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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第六章 『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』
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文芸部による考察

 神はいるのか?

 神々はいるのか? 


 いないと言う人もいるだろうし、いるという人もいるだろう。


 正直どうでもいい。神はいるかもしれないが何もしてくれはしない。神はいないかもしれないが何もしてくれないことには代わりない。


 それは神と呼ばれた存在が頭上。星屑にいると思うことから自分よりも高い何かなのだろう。が我々の足元も突き詰めていけば誰かの頭上に星屑が煌めく。

 逆に言えば全ての方位に神がいるとも言えなくもない。

 我は、宣言しよう。神を否定することも肯定することも許す。


 捨てる神あれば、拾う神あり。

 神とはお前であり、私だ。


 大胆こんなところだろうと、ミーティングでの神談義は終わった。

 一欄台学園、その三階、離れの空き教室。生徒達が近寄らないそんな場所にその部室は存在する。

 一欄台学園文芸部。久しぶりに部活再開である。


「はい、ちゅーもく! ミーシャに理穂子。今週の課題図書がセシャトさんから届いたわけだ。『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』読んだ事ある奴挙手」


 部長の満月さじは自ら手を挙げてそう言う。同学年の狂犬、茜ヶ崎理穂子は手を上げる。そして同じ歳で一学年下の大熊ミハイルも申し訳程度に手を上げる。

「はい、全員読んでるなら初期情報いらねーな! じゃあ、まずこの作品の好きなところ! ……はい、ミーシャ!」


 ※知らない人の為に超簡単に説明。文芸部と小熊のミーシャの登場人物である文芸部の三人、古書店『ふしぎのくに』のある神田の近くの高校生。説明終了。※


 ミハイルことミーシャは突然当てられたので、少し考えてからパックのコーヒー牛乳を一吸いしてから答えた。


「いい意味でフランチェスカが物語のキャラクターって感じられる事ですかね?」

「あぁ……いいとこつくなミーシャ」


 理穂子がそう相槌を打った。

 さて、昨晩。ブックカフェ『ふしぎのくに』ではフランチェスカはリアルなキャラクターであると何度も語られていた。が、文芸部の三人はフランチェスカは物語ベースのキャラクターであると言った。


「なるほどな。この年相応じゃない趣味嗜好を持っているってキャラクター造形における付加価値の一つだもんな。古の時代からあるギャップ萌えってやつか……じゃあ、理穂子!」


 天才、茜ヶ崎理穂子はリプトンのミルクティーを飲みながら、部費で購入した安物のチョコチップビスケットを鷲掴んで食べると話し出した。


「神社の概念がおかしいとこじゃね」


 誤解を招く前に先に説明をするが、一応神社にも参拝ルールはある。

 また境内を正面から撮影してはいけない。

 実は十字を切るフランチェスカ、実は間違っていない。

 神社は今現在も存在する日本の生ける神々の家である場合と、何が何だか分からない物を祀っているケースがある。作中でも語られる八百万の神々ってやつである。

 世界一自由度の高い宗教概念がこの神道であり、あらゆる宗教概念を許す超独特な日本の信仰である。

 ちなみにキリスト教が法倫理、仏教が哲学などの中でなぜか自然科学である事も神道の特殊さが垣間見れる。


「シスターも巫女も間違ってんだよな。社ではお願いなんてしちゃダメなんだよ」


 手を合わせるのは社に祀られた何かに対してであり、実は無心。

 祈りであり願いではないのだ。他の宗教は救ってくれる物というベースがあるのに対して、神社は天皇や、祀っている対象が健やかにお休みいただく為の物であり、願いを叶えるのは参拝にきている側である。

 省略するが、仏教もキリストもイスラムも実は同じ主軸を持っているのに対して、神道は独自する考え方、怖いものには蓋をしろで出来上がっているので比べようがないのではあるが……


「という御朱印帳集めが趣味のさじ坊の考えを知ってる奴なんて日本国民の8割はいないだろ。私でも毎年世界が滅ぶようにお願いしてんだから」


 ポッキーを取り出すと一本咥えて、二人にも一袋ずつ理穂子は渡した。

 そして彼女のターンである。


「この作品の楽しみ方ってのは、なんでもないくだらない日常にあんじゃね? 私らのこの部活の時間みてーにさ?」


 くだらないと言う言葉は語弊があるが、本作のフランチェスカの描写や物語の進行に関してはっきり言って上手い。読ませる文章というものである。そうなるとどうだろう? 

 一般的には作者しか面白くないようなネタなり、流れというものも上手く伝わる。


「あぁ、そういうのありますよね! フランチェスカがお仕置きされている場所から脱出しようと試みるだけの話とか、テレビなら放送事故ですもんね。でも僕らはそれを普通に読んでますもんね。痛っ!」


 ピシッ! と理穂子のデコピン。


「ミーシャ正解! にしても、フランチェスカは案外人の為に祈るよな? 私なら死のうとしてる奴を止めるこたしねぇな」

「理穂子、お前サイコだからな」

「パスをつけろよ! パスをよぉ! ブラック企業ってのは三年もいねぇと分からない物なんかね? どうなんださじ坊」


 同じ高校生のさじに聞いても分からない質問をする理穂子。

 実際はあらかたわかっている中でのこの部活なりの緩急である。ブラック企業というものは従業員を生かさず殺さず就業させるので、たまに飴を出されるので、ずるずると辞めきれない連中が社畜と化す。


「あの、先輩達。フランチェスカと安藤くんって」

「言うなミーシャ、野暮になる」


 満月さじ、人工的な金髪の文芸部部長はそう言った。リアル高校生である三人は、放課後、投稿用の執筆をしたり、こうして他者が書いた作品を駄菓子をつまみながら読み考察や勉強していたり、買い物は殆どアマゾン。

 青春の一ページを無意味に消費している。実際の高校生というものは案外何もなく日々を過ごしているものなのかもしれないが……

 ラノベのキャラクターや交友関係というものは、本当に憧れる。ある意味、こういう物語を読み擬似的に追想することは道徳。心を育てることに一躍勝っているのかもしれない。


「そういう意味では、あれだな。愛読書がラノベって言っても全然恥ずかしくねーよな。物語ってのはどれだけその作品を楽しみ影響を受けるかだろ?」


 ビッグサイズのポテトチップスを開ける理穂子。

 そしてパチンと割り箸を割った。それでポテチを摘んで口に運ぶ彼女を見てさじはつぶやくよう言う。


「理穂子、お前と違ってフランチェスカはコミュ強だな」

「は? 喧嘩売ってんのかさじ坊。おい!」

「そういうところな? お前、俺たち以外とこの学校で話した奴は?」

「大友と、オカ研の宗麟」

「それ以外は?」

「いない」

「写真撮ってくれって言われたら?」

「殺す」

「そういうところな? お前がシスターだったら、基本誰とも関わらず。絡んで来る奴に噛み付いて物語進まねーだろーがよ。フランチェスカは、いい意味で懺悔を聞いてくれるって事だ」


 懺悔というものは何も、罪の告白だけというわけじゃない。

 今も昔も教会も寺院もお悩み相談兼、カウンセラーの役割を持つ。それに今は少しばかりお金の方が掛かるくらいか。


「軽音楽部潰そうとか生徒会長が言ってるけど、文芸部潰すって言われたらどうするよ? 理穂子は答えるな。どうせ生徒会に喧嘩売りにいくだけだろ、例えばフランチェスカが俺たちの世界にいたとしたら、ミーシャ答えて! 3、2、1、はい!」


 無茶振りではない。

 なんでもそうだが作品を読んでいる時、時としてたらればの話をするのは心地よい。


「いや、先輩。流石に僕も初対面の女の子に相談とかいけないですよ……」

「はい、ミーシャもコミュ弱。ロック。音楽による自由宣言だなわな。軽音部はパンクロックをしたい。むしろ、こんなマジもんの軽音部普通は残しとくよな? 生徒会馬鹿なのか? ディスコロックやクラブミュージック垂れ流してる連中の一千倍マシに思えるけど、ここで水戸黄門ばりにお助けをって流れだな!」

 

 当方にもカフェバイトの大友くんとオカ研の宗麟くんがいるので、少しばかり本作に出てくる軽音部の少年達に関して感慨深いものがある。かつてバテレン大名と言われた大友宗麟。列強九州の彼の代わりにローマに派遣された信徒四名をモチーフにされているのだろう。

 

 文芸部の三人は趣味趣向は違えど、文芸、芸術を好む三人故に音楽もそれなりに嗜む。

 それ故に理穂子が笑った。


「ははーん、クリスチャンロックか、あれ確かデスメタル以外はOKなんだっけ?」


 テンションの上がった理穂子は部室の奥で埃をかぶっているCD式のジュークボックスで音楽をかける。

 

「あの先輩達、君子危うきには近寄らずって言いますよね?」

「そうだな。儒教はリアリストだからな。キリスト教と元は同じ仏教には後悔先に立たずって言うからな。どっちも最終的に死ぬ頃への修行の意味だけどな」


 そこに捕捉したのは細かい理穂子。


「まぁあれ矛盾の比喩でもあるんだよ。後の宗教論者がアホばっかりだから勝手にいい意味で取り違えてるけど、最初に宗教作った奴らは結構頭いいのな」


 サイケデリックからマハラジャに変わったところで、音楽を止める理穂子。それに物申そうとした部長さじだったが、下校のチャイム。本日の部活はこれにて終わり。


「おい、サイゼか、マック寄って帰ろうぜ! それに私らもここでなんか音楽垂れ流すか? でクソ学園祭でクソ軽音部を殲滅でもしに行くのも悪くないな」


 ミーシャ以外の二人は大抵の楽器もできるし、そこそこ歌えるかもしれない。だが、この文芸部の人間はフランチェスカにはなり得ない。


「絶対無理だろうけど聞いてやる。音楽は何すんだ?」

「パンクロック。私は歌わない。どれか楽器をしてやる」

「俺も歌わねーよ。なんか楽器してやるよ。必然的に」


 後輩ミーシャを見つめる二人。それにミーシャは断る。


「僕も歌いませんよ。それに楽器も何一つできませんよ。あと、二人は大勢の前で何かするとか絶対しないでしょ?」


 学校の正門を出て、サイゼリアかマクドナルドどっちにしようかと迷いながら結局は両者にかすりもしないラーメン屋に向かう。

 目立ちたい、スター性がある。自ら行動できる。救い人々を導く者は要するに主役であるのだ。

 彼ら、彼女らにはその主役級の何かを持ち合わさそうとしない。作品の主人公が少々優遇されているのは当然主人公補正であり、そう造形されていないとそもそも作品が面白くない。

 彼らは行きつけのラーメン屋から、金髪の愛らしいシスターが出てくるのを見て目を大きくして驚愕した。

 その後のネギチャーシューラーメンの味だとかは殆ど覚えていない。

 最近涼しくなってきたのですよ。ホットミルクがクソ美味い時期なのです。

 寝る前にホットミルクを飲むという習慣を持っている奴がどの程度いるのか知らねーですけど。蜂蜜とシナモンを入れた70度のホットミルクを飲んだ後はちゃんと歯磨きをするですよ! それに寝る一時間前にはWeb小説を読むのにタブレットやスマホをベットに持ち込むのもアウトなのです!


 ベストは二時間前なのですね。ホットミルクを飲みながら、例えば今月の紹介作品『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』を読んで蜂蜜多めのホットミルクでその日の夢は愛読書や読んでいる作品を見るのも悪くねーのですよ!


 もう一度言うのです。ちゃんと歯磨きはするのですよ!

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