三月は去る、それを惜しみながら作品考察を
三月、焼肉に行った回数が7回。師匠ちゃんが行方不明になっていたので随分少なかったのですよ。二月は18回焼肉に行ったことを考えると、師匠ちゃん。絶対早死にするタイプなのです。やつは肉を主食に肉を食うタイプなのです。なのにご飯は小サイズなのです。
「まーふー! 脂身持ってきたよー!」
「またきやがったのですよ!」
お昼前からタイトなギャルファッションで店にやってきたシーサーは大量の豚肉、そしてラード。マフデトは専ら牛肉派だったが、豚肉を主食のように食べているシーサーの肌のハリは少しばかり評価できると思った。沖縄の強い日差しに潮風で本土よりも肌が荒れそうな気候の中で……
母屋の奥で眠っていたホットプレートを引っ張り出してきて今日は焼肉パーティーなのだ。
「うぉー! マフデトさん、ビール切らしとるわぁ! ちょっとワシこうてくるな! シーサーの姉ちゃんマフデトさんと留守番よろしゅう頼むわ!」
「アヌさー、まかちー!」
マフデトはこのシーサーと二人っきりにさせられるという事に猫みたいな目でアヌを見つめるが、そんなマフデトの表情を気にもせずに財布を持って古書店『ふしぎのくに』を出る。
するとシーサーがマフデトを見つめ。
「まーふー、二人きりねー?」
マフデトはシーサーにエロスイッチが入る前にこの頭の悪いギャルの相方について尋ねた。
「北海道のバカギャルはそういえばどうしたんですか? 死んだんですか?」
「カムイさーは、イオマンテーに里帰りーさー」
「そうなんですか? まぁどうでもいいのですよ。シーサーさんが持ってきてくれた豚さんのお肉は漬けにしてサムギョプサル的に食うのですよ」
シーサーはそれに良しとして、一口大に切り分けて、焼肉のタレとニンニク、オイスターソース、赤ワインを足した汁に漬け込む。
待っている間、シーサーの鼻息が荒くなるので、マフデトはスマホを見せる。
「『サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持― 著・玉屋ボールショップ』読むのですよー!」
神様ほどではないが、マフデトも朗読能力が高い。耳に引っかかるようなボーイズソプラノで読み上げられるそれはシーサーの敏感な部分をソワソワとつつくような気持ちにさせられる。
「この作者、大事な大事な役者。自分の子供達を平気でぶち殺すのですよ。これができるかどうかで作品ってのはその完成度が大きく変わるのですよ。私も一応、物書きなのでわかるのですよ」
そして、マフデトは続ける。物書きってやつは灰になるまで自分のしたい事を突き詰めていくのです。それで鬱々とした気持ちになったり、書けなくなったり、まぁ面倒くさい生き物なのですよ。と……
「あれねー、生存者の表示がゾクゾクするねー! まーふー、どうなるんだろうね?」
「それをこれから読むんですよ! ちゃんと野菜も切るのです! アヌ兄様はキノコ類が好きで、師匠ちゃんは魚介類が好きなのです! あっ! ジャージー牛乳切らしてたのです。師匠ちゃんに買ってきてもらわねーと!」
「玉城牛乳もおいしーね?」
「超うめーのです! でもアイスで飲む牛乳は世界一うめぇのはジャージなのですよ。アイスクリームにするなら六甲。バターやチーズにするならサロベツ。普段飲みは小岩井なのです」
いくら可愛いマフデトとはいえ、流石に牛乳が好きすぎて流石のシーサーもドンびいた。
「MKウルトラが出てきたのですよ! 知ってるのですか? 超、非人道的な実験だったのですけど、後の精神病治療に少しばかり役にも立ったのですよ。これは熱い展開なのですよ。まさに鹵獲した兵器を使うように、バーンズはミラを私兵にするつもりなのです」
ここまでを読んだ読者の中には、某シュミレーションゲームであるフロントミッションエンドを想像する者も容易いだろうし、この作者ならやりかねないという淡く黒い期待をしてしまう。
「実はこの作品、おもしれーのですけど、Web小説向きじゃねーのですよ」
「そーなぁ?」
「Web小説読者は一定以上のストレスに異様に弱い傾向があるのですよ。逆にそういうストレスを楽しめるのは、リアルな書籍で読書を楽しんできた連中でもあるのですけどね。この作品を読んでいると、いつか死ぬ為に生きている人間という者のちっぽけさを感じるのですよ……あぁ、私もテメェも人間じゃねーので関係ねーのですが」
三角巾をして海鮮とキノコ類を切っているシーサーは自分が人間ではない事を一瞬考えてからにへらと笑う。
「人類が滅んでもずーっと一緒だねー? まーふー!」
「いや、流石に勘弁なのですよ」
「ヴィクターバーンズは、わーしたちとも仲良くやれそーね?」
読者は皆思うだろう。バーンズのことはなぜか嫌いになれない。作者が憧れる、いやなりたい自分を描いたキャラクターなのかもしれない。実に魅力的で、彼のスピンオフを読みたいと心から思う。今後の展開に期待である。
「まぁ、どうなのでしょうね。天然自然のものではねー私たちはバーンズからしたら異物みてーなもんなのですよ、まぁでもこの店にきたらコーヒーくらいは出してやるのですよ」
アメリカの一部を焼き払った天撃。
『D.A.S.T.O.』
衛生兵器であった。レーザー、おそらくは電磁界焼却装置のようなものだろう。血が一瞬で沸騰して破裂する。まさしく非人道的な仕組みである。
「こんなもんぶち込まれて愛する家族を失えばまぁ、狂うのですよ。そしてやっぱり読者である私たちからすれば、バーンズは英雄なのです。悪夢となっても救えるものを救おうとしているのです……いや、たまんねーのですよ」
国のために従事、世界を救おうとした人は、人を止めることで世界を変えようというのだ。マフデトとシーサーは物語の登場人物ということを忘れて……
「本当の革命さー」
「そうなのです! これこそが、本当のテロリズムなのです! 私も人間の真似事をしてでも作品を紹介するかいがあるのですよ! こういう作品がパッと世に出てくるのです」
どんな世界でもそうなのである。光る物が見られる物や人が登場する。古書店『ふしぎのくに』はセシャトさんと共にその歴史を閉じるはずであったが、宇宙の拡大とも並ぶほどの速度で、この日本という島国では多くの作品が生まれる。であれば、やはり面白い物は紹介しなくてはならない、誰かが同じ歓声を持つものが同じ、いくえの音や景色を感想を楽しめるのであれば……
「まーふー! 続き! 続き読むんさー!」
「ようやくテメェも作品を心から楽しめるようになったのですよ! ミラはどうなるのです? カイルは? そして、現実的チートとも言えるバーンズは倒せるのですか?」
マフデトの獣の瞳が光る。
続きを読もうと……しかし、それを邪魔するのは来訪者。
「おーいー、マフ。肉持ってきたぞい」
マフデトは瞳を猫のようにしてその人物に「はーい! なのですよ」と声をかける。マフデトの数少ないマブダチ、師匠ちゃんがやってきたのである。
「うむ! マフデト、しっかり働いておるか?」
師匠ちゃんの横から首を出す神様。それにマフデトはあからさまに嫌な顔をする。そして新しい、ショタなのか、ロリなのかが登場したことでシーサーも興奮する。
「なんで神様、テメェが師匠ちゃんといるのですか?」
「なんかこのクソガキ、俺に茶たかって、なんかついてきた。何、こいつ? お雨の兄弟か姉妹か従兄弟か?」
「違うのですよ! 疫病神なのです! 毎日、私の店の売り上げから1000円を持っていきやがるのですよ!」
うわぁという顔を師匠ちゃんは神様に向けるが、そんな神様はホットプレートと焼肉の準備を見てから満足そうにいった。
「あとはビールが必要だの! これだけのメンツが揃っておるのだ『サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持― 著・玉屋ボールショップ』を楽しみながら食事と洒落込もうではないか」
神様はそう言って指を噛む。そしてパチンと指を鳴らした。母屋にいたハズなのに、一瞬でそこは作品内で激戦が繰り広げされていたエルシュ島らしい場所に変わる。
シーサーは驚き、師匠ちゃんは「んだぁ? 麻薬と催眠術か?」と面倒くさそうに言って椅子に座る。
「全く神様も母様も規格外の事を平気で行うのやめるのですよ。シーサーさんと師匠ちゃんドン引きしてるのですよ! 普通に作品を楽しむのです。映像作品、ううん、実写にもできるかもしれねーのですよ。例えば、どの俳優、女優があっているかとかなのですね!」
作品の構想、感想というものは自由である。こうであるといいなとか、こうじゃないだろうか? とかそれが的外れかどうかはどうでもいいのである。エンタメとしてその作品がどれだけ楽しめるものなのかが大事なのだ。
盛り上がり、脂身を引いて、肉を焼き始めたところでマフデトも忘れていたアヌが戻ってきた。ビールに牛乳に……と持って母屋へと戻る。
「うぉ! なんやこれ、あぁ! 神様の力か、ほんますごいなぁ! ここで『サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持― 著・玉屋ボールショップ』の考察とか熱すぎやろ! ほんまに」
驚くアヌ、その気持ちはわかるのだが、皆はアヌが鳥か何かの羽まみれである事に目が点になる。
「アヌさん、その羽はなんなのです?」
アヌは言われて自分が羽まみれであることを知る。それに少しばかり考えてから手をポンと叩いた。
「あー、そうそう。なんかヒノエさんか、フエノさんだか、エラい偉そうな兄ちゃんが降ってきて、そいつに道聞かれてな。そん時についた羽やろな? 変な兄ちゃんやったけど……ここにおる連中もそうやけど、どこにでも変なやつはおるっちゅーことやな!」
ガッハッハと笑うアヌはシメの焼きそば麺やら卵やらをホットプレートの前に置いて、そして肉を焼き出す。
「ほな、えらい大世帯になったけど、サヴァイヴの感想会始めよか! 焼肉食いながら、好きにやってくれや!」
ホットプレート焼肉は、それだけでテンションが上がる。高級焼肉店で食べる焼肉よりも師匠ちゃんとアヌさんは家のホットプレート焼肉の方が好きだという通。
『サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持― 著・玉屋ボールショップ』というハイスピードに場面が切り替わる作品を三月の終わりを感じながら夜がふけることを忘れて皆語り合った。
『サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持― 著・玉屋ボールショップ』タイトル負けしない内容。内容負けしないタイトル。道筋を作ってある作品として本作はその構成も評価できるのですよ。面白い作品ってのはやはり作者自身が読んで面白いという点が必要なのですよね。3月は毎晩、本作で皆盛り上がったのですよ!
この場を借りて、玉屋さんにはお礼申し上げるのです!




