物語という物はよのあり方を教える儒教のような物かも知れない byダンタリアン
最近、師匠ちゃんの拠点変更に関してざわざわしているのです。私と一緒に住むというのもワンチャン有りかも知れねーのですけど。師匠ちゃん、潔癖症もややあるので、ややこしいんですよね。動物は全体的に嫌い。私は猫とか好きなので、よくまぁ付き合えているのですよ
「神くん神くん、あのヘップファイブの赤い観覧車に恋人同士で乗ると高確率で別れるらしいよ! さぁ乗ろう!」
「貴様、令和の世に出てこれて、はしゃぎすぎであろう?」
「まぁまぁ、クレープでも奢ってあげるからさぁ」
「まぁ、それならやぶさかではないがの」
そう、全書全読の神様と書の大悪魔ダンタリアンは大阪観光にやってきていた。マフデトの古書店『おべりすく』研修を遠くから見守ろうという類のアレである。
「玉藻の御膳といえば、シアの奴は元気かのぉ」
「インド、中国と悪さをして、日本で安倍安近とかに討伐された大妖怪だったっけ? 悪い事はするものじゃないよねー! それにしてもさーフェノエレーゼもチンケなイタズラをするという描写が本当に天狗よね?」
天狗、子供を山奥に連れて放置したり、お供物勝手に食べたり、要するにいたずら好きな妖怪としての側面も強い。それを人間に対する復讐という部分でうまく表現しているのではないだろうか?
「のぉ、ダンタリアンよ。昔の人間ってどうやって毒キノコとそうでない物を見分けておったのかの?」
本作でベニテングダケをひなが食べようとしてフェノエレーゼに止められるシーンがあるのだが、今と違い、昔は死なないキノコは毒キノコではなかった。アミノ酸の塊である毒キノコは山の幸でありご馳走だったのだ。美味しいから、栄養が高いから食べすぎるとお腹を下すくらいで考えていた。
要するに……
「自分の身体使って実験して食べられるかどうか調べてたのよ。やばくない? 人類やばいよねー!」
イチゴと生クリームのたっぷり入ったクレープをダンタリアンと神様は頬張りながら作品の話をする。高い料金を支払って乗った観覧車はゆっくりと上昇していく。
「次は河童が出てきよったぞダンタリアン。河童というのはの! 文字通り、かわわらと言っての、昔のガキ共が川で遊んでいると知らないガキが混ざっていたりする。子供が好きで遊び好きの妖怪だの! ちなみに、山に行っておなじような妖怪を山童というのだ」
「神くん、ほんとどうでもいい知識は多いわよね。はいあーん!」
ポケットボトルのウィスキーの蓋を開けてそう言うダンタリアン。神様は呆れ顔でウィスキーを受け取るとそれを飲んで、クレープを齧る。そして神様はケプっと小さなゲップをしてから話を戻した。
「お姫様って連中は日本も外国もなぜか病弱設定があるよの? それは単に当時の萌えみたいな物だったのだろうの」
少し違うのだが、要するに守ってあげたい系、いや、儚い者。もののあわれ。壊れてしまいそうなものへの慈しみや美学のようなものは昔からあった。
そして世界中で見られる異種族間恋愛。
「人類ってさー、何年も何十年も、何百年も割とおんなじ事考えてるよねー! そういうの嫌いじゃないけどさー」
神様からウィスキーの瓶を受け取るとグビグビそれを喉を鳴らして飲むダンタリアン。再びウィスキーの瓶を神様は受け取るとそれに口をつけて自らも呑む。
はたから見れば子供が飲酒しているやばい風景なのだが……
「まぁ、元々亞人、という物は人間が憧れて、あるいは畏れて創造した物だからの。それらが先祖返り、人間に憧れるってのは鏡みたいな物なんだろうの。本作はナギパートと見せかけて本編にそのまま直結させる方法をとっておるな。ダレるのをここでカバーしつつ読者離れも同時に防止させとるの」
作品創作において、場面を変える人称や視点を変えるのは、話を続けるのに作者側からしても書きやすくストレスの軽減になりやすい、反面読者が突然の場面変更に戸惑いストレスを受けやすい。それを本作はひな達の旅とナギの目的の矛先は大体同じ方向を向いている。故にナギも広い目で見れば、ひなとフェノエレーゼ一行と言っても過言ではない。
「ルパン三世の銭形警部みたいな?」
「まぁそうだの。銭形も一応ルパン一行だからの、ダンタリアン。貴様は書の悪魔を名乗るのであれば陰陽術師とかと関わった事はないのかの?」
観覧車もついに頂上に達し、後はたけなわ、下降していくだけなのだが、空になったポケットウイスキーの容器を見ながらダンタリアンは外の景色を見て、
「なんだっけ? 鴨長明とかいうオジサンにいくらか御伽草子を読み聞かせてもらったことはあったかもねー」
「安倍晴明ではないのだな……加茂は今でいう話し家。歌い手か?」
「フェノエレーゼくんはさ、ひなくんといて変わっていくと言うじゃない? 子供は無邪気。邪気が無いって言うじゃん? アニマルセラピーじゃ無いけど、悪神、悪霊になりかけていたフェノエレーゼの心の供養をひながしてくれているのかもね。人間がいなければ妖怪は滅ぶと言うトンチの聞いた言葉もあるくらいだし」
神様はお酒にめっぽう強い。
方や目の前の書の悪魔はお酒に弱い。というか酒癖が破滅的に悪い。
「貴様、こんなところに酒を持ち入れたのは酒呑童子ネタか?」
「こうやってね! 神くん、大江山で酒呑童子はね! だーん、たーり、あーん! って一緒に夜通し叫んだ物だよ!」
「貴様は平安の時代も令和の時代も変わらんな。して、ナミの話の源流はなんだろうの? にしても気がつけばフェノエレーゼもノリノリでひなとの旅、そしてお助けを繰り返しておるの」
神様はポケットからキャラメルを取り出すとそれを口に放り込み、ダンタリアンにも一粒渡す。
「神くん駄菓子好きだよねぇ、まぁこの話のモデルがというより、この類の流れは処女塚伝説が一番古いんじゃない? 初出は万葉集だし、このひなの旅は少し安心して読める部分はあるよね? 平安妖怪版水戸黄門だし」
「まぁの、なんというか本作はファンタジーの世界だもの。夜は深く、そして闇は今よりも恐ろしく、そして人の想いという物はもっと尊い、フェノエレーゼが姫を攫いにくる。昔から人外が屋敷の姫を攫うという展開は多くあったがこれは大概夜伽に駆け落ちだものな。のぉ、ダンタリアンよ。フェノエレーゼはもう翼を手に入れたと言っても過言ではないと思わぬか?」
ダンタリアンはクレープを食べ終え、クリームをなめとりながら、ふふんとまだ酔った顔で笑う。
「神くんは本当に古臭い考え方だよね? 要するにあれでしょ? ここまでひなちゃんと袂スズメと冒険してきたそれこそがフェノエレーゼの翼なんだエンド。昔の日本昔ばなしはこのオチ大好きだったよね?」
「でもそうであろ? 人間嫌いのフェノエレーゼが人間に悪態をつかれ、そして人間に傷つけられてもその事自体はあまり気にもせずに善行を働いておるではないか、要するに此奴は翼を失った事でようやく空の高さを、世界の広さを知ったという事かの」
神様がうまいことをいった。
今まで上から見下ろしていた世界が、人間が、そういうちっぽけな物がいざ目線を合わせてみると、違った物として見えてきた。そこの表現が本作は実に上手い。
ダンタリアンは神様の話を聞きながらクスクスと笑う。笑い上戸に絡み酒、まともに相手をしてくれるのは長年の付き合いである神様くらいな物なのだが……二人は共に物語を読み、語るのが大好物。酒の肴に書物をマラソン読みしてきた間柄。
「玉藻御前をここに絡めるのが実にいいね。かつて大陸は宦官で国を滅ばしたという事が多いけど、日本は美女に騙され、食い物されるという事が多かった。その事実を形にしたような物語は本作に限らず昔話でも、なんなら海外の童話でも多かったよね。宗教もそうだけどさ、人類ってのは割と道徳という物を重んじるのかもね」
悪いことはしてはないけない、人の喜ぶ事をしてやりなさい。というのが宗教であり、それを子供にわかりやすくした物が物語である。
キリストや仏教の教典だって細かく話せば物語なのだ。
「まぁの……本作の安心して読めるところは酒呑童子も、そこまで悪い奴ではなさそうだということだの? まぁ、昔存在した反復系ゲームに出てきた朱点童子はまぁ……これはよいか」
二人を乗せた観覧車はようやく地上に戻ってくる。これからどこに行こうかと……神様はダンタリアンを片目を瞑りながら話す。
「これからどうするのだ? だるまに串カツでも頬張りに行くかの?」
「ねぇねぇ、神くん。ユニバいこーよ! スーパーマリオのパビリオンがあるんだよ! 絶対楽しいって!」
ダンタリアンがユニバーサルスタジオジャパンに行きたいというのは遊びに行きたいからというわけではない……いや、それもあるのかも知れないが……
「貴様も私に劣らずの過保護よの? マフデト、あやつはしっかり店番もしておるし、貴様が思うよりも大人だぞ?」
「まだ三歳だよ。あれ? 四歳だったかな? セシャトさんと同い年だからね。神くんも自分の子には甘いでしょ? ということでユニバにゴー!」
神様は美味しい物が食べられて、美味しいお酒が飲めればどこでもいいかと服の袖を引っ張るダンタリアンに神様はふと思い返す……ダンタリアンが行きたいユニバーサルスタジオジャパンという場所。
「ダンタリアン、確かそこはコスプレ自由ではなかったか?」
ダンタリアンは獣のような瞳を輝かせ、ようやくユニバに行きたいという本当の理由を知った。
「祭り、いや仮装をする場所には神々や妖怪、妖精が紛れ込むというからの。貴様、何かするつもりだの?」
お酒がいい感じに回っているダンタリアンは神様を見てそして抱きしめる。小さいけれど、親友というにはもう少しばかり一歩進んだ関係である二人。お互い、読書をするということに関して、そのよろこびや楽しみ方に関しては手段を選ばない。
「あんまり騒動を起こすでないぞ? まぁ、この物語を遊園地で話すのも悪くはなかろうな。ところでシアのやつとマフデトは海遊館におるらしいぞ?」
そう言って神様はスマホをダンタリアンに見せる。自撮りをしているシアが神様に送ってきた写真。マフデトはジンベイザメを見て目を丸くしていた。
「あー! アタシのマフちゃんはかーいーね?」
『飛べない天狗とひなの旅 著・ちはやれいめい』本作から感じるそこはかとない懐かしさと、そう切り込むのかという部分。果汁30%くらいのオレンジジュースな配合が実に病みつきになるのですよ。つい最近、最終回を迎えた本作ですけど、皆さんはどう感じたのですか? ぜひ、教えて欲しいのですよ!




