キャラクターが一人歩きする真実
本作の取材旅行というわけではないが、バストさんが仕事で東京に来たので、師匠ちゃんを誘ってマフデトさんが秋葉原に行った時の事である。
「フランチェスカみたいに女の子が、ウキウキしながらアニメグッツ見て回るのって微笑ましいけど、男が見て回るのは絶望的にモテない光景だな」
「ははっ、師匠ちゃん。いいすぎ、今日はぐるりとお店を回ってご飯を食べて、ここで作品考察っすよね?」
冷たい缶コーヒーを啜るように飲みながら悪態をつく師匠ちゃんと並んでバストさんがマフデトさんを待っている。
秋葉原に来た事がある人なら知っているかもしれない。あのあらゆる瓶飲料が売られている駅の売店。そこでマフデトさんは牛乳を一本キメてから口の周りと白くして二人の元へとやってきた。
「汚ったねーなマフ、テメェ! 口ふけ口」
ティシュでマフデトさんの口元をふきふきした師匠ちゃん。それを微笑むバストさん。三人はフランチェスカと安藤くんよろしく街を回る。電車でGO専門ゲームセンターだとか狂ったものがあるのはこの町くらいだろう。メイドさんにマフデトさんは手を振りながら、ゲームセンター、家電屋、薄い本が売られている本屋。PCショップ、フィギュアや玩具専門店へと足を運ぶ。そんな中でボソリとバストさんが言った。
「ひと昔前と違って秋葉系女の子の服装、お洒落になったっすね?」
「あぁ、というか男はなんで何処で売ってるんだ? って服着てんだろな? あとワックス塗りすぎだろ」
お洒落に気を遣わない男子、気を遣う男子も独特なセンスであり、これも何かの肥やしかと思った中で、マフデトさんが言った。
「でも、多くの連中が耳に師匠ちゃんがつけてる金属みてーなのつけてるのですよ!」
師匠ちゃんは5円玉の穴くらいの穴が軟骨に空いているので、それを隠すイヤーカフなんだが、それを見てそっと耳から外した。
「あれと一緒にするなよ。殺すぞ」
続きは本文で!
「コーラフロートお代わりなんな!」
四杯目のコーラフロートを食べる? 飲む? ヘカに苦笑しながら、欄はマフデトに尋ねる。
「マフデトくん? でしたっけ? 何かオススメのコーンウィスキーとかあるっすか?」
マフデトさんは本来、古書店の店主であり、お茶やお菓子をお店のお客さんに出しながら購入した古書やWeb小説の話をしており、お酒とは全く縁がない。
マフデトは店長代理の汐緒に助けを求めようとするが、他の女性客に『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』を読み聞かせている。
マフデトは適当に棚に置いてある黒いボトルを掴むとそれをドンと出した。
「これでいいです?」
「ジャックダニエルっすか? それテネシーっすよ。まぁいいっす。コーラで割ってジャックコークにしてくださいっす! ははーん! マフデトくん。さすがは古書店『ふしぎのくに』の店主っすね! あえてのジャックダニエルっすか!」
ジャックダニエルは酒造所を所有する牧師の元に丁稚奉公に来たジャックダニエル師が作ったウィスキーであり、日本のどこででも購入し飲む事ができる値段に対して口当たりのいいテネシーウィスキー。
「欄ちゃんの誰も幸せにならない酒のうんちくはいいん! そうなんな! マフデトさん。クリスマスのケーキは何を食べるん?」
突然の質問にマフデトは作品に絡めて、そして本人も大好きなお菓子を言った。
「ブッシュドノエルなのですよ! チョコレートがたまらねーのです!」
「自分はシュトレーンっすかね?」
フランスのお菓子にドイツのお菓子、アメリカなどではアップルパイやらミートパイを食す事が多い。
ヘカはズズズずっと五杯目のコーラフロートを飲み終わると目を瞑ってから言った。
「二人ともダメダメなんな! 日本のクリスマスは日本のケーキなん! デコレーションケーキ、ショートケーキに勝るクリスマスケーキはないん! とセシャトさんなら言うんな。フランチェスカたんは、ノエルたんが喜ぶ事をするん。それは教会だとか、儀礼なんてものは取っ払って、日本がショートケーキにケンタッキーをかっくらうようになんな!」
ヘカが言いたい事。フランチェスカはやはりどうして人情味あふれる女の子である以前に、人の欲する事を施してくれる。
「あぁ彼女は聖女なんすね。ただ、若すぎるって事がうまく表現されてるっすね。死した後に、本当の父が健やかに暮らしていける場所を用意してくれているって事まではどうしても納得いかねーんすよ。この子神を信じてねーと公言してるすからね」
本作にはチートはない。もしかすると奇跡はあるのかもしれないが、純然たる現実が用意されている。そして人は運命がある。何かを成すべく為に生まれてきて、それを成し終えたら死んでいくのだ。
「主とかいう奴は、のえるとフランチェスカを運命として出会わせたとでもいうのですか? そんなくだらない事はありえねーのですよ!」
そう、あり得ないのである。
ただし……
「教会って場所は、誰でも気兼ねなくやってこれる場所なんすよ。そして、多かれ少なかれ、救いを求めにくるんすよ。懺悔にくる人もいれば、観光として、目的を遂行する事も広い意味では救いっすね? そしてのえるちゃん、サンタクロースに会いたい。フランチェスカさんが彼女に会う運命は確率的には高いハズっすよ! あとこれは自分の勝手な妄想っす」
のえるは、自分の死期をどことなく悟っていたのではないか……そう思って本章を再度読み直して欲しい。
「偶然というものは実際は大概必然なんな! というよりそう読ませるというのは造形としての彫りが深すぎるん。物語ってリアルに寄せすぎるとストレスを抱えやすいん。物語のいろはでいえば、この章はどこかで読んだ事や見た事があるような流れなんな? それをどう自分で色付けするかという手腕はこの作者は見事の一言なん。ただ……ヘカ程ではないんけどな!」
誰も聞いていない事をソフトクリームを頬張りながらヘカは言う。
補足すると、フランチェスカの人間性というものがよく表現されている。
「いい意味で現実に戻してくれるのですよ。ごく少数はこんなフランチェスカは見たくない、読みたくないと思うのかもしれねーですけど、フランチェスカが優しい女の子である事を再確認させてくれるのです。悲しいことで泣けたり、些細なことで怒れるという造形は得てして、身近に感じれるのです。彼女がさも存在するかのように、この感覚をキャラクターが一人歩きするというやつですよ」
先に現実を突きつけると、キャラクターは一人歩きしない。
どこまで行っても作者の手の中で動いている。ではそれが一人歩きしているという状態について説明しよう。作者が気づかない内に技量を上げ、自分が書いたとは思えない文章を読み返し違和感を覚えた時、読者の場合はそのキャラクターに気付けば夢中になっている時である。
アイドルの追っかけ、まさにある種の偶像崇拝に近い意識を感じた時だろうか?
行き過ぎると時としファンは作品のキャラクターを愛しすぎ、その生みの親である作者に憎悪する時すらある。
「リアルなストレスを与えることで、現実にいる自分、要するに読者っすね? その自分となんら変わらないフランチェスカを見せられると、自分もこうあれるかもしれない。自分たちは元気をもらってこういうんすよ! オブリガータ」
当方では実に珍しい事だが、フランチェスカという主人公。あまりにも嫌味がなさすぎて主人公としての完成度には驚くばかりである。欠点もしっかりあり、愛らしいところも全面的に見せてくれる。
「あれなんですよ。竹下通りのクレープ食いたがる奴なんて地元ではセシャト姉さまか、フランチェスカくらいなのです」
原宿、竹下通りのあの狭い場所にあるクレープだが、観光客以外で食べる人を実はあまり見ない。大久保の韓流スイーツもそうなのだが、毎日のように遊び歩いている若人は飽きたのだろう。
「たまにしか行かないから楽しめるものもあるんな! アキバはヘカと欄ちゃんの庭みたいなところなん! 毎日行っても飽きないん!安藤の奴は今時の男の子じゃないんな! トトさんならフランチェスカに誘われたら秒でタクシーを呼ぶんな」」
「いやぁ、それはヘカ先生だけっすよ。自分はあそこに用事とかヘカ先生と以外行かねーっすからね」
昨今の男子はだいたい所謂リア充というやつだ。仲良しクラスが多いのか女の子と出かけることにも割と慣れている。ソースは当方の学生、文芸部の連中の話である。
しかしである……安藤くんのような奥手な妄想男子は物語に必要不可欠とも言えるのかもしれない。
「さて、お二人に一つここで本作、いやある種の同じ流れについて説明するのですよ! フランチェスカの服装、これに関してどう思うのです?」
安藤くんと東京の街にデートを繰り出す時であるが、所謂フランチェスカは韓流系の若い女の子ファッションに身を包んでいる。
「分からないんな! ヘカはそういう服は着ないん!」
年がら年中、頭のネジが外れている原宿系のヘカに服装を聞くのは間違っている。方や仕事柄服装にはある程度気を遣う欄がジャックコークに口をつけながら語る。
「ボアジャケットにロングスカートは……まぁありかもっすね。ただタートルネックニットにボアジャケットはちょっとお互いの良さを殺してるかもっすね。ジャケットなしでロングのフレアスカートとか、コートならガウン系っすかね」
本作のフランチェスカのコーデも悪くはないというか、なくはないが、女子的思考のコーデではなかったりする。
「それ! なのですよ! 可愛いとカッコいいの認識の違いってやつなんですね。にしても最近のアキバ系の女の子はお洒落な人が多いのは間違いないのです! 男は相変わらずクソダサい奴が多くて不思議と安心するのですよ」
これはマフデトさんの兄貴分である師匠ちゃんが秋葉原に行ったときに語ったセリフである。
イヤーカフで軟骨に開けたピアス穴を隠している彼がイヤーカフを外した。理由はあいつらと同じだと思われたくないという辛辣な一言。
女性のファッションの幅ははっきり言って男性より広い、そして一般的には持っている知識量、テクニック量が違う。また、生物学的に女性の方が着飾り魅力的に見える因子を持っている。
これは文章にも実は出てくる。文章が上手いかどうかではなく、性質によるものである。当方で紹介した作品群の中で、異様なくらいファッションに精通した表現をされる作品があるので一度読んでみてほしい。
「へぇ、マフデトくんはそういう、ヘカ先生みたいな細かい部分きにする人なんすね? セシャトさんだとあまり気にしないところっすよ!」
そう、ヘカは書き手であり、マフデトもたまに書くからだ。完全な読者であるセシャトさんと違って、書き手という連中はややこしい奴が多い。文章構成や表現を化学のように数学的に捉えようとする。
「欄、てめぇ! 作品の粗を探すことも作品を楽しむ上で必要なことなのですよ! 何も知らずに好き放題言いやがってコノヤローなのです!」
マフデトさんの口の悪さと愛らしさ、少しばかり酔った欄はカランとグラスを鳴らして言った。
「ヘカ先生、この子、持ち帰っていいすか?」
『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』皆さん楽しまれてるっすか? 西の古書店『おべりすく』のバストっす。欄さんと話し方がかぶるので、実は個性というものについて困っていたりします。今回、特殊能力などのない現ファンということで、読んでいて疲れないという事をひとまず感じたのが一番っすね。
独自のルール体系などが少ないので、Web漫画読んでいるくらいの感覚ですらすら入ってきてます。
シスターって存在なんですが、実は世界的に見ても萌えの象徴だったりするんすよ! 神に仕える穢れなき乙女、守ってあげたい系って奴っすね。
巫女さんとかもそうっすよね?
昨今は男っぽい、女っぽいなどで男女差別だ! という風潮があるっすけど、実際、男性には男性だらの良さ。女性には女性だからの良さってものがあると思うんすよね。
こういうものはなくしてはいけないものだと思うっす!
では、次回もそして今月の紹介作品である『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』を引き継ぎお楽しみくださいっす!




