キャラクターの落とし所、成長や変化を感じた時
お花見をすることができないので、リモート花見をみんなでしたのですが、お酒というやつは百害あって一利なしなのですね……お酒を飲む大人勢はまぁ狂ってやがったのです……特にダンタリアン母様、てめーのことですよ! エヴァのネタバレはよすのです!
大阪城公園、そしてそこに聳え立つ勝手に想像し創造した人口の城。桜舞うそんな公園のベンチにカムイとマフデトは座っている。羽織る物があれば丁度いい気温。
しばらくすると西の保護者である古書店『おべりすく』の店主シアがビニール袋をぶら下げて戻ってきた。
「そら大阪来たら一発目のオヤツはこれやろ? イカ焼きや!」
「イカ焼きなのですか?」
「度肝抜くでぇ! ほら、箸。カムイさんも冷めん内に食べや! あとコーラや」
マフデトは渡された容器を開けるとそこにはお好み焼きのような粉物。想像していたイカ焼きはイカの姿焼きだったのだが……
「う、うめぇのです!」
「それで一枚140円や、まぁそれでも食べながら大阪城を視界に、『飛べない天狗とひなの旅 著・ちはやれいめい』でも読もか? 知っとるか? クダギツネ。これは作中のオーサキと同じでオコジョ。イタチの事でな? 素早く逃げる際に小さい穴に逃げるよく分からない生き物。管に逃げる狐。昔は獣は狸か狐やからな。そんでクダギツネ。そっから、想像力豊かなこの国の人間が色々付け足して術者の隷獣っちゅー設定ができたんや! ほれみてみ!」
大阪という街がイタチが多い街という事はあまり知られていない。カラスに続く獣害がイタチだったりするのだ。
「ほれ、誰かエサやっとるアホがおるんやる。つぶらな瞳でこっちみとるで」
マフデトは目を凝らすと、首を傾げながらこちらを見る野生化しているイタチ。
「むっ!」
「きゃわわ! オコジョみたいでかわいいね?」
カムイがそう言うのでシアは捕捉した。
「あんな汚らわしい害獣に観光客がエサやるから増えるねん。ほんまたまらんわぁ」
シアが睨みつけるとイタチは身の危険を感じたのか去っていく。イタチがいなくなるとシアは柔らかい表情になり話し出した。
「第三章は海にいくんや! この時代の人間。海がないところに住む人が、海を見る事。それは生涯にあるかないかの出来事や! ひなは子供やからそれがどれだけ凄い事かまではわからへん。常識的には頼りないふえのさんと、大食らいのスズメや。次は龍やて、ウチの眷属やん……まぁこの話はええか? 聖龍、これイラスト見るとわかるか?」
シアがマフデトの隣に座ってアサヒスーパードライのプルトップを開ける。そして上品にイカ焼きを一口、そして思いっきりビールを飲む。
「なんですか? シア姉様。蒼い龍だから海の龍なのです?」
「和風ドラゴンしかわからないっしょや?」
シアは爪を指さした。
「この龍、爪が六本あんねん。韓国、中国の龍は三本。日本やと四本、で中国では帝龍。要するに皇帝やな? これは五本。それより一本多い。要するに神域に近い龍なんやろな? 本作は人間と自然との関わりを物語った話、ととってもええんかもな?」
缶ビールを飲み干すとシアは人差し指と親指でアルミ缶をペシャンコに握り潰す。そしてもう一本。シアが飲んでいる間にカムイは口を挟んだ。
「アイヌヤックルの話みたいだべ?」
「そやね。いや……アイヌやインディアン、アボリジニーなんかもそやな? 自然との付き合い方を物語として口伝で残す。こういう作品の源流なんかもな」
シアは二本目、三本目と飲みながらカムイの話に頷くので、マフデトは少しばかり不貞腐れた様子で話す。
「祈祷師や呪い師が詐欺師ってのは、元々神職につく連中は治外法権に近しい部分があるのですよ。学が足りないから学のある人間の言う事の判断ができねーのです!」
ナギがやってきた事。村々を騙してきたまじない師の事を考えながら話すマフデトにカムイもシアもふむと頷きながらシアはそにこう切り返した。
「今と違って神職の旅も命懸けやからね。学がある分金持ってるから命狙われることもあったし、当時は詐欺もまた命懸けやったやろね。結局とばっちりを食らうのはいつも関係ない連中やねん。それにしてこの作品は大陸の妖怪がよう出てくるね」
「ベースが平安くらいだからじゃねーのですか?」
「どういう事?」
カムイが二人でわかり合っているシアにマフデトに問う。それにマフデトが語った。妖怪変化の考え方が多く伝わったのがこの平安なのである。雷獣、鵺、飛頭蛮、鎌鼬、犬神。あげればキリがないが、日本の八百万の考え方。神道とシナジーも深かったのだろう。
「この章からフェノエレーゼもデレが始まるんやね? 礼儀という物、いや、サルタヒコが実際に感じ学んで欲しい物ということがわかり始めたんや。物語の指標は読者が思った通りに進むんやけど……このぎこちない黄門一行はどうするのか……そこを楽しむ話やな。妖怪好きなあの小僧誰やったけ?」
「師匠ちゃんです?」
「そやそや、そいつからしたら牛鬼は確か外国の人攫いやったっけ?」
火のないところに煙は立たぬ。牛鬼伝説はとにかく西日本の浜辺に多い。そして関わった者が病や呪いに伏せる。要するに、外海からきた人攫いなのである。歴史的考証としても某国が攻めてきた時の毒矢、あれが呪いや病気の正体である。昔の伝説という物を紐解いていくと当時の姿が見えてきたりする。それは物語創作において逆手にとり、独自の肉付けができたりする物だと彼は語る。それを聞いたシアは……
「ほんま気に入らん小僧やなぁ、物語を物語として楽しめへんやつは……殺しとーなるな」
「シア姉さま、やめてくださいなのですよ。一応、師匠ちゃんは私のマブダチなのです。フェノエレーゼみてーに師匠ちゃんの力を封じるにとどめて欲しいのです」
「無理やろ、あの小僧悪霊かなんかやん。呪いの重ねがけは難しいかもしへん。それって知っとるか? 最初にあったやろ? 名付けと一緒やねん。名付けの更新は元の名付けを無効化せなあかん。同じく、フェノエレーゼの呪いを更新したければサルタヒコに解呪させるか、サルタヒコ殺すかや。それを行うと……呪詛返しっちゅーやつやな」
物語を読んでいると、ひなの心が成長していく事を感じる。正確な時代はないにしてもヒナの年齢から考えて二、三年後には元服、或いは髪上げ等という成人を向かえる子供がいた。肉体と年齢が過ぎ去る事ではなく、心を育てる事が大人になる事で、大人になれば世界は狭く、見えていた物が見えなくなる。
ひなの成長の物語とフェノエレーゼの成長の物語である事を鑑みながら、二人の別れの物語でもあるのだろう。
物語の感傷に浸っている中、カムイが混乱を始めた。本作は仏門、神道とはまた違った宗教観のある世界観である事。
「フエノさんとナギさんと龍と関わるのは、納得行かない物なん? ちょっと私にはわからない世界観すぎてウケるんだけど?」
これまた面倒なのがカムイのアイヌヤックルの考え方、ありとあらゆる物に神が宿るという物である。アイヌヤックルの思想で言えば人間ですら神なのだ。
「まぁ、陰陽道は邪を持って邪を滅するなので、東洋の五行思想と西洋の自然思想のハイブリット型密教で使役、調伏するので力を借りるってのは納得いかねーのかもしれねーですね」
ナギと妖と半端なフェノエレーゼが協力し、牛鬼を滅し、何かを学んだ彼らについて物語はめでたしめでたしと……そしてひなはお祈りという徳の高い礼儀を学ぶ。
「昔は手を合わせて南無阿弥陀仏と言えるだけでも大したもんやったらしいからね。旅を続けてひなはえらい賢くなったね? ほんまええ子やで、物語はナギの物語も同時進行することがここでわかったわけやけど、マフデトさん補足はあるか?」
マフデトは少し考えながら……
「鬼丸国綱、鬼切安綱。と二人振り有名な刀があるのです。名刀髭切というやつですね? 酒呑童子を屠ったという逸話があったりなかったりするわけなのですが、そこで滅ばずにサルタヒコに酒呑童子が仕えているというのがおもしれーですね。鬼が人間に仕えていたという伝説は多くあるのです。大体名付けをされているのですが、酒呑童子は元々、化け物じみた人間。外道丸。そこから鬼として元服して酒呑童子。この作品設定からすると、別名を与えられているかもしれねーですね。フェノエレーゼを許したナギが出会った時にどういう形で解決させるのかということがこれから楽しむ部分じゃねーですか?」
時代的にマフデトが最も得意とする時代背景に作品世界観。それ相応にシアを納得させる程度の回答はできたようで、シアはロング缶の6缶パックが全部なくなったところで、アルミ缶を綺麗に指で丸める程小さくして屑箱に他ゴミ共々捨てると立ち上がった。
「ほなそろそろユニバーサルスタジオジャパン……ではなくて、科学館にでもいこか? そのあとは海遊館や」
これは業務研修だった筈なのだが、どう考えても遊びにいくスケジュールなのだが、マフデトもカムイもここ最近の自粛の日々で遊び足りない。喜んでシアについていく。
「マフデトさんとカムイさんはお寿司は好き? ウチな? お刺身とかお寿司とか大好きやねん! 北海道とか東京の二人でも楽しめるようなお店見繕ってるから、付き合ったってな? あぁ、お金は心配せんでええで! ウチが全部持ったるからなぁ!」
何故か? シアが妙に優しい。マフデトの横に自然に並ぶと話だす。
「ところでマフデトさん、ダンタリアンとかいうクソアバズレ、なんか復活したとか聞いたけど、神様になんか変な事してへんか?」
なんとなくマフデトはどういうことかわかった気がしたので、シアを安心させるように言った。
「私には変な事をしてくるのですけど、とりあえずは大丈夫じゃねーですかね?」
「そうか! そらよかったわ! なんかあったら東京火の海にせなあかんからなぁ」
「ナギとフェノエレーゼを呼んで調伏してもらわねーとダメなのですよ」
環状線に向かいながらマフデトは金髪のちんちくりんと桃色の髪をした露出の激しい服をきた女が遠くで歩いているのを見て見ぬフリをした。
『飛べない天狗とひなの旅 著・ちはやれいめい』章ごとに楽しめる作品なのですが……ひなちゃんとフェノエレーゼが成長していくことでなんとなく感じる終わりの予感。これがなんとも言えず物語のスパイスになるのですよ。さてさて、次回は第四章を語るのですよ!




