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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第三章 『サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持― 著・玉屋ボールショップ』
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強制的に作品の矛盾を消す方法 固定観念の崩し方

私たちの使っていたクラウドが驚く事にダウンするという驚愕の事件が起きたのですよ。大部分のデータはシステム部が持っている。ローカルに保存できる記憶装置内に保存しているのですけど、みんながリアルタイムで更新する情報はそこから閲覧や更新をしていたので、まぁ面倒な事になっているのです

 プシュっとオリオンビールを持ってきてそのプルトップを開けたアヌ。


「なんやダンタリアンの姐さんはオリオン派なんか?」

「母様はハイネケンなのです。オリオンビールはシーサーさんが勝手に持ってきて冷蔵庫に入れてたのですよ」


 オリオンビールという名前を聞いて、仮眠室で寝かせていたシーサーがガバッと目覚めて扉を開ける。


「シーサーんぬむんさぁああ! ぬーがうちまみちゅくいさぁ!」


 また何語を喋っているのかとマフデトは思うとアヌが一口飲んでから言った。


「おっ! ほんまか! せやったら、あれ喰いたいな! ソーミンチャープルとか、ゴーヤの炒めもんとか」


 そんな材料ないなと思ったマフデトはスマホを持ってアヌとシーサーに言った。


「必要な物適当に買ってくるのですよ! あと晩御飯の買い出しもしてくるのです」

「ほんまか? 金出すで、これ持ってき」


 アヌはそう言うマフデトに一万円札を渡そうとすると、マフデトはスマホを見せる。


「今は神保町でもこの辺は全部スマホ決済のがお得なのですよ! クソ人類共がクソウィルスを撒き散らしてくれたおかげで、どこのお店も自粛なのです」


 そう言ってとととと、古書店『ふしぎのくに』から出て買い物に行くマフデト。そのマフデトを恨めしそうに見るシーサーにアヌは言った。


「とりあえず呑んで待ってよーや!」


 そう、それはアヌの失言であった。

 シーサーは目を輝かせると、カバンからドンと一升瓶を取り出した。


「ちゃたんぬまーやぁー!」


 知る人ぞ知る北谷ちゃたん泡盛。シーサーは沖縄から来た人外のJKである。

 そう……JKである。


「よう考えたら、シーサーさん、酒呑んでえんか? いや、その……色々とアレ的に」


 そう言うシーサーはグラスに並々と入れた北谷にロックアイスを入れてグビリと一献。


「あれよ? 女学生の時に飲まなければいーさ! 今はうちなーの守り神よー」


 酒が回ると訛りが随分取れるのかと、アヌは年齢に関して気にしない事にして、オリオンビールの缶をコツンとつけた。


「さよか、ほな乾杯! から、読んで行くでぇ」


 シーサーは泡盛を煽りながら、自分のジャラジャラと色んな物がついたスマホケースを取り出してアヌと同じ物を見る。そしてそこでつぶやく。


「この作中の映画はメメントなー? フォアゴットンなー?」

「多分メメントの方ちゃうか? 後者はとんでもないB級やからの。あの作品を知っている読者ならこう思うかもしれへんな。カイルの記憶ははたして正しいのか……ってな。そもそも、あの映画よくわからん終わり方しよるからそれがカイルに当てはまるか、といえばまたちゃう話なんやろけどな」


 本作を一言で表す、あるいは、構造主義を学問としてかじっている者からすれば実に興味深く惹かれやすい作品となっている。

 要所要所において、一つの塊としての情報が配置されており、作品を単純に楽しむ、そして構想、批評する中で、全く違う場面に変わりそれが繰り返される。


「暴力と性描写は盛り上げに欠かせないというけど、読者を置いてきぼりにしつつ読ませるのがこの作者は上手いのぉ」


 アヌの一言。

 裂けるチーズを小さく割いてから上を向いて飲み込むようにシーサーはそれを食べる。


「性は人生の短縮系、そして“さが“とも言うから飽きから離さない構造が組み込まれてるんさー」


 そしてなみなみと北谷を再び注ぐ。シーサーは空になったアヌのオリオンビール蓋を缶切りで開けてそこに北谷を注いだ。


「この作品はスタートダッシュが遅いーね?」

「スタートダッシュ……あぁ、読ませ方な? いや、むしろ始まりに突然のミッションを入れるやり方は間違いではないで、Web小説としては確かにちょっと遅いけど、中身のある小説っちゅー話であれば間違いない。ジョンの手記が二人称ちっくになっている事。それらは伏線なんか? それとも深読みを誘ってるだけなんか、それだけでも前ふりが長い分、読ませてくる」


 B級映画にアサイラムという日本人には異様に人気の、いい意味でクソ映画を作ってくれる映画会社があるのだが、そこは前ふりが延々と終わらない。※そこが笑いのポイントなのだが


 これが小説なら疲れる小説、要するに説明が長いという物である。


 前ふりと本編を繰り返す、SF作品、スタートレックやスターウォーズなど、前振り、本編、そしてまた前振りと、少しばかりダレる部分も出てくるが、その前振りには最終的に意味がある。


「たとえば、バーンズが潜んでいる場所に関しての緊張やストレスを表すシーン。喫煙も食事も、悪態も全部、ストレスや……でワシ等はふーんという頭で読んどったらビックネームや! ケネディ殺害の子孫ちゅーパワーワード。ほんまこの作者えぇところせめてくるわ」


 わかる人からすれば、あぁ、ここで盛り上げてきたかとそう感じるだろうし、そう思わせている。何故なら……


「そーね! このドールの設営は間違いなく民主党政権下で作られそうなんさー、ケネディ殺しは、民主党員殺し……要するに裏切り者。ははー、よくできてるねー!」


 泡盛を水でも飲むようにカパカパ飲み込むシーサーだが、物わかりは随分よい。歴史に関して、元アメリカ統治下にあった沖縄だからなのか、アヌはWeb小説好きと話す時とは別の面白さを感じていた。

 ハーヴに関しては考えすぎかもしれないが、他のドールからも稀有の目で見られることは辻褄が合っている。


「ほれ見てみぃ、この作者はほんまにやってくれるで、バーンズの弱点や、こんなん普通えがくか? いや、むしろ深いねん。えぇ、ワシも文章書くから正直嫉妬するわ。引き出しというよりは、読ませる自信があるからやな」


 おそらく、バーンズという男に対して読者は悪のカリスマとしてのイメージを固めつつあった。が、いきなりそのイメージを崩しにくる。はっきり言おう。


 幻滅した。作者に? 


 ではない、バーンズという男に……そして作者にはしてやられたと思った。

 そりゃそうだ。人間だもの、どんなサイコパスであろうと実際は良心を持っている。そしてバーンズはあまりにも我々に身近に感じてしまう。


「ほれ、ご褒美は甘いお菓子にミルクや。マフデトさんが喜んで仕事手伝うんちゃうか? てめーやりやがるのですぅ! とか言うてな?」


 マフデトは牛乳を三度のめしにするくらい大好きなのだ。それにシーサーもクスクスと笑う。


「まーふーが悪いことに手を出したら、お尻ぺんぺんさぁー!」

「お尻ぺんぺんで済むんかいな?」


 ショタコンであるシーサーはそれ以上のことを考えてにやけ、そして北谷を煽る。一升瓶を半分ほど飲み干す。お酒がそこまで強くないアヌは舐めるように口の中で転がして、その甘みを楽しみながら、こんな酒を水のように飲む沖縄県民は化け物だなと苦笑した。

 アヌはマフデトがいないから少しマニアックな話をシーサーに語った。


「この作品、狙撃手の一手が使えへんねん。知っとるか? カウンタースナイプってやつやな? 相手にストレス与える地上部隊において重要な戦い方や。せやけど、敵は恐怖も何も感じへん兵器やな。そうなるとスカウトスナイプ。カイルにハーブみたいな奴らやな? 本来はこいつらの補佐や護衛がおって成り立つねんけど、こいつらは強化人間や、単独でやりよるんやろ」


 スナイパー、イメージ通りの仕事をするのがこの二人である。人間相手であればハートショット、そしてトドメのヘッドショット。

 恐らく本作の主人公はイラク戦争の英雄がモデルになっているんじゃないかと思われる。成り立ちなどから類似点が幾らか見つかる。


「狙撃銃は火力も高いんさ、恐らくフルサイズ……以上を使ってるんだろうねー」


 一般的な訓練された人間が一キロライフルと呼ばれる兵器で言葉通り、一キロ先を狙えるという。二キロ先、三キロ先などの記録は存在しているが、ほぼ当たらないと思った方がいい。弾丸の大きさ、威力、精度、そして天候に左右される。が、本作はドール。強化人間である。天候の左右までは難しいかもしれないが、人間が扱える限界を超えた威力にフルサイズを超えた現実存在する23mmバレット。

 これを扱えれば


「五キロ先くらいは狙撃範囲になるやろな」

「人型兵器の時速が三十キロとしても確実に落とせるねー」


 二人いるので装填、次弾発射を計算してシーサーが答える。本作は、ねーよ! できねーよ! という部分を全て、強化人間だからで片付ける事ができる。そこを排除すると、ストーリーに対する強制的辻褄が合う。それによって彼らドールはどの装備であれ、そういう物だと気にならず作品に没頭できる。


 さぁ、次だとアヌに、シーサーが思った時、からがらんと古書店『ふしぎのくに』の扉が開く。


「ただいまなのです! “おかえりさない“を言って欲しいのですよ!」


 そう、現在の店主。マフデトが帰ってきたのである。彼は牛乳を二本、そしてゴーヤに高野豆腐。さらにはスパムも買ってきた。そうめんは念のためにそう麺つゆもある。

 アヌとシーサーが出迎えて……


「マフデトさんおかえり」


 とアヌがマフデトを撫でて、


「まーふー、偉いねぇ? 買い物一人できたねー? かわいいねー?」


 そう言ってシーサーがマフデトを抱き寄せて頬擦りする。

 それにマフデトはあからさまに不快な顔をする。


「くっせー! すげぇ、酒臭ぇのですよ! さっさとヤンバルの森に帰れなのです!」


 マフデトがそう言うが、シーサーはエプロンをつける。身体のラインがよくわかるその姿で、マフデトが買ってきた材料を受け取るとウィンクした。


「本場のソーミンチャープルとゴーヤチャンプル作ってあげるね!」


 マフデトは「頼むのですよ」とそう言って、ふと気付いた。シーサーがまともに喋っているのです。それに少し考えてからこう呟いた。


「ん? あの方便はキャラ付けなのですか? ほんと、キモいのですよ」

『サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持― 著・玉屋ボールショップ』はどこまで読まれたのでしょうか? この作品は古き良きアメリカの時代を感じさせるのですよね。強い欧米というのは元々、魅力的であり、夢があったのですよ。最近は日本かぶれの欧米映画が増え、それに伴いなのかは分からねーですけど、保守的なアメリカやイギリスが現在の世論なのですね。作品の中くらいでは理想の世界を楽しみたい物なのですよ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 読んでいてなかなかギクリと思わせる部分がありました! ありがとうございます!
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