物語を旅と捉える時、感想は深まる
吾輩の名前はアヌや。名前はそれ以上でもそれ以下でもない。
今回の紹介小説の総指揮を元々のメンバーに変わり行った戦犯や。
そんな吾輩の罪を告白しようと思うんや。
おそらく、これを読めば、今まで吾輩の事を好きすぎた45億の女性達を失望させるかもしれへん、でもワシはここに書き記す。
それは中学生くらいの頃やろか? 日直やったか、部活やったかで一番乗りで教室にきたワシ。
異様なまでの開放感、外を見ても、教室の中にも誰も居らへんかった。
そこでワシは、今も続けている『かめはめ波』の練習をしようと思ったんや。
ワシの『かめはめ波』はにわかの『かめはめ波』とは違い、手を上下から腹部下に持っていく亀仙人スタイルや。
誰もいない教室で、本来『かめはめ波』の練習をするに適していない教室でやるその行為はワシの厨二心を刺激した。
ワシはだんだん戦闘力が上がり1600程、多分ラディッツなら倒せるくらいにまで興奮したんや。
「いける! 今なら出せるで! はぁああああああ!」とワシは気をさらに高めたんや!
そして教室中を走り回り、転げ回り、机や椅子をあらぬ方向に蹴散らし。
さながらベジータとナッパを相手にしているカカロットの如くテンションだった。
そして、あのカカロットの困ったような疲れた顔をする。
そう、元気玉である。ワシは両手を上に掲げると誰もいない教室でこう言ったんや。
「このワシに、ほんのちょっとだけ、元気を分けてくれぇ…………」
魔人ブウを倒した時ではなく、ターレスと戦った時の一回目の元気玉完成の感じでワシは「……できたぁ」と教室の入り口を見る。
そこには、授業前の先生と、クラスメイト達が手をあげてワシを見ていた。嘲笑でも軽蔑ともつかない。
なんとも形容し難い表情を浮かべていた。
「お、オメェら! きてたんかよ! 声かけてくれよ!」
ワシはできる限り野沢さん口調でそう言ったが、今にして思えば「声かけれるかよ」とみんな一様に思っただろう。いや、そうに違いない。
あの瞬間、ワシは世界一元気を分けてもらわないと行けなかったことは間違いない。それは断言できよう。
その後、数週間、いや数年。卒業するまでワシは亀仙流の人間を見る目で全校生徒から見られる。
しかし、そんなワシも文字に関わる仕事をして、今はこうして古書店『ふしぎのくに』さんの紹介小説の総指揮や。
もし、創作において悩んで「辞めたい」とか「死にたい」とか思っている人がおったらどうか考え直して欲しい。
人間という者は、君たちが考えているより遥かに強く、そして折れない生き物だから。
ワシは、いまだに『かめはめ波』の練習を怠ったことはない。
そしてそのにわかには絶対できない表情とポーズの『かめはめ波』を面接で見せて、ワシは内定をもらったんだから
林檎には転生できないかもしれない、地球だって救えないかもしれない。
だが、ワシは一芸磨けば、成せばなると悩める若人にそう伝えたい。
吾輩の名前はアヌ、それ以上でもそれ以下でもあらへん
ありがたい
ありがたい
※某コピペ 吾輩は猫である ワシの実話参照
「神様、それでは最後にあそこに行きましょうか?」
「……うむ、あそこか」
金沢にセシャトさんが行く時、必ず立ち寄るのが、オヨヨ書林というなんとも面白い本屋さん、一階部分が古書店になっていたり、配置の仕方が独特だったり、神様やセシャトさんのような書に関わる存在の英気を養ってくれるそんな本屋さん。
実在するので金沢に足を運ばれた際は観光をオススメする。
「日本は、上は北海道から、下は沖縄まで古書店が沢山ありますよね?」
「最近の日本人の本離れは凄まじいが、書を読むということに関してはWebでも紙媒体でも変わりはないのだが、現物は香り、質感、そして唯一感が凄いからの」
「唯一感ですか?」
神様はセシャトさんに無言でiPadを手渡す。はてな? という顔をしているセシャトさんに対して、次は書籍版の『林檎転生』を渡した。代わりにiPadを取り上げる。
「あら……あぁ……そういうことですか、確かに本は読む事しかできない唯一感がありますねぇ!」
「そう言う事だの! これはパブロフの犬とか、難しい話はダンタリアン達に任せるとして、普段いろんな事をしているiPadでは本を読む。と言う頭に切り替わらん時がある。要するに、ライター共が執筆する際に、突然アマプラ見だしたりするようなもんだの」
本というものはやる事が単調である。それに書かれている文字をただ読むという事で済むが、スマホやパソコン、タブレットでそれらを読むとなると色々と誘惑が多い。そして頭がしっかりと作品を読もうという状態にならない時がある。
「むむっ! ベットでスマホやタブレットで作品を読むと眠れなくなるアレでしょうか?」
「まぁ、厳密には違うのだが、似たようなものだの。というか、セシャトよ! ベットでWeb小説を読むなとあれほど言ったであろう? 目が悪くなるぞ!」
「あらあら! 神様、ごめんなさい!」
二人は金沢駅へと向かう。
同時にセシャトさん恒例の真夏の古書店巡りの旅が終わる。
「さて、駅弁を選ぶとするかの、私は押し寿司かの」
「むむっ! 大友さんのお名前のお弁当ですねぇ! では私はこちらに」
新幹線のお供といえば駅弁に冷凍みかん、そして社内販売のアイスクリームと言われてきたが、最近は車内販売が行われる地域がめっきり減った。
「案外この押し寿司はコニャックなんかがあったりするのだがの! セシャト貴様。私が持ち込んだりんごの焼きワイン。カルヴァドスを捨てよってからに! せっかくの電車の旅が楽しめんではないかっ!」
セシャトは神様を見る目、瞳孔を開いて直視する。
それに神様は目が泳ぐ、そして話を変えた。
「ま、まぁ良い。では東京に帰る間。総評と行かぬか? まずは、プラネット・アースから行こうかの? どうせこちらも話したかったのであろう?」
セシャトさんは、当初から本作を楽しんでいた読者である。
思い入れの作品の一つとして上がってくると彼女は語る。
「神様のおっしゃる通りですねぇ。こちらはWeb小説が流行った中時期の作品ですよね。それ故に、一話一話で盛り上げる事より、作品の流れに軸を置かれていますよね。その為、じっくりと腰を据えて作品の考察をしていくのが楽しかった事を覚えていますねぇ!」
今回、ガトーさんの作品を二作品紹介させてもらった理由はどちらにも推薦がいたからという点もあるのだが、Web小説の移り変わりをベンチマークさせるのに非常に評価しやすかったという事である。
何せ、同一作者の作品だからだ。
「まぁの。名前は出せんがファンタジー作家の大御所、あやつ一財産を得たが本当にやりたかったのはSFだったが、当時はSFは化け物クラスの作家が多かったのでネームバリューがどれだけあってもSFを書くと泣かず飛ばすだったものな」
その大先生クラスが、今。ラノベを書いたらどうなるだろうか? 答えは全く話題にすらならないである。
ラノベだろうとなんだろうと、流行りという物がある。一定数の評価を得るものは似てくるのはこのお国柄である。例えば一つ例に出すと鬼滅の刃が非常に売れて、その後に続く後釜が集英社が思ったような人気を博さなかった理由は至って簡単である。
ニーズを捉え損なったという点。
コロナウィルスの影響で小学生以下の子供とその親がアマプラやネトフリなどの動画配信サービスより爆発的な人気を生み出した鬼滅の刃に対し、後釜にしたかった作品の読者、視聴者は完全に違った。
鬼滅の刃は非常に面白い作品であるが、かの人気の出方はスポーツにおいてにわかファンが出てくる時のそれに近かった。要するに、スポーツバーで大騒ぎする日本代表には興味があるが、クラブチームには全く興味のないサッカーのサポーターのようなものだったわけだ。
「と、言いますと神様はプラネットアースは時代にそぐわないと?」
「いや、ファン層が違うというべきかの。プラネットアースは“おべりすく“を含むそこそこアニメや漫画に揉まれてきた世代が好きであろう? あとはダンタリアンとか、サタ、師匠ちゃんか? あの辺だの? 方や、林檎転生はマフデトやヘカ、そして貴様のような若手に人気がある」
「むむっ! 心外ですねぇ! 私はどちらも同じくらい好きですよぅ!」
神様が言いたい事はこうだ。
林檎転生は分かりやすい、とっつきやすいのである。ストレス値の低さも相まって広く人気を出しやすい。またプラネットアースは何話か読んで面白さを知るどちらかといえば小説、それも平成初期の児童小説に近い展開を持っている。
こちらの方が物語のテーマは深く、ストレス値は逆に高い。
「ガトーの奴はそのあたりの緩急がうまいの! 作品に万人受けという物は難しいかもしれんが、年代に合わせて受けさせるという事は可能かもしれんの」
神様はのどぐろの押し寿司を割り箸で摘むと大きく口を開けてそれを放り込んだ。
むぐむぐとよく噛んで飲み込む。
「おぉ! これは実にうまい! コニャックだけでなく日本酒が飲みたくなるのぉ!」
新幹線の中で神様とセシャトは並んで駅弁にしばらく舌鼓を打つ。
セシャトの食べる利家弁当を見ながら神様はつぶやく。
「しかし貴様、幕内系とは、その年で少し枯れておるのぉ! ヘカの馬鹿みたいにエンゲル指数が高い物ばかり食えとは言わんが、もう少し映える物を食ったりはせんのか?」
セシャトさんはそのお話を聞き、ペットボトルのお茶を一口飲むと片目を瞑って神様に話す。
「映える物はたくさん金沢で食べましたからねぇ! 元々幕内という物はお芝居の準備中や休憩中に楽しむものと聞いています! 本作のまとめ中に幕内を食べながらお話をするというのも実に趣があるとは思いませんか?」
セシャトさんは綺麗に行儀良くお弁当を食べ終えるとそれをこれまた綺麗に片付け元の通りに袋に戻す。
「さて、あと一時間程で東京ですねぇ! では、神様。プラネットアースは古き良き面白さを身近に感じられる小京都と言ったところで宜しいでしょうか?」
セシャトさんは東京から行くなら京都よりも金沢の方が古都を近い距離で感じられる事からそう語った。古き良き流れをもつ物語の系譜をやや懐かしさを感じつつ楽しむことができるプラネットアース。
「うむ……が、貴様。小京都。金沢で言うなよ」
「はて……なぜでしょう? 大都会のようだと昔の方が言われていたのでは?」
そう、実際は都である京都に似ているから金沢は大都会のようだ! という意味なのだが、金沢県民はそこを京都の劣化のように言われていると勘違いした結果、小京都と呼ばれる事を嫌い今に至る。
超褒め言葉なのだが、小京都。金沢では禁句なので気をつけるべし。
「なるほど……そうだったんですねぇ」
「まぁの! いろんな考え方の奴がおる。褒め言葉でも捉え方一つで変わるのな? 万人受けする作品がない! と言うのに似ておるな! かっかっか」
神様はウケる。神様はそのままウィンクしてセシャトさんに続きを話すように促す。
「コホン、そうですねぇ! 林檎転生はどうでしょう? 東京、と言うのは違うような気がしますねぇ! いえ、今この瞬間。と言うのが良いでしょうか?」
神様はどこから出したのか、チョコバットを取り出してそれを剥くとモグモグと食べ始めた。
「ほぉ、聞こうじゃないか! 中々面白そうな事を言いよるの、セシャトの分際で、吠えよるわ」
もうあと少しで東京に辿り着くアナウンスが流れる。
そこで神様にセシャトは語った。
「グレートジャーニーです! 物語を旅と表現するなら当然、プラネットアースもですが、プラネットアースは目的が明確です! そこへの旅路、いえ言わば終わりへ向かう物語ですね。回帰録と言ってもいいかもしれません。だからこそ、懐かしさが合うのでしょう。心のどこかで読者さんは、完結への期待と終わってしまう事への寂しさを感じるはずです。方や林檎転生は目的は多数ありますが、明確なエンディングは見えません。彼らの果てない旅は、今この瞬間を感じれるような物語と言えるんじゃないでしょうか?」
セシャトさんは作品を旅で例えた。
セシャトさんの今の話には実はいくつか矛盾があるのだが、それは対した問題ではない。神様とセシャトさん二人の感想を言い合う場なのだ。そこに正しいか、正しくないかは大きな意味を持たない。
いつの世も、平和な今の時代も、戦乱の世も物語という物は人々と共にあった。
それは面白いのか、面白くないのか、興味深い、興味がない、教わって知った、愛読書になった。
それはもう古来から遺伝子に刻まれた単純な物。
「まぁ、貴様のその話を指摘してやっても良いが、それは野暮と言う物なのかもの。簡単に言えば楽しみ方は違えど、面白ければさして問題ではないからの。貴様のように狂ったように活字を読む者からすれば、金子みすずかの」
「あらあら、みんな違ってみんな良い。ですか?」
神様はぴょんと座席から飛び降りる。そしてセシャトさんと手を繋いで神保町、古書店“ふしぎのくに“へと戻る。集英社の看板を視界に桜門商店街を抜け、近くには焼き立てのパンの香りがする先。
お店に戻れば店番達とまた最初からそれらのお話をするのだろう。
セシャトさんはふと思い出したように言う。
「神様、リンゴ買って帰りましょうか? お茶請けと、続きのお話を」
一ヶ月間、本当にあっという間でしたね! そしてまた再び紹介小説という場で皆様とお会いできた事。
『林檎転生 ~禁断の果実は今日もコロコロと無双する~』『プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜』二作品を紹介させていただきました。ガトーさん。一ヶ月間本当にありがとうございました! なんでしょうね。ガトーさんの作品は救われるというと大袈裟ですが、安心できるという言葉にし難い部分がありますね。それが色々とあり、心が沈んでいた当方のメンバーの心を再度奮い立たせてくださいました。
私は一介のテラーでしかありませんが、今回。物語、作品、創作物。
人、人間が作り出す物の無限の可能性という物を真面目に信じることができました。
当方に色々教授してくれる方々の中で、人間は存在理由を失った生物であるとお話を聞きました。確かに種を残すという他の動植物などとは違った生態系を持っていると思います。
種を残す事が目的である他生命に対して、人間という生物は、個が生きた証を残す事を目的としたまさに命の表現者なのではないでしょうか?
これは私の個人的な感想です!
私は小説を書いたりはしないので、時折皆様が非常に眩しく見える時がありますよぅ!
作品に一喜一憂し、時には対立される。当方でも何度となく万人受けする作品はないと答えてきました。そういうカテゴリーした場合、面白くない作品なんてないという言葉は矛盾が生じます。読者さんによっては心の一作でも、別の読者さんからすればつまらない作品という事もあるでしょう。
私たち、古書店『ふしぎのくに』はできる限り両方の視点を持ち、皆様の作品を面白く、楽しく今後も紹介していければなと思っております。
重ねて、ガトーさん本当に今月はありがとうございました!




