田舎者の概念と現実との比較について
「生命の水って私、師匠ちゃんの家で見た事あるのですよ」
錬金術の奥義、死者を蘇らせる秘薬が普通の人間の家にあるとさらっとマフデトは話し出した。それに作中でも書かれているウィスキーの事かと思って聞いていたら……
「エリクサーって酒があるのですよ。これ、ガチで当時の人は気付けとして使ってたらしいのです。薬草で味付けした酒って師匠ちゃんが言ってたのですよ」
ヘカがタブレットで『双剣のルード ~剣聖と大賢者の孫は俊傑な優男だが世間知らずのいなかもの~』を開きながら少しばかり、つまらなそうな顔をしている。それに気づいた秋文がヘカに尋ねる。
「ヘカさんどうしたんですか?」
「まぁ、昔々なんな。そういう薬を作ろうとした知り合いがいたような気がしたんよ。それにしてもこの作品、少し面白いんな」
少しどころかかなり面白いんじゃないかと二人は思ったが、ヘカがそう感zにるという事はそういう表面的な面白さという事じゃないんだろう。これも秋文がそう感じると聞いてみる。
「豚を生贄にして人間の体の再構築をするという事ですか?」
「そうなんな。本来、錬金術といえば生贄は馬なんよ。宗教的な意味合いでそれ相応の物、某有名な漫画だと等価交換ってよく使われてるんな? 現実の世界では既に明治時代、19世紀なんな? この頃には既に豚の臓器を人間に移植するという手術は行われていたん。だから上手い事、ファンタジーにリアルを合わせてるんな」
へぇと秋文が感心している中、マフデトは少しばかりこのヘカに違和感を感じていた。同棲している蘭とかいう女は物知りだが、ヘカはそんなに知識を有してはいない。蘭に話を聞いていてたまたまそんな話をしただけかと、チョコボールをポイポイと口の中に入れて読み合いを続ける。
「ストーンワールドで一躍有名になったサルファ剤なのですよ! ルードヴィヒは一体何ものなんですかね?」
と軽いジャブ、
「錬金術と魔法でここまでできるんなら、サルファ剤より、ペニシリンを使った方がいいん。この女の子は怪我による感染症を考えての事なんな。ブドウ球菌系にはサルファ剤はほとんどきかない場合があるん!」
「テメェ、ヘカ姉様じゃねーのですよ! 正体表やがれなのです!」
そう言われ、ヘカはマフデトと秋文をじっと見つめ、指を噛む。そして二人の目の前で、ヘカが光り輝いた。
「バレてぃねーんが、わん、シーサーやさ。まーふー!(バレちゃったか、私、シーサーだよ。マフデト)」
南国の黒ギャル。ビックパーカーにアメカジュ系キャップを被った彼女がそこにいた。そういえばこいつは医療関係の専門学校だか大学に通っていたなとマフデトは思う。
「秋文、このシーサー。とんでもねーショタコンなので近づかない方がいいのですよ。というか帰れなのです。方言物でもうちなーぐちはお呼びじゃねーのですよ。というかなんでヘカ姉様に化けてたんですか!」
「原宿うぅてぃヘーカーとぅ知り合たるんやさ。マーフーんかいしかっとーくとぅ化きてぃあしびがちゃるどー(原宿でヘカと知り合ったんだよ。マフデトにヘカは好かれてるから化けてきたんだよ)」
「ルードヴィヒの言葉が可愛く思えるのですよ。秋文が理解できずにポカーンとしてるのですよ。まぁいいのですよ。それなりに読んできてるので特別に付き合わせてやるのですよ。病は悪霊や妖精の仕業、てめーてきにはどう思うのです?」
「ばっぺーてぃうぅらん(間違ってないよ)」
「なんて言ってるのマフデトくん?」
マフデトは、Web小説のテラーであり、古書店『ふしぎのくに』店主。とはいえ全ての言語に精通している訳ではない。その為、首元から銀色の鍵を取り出すと、
「Лугбеснигфотын(店内相互疎通)。これで少しはマシになるのですよ」
要するに科学の発達していない世界や歴史においても、病気や体の不調は何か変化が起きているという事は当然わかっており、仮定として根源の存在を悪霊や妖精、日本では妖怪、悪い気、言葉通り病気などと表現していた。その証明として遺伝子や細胞の反応、細菌、ウィルス、寄生虫と様々あれど原因と名称程度の差異しかない。
「この場合の田舎者が、わんみたいな島国とまーふーみたいな本土の人という括りではなくて、かつての知識や技能を持っているのが田舎出身のルードヴィヒ、あるいはそもそもの文化の違う、異世界等も含めた何かという意味での田舎者なのか、このストーリーで少し迫ってるねー」
随分頭に入ってくる言葉に変わったシーサー、不思議な者で現役の学生が語る内容も頭に入ってくると、チャラチャしている南国ギャルからいきなり聡明なお姉さんに見えてくる。この店のもう一人の店主、セシャトとは似ても似つかないシーサーとマフデトに秋文は尋ねてみる。
「中世のヨーロッパをモチーフにより色濃く作られていると思う本作ですけど、剣術ってどんなものがあるんですか? 本作のルードヴィヒみたいに両手剣は最近では特別だったり勇者の固有能力だったりするじゃないですか?」
マフデトはそれに関して、少々知識があった。異世界物などを読んでいると多岐にわたる流派が出てくるので、西日本に住んでいる歴史オタクの編集者に早朝ミーティングで尋ねたのだ。
シーサーが何も言わないことからして歴史系はそこまでの知己を持ち合わせてはいないらしい。まぁ、これを語り出したら再びマフデトはシーサーに対してお前は誰なのですか! と聞かなければならなかった。
「大雑把にいえば剣術の流派みてーなのは存在しねーのですよ。よく考えてみるのです。中世の西洋は馬鹿みてーな甲冑着て戦うので、剣に切れ味は必要ねーのです。鈍器として折れない物の方が重要なのです。ブレイドではなくレイピアという武器もあるのですが、こいつはサーベル同様突きしかできねーので技も4パータンくらいしか存在しねーのですよ。それと貴族社会なので流派じゃなくて家柄が重要なのですよ。そんな理由で剣術流派みてーなのは西洋ではあんまり栄えなくて、日本は当時から極めオタクみてーのが多かったのと日本刀の得意性に日本の戦争様式などから戦国時代以降流派がうじゃうじゃ湧いて来たのです。二刀流の剣なのですが、ルードヴィヒは西洋の二刀流で有名なゲルマン民族の戦い方なのです。名前もそっち系っぽいのですしね。バスタードソードはソードブレイカーとかバックルとかを合わせて使う方が多かったと思うのですけど、そこは物語。かっこよさという部分も大事なのですよ。あと宮本武蔵の固定観念が相当強いんじゃねぇですかね。こういう物語りにおけるベースは日本人の知識ベースにある社会性を持った中世ヨーロッパ世界がハイブリットされた異世界と考えれば、投げやりにはなるのですが、そういう物だという事で納得できるのです」
鉄の芸術日本刀とその剣術。汎用鈍器の西洋剣とその剣術は明確に棲み分けされているのだが日本人の作る作品という物はベースが侍のチャンバラなので小説も漫画もそれぞれ映像作品も中々に剣術達者なキャラクターが登場する。
「ただしどの世界でも優れた奴ってのはいたハズなのですよ。学校でもどれだけ頑張ってもこいつには足の速さに勝てないとか、勉強で勝てないとかなのですね。同じ事をしていても異様に剣の実力があった奴もいただろうし、もしかすると、本質的に日本剣術のような巧みな打ち込みを考えた奴もいたかもしれねーのです。双剣のルードというくらいなので、剣については少し深く頭に知識を入れておくべきかと思ったのですけど、ちょっと話し込みすぎたのですよ。もうこんな時間なのです。秋文は今日は止まっていくのです?」
母屋の仮眠室で秋文が止まっていくなら、デリバリのピザでも頼んで夜更かしして作品について語ってもいいかと思ったが、
「今日はお母さんに夕食食べるって言ってたから、僕は帰るね。また明日遊びにくるから続きお話ししようね!」
「一二三も連れて来ればいいのですよ。という事なので、シーサーテメェも帰れ!」
店の外まで秋文をお見送りするマフデトと共に店に戻ろうとするシーサーを店に入れようとしないマフデトに
「まじゅんうゆーふるんかいいっちにんだな!」
「黙れなのですよ! 私は今からレトルトのカレーを食って風呂入って寝るのですよ! もちろん、てめーとじゃなくて一人でなのです!」
そう言ってばたむとドアを閉めるマフデト、そういえばコロナウィルスの蔓延で、シーサー達が遊びに来ていなかったなと思い返す。そーっと外を眺めると、ホットの缶コーヒーを購入して、外に座り込んでいるシーサー。最近の旅行が緩和した現在、東京中心地はもとより神田周辺のビジネスホテルもなんならネットカフェも空いていない事が多い。マフデトは自分の身の危険もさることながら、見た目は若い女子をこの寒空の東京の街で一人放り出すことを少し考えてからため息をつくと店の入り口を開けた。
「シーサー、とりあえずテメェも入るのですよ。風呂は順番、仮眠所はセシャト姉様のベットを使うのですよ! 私は寝袋で寝るのです」
やれやれと言った感じでマフデトがそう言うと、涙目でマフデトに抱きついたシーサーは、涙声でこう叫んだ。
「まーふー! わんうすまさんくまとーたるんやさ! にふぇーどー」
「ああ、もういいのですよ! さっさと離れるのですよ。今日はクソさみーので、ラーメンを頼んだのです。セシャト姉様が帰ってこないの忘れてて二つ頼んだのでテメェ、一杯処理するのですよ」
わんわんと、自分のことを語るシーサーの物凄い訛りだらけの言葉を聞きながら、地方からきた若者がなるようになるで東京に来る姿をシーサーに重ねてマフデトは呆れながらこういった。
「これだか田舎者は困るのですよ……」
『双剣のルード ~剣聖と大賢者の孫は俊傑な優男だが世間知らずのいなかもの~』第二回のご紹介ですね! 田舎の概念について、作品が意外とハイファンタジーをしているので深く考察してみましたよぅ! これを機に双剣のルード読まれてみてはいかがでしょうか?




