればいい。神はいないと言えばいいないし、いると言えばいるじゃないだろうか?
本作はそういう事を物語っている作品だと俺は読み進めています。以上、次回をお楽しみに




