いかに、優れた物語かという事。分かりやすいのに長考してしまう事。
最近デリバリの飯か、カロリーバーとナッツしか食ってねーのです。ここ数日部屋から出てねーのですよね……ブラックすぎるのですよ。必要な物はアマゾンで頼め! じ、地獄かここは……
海遊館。
そこで、マフデトとカムイは声を上げて喜んだ。色艶の良い大きな魚たちが周囲を泳ぎ回るその様子。
「うまそーなのです!」
「美味しそーね!」
サバなのか、ハマチなのかを見て、よだれをたらさん勢いで魚を見つめる二人にシアは呆れながら、ふと老人と孫が手を繋いでいる様子を見てシアは自動販売機で緑茶を購入すると二人にベンチに座って巨大水槽を見つめる。シュモクザメが来るとマフデトとカムイは目を丸くする。そんな二人にシアは尋ねてみた。
「お二人さん、何百年も生きた怪異と中年の人間、精神年齢はどう考えても宗近の方が高く感じるのは何でやと思う?」
カムイはその何百年も生きた怪異の類。それの意味やわからず、方や三歳のマフデトは多くの作品を読んできた。
「人間は限りある生で成長するのですよ。方や人外ってのは言葉通り人間じゃねーのですよ。設定にもよるのですけど、動物と同じようになんらかのルーチンの仕事があるとすれば、成長は人間よりしねーのですよ。だから、神々や妖怪ってのは子供っぽいのが設定上多いのです」
マフデトはお茶に口をつけながら足をぶらぶらさせているとカムイが本作を読みながら二人に尋ねた。
「がしゃどくろって、モシリカラカムイのことしょや?」
本来その名前を聞けば、なにそれ? というのが一般的なのだが、トトさんが否定をした。が実は面白い話があるので紹介しよう。
「カムイちゃん、おもろい事言うなぁ、ガシャ髑髏は創作物の妖怪としてはえらい若いねん。年齢で言えばまだ六十歳くらいの歴史しかあらへんねん。紙芝居の黄金バットあたりが初出やねんけどな? モデルは浮世絵師の歌川国芳の大きなガイコツや。で、この浮世絵師。蝦夷絵、アイヌ画やな? 描いとるねん。要するに、アイヌ、巨人伝説。モシリカラカムイを聞いとるかもしれねん。そんでインスピレーション働かせて描いた作品がこの巨大ガイコツ、ガシャ髑髏なんかもな。実際の設定は穴だらけやけど、ちはやさんの設定はよう考えてあるねん。わかるか?」
シアは、ホットの緑茶を啜りながら、マフデト、カムイと反応がない事で話を続けた。
「元々のガシャ髑髏の設定はクソやねん。墓場の死体の集合体の怨念やっちゅー話やな? これよく考えるとおかしいねん。元々墓場は供養されとんねん。要するに聖域、最も不吉ではない場所やねん。もし墓場で妖怪が出るんやったら、街中そこら中妖怪だらけやないとおかしいやろ?」
海外作品でも教会の墓場から化け物が出てくる描写があるが、あれはよくよく考えるとおかしい。
本作のガシャ髑髏の設定は無縁仏というまともに供養されたか不明の遺体の集合体に変えられているのだ。
要するに、元々のよくわからない設定から可哀想な元人間お怨念。思念のような怪物として本作には設定、設置されているわけである。
「この作品、源ライコウが超クソ野郎になってるのですよ! 師匠ちゃんが喜びそうなのです。私もこの酒呑童子をモデルにした作品を書いているだけになんともこの鬼の章は感慨深いのです」
去年の末から参加したマフデトのマブダチという師匠ちゃん、彼は平家の一族なのだ。故に源氏は正義、平家は悪という構図が常に面白くないと生きてきたらしい。本作の源頼光が酒呑童子相当に騙し討ちをしたかは不明だが、源氏の擁立に関わる後白河は騙し討ちを行なったことは史実として残る。
「京の鬼、酒呑童子の眷属たちの魂の集合体がガシャ髑髏なのですね。念仏でも上げてやりたいのですよ」
「まーふー可愛そうだね。鬼も人も北海道だとみーんなカムイなのにねぇ! 人間なまら悪いやつっしょや」
本作では酒呑童子の情を全面に重んじるところではあるが、人間サイドからすれば、どんな手を使っても人外化生は退治せねばならないのだ。こればかりは、人間が悪いというよりは、仕方がない事なのである。
人間は別の人種とですらまともに仲良くなれないのだ。種族が違ば尚の事である。
「それにしても宗近。えらい妖怪嫌うんやね。まぁでも人の身であったなら、普通はこうなんかもしれへんけど、なんでやろね? 文章にも書いてるけど、この宗近は最初の頃のフェノエレーゼそのものや、それをひなとの旅で成長したフェノエレーゼはどこか気づいて、反面教師のように感じ、あるいはその心を動かそうと感じてる。ええね、気持ちいい話やと思うわ」
しかし、本作でもやはりというべきか、悲しいことにガシャ髑髏という怨念の集合体はかの、日の本における有名な鬼にして本作の酒呑童子の盟友である茨木童子であるという。
「茨木童子いい奴なのに、それが化け物になってしまったという酒呑童子の胸中は察するのですよ。私のマブダチ二人がそうなったら私もどうすればいいか悲しくなるのです」
「茨木童子の出身はこの大阪やからな」
「そうなのですか?」
「そうなん? シアお姉様」
「知らんのか? 大阪の茨木で生まれたから茨木童子や。西の鬼集落の暴れもんで、越後の息吹童子、後の酒呑童子が京の大江山に居城を構えた。茨木童子はその酒呑童子と意気投合して家来になったってな。設定、時系列、地名、実際の場所を考慮すると一番辻つまがあいやすいやろ? 酒呑童子はまぁ、侵略者の隠語や、で元々おった乱暴者、茨木童子が隠語やろうな。このあたりと徒党を組んでやらかした結果、討伐された。昔話から見えてくる史実はこんなところやろ」
さて、茨木童子の設定について少し語ろう。この鬼と酷似した設定をもつ史実上に存在したであろうと言われた人物を知っているだろうか? 武蔵坊弁慶である。恐らく、茨木童子創作はおそらく頼光の数百年後に存在したと言われている弁慶がモデルになっているとみて間違いない。
寺に預けられ、生まれた時から毛が生え歯が生え喋った。そしてなにより五条大橋の暴れん坊。弁慶に関しても茨木童子に関しても説という物があるが、源流というものはおそらくこのあたりではないかと考えられる。
しかしだ。
本作でも語られ描かれているように……
「酒呑童子と茨木童子は仲が良かったというのはどこでも言われる事やね? これはウチは思うねんけどな? 物語で、昔話で口伝やけど伝わった事実なんちゃうかって思うわ」
マフデトは、本作の鬼の章を読んでいるとどうしても自作が頭に浮かぶ。そして空になったペットボトルを振りながら独り言を呟くように話す。
「本作を読んでいると、私の作品の裏側を読んでいるようなのですよ。私の作品に小狐という女の子がいるのですよ。その子は忍の里にいるのに剣士、侍になる事を望んでいるのですね……裏設定なのですけど、その小狐のモデルは、もう所在が不明になった刀。三条宗近が打った小狐丸なのですよ。ぶっちゃけ驚きなのですよ。ちはや姉さまとはうめぇ牛乳が一緒に飲めるのですよ」
怨念と成り果てた茨木童子は酒呑童子の読経によって払われる。これにナギが自分の力足らずと落ち込むのだが、彼に声をふしぎのくにがかけてあげれるとすれば、複合密教である気象学問の陰陽術と、諭し、導く哲学である仏教とではきっと対応範囲が違うので、餅は餅屋だよという事なのだ。
「と、師匠ちゃんならクソみたいな事を言うと思うのですけど、大事なマブダチだった酒呑童子の声だから通じたのですよ」
鬼の章を読み終わり、休憩を終えて、食事でもと思ったシアだったが、一言だけ……
「じゃあ少しだけ、ここをまとめよか? 想いというものは残るというやろ? それは言霊という言葉だったり、念という言葉だったりやな。鬼という者は夜の隠語や、陰でおにな? 人が堕ちた者達が鬼やったとして、それでも心っちゅーもんは生きとるんやな。鬼に落ちても、明日を待つんや。要するに夜(鬼)明け、鬼ではない輪廻なんか、それとも巡り合わせなんかは知らんけどな? 仏教やと無間に落ちてもいつかはその罪は浄化されるらしいからな」
人を恨んではならない、人を妬んではならない。人の嫌がることをしてはならない。人を呪わば穴二つ。
今風に言えば、人の陰口を言わない方がいい、それを言っているあなたもまた醜く鬼になっているのだと言ったところか?
少しばかり総評すると、酒呑童子と茨木童子の関係性は泣いた赤鬼といったところか、本作は本当に道徳というものを考え、教えるには実に良いと思う。内容が中高生向きなので、それよりも小さい年齢で読むのであれば保護者がついて少しばかりライトな表現で伝えてやればいいかもしれない。
ひなという、良心の塊。彼女の言う事は基本的に正しい。良いか悪いかは別として正しいのだ。それを周りの大人、そして大人になりきれないフェノエレーゼは彼女の正しさを肯定しつつも、彼女に正しいだけでは成り立たない事を伝えようとする。
よくよく考えるとどうするのが一番だったのだろうかと、考えてしまう部分もある。もちろん、物語の進行上というわけではない。こうあるべきなのだろう、こう落とし所をつけるべきなのだろう。
あるいは、もう少し青くても良いのかもしれない。その青さは捨ててはならないのかもしれない。ふしぎのくにの中でも賛否両論、意見が食い違った部分もあった。
とても簡単なお話である。ストーリーもキャラクターも魅力的で、問題提起、そしてそれを解決すると言う流れなのだが……簡単故、そして長らく培われてきた作風、作品ベース故に深く考えてしまう部分があるのだ。
一度、この作品は何を物語ろうとしているのだろうか? 自分ならどう結論するのだろうかを考えて読んでいただきたい。
「ほな、レストランでなんか食うて次はプラネタリウムいこか?」
シアはそう言って、西陣織の財布を出すと、「二人とも何が食べたい? なんでもえぇで」と言うシアに尻尾を振ってついていく。
『飛べない天狗とひなの旅 著・ちはやれいめい』数日前、激論が夜中に行われたのですよ。歴女に歴男。神学に詳しい人。そしておべりすくの人々に師匠ちゃん。私やセシャト姉さまたちはココアを飲みながら終始静かに聞いてたのです。色々と考えさせられる作品なのですよ!




