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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第二章 短編集特別編第二弾
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第四話『ハーバリウムの中で蝶に憑かれた君と僕は 著・成瀬雪』シエスタにて

私たち、第三世代の話をするのです。コーラが大好きな師匠ちゃん、牛乳が大好きな私、そしてマテ茶大好きなレシェフさん。よく三人でWeb小説の勉強会をするのですが、飲み物の趣味が合わない私たちですが、お菓子の趣味は合うのです。チョコ菓子とチータラ大好きなのです。

 マフデトはお昼ご飯を食べて満腹で満足、芝生に寝転がりながらシエスタでもしようかと思っていた。するとマフデトの横に座る何者か?

 目線だけ動かすと、文庫本でも持った文学少女だろうかと思いながら、彼女の持っている本を見てこう言った。


「クロード・アネの『うたかたの恋』なのですね。渋いのです」

「……私が見えるの?」

「は? 頭沸いた女なのですね。どうせそのうたかたの恋、何度も読み返した口なのでしょ? 私が少し、食休がわりにおもしれぇ話を教えてやるのですよ」

「面白い話?」

「『ハーバリウムの中で蝶に憑かれた君と僕は 著・成瀬雪』スマホを出すのですよ!」

「スマホって何?」


 マフデトは、今時分といえど、スマホを持っていない若者もいるのかと仕方がないので、静かに銀色の鍵を取り出すとマフデトはこう言った。


「仕方ねーのですね…… хуxотоxунихуxакутоxуноберу(Web小説物質化)!」


 何もないところから本を取り出した。そしてそれを渡した。そして、それを最初に読んだこの少女が言った一言。


「蝶か、蛾の公害にこういうのがあったわね」

「おぉ、知っている口なのですねてめー! 毒がありそうな蛾よりも、実は人体に問題を起こすのは蝶の方が圧倒的に多いのです。本作の作者の物語は、謎の奇病。胡蝶症候群を患った子供と、そのサナトリウムから物語は始まるのですよ」


 ボーイミーツガールから始まるのだ。それは物語としては当然に、そして、期待と、何処かしら感じる少しばかりの不安と共に……


「胡蝶症候群、やはり病気だからその名前がついたのかしら? それとも……」

「恐らく、てめーが考えている事と胡蝶は繋がらねーのですよ。考えすぎなのです。多分、語呂がいいからなのですよ。しかし、私のお店ならティータイムでも楽しめるのですけど……しゃーねーのです。水筒に入れてきたカフェオレと森永のミルクキャラメルでティータイムなのです!」


 マフデトは少女に水筒の蓋。コップ部分を渡すとミルクキャラメルを四粒程渡した。


「ありがと……」

「森永のミルクキャラメルは並のお茶請けより、コーヒーに合うのですよ」


 もむもむと食べながら話を続ける。


「マフィンって生菓子なの?」

「おそらく、ひまりが言っている生というのは、洋生の事じゃねーのですよ。作りたて的なそういう意味じゃねーのですか? しっかし、子供のくせに色気付いてやがるのですよ!」


 ゆうりとひまりのティータイム、微笑ましいその様子をマフデトはそう言うので、文学少女は笑ってしまった。


「あなただって子供じゃない! ふふっ」

「うるせーのですよ! 四歳で悪ぃですか?」


 四歳とマフデトは言った。文学少女はそれが冗談か何かだと思って聞き流していたが、マフデトはセシャトと同じ四歳。水筒のコップに入ったカフェオレを飲みながらポイポイとキャラメルを口に放り込む。


「貴方は紅茶って飲んだことがある?」


 まさかの質問にマフデトは驚くよりも馬鹿にしているのか? という風に文学少女を見る。


「これでも、ブックカフェを営んでいる兄様がいるのですよ。そして私の尊敬する姉様は茶器コレクションをしている程、お茶が好きなのです」


 セシャトさんのリアル茶器コレクションは凄い。それ故に、マフデトもそれなりには紅茶の事をよく知っている。


「ゆうりは茶葉を回して淹れてるんじゃねーかと思うのですよ。物によっては茶葉がゆられないポットもあるのです。そういうポットは紅茶を入れるには不適切なのですよ」

「貴方は詳しいのね。洋服もお洒落だし、どこかお金持ちの家の子?」

「は? これは中学生の制服なのですよ。てめーはばかですか?」

「ふふっ、もしかしたらばかかも」

「自分を卑下するなです! それは一番のばかやろうなのですよ。さて、この物語が面白くなってきたのですよ。タグで管理された人間。ゆうりは800番台だとい言うのに、ひまりはファーストナンバーなのですよ」


 そう、三話目にしてようやく物語にエンジンがかかる。三話目の法則という物がある。三話目まで読んで作品を読み続けるかどうかを考えるというあれであるが、それを狙ってかどうかは分からないが、ここで読者の興味をついてくる。当然と言うべきだが、読み進めたくなるのだ。


「このひまりとゆうりの時間差があるという事?」

「まだそれはわからねーのですよ! 単純に最初の受け入れ患者かもしれねーですし、発症者かもしれねーですし、あるいは人工物か……と想像を膨らませて楽しむのがベストなのです!」


 マフデトにそう言われて、文学少女は自分でも考えてみて、それがとても深く広い。想像を掻き立てられる事がわかると素直に頷いた。


「うん、気になる。貴方はすごいわ! 体全体で、心全体で作品を楽しんでいる」

「まぁ、ある種本業なのですよ。他に何か聞きてー事はあるのですか?」


 マフデトがそう言うと、文学少女はマフデトが取り出した擬似小説文庫を穴が開くほど眺めてから言った。


「ジャムって紅茶に入れてのむ物なの?」

「ロシアとか、北欧はわりとそうやって飲む文化があるのですよ。蜂蜜入れるようなもんです」


 マフデトがそうわかりやすく言ったのだが、文学少女はわからないといった風な顔をする。


「このゆうりって男の子はお菓子を作るのが上手なのね……パウンドケーキって何かしら?」


 えっ? とマフデトは思う。そして今更になって、先程のマフィンは洋生か? と聞いたのではなく。マフィンがどんなお菓子か知らなかったのだ。だから、マフデトはこの少女に聞いてみた。


「てめー、もしかしてハーバリウムも知らねーとかですか?」

「馬鹿にしないで、海外の水中花のことでしょ? ゲルマンの本で学んだわよ。本当に失礼ねあなた」


 ハーバリウムは知っている。が……インテリアのハーバリウムではなく、標本としてのそれを少女は指しているような気がしたが……


「とても綺麗よね。ハーバリウム。私も一度だけ見たことがあるけど、芸術作品みたいだったわ。この本。面白いわね。花言葉だなんて詩人みたい」


 少しばかりうっとりしている少女。年はいくつくらいなんだろうか? マフデトはもしかするとこれは夢でもみているのかもしれないと思いながら、少女に話を続けた。


「いきなり、本作はイベントが始まるのですよ」

「イベント?」

「まぁ、盛り上がりなのです。ひまりは花弁の涙を流すという謎の奇病なのです。この花を吐くとか、この類の症状は稀に作品のネタとして使われるのです。人間という連中は、美しさの中にある種の畏れを持っているのかもしれねーですね。あらすじからするに、蝶の仕返しがこの症状だというのであれば、鱗粉が花を受粉するかのように、伝染していくのかもしれねーですね」


 胡蝶症候群は存在しない病ではある……


「綺麗だなんて病気にいうのは少し怖い気もするわね」

「実際、どういう病気がこの世の中にはあるのかわかんねーですからね。でも、そもそも涙という物は人間のみに許された反応であり、科学的にもはっきりとはわかってねーです。そして、やはり涙は綺麗なのですね。そんな綺麗な涙が花弁になるのであれば、そりゃまぁ見惚れちまうんじゃねーですか?」


 マフデトは段々とこの少女がどうも自分とは同じ時間を生きていないような気がしてならなかった。そもそも、今時の文学少女が戦時前の洋書を持っている物なのかという最初の疑問につながった。


「ひまりはどうなったの? この作品、毎話。情緒的に終わるのね」

「作風的に、やや詩的に進めた方が、作中の設定と相まって、魅力的に感じるのですよ。そういうのは作者ごとによるのですけど、テクニックなのですね」


 ふーんと少女は頷くと、次のページを捲る。すると真っ白な紙が続く。続くのだ……


「あぁ、そこまでしか今のところ連載されてねーのですよ。まぁ、気長に続きが更新されるのを待つのですWeb小説は生き物なので、気がつくと更新されていて、気がつくと公開終了になっていたり、内容が大幅に改稿されていたり、おもしれーのですよ。仕方ねーですから、その擬似小説文庫は貸してやるのですよ! この作品はおすすめなのです」


 そういうマフデトを少女は見つめて、少しばかり分からないような顔を見せるのでマフデトは空気を読んだ。


「しゃーねーのですね……今回だけなのですよ」

「えっ?」


 マフデトは遠くを眺める。頭に乗せた王冠がふわふわと揺れ、そしてマフデトはその瞳から命が抜けたように微笑していた。

 そして聞いたことのない言語を語る。


「Фтнаифунфw(擬似小説シーン再現)」


 マフデトは夕日に照らされ……その瞳から真っ青な花弁……ネモフィラの花弁を流してみせた。それは性的で、野生的で、耽美的。

 ユニセックスなマフデト故に見える神秘性。そんな物に少女は見惚れ、マフデトが疲れたようにため息をついたところで、少女は微笑んだ。


「ありがと。あなた。口は悪いけど、なかなか素敵な男の子だったのね。この本返すわね? 多分、私はこれ以上はこの作品を読めないんだと思うの」

「てめー、そういう事はいう物じゃねーですよ。神保町の古書店『ふしぎのくに』で私が店主をしているのです。今度遊びにくるのですよ。紅茶も、マフィンもパウンドケーキも食わせてやるのです」

「うん、楽しみ」


 ペロリ!


「ふやぁっ!」


 はっと! マフデトは目を開けた。目の前には牛の顔、牛が大好きなマフデトはそんな牛の顔を撫でる。そう、マフデトは牧場の芝生でシエスタをしていたのだ。あの少女との語り合いはマフデトが見ていた昼寝の夢だったのだろうか? 

 よくは分からないが、マフデトの手の中には『ハーバリウムの中で蝶に憑かれた君と僕は 著・成瀬雪』の擬似小説文庫。マフデトは目覚めの一杯に牛乳でも飲むかと自動販売機に向かい。


 ここが東京大空襲で焼け野原になった事を記載された掲示物を目にしながら牛乳をストローで吸う。


「人類ってやつは昔から戦争ばっかりなのですね。早く滅びればいいのに」

『ハーバリウムの中で蝶に憑かれた君と僕は 著・成瀬雪』本作は近未来なのか、現代ファンタジーの系譜を持つミステリー、或いはボーイミツガールなのか……作品は盛り上がり出すところまで、公開されているのですよ。その期待を込めて、更新を待ってみたいのです。

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