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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第四章『飛べない天狗とひなの旅 著・ちはやれいめい』
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物語から学べる道徳観、たこ焼きって美味しくない?

桜が散り、葉桜になりそして生命を感じる夏が来て、実りの秋がくるのです。そして生命に別れを告げる冬が来て、出会いの春が来る。世界の仕組みってのは単純なのですけど、人間はこの四季ですら狂わせているのですよ。本当にさっさと滅びればいいんですよ!

 新幹線から降りたマフデトはおべりすくのバストが迎えに来てくれるまでしばらく時間がある事に駅そばでも食べようか……それとも……


「せっかく新大阪に来たのですから……あそこいくのですよ!」

「どこどこ? まーふー何処いくん?」


 マフデトは木製のスーツケースを引っ張りながらとても不快な顔で後ろを振り返るそこにはマウンテンパーカーを着た白ギャルの姿。


「テメェ、私は今からたこ昌のたこ焼きを食べるのですよ! さっさと山神の森に帰るのです!」


 そう言って駅構内の中にある座ってたべられるたこ焼き屋にマフデトは入るとそれにカムイさんはついてきた。


「テメェ!」

「まーふー、ご馳走するしょや? 座ってお話しよ!」


 奢ってくれるというので、渋々マフデトはカムイの同席を許した。お店のプロが作ってくれるたこ焼きを食べながらもちろん読むのはウェブ小説。


「まーふー、この食い意地のはった雀、食べればお腹の足しになるんじゃない?」

「テメェ、たまにえげつない事言うのですね? まぁ雀ってのは飛ぶネズミというくらいの害鳥ですから食ったらお腹壊すのですよ」


 何気にマフデトも雀を、というか作品の袂雀をディスる。雀は水浴びをしない鳥である。代わりに砂浴びをするので、公園とかでは雀サイズの丸い穴ぼこがそこら中にあったりする。そしてそこを猫に襲われる。悲しい話しである。という水浴びをしないので、他の鳥より、虫や雑菌を多く持っているので可愛いがあまり触らない方がいい。


「名前をつけたら調伏になるのは悪魔とかもだよねー! なんで?」

「親だからなのですよ。名付け親を英語でゴッドファーザーというのです。父親というのはまぁ、ヤファエだか、キリストだか神の事なのです。それと同じで、名前を与えられた物や者は服従。所有物になるって考えなのです。源流はどこかわからねーですけどね」


 ふーんと言いながらカムイはいい感じで焼けたたこ焼きを爪楊枝で突き刺すとふーふーと冷ましてから言った。


「まーふー、あーん!」

「ったく、うめぇから食うのですよ!」


 不本意だがと言ってむぐむぐとたこ焼きを食べるマフデト。そしてあまりのうまさに表情が綻ぶ。

 ふとマフデトは陰陽術師の青年のイラストを見てカムイに尋ねてみた。こういう存在について……


「カムイさんは陰陽術師とか霊能者とかは天敵じゃねーのですか?」

「まーふー、そんな人は実際に存在しないんだーよ?」

「いや、テメェが言うなですよ。まぁ陰陽術師はもう存在しねーのは事実なんですけどね」

「どういう事?」

「ある時期を境に陰陽術は完全に途絶えているのです。今、陰陽術師を名乗るやつは勝手に言ってるだけなのですよ。本来は裏五芒。ダビデの星の反対向いたマークなのですけど、みんな勘違いしてダビデの星を書いてるのですよ。だから、ひなの旅の時代は陰陽術師がいた、神話の時代。まさに昔話の世界観なのですよ! そう思って読むと少しワクワクしねーですか?」


 本作は童話や昔話テイストのラノベである。故に正確な時代背景などはないが、あらゆることが許される側面を持つ。陰陽寮、おそらくは省ではなく屋敷抱えの宿曜術を行っていたと言われるのが陰陽連、陰陽寮と言われ、おそらく平安あたりだろうなと思わせる。このあたりは今回の作品世界に関して指導担当の神社仏閣巡りが好きなトトさんと御朱印集めが趣味な師匠ちゃんあたりにでも聞いてください。


「桜の精を祓うことを良しとしねーフェノエレーゼ。この気持ちは分からなくもねーですよね。宇宙人の対処ってやつなのですよ」


 もし、私たちが人間のような姿をした生き物を酷い扱いをしている見たこともない生き物がいたらどうするか? 人間のような生き物を助け、そしてそのみた事もない生き物に危害を加える。逆に我々がペットとして飼っている動物を連れていて、その動物に似ている宇宙人がその光景を見たら……というやつである。


「まーふーは物知りね? かわいいね? はい、あーん!」

「むっ! マヨポンなのです! うめぇ!」


 そして、マフデトは本作の陰陽術師ナギの境遇について少しばかり思うところがあった。


「ナギは私の作品だと羅志亞の民という事になるのですよ」


 あまり脱線をするのはアレなので、簡潔に述べる。マフデトが書いている作品。『魔女と忍の石山合戦』この忍、羅志亞の民は鬼人と呼ばれている。平安時代に流れ着いたロシアからの人々、彼らは大江山の酒呑童子として源頼光に討伐、そして保護される背景がある。

 そんな事を考えながら読んでいるとマフデトは遠い目をした。


「私の作品でも書いてるのですよ。鬼と天狗の力比べはどちらかが死ぬまで終わらねーのです」


 日本人は古来から鬼だ妖怪だ天狗だ天女だと人外が好きなのです。それはそれは我々には語り尽くせぬ程のDNAに刻まれた性癖なのだろう。


「桜を切るなんてかわいそうじゃない? まーふーはどう思う?」


 隙あらばマフデトにキスでもしそうなくらい顔を近づけてそう言うカムイの口にマフデトは熱々のたこ焼きを放り込んでやる。


「ファ!」

「桜が綺麗だとか、出会いと別れの花として縁起がいいってのは、ソメイヨシノ、ここ数百年で今に始まった事なのですよ。昔は山桜、豆桜と儚いイメージしか無かったのですよ。で、この桜の精。要するに木花咲耶姫的な日本にはよくある昔話をモチーフにしてあるのです」


 桜の精は、伐採を免れる為に、かつての賑わいを期待して生存戦略として人々に危害を加えていた。良くも悪くも、こういった物語からは道徳観という物を学べるのだが、マフデトはたこ焼きとコーラを眺めながら……


「師匠ちゃんなら、言語道断で伐採するでしょうね。仕事はきっちりするとか言って。フェノエレーゼとナギ。犬猿の関係性がぶつかっちまうのですよ。和風ファンタジーってのは親しみやすいものなのですよ。大体の流れ、いわゆるテンプレートが千年も前からあるのですから」

「地味に袂スズメすごいねー? かわいいね?」

「いや、コイツ。所謂うっかり八兵衛なのですよ。作中ではお調子者キャラなのですが、実際第三者視点で言えばめちゃくちゃ利に叶っているまともな奴なのです! かわいいですしね!」

「フェノエレーゼかっこいいよ。人間はもう少し自然を大事にしないと。人間だって天然自然から生まれたものなんだから! 何にでも私、カムイは宿ってるんよ?」

「普通は、フェノエレーゼの言う事に動揺するんですよ。でも師匠ちゃんみたいな人間は、人間は万物の霊長だから、人間が切るといえば切る。あと仕事だから切るとドンびかせるんでしょうね。方やナギは人ができてるのですよ! ひな達の話を聞いて理由と落とし所を考え始めたのです」


 余談ではあるが、古書店『ふしぎのくに』でも扱いに困る師匠ちゃんは桜は病害も多く、五年も花が咲かないという事は中に癌か虫食ってるから、切って燃やしてやらないと周りの自然が死ぬとミーティングで言ってドンびかせた。

 ふと作品を読んでマフデトはカムイを見つめる。


「なぁにまーふー」

「死ね!」


 マフデトが一言そう言うと、カムイさんはじわじわと泣きそうになる。

 マフデトが言いたい事。


「言葉には力が宿る。これは事実なのですよ。人間は高度に進化しすぎ、最上級ランクの文化。言葉を得た事で、褒められれば嬉しい、叱られれば悲しい。暴言を吐かれれば辛い。言葉は刃にも麻薬にもなるのですよ。これが言霊ってやつなのです。実在するオカルトですね。そして桜の精は要するに呪言によって縛られてたのですよ」

「呪言?」


 詳しくは語らない。日本の某島国が由来と言われている。死者を思いすぎると死者が成仏できないという密教の考え方。村人が桜は咲かないというので、桜はそれに縛られて咲けなかったのだ。


「嘘から出た誠、みたいな?」

「まぁ、微妙に違うのですけどそんな感じなのです。クソツンデレのフェノエレーゼもひなにほだされて桜の花を咲かせる手助けをするのです。ちなみに、子供は無邪気。邪気がないというのです。さらにみんなで桜の精に手を触れる。これは手当てってやつなのですよ」


 あまり知られていないが、手当てとは具合の悪い子供に母親が触れるだけで具合が少し良くなるふしぎな現象からきている。人間という生き物はえてしてふしぎな反応が多い。

 桜の精の一連の結果を村の人に伝えた事。本来であればめでたしめでたしで済むのだが、人外であるカムイとマフデトは少し違う。


「あれだねー、ちょっと無責任というか」

「人間ってのはいつもそうなのですよ。さっさと滅びればいいのですよ人類」


 そんな物騒な話をしていると、たこ焼きも食べ終わり、お腹も膨れたので、マフデトはこれからJRで大阪にそして古書店『おべりすく』へ行こうとしたところ、金木犀の香りがする。

 それにマフデトはまさかと店の入り口を見る。


「あー、あそこのテーブルのお会計、いくらですえ?」


 青いお髪に青い着物。そして背は少し低いが高下駄を履いた上品な若い少女。マフデトはその姿を見て口元を拭き取ると彼女の元へと向かう。


「シア姉様! わざわざ来てくれたのです?」


「あら、マフデトさん。女の子連れて大阪まで遊びに来てくれはったん? まだ時間もあるし海遊館や科学館、ユニバ。いろんなところで遊んでからでもウチの店行くのは遅ないで! 今、スーパーマリオのコラボユニバでしてるさかいなぁ」


 マフデトもまだ遊びたい盛りである。大阪の観光スポットの名前をいくつも出されて猫みたいな目を見せる。それに古書店『おべりすく』の店主シアは、鋭い目でカムイを見つめた。


「で、お姉さんは誰なんや? ウチはマフデトさんの姉みたいな者や」


 姉という言葉を聞いて、カムイはそこに正座をして頭を下げた。


「お美しいシアお姉様、私はカムイです。まーふーとショタすけべ……じゃなくて清い交際を前提にお友達から始めてるしょや!」

「何言ってるんですか、この頭やベェ女は……」


 マフデトの反応と違い、シアは美しいと褒められ。


「そう? そうなん? そうなんや! まぁゆっくりしていき!」


 マフデトの五国の桜場、西日本の研修が始まった。

『飛べない天狗とひなの旅 著・ちはやれいめい』ちはや姉様は、あえて昔話調で作品を綴っているのですけど、これは大人の絵本に通じる作り方なのですよね。時代劇などでもそうなわかりやすい起承転結に道徳観を混ぜて、読者に納得と思考の更新を続ける。Web小説として実にいい作りなのです!

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