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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第四章『飛べない天狗とひなの旅 著・ちはやれいめい』
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四月は出会いと別れの季節。そんな物語だったよね

5月ですが、当方メンバーに入院した人が出たのですよ。安心できる事はコロナじゃなかったのです。それとは関係ねーのですけど、5月は一旦月間紹介をお休みするのです。あの人が戻ってくる準備が出来上がったと言っておくのです。

 古書店『おべりすく』そこで乾杯の音頭をとる青年。


「遠路はるばるワシ等の可愛い弟であり、皇子。マフデトさんが来たことにお日柄もよく……」

「アヌのアホ。はよしぃ!」

「乾杯!」


 見るから質のいい寿司を摘みながら宴会が始まる。


「また人がいなくなるのですねぇ」


 牛乳をちびちびやりながら、マフデトはそう言うのでバストが捕捉する。


「人がいなくなるのを妖怪、あるいは天狗の仕業とはよく言った物っすよ!」


 実際、今の現代でも行方不明者は後をたたない。本当にどこに行ってしまったのだろうか?


「一応な、決別の意味もあるんや。妖怪や神隠しにあったと思って諦めるっちゅーな」


 民俗学に秀でてその筋の講釈も行うアヌがシアの酒の相手をしながらそう語る。今回の蜘蛛の妖に対して、当方古書店『ふしぎのくに』にもトトの経営するブックカフェで女郎蜘蛛の男の娘、汐緒が働いている。


「蜘蛛っちゅーのは、害虫を喰う益虫やろ? 実はどちらかというと神聖な物として扱われてたんやけど、風俗文化、妖怪が流行った第一次妖怪ブーム。江戸時代中期やな? その頃からポケモンみたいに妖怪が増えた中で生まれた者や! 実は八尺様のモデルでもあんねん」


 八尺様という妖怪はネットで調べて欲しい。この妖怪、おそらくモデルは本作でも出てくる絡新婦。

 へぇとアヌの講釈を聞きながら、食事に舌鼓を打っているとシアが日本酒を口にしながら語る。


「ひなちゃん、ナギに九字切り教わったり、宗近に読み書き教わったり、ほんまええ出会いしとるな。もしかしたら令和の子より教養あるかもしれへんな」


 さぁ、このシアの言葉は笑えない。道徳観、識字力ともにひなよりもない子が日本人は確かにいる。


「それにしてもフェノさん、しばく言うてますけど、民度の低い大阪の言葉使ってますやん」

「は? なんて? アヌ今ウチの地域民度低い言うたか?」

「そんな事言ってませんて、まぁワシの地域の京都に比べたらそら、ね?」


 大阪京都戦争は永遠に終わらない。がせっかくの客人が来てるのに空気が悪くなりそうなこの状況でバストが助け舟を出す。


「マフデトさん、それにカムイさん。関西の言葉ですけど、上方語と言ってかつては京の都のメインの言葉だったんですよ。だから、位の高いフェノエレーゼさんが使ってもおかしくはねぇのかもしれねーですね!」


 目を丸くするカムイとマフデトのの皿にお寿司を入れてはバストが話を続けた。


「ナギさんは半妖ですが、人ができてるんすよ。レシェフさんや師匠ちゃんが崇拝している作家の作品に出てくる霊能力者は人間なのに、人にあだなす妖怪を痛ぶって弄んで殺して人々に感謝されるトンデモ作品を書かれているのですけど、本質としては人であろうが、妖怪であろうが、超えては行けない一線を超えた者の事をバケモノと言うんすよ」


 それにカムイは感嘆する。


「おぉ、イケメンのお兄さん、わかりみが深すぎて上がる!」


 それにマフデトは……


「ナギは助けられなかった家族から文句を言われるかもしれねー事を受け入れるでしょうけど、あの作品のあのキャラクターなら、弱いから死んだと遺族をぶん殴るんでしょうね……あいつ、マジの鬼畜なので」


 誰かが気になる方は某有名妖怪作品に出てくる祓い師を色々調べてみてください。とんでもないのがいるので。


「ひなちゃんアジの開きを食べとるやん。ええよなぁ! 青もんは魚で一番うまいからなぁ!」


 西の人は驚くほどに青い魚が好き。サバ、アジ、サンマ、ハマチ、マグロと古書店『おべりすく』の方々調べなのだが、彼らにお寿司をご馳走になると大体イワシやサバを生で食べられる料亭に連れて行ってくれる。プリン体が全体的に多い魚の中でも青ものの栄養価は高く。平安時代ともなれば中々口にできる機会も少なかっただろう。


「ひなちゃんの食生活は今で言うところの欧米健康志向やな!」

「おっ、ついに陰陽術師の大御所、安倍晴明の名前が出てきたやん!」


 作中でも書かれているように知らない人がいないんじゃないだろうか? 一番有名な陰陽術士といえばそう、安倍晴明である。一部加茂と言う人も出てくるが、この陰陽術師という連中、皆天候を操ろうとする。古くは諸葛孔明の時代から、人間は神を操る術を知ろうとしていたのだろう。

 ちなみに、現代において天候を操ろうとするのは国際的に禁止されている。アメリカや中国は秘密裏に研究を続けているが……

 例えば巨大な熱帯低気圧である台風。あれに関しては物凄い金額を投じて冷却弾でも使えば勢力を殺す事は可能だと思われる。されど、天候というものはそうなる必要があるか雨が降ったり晴れたりするわけなのだ。

 人間が手を出してはならない領域の一つなのだろう。


「晴明塚って日本各地に一杯ありますよね?」


 バストの言葉に、シアとアヌはあぁと頷く。蘆屋道満。名前通り、芦屋、関西の最大の金持ちが住まうというあの場所。死闘を繰り広げたというその二人。


「自民党と民主党の関係にやな。何回も言ってるけど、陰陽術の五芒星は裏五芒。ウチらの知ってる五芒星はダビデの星言うて実は陰陽道のマークとちゃうんねん」


 重ね重ね言うが陰陽道は神々を天候を操る術式。正なる物には負を、邪なる物には聖をそういう捻くれたものなのである。


「本作も正位置の五芒星やな……まぁ、世の中の陰陽術物が間違ったイメージを植え付けてるからな……これはやむなしやろな。それにしても安倍晴明の母親が狐やったって知っとるか?」


 さて、神通力を持った晴明の母親。金色九尾の御前、妖怪、神仙の類との子供。いや、違う。彼は恐らく大陸。儒教知識を深く持つ今の中国か韓国の人間ではないかと思われる。

 当時の大陸の化粧。今は日本でも流行っている中華メイク。あれを古代の日本人は狐のように美しいと言ったとか……


「ここにきて、狐につままれた話をするのですね! ちはや姉様はやはり物語を作るのがうめぇのですよ!」


 皆食事もたけなわ、メロンやケーキといった甘味に舌鼓を打ちながら物語を静かに読む。今まで考察していたおべりすくの三人が静かになる。


「まーふ。ひなちゃ、どうなるんだろ?」

「妖怪もそして……人も天然自然のものなんですよ。これがフェノエレーゼの長い旅のたけなわの物語なのです」


 妖怪がやらかす水戸黄門の物語、その最後のお話は、人間によって行われる妖怪よりも最も恐ろしい物語。

 畏れの話であった。


「人が一番怖いって事? 上がるぅ!」


 カムイがマフデトを抱きしめてそう言うので、マフデトは少しばかり嫌そうな顔をするが、カムイが正しい事を言ったので、おべりすくの皆が作品を楽しんで自分の世界に入っている。代わりにマフデトが話す。


「まぁ、そういう事なのですよ。知っているのですか? 妖怪、神々と言われている連中が1日に出す被害なんかより、人間が起こす事の方がいつの時代も大きいのですよ」


 フェノエレーゼは怒りや憎しみ、恨みなんてものはいつしか共にした自分の翼、ひなに比べれば大したことではなかったのかもしれない。

 愛を、慈しみを、悲しみに優しさをもらった。それが答えだったのか、サルタヒコの思惑通りだったのか……


「私は思うのですよ。妖怪という存在は人がいなくては存在しないのです」

「まーふー、ロマンチストね。でもさー、それは魔女裁判。悪魔の照明って言うんじゃないの?」

「テメェ、すげぇ馬鹿だと思ってたのですけど、割と賢いのですね」

「これでも北海道のアイヌやっくるよ。想いから妖怪は生まれるの」


 本作はフェノエレーゼ、ひなを主人公に、ナギの物語。ナギは物語中盤にて自身の宿命と決別し、そして章ごとに問題定義、そして解決を繰り返し、章ごとの主人公やそのテーマを解決していく。


「ナギの物語は一応の解決としてフェノエレーゼの物語も翼を取り戻した事で終わったのです。でも、果たしてひなの成長の物語はどうだと思いますか?」


 ひなの物語はどうだろう? これに関しては最後まで読み終えた場合、ひなは成長したと言えるし、されど彼女はまだ成長途中とも言える。


「飛べない天狗とひなの旅。この物語。天狗は飛べるようになったのです。物語の終盤でフェノエレーゼは飛べない天狗ではないのです。ならばひなの旅はどうなったのか……カムイさん、てめーが超鈍くてもわかるのですよ」


 そう、まだ終わっていないのだ。

 それは語られる物語でないとしても、ひなの成長の物語、それはようやく始まったとも言える。

 七年後。


「まーふ、七年後!」

「そう、フェノエレーゼも言っているのですよ。本作は物語としては紡がれないのですが、語られぬ章。七年後がひなの旅なのです。七年後も同じ気持ちなのか、てめーの言い方でいえば、七年後も人が妖怪を想っていれば、ひながフェノエレーゼを想っていればその旅の終わり、いやひなの物語の完結が見えるのかもしれねーのですよ」


 それは、その七年後は神のみぞ知るという事なのだ。物語としての完成度、未完の美学とでもいうべきか、さらに続きを読みたいと思わせる。

 されど、ここで物語は終わりなのだ。


「かぁー、読んだ読んだ! 読み終えたのぉ!」


 作品の読了感、シアもバストもまた静かにスマホを置いた。作品を読み終えた後というものは一息つきたくなるのだ。


「ほんまに、えぇ話書く人やねぇ! 外れることがない妖怪もの、こういうのを読んだ後はバストのアホ。どうするんや?」


 バストはすぐにタブレットを操作してからみんなに画面を見せた。


「RINGO ルクア店でリンゴのスイーツでも楽しみながら、もう一度本作を楽しみましょうか?」


 マフデトとカムイは目を輝かせる。作品は終われど、再び別の視点から、違う環境で語ることで物語は終わらない。

 古書店『おべりすく』から五人がお店を出た数分後に、桃色の髪の女性と金髪のちんちくりんが店に来るが閑古鳥。

 初夏の風に吹かれ夜は、妖怪の時間は始まる。

『飛べない天狗とひなの旅 著・ちはやれいめい』

最高の物語だったと思うのですよ。綺麗にまとまったのです。ひなは最初から最後まで綺麗な心だったのです。それ故に嫌味なく読めたのではないでしょうか? 今回で一旦本作の紹介を終了としますが、是非もう一度読み返して作品の違う一面を楽しんでほしいのですよ!

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