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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第十三章 『タソガレモモカ 著・桃原カナイ』
118/126

夏の終わりは少し寂しく安心する

「村人達が弔ったわけじゃなく、儀式として六人の遺体を使ってるから怒りが収まらないんですね」

 

 ほぼほぼ読者の予想通り、明らかにあかんやろうという使い方をなされている為の呪い、あるいは叫びにも近い物がオガミサマの悲痛な正体であり、その四方津山に登るダンタリアンと双葉。

 

「朝陽くんとモモカくんのケースとは違うんだけどさ、昔SNS黎明期の話なんだけどね。彼女を失った男の子とその友達がとあるSNS上で、さもその彼女が生きているかのように振る舞い、彼女のSNSも更新しているちょっとアレな事があったんだよね。死を受け入れられないってのはちょっと行きすぎると奇行に見えるんだよね」

「しかも、手順は違いますけど、朝陽くん、一人かくれんぼしちゃってますもんね。これも一時期流行ったやばい儀式でしたっけ?」

 

 まひるの中ではエンディングが決まったらしいが、まだその明確な方法までは思いつかない。もちろん、ここで閃いてしまってもいいのかも知れないが、それこそしっかりと温め鍛えてきた助っと達が沢山いるわけで、丁寧に歩を進められる環境は整っている。

 

「鷹って子犬とか掴めるんですかね?」

「う〜ん、カラスが子猫攫っていくくらいだからいけんじゃない?」


 大体、猛禽類は自分の体重200%くらいまでは運べるらしいので恐らく鳶じゃな限りは可能だろう。鷹が子犬を狙うという状況、またこれが空飛ぶ犬の結論だとすれば、このあたりの地域はよほど餌がないとも思えるし、多頭飼育崩壊でも起こした狩場でもあるのだろう。

 

「しかし、質量のある気配という表現はいいね。実にいい。本来ない物が現実に進出してきている素晴らしいチョイスだ」

「質量のある分身みたいな……すみません」

 

 そもそも、百日詣という物の最初の一人は誰が行ったのか、非常に気になるところである。封印を解く為のギミックにしても、オガミサマ側からのアクションは全編を通して極めて少ないわけでこれもまた当時水準の都市伝説。というか、オガミサマを慰める為の百日詣がいつの間にやら願いを叶えるという付加価値でもついたのだろうか? 代償として封印解放と……

 

「百日詣って誰かお婆さんかその知り合いが昔行ったって言ってましたよね?」

「うん、その時にはオガミサマは解放されなかったっぽいね」

 

 明らかにこの世に存在する場所とは思えない裏山に到達しながらもダンタリアンと双葉は作品の感想を語り合う。双葉自身思えば自分もオカルトへの耐性ができた物だなと苦笑しながら遠くに見えるこの世の者とは思えない……いや、この世の残滓を残した怨みの塊を宿した何かを見つめる。


「あれがイサジさんですか」

「うん、どうやら百日詣は眉唾だったのかもね。地雷は“父親“というワードだったらしいよ。これ、今までにこの願いをした人がいなかったのかな? それとも、昔の人は律儀だから百日詣は閉ざす事なく行ってて、優日くんで初めて、百日詣が途切れた事がギミックになったのかね? 餌という程餌をまいている描写がないのがイサジさんの愛嬌ね。人間の欲なんて、きっとイサジさんの怨みより強いんだから、もっと上手くやればもっと早く現臨できたとも思うけど」

 

「で? あんなのに見つかったら僕らヤバくないですか?」

「アタシ達は読者よ。アレと会合すべきは橘の子供達でそれをアタシ達は見学にいく! ただそれだけ、ちなみに見つかったら命はなーい!」

「さらっとヤバいじゃないですか! ったく。百日詣は途切れてはいけない。というのはこっくりさんの十円玉から手を離すみたいなもんだったんですかね? 一応継続してもいいらしいですし」

「こういう願いを叶える系ってさ。存在しない物を願った場合どうなるんだろうね? そもそも、イサジさんに願いを叶える力があるとは思えないけど」

「どうなんでしょうね。そういうクレーマーみたいな考えダンタリアン店長しかしないんじゃないですか?」

 

 そんな二人の元に、オレンジ色の犬がかけてくる。犬が苦手なダンタリアンはサラリと双葉の後ろに隠れ……

 

「おっと双葉、モモカくんが間違えてアタシと双葉のところに来ちゃったよ! さぁ、素敵なレディを姉弟のいるところに誘導したまえよ!」

 

 このモモカは朝陽にまひるの光である。こんなところで道草を食っててはいけない。双葉はモモカを撫でてスマホを取り出すと、恐らく朝陽達がいるであろうところに向かって指をさしてモモカに「さぁ、弟と妹を導いてあげて」と軽くお尻をトンと叩く。わん! と一声あげるとモモカは一目散に双葉が言った方向に走っていく。ダンタリアンはモモカが遠くにいくと双葉の後ろから出てきて「じゃあアタシ達も行こうかぁ!」と元気に歩き出す。

 

「満願成就ってネタバレとも取れるけど、3部にしているのはきっと拘りがあるんだろうね。さぁ、本作最大の怪異にして怨みの成れの果てオガミサマとまひるちゃんの対峙だよ。ちょっとそこの茂みから覗こうぜ双葉!」

 

 悪ガキのように微笑んでダンタリアンはしゃがむ、ネモフィラの香りを模した香水が双葉の鼻つく、これにモモカは反応したんじゃないかと思いながら一緒に覗いた。オガミサマは自分の名前を忘れる程の恨みつらみがあっても家族の名前は忘れていない。正直、いかに恐ろしい姿の怪物になろうが、この描写は人間という万物の霊長をよく捉えており、非常に趣がある。

 そしてオガミサマこと伊坂訓治は退場の時を知る事になるのだが、これは家族という物を見ての反応なのか、橘の父を見て自らを思い出したからなのか、彼の恨みつらみは何も実らない事を悟ったのか、実際のところまひるベースでもただただ悲運な末路を辿った伊坂訓治とその家族達を供養する事しかできない。

 

「父も強し、いや。この場合は家族の絆は強いって事をあるいはオガミサマもそうだった事を思い出したんでしょうか?」

「さぁねぇ、人間の考える事なんてアタシ知らないし! でも、まぁ良い散りざまだったんじゃない?」

 

 悪趣味にもダンタリアンはそこで気を失っている朝陽、まひる、優日を覗き込むように見て、ふくよかな胸の谷間からサインペンを取り出した。

 

「額に肉って書いちゃおうか?」

「子供になんて事するんですか! このまま起きるまで見守って帰えりましょうよ!」

 

 ダンタリアンが大悪魔なりにしょーもない悪戯をしようとするとわんわんと吠える声が響く。「おっと! 猛獣じゃなくてモモカくんが守ってるみたいだね。このまま若人の寝顔を見て時間を潰すのも無粋だし、帰ろうか?」と再び双葉の後ろに隠れる。

 

 双葉は少し考える。物語とはいえ、その物語の世界でこの少年少女達の行く末を見守ったのだ。もしかすると、ほんの少しだけ物足りない世界が戻ってくる事にこの三人はどんな顔をするんだろうか? 少し怖い思いをし、痛い事もあっただろう。それを得て成長だなんて、偉そうな事を双葉は言うつもりはないが、ようやく明日からこの子達には本当の明日が来るんだなと思うと少し目頭が熱くなる。

 

 作品としてはその後を描かれていないし、それこそそこを書いてしまうと、いきなり現実に戻されるわけで、エンディングとしてはオガミサマの百日詣が終わるというところで結としているのは実にいい。あと少し、何かを食べたいなと思わせたところでこのコースは終わりなのだ。

 

 ダンタリアンと双葉は下山し、初めてここにやってきたこうべ町の町境へとやってくる。どうやって帰るんだろうと思った時、ダンタリアンは何もないところからカクテルグラスを取り出した。

 

「双葉、コープス・リバイバーNo4。もう気付いてんだろ?」

 

 何を……? と尋ねようとしたが言葉が出ない。コープスリバイバー最後の一杯は、死者を再び眠りに返すカクテル。

 

「気付いてないんだね? 双葉は……ずっと昔、アタシや神くんのいる古書店に来ていた時の帰りに……トラックにはねられて……夏の終わりにって、来るの遅すぎだよ。だからこれ飲んでさっさと帰った帰った!」

 

 唐突に死んでいたと言われ双葉は理解できない。そんな記憶はないし……自分は……ダンタリアンの手渡すグラスを受け取り……それを飲み干した!

 

 死者をも再び眠らせるカクテル。急激に度数の高いカクテルを入れたので喉とお腹が熱く、頭がぼーっとする。

 嗚呼、自分はこれで……と思った時。

 

「うっそー! 騙されてやんのー! ヴァーカ! ヴァーカ! 双葉のヴァッカ!」

 

 嗚呼、こういう人、いや悪魔だったなと双葉は苦笑する。子供の頃はこの感じになんだか少し恋心も抱いていたが、大人になると凄いウザい。顔が良くなければ2回は殴っていたかもしれないとグラスを返す。

 

「はいはい、騙されましたよ! とりあえず帰って、普通に部屋で『タソガレモモカ・桃原カナイ』の作品の感想会でもしましょうよ」

「そうね。飲み直しながら」

 

 と、まだ飲むのかと、それに付き合っている自分も大概だなと思いながらようやく元の世界に戻れると安堵した双葉だったが、待てども待てどもダンタリアンは何もしない。

 

「あのダンタリアン店長?」


 ダンタリアンは凄い笑顔で、凄い冷や汗を流している。時に上目遣いに、時に妖艶に艶かしく……が、正直そんな事はどうでもいい。

 

「もしかしてなんですけど……帰れなくなった。とか言わないですよね?」

 

 ダンタリアンはわかりやすい、明らかに挙動不審になり目がドーバー海峡を泳いでいる。

 

「アタシ達が元々いた古書店『ふしぎのくに』の店内に置いておいたタブレットとかが片付けられたっぽいね。まぁその内アタシがいない事に誰かが気づいて探してくれるんぢゃない?」

 

 忽然と現れ、忽然と姿を消すダンタリアンを探そうとする者は残念ながら誰もいない。

 そしてダンタリアンは突然手をポンと叩くと言った。

 

「よくあるやつじゃん! 戻れなくなる系の都市伝説! いやー、こんな事に遭遇できるなんてレアじゃん! 激レアよ双葉! さぁ、もう一度、別の目線からこのこうべ街を詮索して『タソガレモモカ・桃原カナイ』を考察しようじゃないの! というか帰れるようにオガミサマにお願いしにいく?」

「もう、成仏したっぽいじゃないですか……」

 

 双葉はよくある異次元に迷い込んで帰れなくなるというオチがこんなしょーもない事で起こされることに呆れ、彼の捜索願いが出され古書店『ふしぎのくに』に立ち寄ったというところまで分かった事で、ダンタリアン絡みの事件だろうとマフデトとセシャトさんによって無事帰還するのだが、それはまたどうでもいいお話。

 

 秋風感じる中、双葉は橘兄弟を見て、感じ一度実家の両親に元気な顔でも見せようかなと、助け出されるまで現実逃避した。

皆さんこんにちは! 本日をもちまして『タソガレモモカ・桃原カナイ』のご紹介を一旦終了とさせていただきます。皆さんは百日後に何を感じましたか? 心がほっこりしましたか? それとも何か少し胸のつっかえが残ったような状態ですか? それらの感想は全て正しいと思いますよ! 作品を通じて感じた感想を是非、紹介元の作品に文字にして届けてみてはいかがでしょうか? またこの場を借りて、桃原カナイ様、一ヶ月間ご紹介させていただきありがとうございました!

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