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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第四章『飛べない天狗とひなの旅 著・ちはやれいめい』
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昔話は汽車の中で語る物だったらしいよ、知らんけど

四月、最近私がいつまでいるのかという声をよく聞くのですよ。まぁ、セシャト姉様の人気はわかるのですが、露骨なのですよ! 最近、私たちシステム部の作業場を借りるお話が進んでいるのですよ。まぁ、コロナの影響で一時期は資金繰りがすげぇやばかったのですけど、師匠ちゃんが入って、お金を右や左に動かして七桁単位でプラスになってるのです。あいつすげーのですよ。実は……

「ふふん、まーふー、駅弁食べるかや?」

「そうなのですね。肉飯を食べるのです」


 マフデトは新幹線の窓の外を見ながら富士山が見えるのを待っていた。そこで缶ビールを片手にマフデトをガン見する白ギャル。北海道からやってきた人外。カムイさん。


「まーふー、なんかお話しーよーよ! 何かないの?」

「そうなのですねぇ……そういえば北海道には天狗の伝説とかってあるのですか?」

「天狗? よくぞ聞いてくれました。小樽の天狗山があるっしょや!」


 グビグビとサッポロ黒ラベルを飲むカムイ。マフデトは特殊な文化体系がある北海道と沖縄。そんな北海道にも天狗伝説はあるのかと感心する。


「こうして山間部を見ていると、セシャト姉様がオススメしてくれた、ちはや姉様の『飛べない天狗とひなの旅 著・ちはやれいめい』を思い出すのですよ。実は連載が始まった頃から既に文芸部の連中が目を付けてやがったのです」


 そう言ってマフデトが見せるタブレットの画面を見てカムイもその画面を開く。


「天狗ってさ? そもそもまーふーなんなの?」

「そもそもは箒星や落雷の時の化け物。天の狗。雷獣、麒麟なんて言われていた妖怪、妖精の類なのですよ。そもそも、鼻が長くて翼を持っていたというのは、結構後からの設定なのです」


 我々のよく知る天狗の姿はユダヤ・キリスト教の天使がモデルである。鼻が長くて翼を持つ化け物。要するに外国の人間イメージの神格化である。そして、流れ着いた外国の人が山に身を隠し、それを見た現地の人が、不思議な人間。

 天狗を見たという事に繋がる。


「へぇ、確かにフェノエレーゼは偉そうなところが天使っぽいよね」

「そうなのです」


 天使は人間を見下しているという設定はあまりにも有名。同じ神から造られた存在として土と泥からできた汚らわしい人間と、風と光から生み出された自分達とでは身分が違うのだという設定が存在する。


「それにしてもひなちゃんは利口な子ねぇ」

「そうなのです。うっかり八兵衛的な位置付けのハズなのに、最後の良心なのです。割とひなはポジティブなのですよ」


 今よりも夜が深い時代、代わりに人の心はもう少し広く明るかったのかもしれない。本作のもう一人の主人公ひなを追想しているとそう思うのだ。

 マフデトはパクパクと牛めしをカッ喰らう。マフデトは基本的には普通の胃袋の持ち主。


「これが神様なら五つは喰ってたのですよ」

「まーふー、崎陽軒のしゅうまい。あーん!」


 からしを少しのせたしゅうまいをマフデトの口元に持ってくるカムイ。それをマフデトはパクリと食べた。


「うめぇのです! 全く、崎陽軒。やりやがるのです」


 駅弁といえば崎陽軒という人もいるくらいなのだが……東京からの駅弁といえば、押し寿司弁当。これに限る。が、カムイもマフデトもあの超美味いお弁当を選ばなかった。死ね!

「妖怪、妖精の類が住処を奪われた。これは、正直。人間以外の人外は全員人間に対してある程度の怒りや恨みは持ってる物なのですよ。それはてめーもだろ? カムイさん」

 カムイさんがなんの神様なのか、マフデトは知らないが、アイヌヤックルのなんらかの化身であろう彼女はそういう気持ちの一つや二つはあるんじゃないかと聞いてみた。


「いや、別に……そういうのはカムイさんは気にしないからねー だってほらひなちゃんみたいに優しい子が人間にはたくさんいるじゃん。私だったら泣いちゃうよ。羽探しに行って迷子になってたらさ」


 マフデトはペットボトルのほうじ茶に口をつけながら、冷凍みかんを割ってそれを一口。


「本作は昔話とか、絵本系の作品となるわけなのですけど……簡単にタイトル通りの物語。何が目的なのかというのがわかりやすいので、Web小説初心者にも優しいつくりなのですよ」


 プシュ。もう一本ビールのプルトップを開けてビールをグビグビと飲みながらマフデトをじーっと見つめる。カムイ、彼女を見てマフデトは睨みつける。


「なんなのですか? 私の顔に何かついているのです?」

「まーふー、かわいいね? もう、ほっぺたがお餅みたいで、小さい王冠もかーいーーね! もうてぇてぇだぁ」


 酔っ払いである。

 マフデトはふと思い出す。神様と呼ばれる連中は、日本も世界も皆、びっくりするくらい酒が好きだ。そもそも神の飲み物、悪魔の水などと言われ、人を酔わせ溺れさせるそれら。


「ひなぢゃーーん、めっさ怒られるだけでよがっだねぇ……! ねー? まーふー!」

「くっつくなです」


 マフデトを抱き寄せて頬擦りをしながらカムイはそう言う。完全に酒乱のウザ絡みである。だが、ギリギリ作品の話をしているので、マフデトは話す。


「まぁ、昔の時代は獣だって闊歩しているし、ちょっとした怪我で死んでしまう。風邪だって死に至る病なのです。だからこっぴどく怒られるというのは当然なのです。愛なのですよ!」


 そう言ってマフデトは両手を上げて叔母であるルプスの決めポーズの『愛だ!』ポーズをとる。

 昔の格言、夜に爪を切ると親の死に目に遭えなくなる。例えばこれは、昔は小刀で爪を切っていたので夜中に手元が見えない状態で頸動脈を切って死んでしまった人がいる事から生まれた言葉である。


「スズメ、超江戸っ子なのです。知ってるのですか? 日本は昔から擬人化と、擬人語が多いのです。風情が好きなのです。袂スズメに関しても、可愛いと思う反面、作者の趣向が漏れる粋な奴なのです」


 ひなを取り巻く大人達。老人たちは元より、フェノエレーゼ、そして袂スズメと初めてのお使いのように保護者達がいる。安全とは言い難いが……


「しっかし、あれだね。小さい子を旅に出すなんて、可愛い子には旅をさせろ、獅子はなんとやらしょや!」

「獅子は子供を言葉通り、猫かわいがりするので、崖に落としたりしねーのですよ! というより、本作で語られている。このいつ朽ちゆくか分からねー村に未来あるひなを置いておくのは忍びねーのですよ。だって、このままだとじいさんもばあさんもひなには白いままの話でもしねーと行けなくなるのです」


 要するに花一匁である。奉公か、身売りかで座敷と天井と白い飯にありつけるか餓死かを秤にかけていたような時代である。


「まぁー、私ことカムイさんならそんなひなちゃんについていくかもなー」

「という事なのですよ。ちょうど、フェノエレーゼという信用に足る身なりのいい若い大人に預けた方が、同じ奉公先だったとしてもなのですよ。じいさん、婆さんは学はねーかもしれねーですけど、年食ってるのです。人生の棒振り方としては中々いい判断なのですよ」


 本作は昔話のような物語としての三拍子が揃っている。ひなとフェノエレーゼが出会う。フェノエレーゼは翼を失った。その翼を探す旅に出る。そしてひなが旅についていくまでの流れを一章とした。


「さて、いつから車内販売ってやつはなくなったのです?」

「コロナの影響らしいけど、あと一時間くらいして新大阪に入ればあるらしいよ?」

「そこでおりるんですよ! カムイさんはバカなのですか? 私は古書店『おべりすく』へ研修なのです! その間、お店はヘカ姉様を主任にしてメジェドとアリアに任せてるのですよ」


 安心安全だと思っているマフデトにカムイが一言。


「ヘカ姉様って、あの黒づくめのおかっぱの子?」

「そうなのですよ! てめーよりも雪のように美して、可憐な姉様なのです!」


 カムイは飲んでいる酒の酔いが醒めるような気がしたので、スキットルを小さいバッグから取り出すとその中身を缶ビールに混ぜてから飲んだ。


「何飲んでるのです?」

「知りたい? まーふー、少しだけ飲ましてあげよーね?」

「テメェ、私は未成年なんですよ! 酒なんて飲んでるシーンは色々とアウトなのですよ! 知っているのです? 昨今では少女漫画の二人乗りシーンですら色々と問題になるとかならんとか」


 難儀な話である。わざわざ、時代的な云々カンヌンと入れなければ不良がタバコを吸うシーンですら描けないのである。


「じゃ、じゃあまーふー! ひなちゃんが、フェノエレーゼと旅に出るというのは! 幼女誘拐!」


 うんうんとマフデトは頷きながら、


「なるわけねーのですよ! てめーはバカなのですか? それがアウトなら桃太郎なんて、鬼ヶ島を襲わせる殺人マシーンを育てた事でじいさんと婆さんは処刑されねーといけねーのですよ! それなんて死刑囚042なのです!」


 マフデトが興奮してそう言う。よく見るとマフデトはカムイを膝枕して頭を撫でて……


「まーふー、めんこいねぇ?」


 そして目を開けると、カムイは酔い潰れて寝ていた。マフデトはスマホでWeb小説を読んでいる。そして時折、スナック菓子に手を伸ばす。


「やっと起きたのです? くそ、やべー女の人外。カムイさん。新幹線も半分くらいは進んだのですよ。ちょうど、第一章が終わったくらいなのです。どうです? フェノエレーゼおもしれー奴なのです! 古書店『ふしぎのくに』に雇ってやりてーのですよ」


 カムイは少し、うーん。うーんと考えてから思った通りのことを言った。


「フェノエレーゼは、いい塩梅のツンデレだね。うん、まーふーみたい」

「誰がツンデレなのですか! と言いたいところですが、フェノエレーゼに似ていると言われるのは、やぶさかではないのですよ!」


 ふふんと胸を張りながら喜ぶマフデトを見て、パシャパシャとスマホで写真を何枚も撮影するカムイ。


「まーふー、フェノエレーゼはガチ妖怪だったねー!」

「白い烏。アルビノは神の使いだなんて、言われているのですよ! そして日本では烏は案外、神格の対象なのです」


 三本足の八咫烏なんて、三種の神器である。カムイが延々と喋っているのを聞いて、カムイは勝手にマフデトの写真をインスタに上げる。マフデトはふと気づいた。


「そういえば、てめー何しに新幹線に乗ってるのですか?」

「まーふーについてきた?」

『飛べない天狗とひなの旅 著・ちはやれいめい』実は、文芸部の連中が第一話がなろうで公開された時に紹介ギフトを切っていたのですよ。ちょうど完結付近になったところで、ようやく紹介が成功したのです!

 実はこのパターンの紹介、怖いところがあって、作品が非公開になったり作者さんがいなくなるという時なのですね。でも漕ぎ着けて良かったのです! なんというか韻を踏みつつも、物語は王道の優しさと時折じんわりさせられる本作を楽しむのですよ!

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