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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第三章 『サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持― 著・玉屋ボールショップ』
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風呂にいると訳のわからない話をする事がある。

最近レーションの消費が多くなってきたのですよ。私はノマドなので家で缶詰になることも多いのですが、カップ麺とかのジャンクフードはあんまり食わねーのですよ。大体ウーバーイーツとか出前館とか使うのですけど、一人でいると食事をあんまり取らずにウィダーのプロティンバーとか齧って作業してるのです。

12本入りを十箱持ってたハズなのですが、残り四箱なのです。

 一緒に風呂に、そして一緒に寝ようとするシーサーをなんとか、成人しているアヌが諭して家に帰らせた。


「まぁ、セシャトさんは秋文くんに夢中やけど、マフデトさんは案外、年上の姉さんに夢中になるんかもな?」

「ならねーですよ! 私はアヌ兄様やセシャト姉様のような人が好きなのです! というか、シャワーしかねーので、銭湯に行くのですよ!」

「こんなところに銭湯あるんかいな? 東京は風呂文化やもんな! よっしゃいこか!」


 マフデトはお風呂セットを用意すると、アヌとマフデトの分の浴衣を用意して古書店『ふしぎのくに』を出て並んで歩く。


「なぁ、マフデトさん。昔はよくアイドルのファンとか、逆に嫉妬した奴がライブ中に硫酸をかけるっちゅー事件があったらしいで」


「完全にテロなのですよ! ミラ達を襲う濃硫酸の雨……考えるだけで痛ぇのですよ」


 強烈な酸化と強烈な脱水効果がもたらす火傷。皮膚に浸透するその痛みは想像を絶する。ただし薬品による火傷なので、できる限り早く流水を患部に長時間浴びせることで限りなく症状を緩和できる。


「ミラは女の子やな……正直戦場には女性の兵隊はあかんて」

「アヌ兄様、オリンピック然りで問題になるのですよ」

「アホかマフデトさん。そもそも、男っちゅーもんは女から生まれとんねん」

「は? どういうことです?」


 卵が先か、鶏が先かというお話であるが、人間は実は女性こそが最初の人であり、そこから男性形質が生まれたと考えられている。

 どこぞの宗教では男性を模して女性を神が作ったというが、実は逆。生物を広く見ても両性具有が見られるように、男性は女性の名残を確認することができる。

 男とは何か? 


 それは女が生きていく、生活をする上で、より強く、個を、種を守る為に生み出した強靭な人である。要するに、戦うことには当然、誰しもがわかるように肉体的にも遺伝子的にも男の方が向いている。

 男は女に比べて新しく作られた人間ということになる。更新型なので、生存能力が当然女性型よりも高い。

 

「知っとるか? 惨事が起きた時、女と子供を先ににがせ! って言うやろ? あれは種を存続させる為に男がもっとるセーブ機能。女性や子供を生かせば自分が死んでも種は生き残るってな。リッチー達の行動や、それにミラは心が折れとる」


 超兵であるハズ、少しばかり人としてのそれとズレている筈だった。

 だが、ミラはより人らしい選択をした。


「そこが……戦場っていうのが悲しいのですよね。あっ、ここですよ! 梅の湯なのです!」


 銭湯の扉をくぐると、マフデトは常連ゆえに券売機を使わずに番頭にそのままお金を払う。


「大人二枚なのですよ」

「大人一枚と子供一枚ね。マフちゃん」


 一応中学生のマフデトなのに何故か小学生以下の料金しか受け取られない……若干閉口しながら脱衣所へと入る。そこでアヌと二人、腰にタオルを巻いていざお風呂場へ!


「マフデトさん、もうちょい食わなあかんで! 痩せすぎやろ」

「毎日牛乳と牛肉を食べてるのですよ! つーか、師匠ちゃんが買って来るのです」

「あー、あの偉そうなクソガキか……」


 アヌと師匠ちゃんは犬猿の中である。誰にでも優しいアヌが眉間に皺を寄せてかけ湯をした。

 ちゃぷんと風呂に浸かる。マフデトは週四でくるこの銭湯。気持ちよく体から疲れがなくなっていく。


「ほふぅ……気持ちいいのですよ」

「熱っ……ちょい熱めやな」


 しばらく二人、目を瞑りながらふやけるような感覚に身を委ねる。そしてアヌはゆっくりと話し出した。


「カイルがやたらとクソ漏らしって言われるやん?」

「はいなのですよ」

「戦場で、それも戦闘中にもよおしたら普通は漏らすねん。悠長にトイレ行く暇ないやろ? そんなんしてる間に狙撃されて殺される。せやから、普通の事やねんけど、アメリカ人はすぐに人おちょくるからな。リアルな描写やで」


 普段のお湯よりも熱い温度の湯船にも慣れたところでアヌはゆっくりと話し出す。


「スナイパー同士の戦いって実際は中々、起きないねんけどな。混戦した時とか、遊撃部隊を殲滅する時とかはには起きうるねん。史実でも何回か起きとる。これまた地味な戦いや。待ち一択で行くか、狙撃場所に目星をつける。索敵、狙撃。高すぎると風でぶれるから狙撃場所探しが案外重要やな。だから寝っ転がっての待ちも悪くない。待ちで三十人以上狙撃したスナイパーもおるからな。ただ、地味や」


 アヌがそう言うが、風呂が気持ち良すぎて、マフデトはジップロックに入れたスマホを見ながら「そうなのですね」

 と適当な返事をした。そしてマフデトはそのまま物語の考察に入る。


「バーンズは変な食癖を持ってるのですよ」

「あぁ、あれな? バーンズだけちゃうで……不思議な事にアメリカ人は食に願掛けする奴って多いねん。長時間起きておくのに、火を通さない物を食べるとか……ビーガンやら、原始食やら、食べる事へのなんらかの信仰があるんやろな? まぁ、バーンズ、野生生物の生はやめとけ、病気になるぞー」


 このアヌさんの最後の台詞はミーティング中に言って皆を大笑いさせた台詞である。関西の人はよくこう知り合いみたいに語る面白さがある。


「ワニの生ってササミみてーな感じなのですかね? ワサビで和えたらうめぇかもしれねーのですよ! 鳥わさならぬワニわさなのです」


 お風呂に長く浸かって話しているとのぼせてきて、訳のわからない事を言い始める。そういう時は一度湯船から出て体を冷やすに限る。これらを繰り返すと自律神経が整う。


「おっしゃ、じゃあマフデトさん身体洗おか?」

「はいなのですよ」


 二人並んで腰掛けに座り、マフデトの背中をアヌがゴシゴシとボディソープをつけたタオルで磨く。そしてアヌが次は背中を見せるので、マフデトがアヌの背中を磨く。


「ぶっちゃけあれやな。フィオラの射撃の後にしゃしゃり出てきたカイル。人によってはブチキレやろうな」

「師匠ちゃんなら戦争なのですよ」

「ははっ、あいつめっちゃ短気やもんな。でもまぁ、男と女の関係は嫌いから好きになったり、カイルもまた思うところがあるから絡んどるっちゅーのがようわかるな」


 フィオラ、彼女にとってカイルという狙撃手がいかに大きな存在であるのか、そしてそれは愛憎ではないなんらかの感情に変わる。


「不器用な奴、それとも面倒くさい女っちゅー事やな」

「また問題になりそうな言葉を使うのですよ……でもフィオラはもう少し楽になればよかったのですよ。そうすればこんな風な形で再開することもなかったのです」


 ドールズであるカイル、そしてそのドールズが殲滅を目的としているヴィック・バンに所属しているフィオラ。結果としてはお互いの銃口が当然向き合う事になる。

 ざばんとお湯をかけて泡を落とす。そして十分にクールダウンしたので、再び湯船に浸かりアヌが話し出した。


「偉業やテロリズムに理由がある。これに関してはマフデトさんはどう思う。あぁ、マフデトさんの考えでいいで」


 アヌはたまに答えのない質問をしてくる。

 本来テロリズムとは広い意味ではクーデター、戦争などを含む政治的意味合いのある武力行使であり理由ありきの名称なのだが、現在のテロリストという連中は思想はあっても理由や意味はない。


「宗教を大義名分に掲げる連中というものがいるのですが、あれは完全に自己満足の世界であり、言ったもん勝ちの暴力行為なのです。そして偉業……これにしても広い視野で言えば理由というより自己満足なのですよ。わがままを通した奴が結果として認められたのです。そうですね……この両方を持ち合わせた人間を一人あげるのですよ……第三帝国元首だったアドルフ・ヒトラーその人です。自分の絵画才能がない事に絶望し、ちょうど社会も腐っていたことでなんの意味もない街頭演説を繰り返し、気がつけば技術大国で総統、そして未来の世界では世紀の大悪党なのです。何かが起こる時ってのは、大体良い方も悪い方もなんらかの歯車が重なった時なのです……理由や意味は後からついてくるのですよ」


 補足をすれば、本作に書かれているように、最初から意味や理由を持たせた偉業や政治行為、武力行為は行われてきた。しかし、多くのそれらは偶然であったり、突発的に起こる事の方が圧倒的に多い。高度に発達した知能を持った我々人類はそれを時として運命などという使い勝手のよい言葉で片付ける。


「このキングのいう殺戮人形の矜持についてもか?」

「それは本人によるところなのですよ。ただし、矜持を持たせたいという事はその存在に関して深く考察した結果なのですよ。結果であってそれは過程としての意味や理由には値しないのです。いや、したとしてもそれは付加価値でしかねーのですよ」


 現実に目を背けずに考えて欲しい。


 そしてここまで長々と書いて矛盾を語ろう。自己満足、わがまま、もはやそんな形のないものですら理由となってしまうのが社会という物なのだ。本作を政治的側面から覗き込むことでより、ドールズという組織、あるいは個体の政治的価値の高さが垣間見れる。

 ややこしい話になってきたので、マフデトとアヌは風呂から上がり、自動販売機でフルーツ牛乳を購入……


「アヌ兄様、私は普通の牛乳でいいのですよ! コーヒーだとかフルーツだとかに牛乳の崇高な名前を使って欲しくねーのですよ」


 大のギュー二ストであるマフデトはコーヒー牛乳やフルーツ牛乳を飲まない。そんなマフデトにアヌは「さよか」と言って牛乳キャップを外した瓶をマフデトに渡した。

 腰に手を当てて二人並んでクイっとのむ。牛乳瓶特有に丸い牛乳の跡が口の周りにできてそれをお互い見合ってしばし笑う。


「続きは仮眠室か?」

「そうなのですよ!」

「せやったら、夜食をコンビニでこうて帰ろか? 次から盛り上がってくるところやからな!」


 夜中に夜食を食べながら語るWeb小説はこたえられない。それにマフデトは反対する理由はなかった。

『サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持― 著・玉屋ボールショップ』本作は作品内容の中から感じる。世界観の闇というか、周囲の環境というか、B級映画にアサイラムという映画作品があるのですがこれがお金をかけない分。人間関係の話がよく続くのですよ。正直突っ込みたくなるような部分もあるのですが、人間関係で作品世界を表現するという手法に関してはこのアサイラムシリーズも大したものです。それと同じで、本作の人間関係から読み取れる政治的意思決定が実に読み応えがあるのですね!

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