批判という物を少し語ろうと思う
それはいつだっただろうか?
サタさんの家でお酒を飲みながら23時のミーティングを待とうと言った頃、まだマフデトさんも師匠ちゃんもいなかった頃である。
ダンタリアンさんにお使いを言い渡されたレラさん、システム関係の一人が、システム部の好きな薫るエールやハイネケンではなく、第3のビールクリアアサヒを大量に買ってきてしまった時に遡る。
「えー、やーだー! こんなクズ酒飲んでらんなーい!
「酔えればなんでも同じだろうよ、お前さんは」
喚くダンタリアンさんに、困るサタさん、彼ら彼女らは、安いお酒をあまり飲まない。それは安物買いは銭と健康を失うからという考え方である。そもそも体に悪いアルコール摂取なのだからできる限り質のいいものを飲んだ方がいいだろうと、正しいのか正しく無いのかよく分からない理論で物を言う。
それをミーティングで話した時である。西の古書店『おべりすく』は最後の両親、バストさんが口を開いた。
「じゃあ、シャンディガフとかカクテルベースにしてしまったらどうっすか?」
第三のビールはビールではない、どうしようとビールにはなり得ない。ならば普段できない飲み方をしたらどうかと? レッドアイ、シャンデイガフと……そこでお酒は弱いが大好きな西のアヌさんも口を開いた。
「大阪のスラム街ではよう爆弾呑まれとるよな? なんやったっけ? ボイラーメーカーか?」
それを聞いたダンタリアンさんは、サタさんが海外旅行のお土産でもらったたいそうレアなお酒を取り出して、ショットグラスに入れると、ジョッキに入れたクリアアサヒに落として飲んだ。飲んだ。飲んだ。
翌日の彼女の二日酔いにシステム部は翌日のミーティングに参加できなかった。そんなお酒が本編登場につき、絶対飲むなよと重ねていいたい。
「ありがとうございました! なのですよ!」
寝落ちしたヘカをおぶって欄は会計を済ませる。
入り口までのお見送りを断って手を振る代わりにウィンクした。
「じゃあまた来るっすよ! 汐緒さん、ご馳走様っす。マフデト君。今度お姉さんと遊園地にでも行くっすか?」
「いかねーのですよ! ヘカ姉様をちゃんとマンションまで送るですよ!」
「了解っす!」
夜もふけた。
閉店の深夜二時まで一時間を切ったところで汐緒は客も殆どいないので洗い物をしながらマフデトに言った。
「もう上がってくれてもいいかや! 今日は助かっ……いらっしゃいませでありんす! ラストオーダーまであと二十分で……」
不思議な香り、バニラのような……甘い、甘ったるい香り。
そこに現れたのはショートカットのピンクの髪をした際どい格好をした女性。
「構わないよ。ミモザ、ちょうだいな」
獣のような瞳、マフデトと同じパープルアイ。それにマフデトは自分のよく知る人物に似ていると思った。
「……クソ母様?」
「おや? 君みたいな可愛い子供はいないけど、このお店から物語の匂いがプンプンしたからさ。何の話をしてたの? そうだね。奢るよ。好きな飲み物をお飲み、クモの妖怪に……不思議な人ならざる少年」
噛みつくように何かを言おうとしたマフデトを抑えて、汐緒がコトンとワインカクテル、ミモザを差し出した。
「こっちは新人でありんす。あんまり虐めないで欲しいかや。きっとお嬢様が寄せられたのは『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』という爽快な面白い作品でありんすよ」
「ほぉ、話してごらんよ。興味深いじゃない」
汐緒が綺麗な声で朗読しているのを馬鹿にするようにミモザを口につけて嗤う女性客。
それにマフデトが物申す。
「何がおかしいです? テメェ!」
「いや、おかしいだろ? どいつもこいつもアンジローとかいう男がシスターの彼氏? 馬鹿げている。恋人どころか、シスターは主の花嫁じゃないか、じゃあ、愛らしい君。修道女と巫女の違いを知っているかい?」
「神に仕えている巫女と、神と結婚している修道女なのですよ」
「そう、神はアダムに嫉妬した。だからカトリックは一夫多妻を許してたんだ。だからシスターがうじゃうじゃいるの」
「それは暴論なのですよ。ここは、勘違いツンデレの舞を楽しみつつ、微笑ましいシーンなのですよ。テメェは分からない奴なのですね。テメェ……さては批判者なのですね!」
「批判は悪いことかね? 少年。しかしこの作品。想像をかき立ててくれるね。本田という男が乗っているバイク、普通に考えればセイバーだろうね。でも、V4といえば、VMAXかもしれない。婚約者はさしづめカタナかな? だなんて批判することは悪か?」
批判というのは否定ではない。何気に褒める事も広義の意味では批判という。マフデトはテラーであるはずなのに、この目の前の酒を飲む女に言い返せない。
「マスター。ムラサメ出せるかい?」
「と、当然かや! ここはあらゆる作品に出てくる食べ物や飲み物が味わえるでありんすよ!」
シェイカーを取り出すと汐緒は試されているような気分になりながらもシェイクして話しかける。
「なら、お嬢様。五菱の赤いスポーツカーといえば何でありんす?」
「ギャランGTO……はマニアックすぎたかい? 多分、作品の流れを模してエクリプスじゃないかな? ランサーということは流石にないだろう」
汐緒は、麦焼酎を使ったカクテルを女性に渡すと時計に視線を向ける。もう閉店時間を過ぎていた。しかし、この女性との会話をマフデトも、一応この店の店長代理の自分も途中で切り上げれそうにない。
「じゃあ、少年の考える意味で批判して見せようか? このシスター、バイクの操作が何故できるのだろうね」
簡単にバイクの操作を説明する、左クラッチレバーを握り、左足でローに落とす、そしてすぐに蹴り上げでギアを上げ、四速まで入れるのだが、初見で操作は不可能に近い。ちなみにこの操作方法のゲームセンターアトラクションは存在しない。そしてギアを踏むとギアが落ちるのでトルクは上がるが、加速はしない。加速はギアを上げる必要があるので蹴り上げる操作なのだ。
ただし、本田のカブ号を筆頭にしたロータリー式のギアは踏んで加速する。
「て、テメェは細かいことをごちゃごちゃ言いやがって! 何なのですか!」
「これが君の言う批判。だけど、これは批判じゃなくて粗探しだね。じゃあ逆に聞こうか? フランチェスカ、彼女は無免でバイクに乗り、法を犯した。これに関してはどう思う? TPOの概念完全無視だ」
「……そ、それは」
マフデトが答えに困っていると女性はムラサメを一口含んで言った。
「最高の展開じゃないか! 今はくだらない……君の言う批判を恐れて、物語だと言うのに、自転車の二人のり、未成年の飲酒に喫煙も敬遠される。フランチェスカのような無鉄砲な主人公、今は珍しいんじゃないのかい? それにアーモン・ゲートか、ヨーセフ・メンゲレと並んだ大罪人じゃないか」
簡単に説明しよう。ナチスで一番やばいやつは誰か? ヒトラーではない。スタンフォード監獄実験から見て取れるように命令系統が暴走した組織の末端である。
本作とはそこまで関わりが無いので興味がある方は調べてみるといい。双子実験などは人間の所業とは思えない。事実は小説よりなんとやらである。
「ドイツ人という連中は闘争本能も高く、約束もそれなりに守るのだけれど、ここの一つがいつも足りない。それは知力も武力も、そして覚悟もね」
ムラサメに口をつけながら遠い目をして桃色髪の女性は語る。ヒトラーは最後まで日本との約束を守ろうとしたが、ドイツ人の兵隊はそれができなかった事を言っているのだろう。
「しかし、この話はうまくキリスト教の教えを混ぜてくるじゃないか、ドイツ兵。性悪説と言いたいのかな?」
ユダヤ教とキリスト教は正確にはベースが同じであって違う物なのだが、ルーツを同じとするのでここではベースは同じ物として語る。
「法倫理だから、兵隊は人間の情みたいなものを持っていたって事ですか? 」
「まぁ、そういうことかな? これが性善説ならそうはいかないだろうね。マスター、ビールは出せるのかい?」
「プレモルかハイネケンなら出せるでありんす」
「オーケー、あとは何かウィスキーをショットグラスで」
マフデトさんは最初の客もそうだったが、ここまで酒という物は美味しいのだろうかとマジマジと見つめる。
「二人とも知っているかい? 欲を許されている宗教は世界広といえども、神道だけなんだぜ? 何ならこの日本という国に住んでいる連中は、神様、仏様、何なら悪魔だって助けてくれるなら拝んでしまう。世界一頭のおかしな国なのさ。だから日本にいるヒンドゥー教やイスラム教徒達は平気で焼肉屋に行き、牛も豚も喰らい、酒を浴びる程のむ。何故なら、それが許されている国だから食。米粒一つにもって奴だね」
これは周知の事実である。逆にいえば、人間は宗教ではなく、国に縛られているという事の証明とも言えるのかもしれない。
「まぁ、あちきが言う事でもないでありんすが、絵馬に奉納をして祈願をすると言うのはこの国の人間らしい催しでありんすな。お礼参りまでしっかりとしている人がいるから分からないかや。舞のお嬢さんはそこまで言ってあげてもよかったかもしれないでありんすな」
マフデトさんは一体何を言っているのか全く分からなかったが、ジョッキに入ったビールとショットグラスのバーボンを前にした桃色の髪の女性は頷く。
「何にお願いをしているか分からないから、貸しは作らない方がいいって事だね。うん、面白い読み方だ」
神代神社。
名前からして、何かを……あるいは鎮める物を祀っている事に使われる名前である。神社というものは面白いことに歴史からも分からず、神主でも何が祀られている神社なのか知らない場所が多い。有名な大きな神社ですらそういう場所が多く存在する。実は調べればタブーを垣間見れたりするが、そもそも宗教ではないのだろう。
絵馬を奉納したら、願いが叶おうが叶うまいがお礼参りをする事が礼儀である。が知らない人が圧倒的に多い。よく分からない何かに貸を作ったままにしているという事。
要するに、因が倍になって返って来るぞと言われた物なのだ。
「どういう形であれ、祈っているフランチェスカは正しいって事なのですか?」
「そ! 日本人のいい所は作法であると言われればどんな宗教のどんな祈りもどんな神にでも頭を垂れるけど、逆に知らなければ何もしない、世界一信心深くない国民性だからね。逆に宗教国家の他の人々は身銭を切ってでも祈りに来るからね。それができないのは日本人の悪いところだ。おや、ようやくフランチェスカが登場したね。作者のフランチェスカ愛は文章に出ているね」
ショットグラスの香りを嗅ぎながら目を瞑る女性。彼女は片目を開けるともう日の入り前である事を知るとジョッキの真上でショットグラスを落とした。
ぽちゃんと……
「ボイラーメーカーでありんすな?」
「そんな崇高なものじゃないよ。これは爆弾っていうのさ。日本人の宗教観みたいな飲み方だよ。野蛮で悪い酔いして、癖になる」
絶対に真似してはいけない。
ビールにスピリッツを落とした爆弾もといボイラーメーカーは何故か一気飲みするのが作法のように飲まれるが、度数にして二十度から三十度、ストロングゼロが裸足で逃げ出すアルコール飲料である。
そんな物をガブガブ飲んで、当然悪酔いするのは当方ではダンタリアンさんという酒癖の悪い女史だけである。
「フランチェスカ、というかこの作者はとてもリアリストでこの国のペシミズムについて定義しているね。君たちの仲間に入れてやればどうだい? さて、たつ鳥なんとやらだ。ごちそうさま」
お勘定と一言いうと、一万円札を二枚置いていく。
慌ててお釣りを渡そうとする汐緒に女性は言った。
「出した物を受け取るのは柄じゃないんだ。験が悪い。取っておいてよ、また呑みに来るから」
手を振る女性にマフデトさんは尋ねた。
「テメェの名前は?」
「バッカス」
中秋の名月には酒の神を呼び寄せたのか、それとも冷やかしなのか、スズメの鳴き声と朝日を浴びながら寝息を立てるマフデトに毛布をかけて汐緒は店のシャッターを閉めた。
『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』どう? みんな楽しんでる?
今回は批判について、吟味し評価する的なそんなお話。Web小説は多岐に渡るジャンルがあるので一概には言えないけど、面白いか面白くないかの物差しで測る事はできると思う。
よく面白くない物語なんて無い! とかいう連中がいるけどあれは上部だけ、じゃあなんで名作がこの世に存在するの? はい、論破。
個人単位で言えば、合う合わないの問題で面白い作品、面白くない作品というものはどうしてもあると思うのね? 合わない作品は読まずに合う作品を読んでいけば面白い事はこの上ないんじゃないかな? 食べ物の好き嫌いはダメだけど、物語の好き嫌いはOKって感じ?
今回、本作でも批判をしてみせた。全項において矛盾点がありそうな部分はバイクのくだりくらいだったけど、こんな面白い作品でも指摘点はあるのね。これをわざわざ前面に出して粗探ししか感想言ったりしかしないのは批判じゃなくて嫌がらせね! そしてそれより、どこが面白いのか? という批判もしてみせた。これも批判。
作品の指摘はいずれにしても読者の特権ではある。それを受け入れれない作者と、それしかしない読者がいるから今のWeb小説界隈は進歩がないんじゃ無いかな。
本作を選ばせてもらった理由の一つに、読んでいて身につくことが多い。文章物として大事な点かなって思ったのね。ということでスタジオに返しまーす!
はい、みんなの? あなたの! だーん・たーり・あーん! ぴよぴよ!




