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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第二章 短編集特別編第二弾
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第三話『戦場の屋台 著・常畑 優次郎』BBQを食べながら

 皆さんにおもしれー話をするのですよ。私は師匠ちゃんと週五くらい焼肉を食ってるのですけど、太るどころからちょっと痩せたのです。オーダー制の焼肉は長居できるし、ミーティングにはもってこいなのです。ふしぎのくにに入ってから食生活が乱れてきた気がするのです。

 牧場の昼食はバーベキューと相場が決まっている。そしてマフデトは牛乳も好きだが、牛肉も好きだ。


「まふぉおおおおお! お肉! 牛さんのお肉!」


 さて、ステーキや焼肉でここまでテンションを上げてくれる中学生は最近では珍しい。他の生徒がそれなりに喜んでいる中で、人一倍とんでもないテンションで喜ぶマフデトを見て、教師人は企画してよかったなとそう救われた。

 マフデトの席には、ヘッドフォンをつけた少年。

 スマホのソシャゲをして誰とも話すつもりがないらしい。


「焼き野菜と一緒に食う牛さんのお肉がたまらなくうめぇーのですよ! そうは思わないですか? ヘッドフォンのガキ!」


 マフデトは割と言葉遣いが悪い。それは一重に日本語が下手なだけだと皆思っていたが、それは素なのである。ヘッドフォンのガキ事。黒岩むつみ。男なのに女の子みたいな名前に閉口している難しい年齢。そんなむつみにずけずけと話しかけるマフデト。


「てめぇ! 目の前のお肉がいい感じで焼けているのですよ! 喰うのです!」

「……チッ」


 舌打ちをしたスマホを見つめるむつみ。マフデトは新しい割り箸を割ると、むつみのお皿にひょいひょいとお肉に焼き野菜を入れていく。


「何やってんだよ?」

「たくさん食うのですよ! てめぇはどうも痩せすぎなのです」

「お前だってそうだろ?」

「私ですか? 毎日牛乳を飲んでるのでノープロブレムです! このバーベキューをしていると、戦場に来る荷車の話を思い出すのですよ」


 無視をしようとしたむつみだったが、何やら気になる単語が飛び出した。彼はファンタジー物の作品などが三度の飯より好きなのだ。


「なんだよそれ?」


 マフデトは食いついたと猫みたいな瞳でむつみを見つめる。

 すると視線を皿の肉と野菜に向ける。


「それを食ったら教えてやるのですよ! 飯を食いながら話すWeb小説は最高なのです!」

「わかったよ……うまいなこれ」

「外で食う飯は最高なのです!」

「なんか、危機的状況が飯をうまく感じさせるらしいな……って何言わせるんだよ」

「ふふふ、じゃあお話の続きなのですよ! この面白れぇ作品を書いたのは『戦場の屋台 著・常畑 優次郎』。激しい激戦地に現れるという都市伝説的な荷車なのです。それは強力な兵器があると言われたり、無限の兵士がいると言われたり、戦意を喪失させる神の使いがくると言われたり……」

「何だよそれ……アッシリア軍を滅ぼした殺戮の天使のことか?」


 むつみは中々に知っている奴だという事にマフデトは嬉しくなる。同席している他の少女達は可愛いマフデトに話しかけようとしているが、マフデトはカルビを楽しみながらむつみとの読書、考察を一番に語る。


「そう! 私も最初はこれはまさか、エルサレム征服をモデルにしているのかと思ったのですよ。戦の様式もとても原始的なのです」

「おい外人、ちょっと待てよ! 魔法って書いてあるぞ……」

「だってそういう世界なのですよ! あと外人じゃなくて私のことはマフデトと呼ぶのです。むったん」

「むったん……んだよその呼び方」

「誰も呼ばねーから私がそう呼ぶことにしたんですよ! むったん。主人公は雇われ傭兵なのか、先陣を切り、死と隣り合わせなのです。突撃の命令でただただ突っ込むスーサイドスクワット」

「は? この次男坊の戦略は間違ってはないだろ? 群衆の突撃は圧殺させる意味があるから、魔法だろうが弓矢だろうが、津波みたいに押し寄せる事ができれば、兵士の死以上に相手を巻き込めるんだよ捨て駒の兵士ならそりゃ突撃させられるだろ?」


 マフデトの言うことに反論する。むつみ、彼は古代ヨーロッパ史がどうやら好きらしい。

 が……


「まぁ、論点はそこじゃねーんですよ! 主人公が無駄な戦争してんなーと思ったところで、突然屋台が、お出迎えの声が響くのですよ!」


 そう、いらっしゃいませと……よくよく考えると少しばかり不気味なのである。命の消耗戦をしているそんな場所で、普通に商売を始めようかと言う何者か、そして食事をしていかないかと誘うのである。


「サイコパスじゃねーか」

「まぁ、そうでもねーんですよ! むったん続きを読むのです。戦争だからこそうまい飯なのです」


 武田信玄を思い出すそんな言葉に、戦争だからこそ美味いものを、主人公達の軍の隊長は毅然とそんな物は食べられないと言ってのけるが、それはそれは美味そうな香りをさせ、そこに吸い寄せられる兵士が一人。そして止められなかった彼に戦場の屋台は食事を振る舞ってくれる。


「黄金のスープなのです! それはそれは美味そうなのですよ……ね?」


 と言ってマフデトは粉の中華スープをむつみに見せる。

 彼はゴクリと喉を鳴らした。漫画飯と言われるこの現象。作中で食べている物を見ると食べたくなるというアレである。そしてその中華スープをマフデトはむつみの手の上に乗せる。


「チッ……貸し一だからな」

「いいのですよ! 焼いたカルビを入れて食うのが超うめーのです」


 マフデトに言われた通り、クッパのようにして食べてみる。それは確かにうまい。このマフデト、バーベキューというか焼肉の食べ方を熟知している。


「まぁ、ご飯を入れて雑炊みたいにして食うのもいいのですが、今回はスープという描写だったので、これで楽しむのですよ……そう、この作品に屋台は、まさに日本の屋台なのですよ。最近は東京でも某駅の深夜とかにしか見れなくなったのですけどね」


 そう、ちゃんとは描写されていないのだが、ラーメンなのである。そう、ラーメン。何故この世界観に屋台があってラーメンが出店されているのかは謎以外の何ものでもない。


「これさ、このラーメン屋の兄ちゃん、完全に神の遣いだろう……」

「何故なのです?」

「だって、数千人規模の戦争で全員分のラーメン用意できるんだろ? オリンピックの選手村より凄いぞこれ……何なら観光の屋台よりもすごいかもしれない。質量から考えると、人外そのものじゃんかよ!」


 むつみは勝手にマフデトが持ってきたアルミホイルに包まれた焼き芋が赤々と燃える竹輪炭の中で焼き芋に代わっていく様子を見ながらそう言った。いつの間にかヘッドフォンを首にかけてスマホの画面は本作を開いている。


「ふふふのふ、むったんはまっちまいましたね?」

「……くっそ、のせられた」

「これってよく考えてある作品なのですよ。ラーメンというかこの類の料理に関してなのです」


 マフデトはこの自分も食事系のWeb小説を書いてるから、とっておきの話をしようとしたが、むつみは博識だった。


「旨味成分だろ? 日本で作られ、発見されたそれだ。おそらくは古代から中世前期のヨーロッパの食事と考えるとこいつらかしたらカルチャーショッククラスの美味さだろうよ。これはあれだな……昇華っていうんじゃなかったっけ? お腹が満たされたことで冷静になったってやつだ」


 むつみが悉く、マフデトが言おうとしている事を先に言ってしまう。そう、行動理念の書き換えとでもいうべきか? かつて日本では不純異性交遊をさせない為にスポーツをさせるという強制的に部活に入れる制度があった。欲望に対して別の満足感を与える昇華はよく教育の現場で見られた。


「案外、うまい飯、同じものを食って同じ気持ちになったら、喧嘩もやめるかもしれねーな。それが原始的であればあるほどに」


 この作品の上手いところは時代背景であろう。これが現在の世界をモデルにしたとすれば、まず停戦されない。何故なら、食というものが確立しているので、そこまで喜ばしいことではないからだ。

 片や本作の時代背景は、ラーメンなんて想像を絶する食べ物なのである。時代をローマくらいで考えると、塩味スープにライムとか絞って食べるくらい味付けという物は足す物であって、作る物ではなかったのだから……煮込むほどに味が生まれ、叩くことに食感が生まれる科学の粋を併せ持った料理を前には平伏せざる負えないかもしれない。


「この物語は、何も語られることはないのです。何も、あの料理。要するにラーメン屋台は何者で、なんの目的があったのかも何も語られないのですよ」

「あとは読者の想像にお任せーってやつじゃねーの?」


 むつみの言うことは正しい。本作は短編である。というより、ショートショートに近いかもしれない。実によく伝えたい部分を綺麗に纏めてあるし、読ませてくれる作品である。


「短編はある程度、適当で許されるのですよ」

「適当って……マフデト。それは言い方が」

「先ほど、むったんが言った通り、読者の想像にでいいのです。だからこそ、続きを作る気がないので、割と何でもトッピングできるのですよ。ワクワクするでしょ? でもそれを回収する必要もねーのですよ。これが中長編なら、で? 何が言いたいの? となるのですが、この短さであれば、その全部、が不思議! で片付けれるのです」


 そう、某イベントであるお祭りもそうなのだ。参加者のほぼ全てが続きを書くつもりがないので、あえて風呂敷を広げる事ができる。これこそが、短編のもつ最大のメリット。

 興味をもったところで終わるのだ。そういう物として、読者も大いに楽しめる。


「むったん焼き芋焼けたのですよ! 食べるのですか?」


 最初は食事をする気はなかったが、バーベキューを食べて、胃拡張したむつみは目を瞑って言った。


「当たり前だろ!」


 マフデトはアルミホイルを開けるとホカホカに焼けた焼き芋を半分に割ってむつみに渡した。


「おい、マフデト」

「何なのです?」


 少しばかり面倒くさそうな顔をして、むつみは言った。


「他にもおもしれー作品があったら、なんか話せよ。今度ラーメン奢ってやるからさ」


 デレた。それにマフデトはニヤニヤしながら、綺麗な瞳を大きくさせる。そして何も言わずに見つめているので、むつみは怒鳴った。


「なんか言えよおい! マフデト、このやろう!」 

『戦場の屋台 著・常畑 優次郎』是非、読んで欲しい作品なのです。短編らしさがすげーのです。長編、中編、そして短編。同じ小説でも必要なスキルが違うのですからね。読めばきっと今日のお昼はラーメンを食いたくなるのです!

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