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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第二章 短編集特別編第二弾
18/126

『ロボっ娘メイドHES0930ヘスさんと僕 著・永久凍土』二月は逃げるのです

気がつけば二月は終わるのです。セシャト姉様がそろそろ体を温めてアップを始める頃なのですよ。私のリストラ……こえーのですよ。

 朝、本来は清々しいハズなのに……


「うぉおおおええええ!」


 化粧室で、朝から嘔吐を繰り返すレースパジャマのセクシーな女性。ピンクの長い髪。獣のような縦割れしたパープルアイ。紛れもないマフデトを生み出した大悪魔。

 ダンタリアン。


「母様ぁ……もう酒は飲むなですよ! 弱ぇのですから……」

「大丈夫、大丈夫! おうぇえええ! お酒は吐けば、強くなるんだからぁ……」


 マフデトは母屋でスヤァと寝ている神様にイラつきながら、ダンタリアンの背中をさする。そしてペパリーゼとウコンの力、太田胃酸を飲ませて、胃痙攣が治るのを待ってから言った。


「さっさと帰るのですよ! クソがっ!」


 スッキリした顔でダンタリアンはスマホを見せてからこう微笑んだ。


「マフちゃん、せっかくアタシが来たんだから、今日は母子水入らずでゴハンでも食べよーよー! ホラァ、お袋の味!」

「ウーバーイーツで運ばれてくる食い物がお袋の味だったら子供グレるのですよ」


 古書店『ふしぎのくに』の開店準備を始めていると、ダンタリアンはセクシーなパジャマを脱ぎ散らかして、いつもの制服に袖を通す。そしてカウンターに座る。


「うはー! なつい! ここ、元々アタシの店だったんだぜぃ」


 そう、一番最初の古書店『ふしぎのくに』の店主はこのダンタリアンなのだ。カウンターのパソコンを操作しながら、ダンタリアンは話し出す。


「へぇ、これ面白そうじゃん。『ロボっ娘メイドHES0930ヘスさんと僕 著・永久凍土』だって、マフちゃん。これ読んでティータイムのつもりだったんでしょ? アタシとよもーよー!」


 面倒な事になった。マフデトがオヤツの時間に楽しもうと思っていた作品なのである。


「男の子の夢、メイド型アンドロイド。しっかし、黒髪ぱっつん、大友君みたいだね。童貞を殺す少年、及び服。ちなみに、この表現されているメイドは日本オリジナルらしいね」


 メイドアンドロイドを貸し出しのような形で手に入れたヘス、ロボっ娘だから一応。彼女と言うべきか、その商品のパンツを見たいと言う主人公の性癖について、それを面白いアプローチで展開する本作。


「あはは、全く男というものは実に愚かで可愛いものだね! まーふー! これは所謂、狂言、落語みたいな物だね。主人公の妄想と欲望の指示に対して、面白いくらいに外れた回答をしてくれる……これはあれだね。SiriやAlexaがわけわからない返しをするアレに似ているね」


 ダンタリアンが独り言のように話す中、いてもたってもいられなくなったマフデトが話に割った。


「これはギャグもおもしれーのですけど、そこよりアイザックアシモフのロボットの行動倫理三原則について、面白い視点から切り込んでいるのです」


 AIという物がまだ人工無能実験構想くらいの時代の為、陽電子回路なる設定でアシモフは作品を書いていたわけだが、作家であるアシモフも自分の作品設定に関して当然矛盾を理解していた。彼はその矛盾を逆手に取ってミステリーなども手がけていたが故に後世もこれらはロボット工学においてしばし語られる。


「ふむ、ではマフちゃん、じゃあ愛玩用メイドロボットを最初に言い出した作品は何か知っているかい?」


 アイザックアシモフのロボット三原則は? と言うと大体が皆、ある程度答えられるだろう。が、この質問をすると、大概答えられない。


「令和殺しの質問なのですね? 実際……私は知らねーのですよ」


 そもそも、あのお帰りなさいまでご主人様のメイドが主流になったのは極々最近である。


「1997年のトゥハートのマルチだろうね。ただし、従事用アンドロイドとしては1994年ヨコハマ買い出し紀行のアルファあたりかな。これはマフちゃんの書いている作品も影響を受けているよね? ちなみにスペースコブラのレディというのは無しね」


 もっと古い、SF作品にも従事用ロボットとして近い物は出てくるが、しっかりとした背景はここいらである。


「知らねーですよ。そんなの。それに関係ねーのです」

「いやいや、そうでもないんだよ。この作品でも書かれているでしょ? アンドロイドを相手に情欲を満たしたとして、それが後々の犯罪につながる。第三者への危害を加える可能性があると、ヘス君は導き出したのだよ。大規模データベースからの結論選択。これは人工知能ではなく、人工無能って奴さ、可能性の解答。しっかりとロボット三原則を守ろうとしているんだね」


 要するにチャットボットなどが、人工無能と呼ばれている。所謂人型機械、アンドロイドという物は考える力、人工知能と、そして幅広い知識ソース、人工無能が本来備わっているのである。


「母様は、一応そっちの知識も豊富だったのですね」

「まぁね。むしろ、人工知能だけだと逆にロボット三原則に対応しきれないのよ。人工無能による命令系統が必要なわけさ、しっかりとしたヘス君の配慮と対応は、メーカーの手の上なのか、結果として、主人公の願いは成就されないね。そんなこんなでも主人公とヘス君の共同生活は始まるのだ。実にいい。かぶいている作品だね」


 話の盛り上げた方として、被せというものがある。同じような展開を続けて興味を誘ったり笑えたり、恐怖したりするアレである。


「性癖に答えてくれるセクサロイドってのは、一応別枠なので、このメーカーの行動は正しいのじゃねーですか? しっかし、主人公は驚くべきチキンなのですね……まぁ憎めないテンプレ主人公なのですよ」

「唐突に三原則が出てくるのがいいね。アタシなら詳しくはぐぐれと書いちゃうよ。そういえば、ホプキンス教授あたりが、無人機の兵器を作っちゃダメって言ってたけどさ……アメリカは作ったね。無人爆撃機」


 今現在のロボット三原則というのは兵器転用するなというアレだが、当然そんな事を守ろうとするのはお気楽な日本だけで、各国人間に危害を加えるロボットを目下開発中である。本作のように、ロボットという物は人間のパートナーであっても広い意味で人間を傷つけない物であって欲しいとそうダンタリアンはマフデトに少しだけ社会勉強をしてから続けた。


「あれだね。この作品は、アイザック・アシモフの作品を今風にした感じだね。要するに、三原則の矛盾をつこうというのだろうね。実に読んでいて清々しいし、楽しいよ。邪な事に情熱をかける愛すべき馬鹿はいつの時代も必要さ」


 本作は、真剣に馬鹿な事をしようとしているのだが、実際人間の、特に日本人の男子には割と多い行動なんじゃないかともダンタリアンは語る。


「世界規模でいると、日本人男子は恋人を作るのが下手すぎるんだよね。そして性の代価処理をする方法が多い。主人公は気になる人に近いアンドロイドのパンツを見る事にニッチであり背徳的と考えているけど、リビドーの昇華としては至って普通なんだよね。ヘタレ男子なら誰でもやるだろうね」


 めちゃくちゃ世の日本男子を敵に回すような事をダンタリアンは炭酸飲料を飲みながら淡々と語る。

 やべー空気を感じたマフデトは話を進める。


「物語は動き出すのですよ。コンビニへの強盗なのです。そこでメイドロボットのヘスは強盗を迎撃するのです。みんな馬鹿みたいにロボット工学三原則について考えているのですけど、あれは作家の設定でしかなくて矛盾だらけなのです。守れるわけがないのですよ。本作のヘスも矛盾を持ってして人命救出を行ったのです。そして主人公は念願のパンツを見れたのです」

「ボクサーパンツだったけどね。アンドロイドって今ならLinuxがメージャーな少し古い名前を使っていたから可能性の一つとしていたけど、男性型人型自動機械だったわけだ。というか、女性型ロボットという概念がそもそもなかったからね。ロボっ娘の娘は男の娘から来ていたんだってさ」


 これは突っ込んではいけない。ロボット三原則の矛盾に並ぶ。大きな矛盾なのだ。もしかすると、落語的に進む本作はそこもかけているのかもしれない。あえてアンドロイドの語源について語っている為、後者が濃厚かもしれない。


 娘という文字単独と、男の娘という三字によるスラングの意味は絶対にイコールになり得ない。ロボっ娘では男の娘になりえずこれはガイドノイドに当てられる名称であると言える。


「まぁ、ロボ男の娘だと最後のオチがバレるからやむなしなのですよ。だから最近は人型機械のことはヒューマノイドだなんて言われるのですよ。結果性癖をぶっ壊された主人公はまんまと男の娘萌えと落ちて行くのです」


 本作は、コメディとして物語が進むが、実のところとてもしっかりとロボット三原則について古典にも近い展開でわかりやすく話が進む。ロボットの優先順位が同時に違反に反発する際の行動など、人間の為に働くロボットの行動、とても優しい作品である。

 そしてマフデトも男の子。ロボット物はとても好きだ。


「ちわー、コーヒー宅配でー!」


 ブックカフェ『ふしぎのくに』からホットミルクとケーキの宅配サービスをマフデトはおやつに注文していた。そこには可愛い自分が好きだからとメイド服に身を包んだ大友少年。

 そして重工棚田のノベラロイドのメジェドが宅配研修についてきていた。


「マフちゃん、本作読んで雰囲気出そうと二人を呼んだなぁ!」


 ダンタリアンがイタズラっぽくそう言うので、マフデトは閉口する。その通りだ。身近なところに男の娘と女性型の人型機械端末がいれば呼びたくもなるだろう。それを二人に伝え『ロボっ娘メイドHES0930ヘスさんと僕 著・永久凍土』を読むと大友が、


「へぇ! アンドロイドって男の意味だったんだ! じゃあメジェドさんはガイドノイドなのか?」

「否、ノベラロイドです。また現実に女性型のアンドロイドという物が発表されますが魔女という語源の逆概念に近いです。魔女は男でも女でも魔女と言います。ガイドノイドという物も同時期に生まれたわけではなく、ジェンダーに厳しい日本以外の世論から棲み分けの為に作られた後々の創作造語です。かつては生体に機械を取り付けた存在をアンドロイドと呼称されていた次期もあり、この場合は相当するでしょう。しかし、そもそもロボットに性別という概念は存在しないので、人のような物。という言葉であれば実際どれでも構わないのでは? ロボっ娘をアンドロイドに当て嵌めても、矛盾の矛盾が生じ、なんら矛盾はあり得ません。結果、ダンタリアンさんの解意への正当性は認められず、それが負の場合。男の娘仕様のアンドロイドにロボッ娘という名称は正あるいは負ではないと考えられます」


 数々の作品を読み続けてきたダンタリアンも、マフデトも、そしてそんな人外の連中と付き合うようになってWeb作品を読むようになった大友も、大きなオチを聞いて唖然とした。


 確かに、ロボットに性別は存在しない。それに思考がフリーズしている古書店の二人の代わりに大友が言った。


「ロボットのメジェドさんが言うと、まさにロボット三原則の矛盾だな」

『ロボっ娘メイドHES0930ヘスさんと僕 著・永久凍土』

私も人型機械端末が主人公の作品を書くので本作はとても楽しませてもらったのですよ。アイザックアシモフのロボット三原則は解釈一つとっても創作物としては優秀なのです。それ故色々な方面からのアプローチができます。感情の数値化というものに、性欲などの分泌をどの世にデータとしてフィードバックするか、そういう領域に入ってきているのです。性と戦争への興味はいつも技術を発展させるのです。そういう意味では本作は本当に為になるのですよ!

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