表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第四章『飛べない天狗とひなの旅 著・ちはやれいめい』
33/126

子供の善行とは何か、人を呪わば穴二つな話

生ハムの原木を購入したのです。師匠ちゃんと二人で食べていたのですが、全然減らねーので、母様とサタ兄様を呼んだのですが、ワインに師匠ちゃんが付き合わされてぶっ倒れたのです。お酒ってあんな反応を鈍らせる飲み物。なんで大人は飲むのでしょうか?

 世界最大級のプラネタリウム、大阪の全方位映像型となっている事を知っている人は実は少ない。ユニバよりも海遊館よりも大阪最高の観光地といえば、ここであると西日本の古書店『おべりすく』店主のシアは語る。

 星々の語りの前半パートと、映画、映像の後半パートを堪能したダンタリアン氏は語る。最高であったと。

 暗くなり、星々の光を見ながらシアは話し出した。


「三国峠は鎮魂の塚があるんや。本作でも語られる化け猫や。話によってはいくつかパターンがあんねんけどな。赤ずきんちゃんのモデルみたいな話やな。まぁ逆かもしれへんけどな。今回は厄介な化け猫や」


 猫は末代まで呪うという言葉を知っているだろうか? 猫は不思議な生き物である。動体視力が異様にいい猫は同時に複数の物を目で追う。それを人間は古来より、人には見えない何かを見ていると言い伝えられてきた。

 そして、昭和時代。鼠取りとして飼われていた猫が野良化し、それがイタズラするのに怒った人々が水死させた猫が悉く目を開けて死んでいた事。これも科学的に説明できるのだが、猫は殺した相手を覚えておくために目を開けて死んだと……まぁ今は萌えの象徴であり、猫というものは何か人々に感じさせる生き物なのだろう。


「シアお姉様。陰陽術師もどきって? 同じ師なんでしょ?」

「私もそれは思ったのですよ」


 アナウンスでグランシャリオの伝説をBGMに聴きながら、話し出す。


「要するに国家資格みたいなもんやから、陰陽術師。今の気象庁がそこをになっとるから、易々とはなられへんねん。せやから現実に事実上の陰陽術師はもうおらへん」


 何度も重ね重ね言うが、現在陰陽術師を名乗る人物は100%嘘つきの詐欺師である。平安末期には陰陽術師は役職ごとその姿を消しているのである。さらに言うと、陰陽術師の家系も江戸時代には途絶えている。あるいは名前を変えて政の中心に入り込んだのか、恐らくは数々の密教や神道などに枝分かれしていったのだろう。


「要するに、ナギは正真の陰陽術師見習いで兄弟子は同じく陰陽術見習い兼宿曜術師っちゅーとこやろ」


 違いは何か? と言えば、国家資格かどうかだと思えばいいだろう。いまだにマンションを建てる時に宮司さんにお祓いしてもらうあれをしていいか、どうかの差である。


「あんたら、ウチも式神持ってんねんでぇ、知っとるか?」


 シアがそう言うので、何事かと思ったらスマホを見せる。そしてラインでアヌ、バストと書かれた連絡相手にビールとジュースを2ケース、パーティー料理の注文依頼。


「式神というより、パシリなのですよ」


 が……


「式神なんてパシリやろ、陰陽術師。当時やと徳の高い役職やったやろうし、公家に通じるところあったんやろな。政信の態度や行動。弟弟子のナギに対してはクソやけど、ひなちゃんにも優しい。それに九字切りしよるから護摩の方もできるねんな」


 認識の違いというだけで考えてもらえれば良いのだが、陰陽術というのは自然信仰であり、風の流れをよくする、邪な空気、気配を正す。というもので、九字切り、また政信が唱えるオンから始まるこれは、対魔破邪、疫病退散等を目的とした修験道、山伏などの仏教をベースにした密教に見られる。ただし、同じ陰陽術師でもこの護摩も行っていたのが、役の行者と言われている。

 正統派の土御門家、安倍晴明や鴨長明は要するに御座、貴族専門の敷祈り屋、今風に言えばトップアイドルだったのだろう。


「いくつも資格を持っているのか、それとも政信がもどきと言われる所以かもしれへんな?」


 これは某、有名密教の教会にわざわざ伺いに行ったのだが、陰陽術師の印は縦横切りという。想像して欲しい、セーマン。五芒星を描くあれである。かたや仏教をベースとした九字切り、あれ元は同じ物である可能性が極めて高い。

 大陸の急急如律令などが元ネタではないかと思われるが、日本という国は密教が多すぎるのであらゆるものをハイブリット化しているので、当時の情勢等が色濃く出ているものも多くあろう。


「陰陽術師は妖怪の殺し屋というわけではないけど、政信は護摩の方をしとるから化け物はみんな殺してまおうっちゅ考え方やな。まぁ、ウチは嫌いやないけどな」


 この政信という要するにややいじ悪い陰陽術師であるが、こいつを読者はこう思う。


「チートよねぇ? 政信」


 カムイは彼の天稟にそう呟く。そして、この男、わりといい男なのだ。いい師を持ったからか、品位が高く身分をひけらかしたりしない。ナギの事も嫌いではあるが憎んではいない。


「この作品のいいところなのですよ。人間を信じられるのです。フェノエレーゼはここまで来るともう完全にデレちまってるのですよ」


 住処を奪われ、成獣の化け猫を殺された子供の化け猫タビはナギの式神となる事で祓われないというナギの名裁きが炸裂するのだが、ここで一つマフデトが疑問に思う。


「政信とナギの式神ってわりと自由度がたけぇのですよ。政信の蜘蛛も自立してるのです。イメージとしては式神って人型の紙をほい! って投げるみたいなイメージが強いのです」


 これは作品によるので、説明が難しいところではある。守護獣、使い魔、タルパ。式神、ファミリア。それぞれ言い方が違うが用途は近い。


「そこはあれちゃうか? 術としての簡易式みたいなもんと、実際の妖怪、妖精。神仙の類と契約するのを契約式みたいな感じなんちゃうか? 知らんけど」


 関西人お得意の、保険をかける一言。知らんけど。

 式神の中でも特殊な物を二つ程上げるとすると、陰陽術の奥義としてよくある十二神将召喚。また蠱毒外法の奥義・剛式土蜘蛛。

 前者は祈りや約定を持って神々の力を借りるいわゆる神落とし。後者は、陰陽術の悪には悪を邪には邪を追求した結果、弱い妖怪などを食わせ合わせて、人工的に強力な契約式を作る的なやつである。


「昔の人の考え、厨二病。ここに極まれりなのです」


 これを言うと、各種宗教団体に命を狙われるかもしれないが、宗教はその全てが、考え方があり方が、ヤベェ、こいつ今すぐどうにかしないと、というくらい厨二病設定満載なのだ。

 公式が病気だ。


「次は温泉回やな。昔の人は温泉見つけると驚きもしながら、自然の恵みやと楽しんどったんやろな?」


 湯治という日本古来からあり、医療従事者も進んで行う治療の一つである。人間、時には動物の治療にも温泉は一役買う。


「北海道にも温泉はあるけど、トキトバもあるけどさ、ぱねぇ効くよね?」

「なんでとーとつにギャル語で話し出すのですかてめーは……」


 温泉大好き、シア姉さんとセシャトさん。コロナ前は年間何回彼女達は温泉施設に行っていたのか、おそらく二日に一回は行っていたハズだ。

 そんなシア姉さんが教えてくれる温泉の効能。


「温泉で怪我治るってのはもちろん、身体を温めて、治癒力向上もあんねんけど、日本の温泉はマグネシウムとかカルシウム多いやろ? あれ、鎮痛効果あんねん。だから、温泉入ったあとは痛みがひくなぁ、っちゅう事や。治癒力高めて、鎮痛効果もあって、安静にしてたら怪我や病気が治るのが早よぅなるのがカラクリや。だから、身体が病的に衰弱している人は温泉入れたらあかんねん。細胞が死にかけてるのに、それに無理やり働かせたら、あじゃぱぁや」

「な、納得なのです」

「たしかし……」

「善行をつむ、ひなちゃんは偉い子やで、子供の善行って何か知っとるか?」


 シアのなぞなぞに、カムイとマフデトは顔を見合わせて横に振る。それにプラネタリウムの巨大スクリーン映像を見ながらシアは語る。


「親より長生きする事。というより、大人になるまで死なない事やな」


 昭和前期まで、子供は十二まで生きられるかがこの日本でも難しかった。だからこそ、七五三という文化が日本にはいまだに根強く残っている。子供のまま死んでしまう。いわゆる親よりも早く死ぬと賽の河原で石積みをさせられるというアレである。親不孝というのは、親よりも早く死ぬ事。

 だから……


「ひなちゃんは、今フェノエレーゼと袂雀とおるだけでもう善行を積んどる。さらに人の為になる事をしとるんや、二倍やで、そんなひなちゃんとデレが増したフェノエレーゼの今回の旅は妖怪の大群、百鬼夜行やなぁ」


 シアは目を細めて、眠たそうな顔で二人に話す。

 そのシアにマフデトは質問。


「狐ってお稲荷さんみたいな神様もいるのに、人を化かすという狐の側面もあるのですよ。これって何故なのです?」

「伝来の仕方がちゃうからやで、カムイさんの北海道では狐は疫病の対象、妖怪や妖精であり、カムイではあるけど聖なる物ではない。これは大陸から来た考えも同じで、疫病や伝染病を持ってくる狸と狐は邪悪な物、妖怪。人を化かす。で、同時に八百万の日本や、ウチのアホのアヌ。あれや、アヌビス。ジャッカルの化身としてのイナリや。聖なる者。美しい再審者やな? 狐が巫女服きとる理由は神社に稲荷が入ってきたからや、まぁ……場所は言われへんけど、実は袈裟を来た狐が祭られた寺もあんねんけどな。安永はフェノエレーゼに滅ぼされた集落の生き残りで、復讐の鬼やな。よう言うたもんや。鬼と天狗の力比べは……」


 どちらかが死ぬまで終わらない。

 陰陽術という者の奥義は何かと問えば天候を操る事。要するに神の調伏である。宗教ではないのに、それらの良い部分だけを取り入れた陰陽術とはまさに、人間が人外化生、天魔。神々と戦う為の切り札とも言えるのだろう。神を仕えさせる。使役の神。式神なんて恐れ多い言葉、日本を含むすべての宗教感においてはよく考えれば禁忌なのだ。

 結果として、人間を頂点とした自然信仰。万物の霊長、人間があらゆる物を支配する力、それが陰と陽を体現する術。


「想像以上に、気性の激しい安永に、丸くなった。それも力も奪われたフェノエレーゼは結構ピンチなのですよ。今までのどこかほぼぼの感からいきなりラノベ感に変わったのです」


 シアはプラネタリウムの上映が終わると共に、


「まぁ、これラノベやからな。じっくりと、ゆっくりと続きはどないしよか? 『おべりすく』にでも行こか? オートン呼ぶわ」


 タクシーをオートンと呼ぶシアの年齢を計算してはならない。陰陽術師の安永が若く見えるように、世の中年齢不詳の女性も多い。

 神様とダンタリアンが待つユニバには三人は行かないのだ。

『飛べない天狗とひなの旅 著・ちはやれいめい』皆さん、読んでいる人も多いのですが、感想が結構皆さん色々で勉強になるのですよ。どうしても私たちは作品の世界観を掘り下げていかないといけないので、調べ物が多いのですが、作品としてキャラクターとして、心情を、創作論を色々な側面から皆さんの意見を楽しませてもらっているのです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ