都市伝説の衰退と変化の話
「カレーって奴はどうしてこうも仲良い奴ばっかりで相互作用してやがるのですか!」
じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、牛肉と若手のベンチャー企業のように相性の良い連中だけで生み出される料理に舌鼓をポンポンと打ちながらマフデトはハフハフとセシャトの作るカレーを食べる。
「ふふふのふ! カレーは当方の定番メニューですからねぇ! さぁ、優日さんのクラスメイトが行方不明になられました。御三方共、周囲にまで影響を及ぼすこの現象の正体はなんなんでしょう」
「これに関してはただのおセンチなだけだったのですけど、毎月決まった時に屋上が解錠されているというのがなんとも不思議なのですよ。しかもこれだけ都市伝説ネタに興味津々なガキどもが多いのに、このネタに関しては一部しか知らねーというのは物語都合だとあまりにも遊びがなく、逆にシステムとして動いているならこの物語のタネやいかになのですよ!」
マフデトは最近付き合っている悪い友達、師匠ちゃんにレシェフという一癖も二癖もある悪友に影響されてか、割と物語を斜め上からも観察する。
「朝陽を追従していると思うのですが、これからの世の中、都市伝説ってのはその数を減らしていくのかも知れねーですね」
「おや、と言いますと?」
「朝陽の小学生像は少し古いのですよ。昔は大人と子供の明確な世界の差があり、それらの両面を併せ持つところに噂話、怪談、都市伝説と数々生まれて言ったのですよ。今の時代は良くも悪くもそれらの隔たりが狭くなってるように思うのです。そうなると新しい物が生まれるのは難しくねーですか?」
セシャトは隠し味に入れていた柿の実をカレールーと和えながら口に運び、少し考える。
「そうですねぇ。マフデト兄様の考える都市伝説は姿を減らしていくかもしれないですが、次はその新しいステージでの都市伝説という物が生まれるんじゃないでしょうか? 不幸の手紙はチェーンメールという形で継承されたように、その時代に合わせて変化し、都市伝説は息を潜めているんです」
マフデトの言いたい事は分からなくはない。自らの足を運び、実際に怪異なんて物に見舞われなくても自ら進んで深淵を覗こうとした経験。それこそが興奮と経験と思い出となり、それは色濃く広まっていく。実際に廃墟ツアーなんて物も催されているくらいに人は深淵を覗くのが好きなのだ。
きっと次に用意される都市伝説はヴァーチャルを主戦場としていくのだろう。
それは少しだけ、物悲しくはある。
「壁や部屋に意味深な言葉が書かれている系ですねぇ! これは実に怖いですよぅ!」
片目を瞑りあざとい表情でそういうセシャトにマフデトは猫みたいな目をしてから口を尖らせる。
「前に師匠ちゃんがガキの頃、廃墟にそういう落書きを八時間くらいかけて行ったらしいのですよ。それが数ヶ月後、テレビで放映されて霊能力者が強烈な怨霊を感じるとか言ってたらしいのです」
「師匠ちゃんさんの8時間かけた執念を霊能力者の方は感じ取ったんでしょうか?」
小学生達が覗いた犬小屋の中に書かれた大量のごめんなさい。これは監禁でもされた形跡なのか? それとも……
同じ事を考える朝陽くんが非常に大人に感じ、やはり子供の頃の師匠ちゃんの不法侵入という不良っぷりもまたパンチが効いている。
「封印という物も実在はしますものね。東京や京都などの都である街並みには実際に風水に学んで全体に結界を組んである物も多くございますし、本作において一つの封印が壊れてしまったかもしれないという意味は怪異の増加でしょうか?」
効果の程は分からないが、京都と東京には五芒、また陰陽道と思われる裏五芒が街に多く結界として作られている。理由は都の災害避け的な意味なのだが、何気に現代の人々もそれを重んじている。
「視覚効果、や表現効果として多分、封印が壊れたので、変な事が多く起きているという証明なのですね。某映像作品系の描画表現では台風だったのですよ。それにしても天野の駄菓子屋のババァ、上品なババァなのですよ!」
マフデトが神様とたまにいく駄菓子屋のババァはとにかく子供が嫌いな。日本全校どこにでもいる駄菓子屋のババァであった。あの性格の悪い駄菓子屋のババァももはや都市伝説レベルとなり、いつしかいなくなるのだろうが、万引きするガキがいる限り、あの性格の悪い駄菓子屋はきっと今もどこかで息吹いているだろう。
「はっひゃあ! レインボーかき氷食べてみたいですねぇ! 新大久保あたりで売ってそうですねぇ!」
「セシャト姉様、かき氷好きすぎなのですよ」
駄菓子屋で食べられるチープでバタ臭いかき氷がまた美味しい。かき氷専門店のような品はなく、かといって縁日のライヴ感があるわけでもない、あの駄菓子屋ならではのかき氷、これと同位で駄菓子屋のもんじゃ焼きもまた応えられない。関東にお住まい、あるいは旅行に来られる方は船橋の某駄菓子屋を訪ねてみてほしい。本作の古き良き駄菓子屋を堪能できるんじゃないだろうか?
「でもこういうかき氷って最終的に色が混ざってヘドロみたいな色になるのですよ!」
「あらあら、マフデト兄様は夢という物を見る事がありますか?」
「あるのですよ。というかなんなら夢をコントロールすることもできるのですよ! だから夢が伝染するという物は私には皆無なのですよ。そしてまひる達が見ている夢は夢じゃなくて、誰かの追憶なのです。しかし、誰かに話すというこれをまひるは止めてしまってるのですよ。フラグなのですかね?」
「有名な小説のリングですねぇ!」
ホラー作品の大御所、鈴木光司のリング、らせん、ループ。の三部作。怪異物と思わせておいて、コンピューターウィルスの話という恐ろしくよく考えられているあの小説は恐らく日本どころか世界でも最高レベルのエンターティメントと言えるだろう。ドラマ版や後の派生作品に関して対応した監督がIT理解に関して乏しく、意味不明な物と変わってしまったのが残念ではあるが……。
「本作の作者はあの三部作も好きそうなのですよね。まさかの展開ですからね。ただ、時代があれは早すぎたのですよ。このカーブミラーという物も踏切と並んで曰く付きの代名詞なのですよね!」
そもそも日本人は鏡という物を信仰する民族であり、窓に畏れを抱く習慣を持つ、例えば鏡が自分を映しているのに気づいてその位置をずらす人も多くいると思う。深淵を覗くのは好きだが、覗かれる事は多いに嫌うからである。
犬が目を合わせるのが苦手なのに似ている。
「おやおや、よく食べるのにやつれていくというこれもまたベタな展開ですねぇ! こういう栄誉というのはどこにいくんでしょうね? 吐いてしまっているんでしょうか?」
「永遠の謎なのですよ。本当に優日の代謝が死ぬほどよくて、かつ生気的な物も吸われてダブルでカロリー消費してるとかなのかも知れねぇですけど、優日の怪異の深度は結構ヤベェ領域に突入している事は間違いないのですよ」
本作は少し懐かしい雰囲気を持っているが、現代の話であり、熱中症で倒れる少女がいる。かつては熱射病と言って具合が悪くなる程度だったのだが、今の夏の暑さと紫外線量はちょっとどうかしている。本作のように子供が外で遊べなくなってきている理由の大部分がこれらであり、そういう意味では子供達の自由な世界という物も少なからず狭くなっていくのだろう。
「みなさん、本当に元気ですねぇ! 百物語を始めてしまってますよぅ!」
「これもまた一つの儀式なのですよね。百話目のオチが、あまりにも恐ろしくて誰も知らない物語って奴なのですよ。一応儀式は完成できないようになっているという昔の人も割と面白い事を考えたものなのです。ようやく優日の伏線回収が始まったのです」
恐らくは多くの読者も心のどこかで予想していただろう。橘家の大黒柱、父親について優日がオガミ様にお願いをしに行っていたというネタ。何故優日に異様に怪異の深度が深くなるのかを考えるとこれが一番妥当な線であり、本作も無駄にややこしくせずに綺麗に物語を進めていると言える。
ただし、百日詣を途中で止める事の歪みが今更になって起きるのが何故かという大一番を残してはいるのだが、この辺りから物語は広げた風呂敷を畳む準びが始まる。
「まぁ、物語ってのは祭りみたいな物なのですよ」
「お祭りですか?」
「そうなのです! 始まりは期待して、楽しんで盛り上がって、最後は全部火にくべてしっかり後片付けまで行う事でその完成度は光り輝くのですよ。私たちもWeb小説の選考をする際、百物語に近い事してるのですよね?」
余談ではあるが、本作を紹介するにあたって多くの他作品も読み漁り、推薦し、各人が出来うる限りのレビューをしてミーティングで数作品ずつ推しを上げて、読み合い、そこから落ち、またレビュー。そんなこんなで最終的に残った本作を月間で紹介している訳なのだが、本数的には毎回全体で百作品くらいは読んでいるのだろう。
「ふふふのふ、私たちの場合は決まってからも大変ですからねぇ! 作品をどこまで落とし込んでいくのかという部分にいつも悩まされますねぇ」
「大体三パターン用意されてるのですよ。で、二つがボツになって、一つの流れで進んでいく。これもお祭りなのですよ! 私たちが期待して持ち上げて、楽しんでそれを盛り上げて、最後はしっかりと結まで持っていくのです」
我々の紹介は多くの人間の感想とレビューの集合体でしかないが、頭から最後まで数回は読み、認識を合わせ、できる限り第三者に興味を持ってもらう為の紹介小説の形へと組み込まれていく。
物語の紹介もいよいよ後半戦、カレーも食べ終え、セシャトとマフデトはショートケーキに舌鼓を打ち再び作品に集中する。
『タソガレモモカ 著・桃原カナイ』みんな読んでるぅ? ふしぎのくにの紹介小説ももう半分が過ぎてきたね! 最後まで読んだ時の読了感、丁度夏が終わったなぁと思える本作を最後まで楽しんでほしいかな?
さぁ、次回もサービス、サービスぅ! とかアタシは言っちゃうよ!




