都市伝説は時間が経つと見せる表情を変える話
「だからさー! 双葉が飲んでたのはヤクルトじゃなくてローリーエースだって!」
「そうでしたっけ? ていうかその飲み物なんです?」
酔い覚ましに夜中の散歩、昔の話に花を咲かせていたが、当然片手には『タソガレモモカ 著・桃原カナイ』の擬似小説文庫、これまた二人の興味をつく逸話が話されている。
「次はしゃっくりときたね! 100回したら死ぬとか昔は言われてたよね。実際、2日、3日続く時は死に繋がる病気隠れてるからあながち間違いでもないんだけどね」
しゃっくりの止め方を教えよう。両耳に指を突っ込んで自律神経を整えると横隔膜の痙攣が止まりやすくなる。
「ねぇねぇ! 双葉、莉奈ちん曰く。余計な事には首を突っ込まないほうがいいらしいじゃんね? でもアタシ達突っ込みまくりじゃない? やばい、ウケるー!」
ダンタリアン自身怪異その者のような存在なので、ノーカンなのかもしれないが、巻き込まれた双葉はたまったもんじゃない。と言うかそれ以上にツッコミざる負えないのは……
「朝陽くん、しかしやばい子ですよね」
「やんちゃ通り越してちょっとヤバいよね? そんなきしょい絵普通拾ってこないもんね? でもさ、こういうのって釣りでふた昔前に流行ったんだよ? アタシがガチで店主やってた頃かな?」
インターネット黎明期、5chが2chだった頃、変な絵を拾っただの、変なノートを拾っただの言ってリアルに画像をアップして盛り上がっていた時代があった。そう言った物が時代を超えて一人歩きし出したらそれは怪異になるのかもしれない。都市伝説の非常に面白い性質でもある。
「ダンタリアン店長、聞いていいですか?」
「いいよー! スリーサイズ? それとも男性遍歴? それとも……ええっ! 今日の予定? もう双葉、盛りすぎだヨォ! ってね。死んだような目でアタシを見ない! 大悪魔は蔑まされすぎると死んじゃうんだよ! で、何?」
「神社とか寺ってお祓いってしてくれますよね? あれってこういう呪い的な物に対してもやってくれるんですか?」
「大悪魔のアタシにそれ聞いちゃうんだ? まぁ、結論を述べるとやってくれるよ」
ただし、神主も住職も“あっ、こいつやべぇ奴だ“とほぼ100%思われているのでご相談の際は覚悟してください。一応、神社仏閣はかつての相談聞きのカウンセラーなので、お祓いという名目で心の平穏を保たせてくれます。しかし、逆に神も仏もいないことを知っているのでめちゃくちゃリアリストです。
これは、当方が一年くらい前に紹介作品のミーティング時に参加いただいた宮司さんが語っておられました。宗教はお金の為に行なっている物であり救いの為ではないと某キリスト教関係者も仰っているのでそういう事なんでしょう。
「なるほど、病は気からって奴ですか」
「悪夢を見た。それを文字に起こした絵に起こしたというのって実際あんまりよくないんだよね。これ某国で一回実験してんのよ。それは悪夢じゃなくて夢なんだけどね。大体精神崩壊してんの、これは不安因子が少ない事が原因なんだろうけどね。日本人が精神崩壊しにくかったり、外国の人より感動して泣いたりあんまりしないのが不安因子に守られてるからという皮肉なんだよね」
そしてそんなお金を払ってくれるからやむなしお祓いをしてくれるような神社に毛程の効果はなく、というかなんの不運か神社が燃えるという中々の惨事に発展する。
「ということで、その全焼した神社まで散歩してみよー!」
「ダンタリアン店長、悪魔か!」
「ノンノン! だい・あくまで元店長。だーん! たーりー! あーん!」
百日詣の読み方はひゃくにち、ではなくももかだそうだ。やはりこうなると百日生きていた事への感謝の礼を参る儀式に近いのかもしれない。
「タイトルのタソガレモモカ、これさ。いくつか意味が見えてくるよね」
「と言いますと?」
「読んで感じようぜ双葉ぁ! なんでもかんでもアタシから聞いてたら脳細胞なくなっちゃうよ?」
そう、本作の所以である願いを叶える百日詣、行方不明の朝陽くんを見つけてほしいという願いであるが、何気に序盤で見つかっており、その百日詣を続けているというストーリーだったが、百日を待たずに朝陽くんは見つかった。真の願いは何か、百日の後に何が起きるのやらというのが本作の一番の盛り上がり部分だろう。
おそらく普通に読んでいる読者が気づかない事もないが、ここで強調して本作の読ませたい部分を主張してくる。
「夜の散歩は不思議と高揚するものさ」
「僕は早く寝たいですけどね」
「そんな連れない事言わないでさぁ、双葉が零時をハシゴしたのはいつの日だい?」
「いやぁ、中学生かそんくらいじゃないですか?」
「まぁ大抵流行りの深夜番組なりについていく為にそんな感じで夜に足を踏み入れるわけさ。除夜の鐘を聞こうとして起きてても気がつくと子供は寝てるからね。文明の利器とオカルトの対峙ってのはいつの時代も変わらないよね」
今回はGPSが狂わされた。方位磁石が狂った。電話が何処からか鳴らされた。いつの世も文明の利器は受け身であり、不思議な事に当事者や読者を恐怖に陥れる道具に変わるのだ。
「ガンジー岩。これって十中八九、紋左衛門岩だよね?」
現在富士登山修行中のアヌさんが六甲山系を登る際にリアルの写真を送ってくれたが、実際に道の真ん中にポツンと巨大な岩が放置されているのだが、山道で程よく速度を落とすことができて、対向車線を分けてあるので非常に安全な岩と言える。多分、どかした方がリアル事故が多発しそうなので後付けでどかそうとすると工事業者に祟りがあっただの事故があっただの言ったのだろう。どかそうと思えば現代化学どんな方法でもどかせる。
日本昔話にもなった為、あまりにも有名なその岩の写真を双葉に見せながらダンタリアンは笑う。現地では夫婦岩と言われていたりするが、知ってか知らずか関係性がないにも関わらず同意の名前が出てくるので、当方としてもあくまで創作の域かどこまで絡めているのかという部分は想像の域を出ない。
前回の四郎右衛門慰霊碑に酷似した物など、当方の歴史系、民俗学系を得意とするライターもいくつか類似点は見つかるが言及されていないのでオマージュかもしれない、あるいは偶然類似しただけの可能性も考えられると語る。
「ちょいちょい都市伝説ネタ、探せば探すだけ飽きが来なくていいね! 知ってるかい? マジでやばい都市伝説のネタ」
「いえ、なんでしょう? 口裂け女とか?」
「ううん。むかーし2chでネタとして扱われていた鮫島事件」
「えぇ! あれって、やばすぎて喋れませんという実際何もないネタを広げるだけの物じゃなかったんですか?」
「うん、そう。当時のちゃねらー達はそうだったのね? あれでも実際概要部分だけ、元の事件が数百年前に起きてんのよ。最近それが分かったわけでさ、どこかの誰かが歴史の事実を語ろうとした都市伝説って今では言われてんのよ?」
「マジですか?」
「うん、おおマジ」
「例えば、このタソガレモモカもいろんな都市伝説を扱ってるけど、作者自身も気づかない深淵がこの中に隠れてるかもしれないって思うと、オガミサマに参りに行ってる三人以外、読者であるアタシ達ももう後戻りできないところに来てたりしてね?」
ケケケと嗤うダンタリアン。ダンタリアンはそれでもいいかもしれないが、双葉はたまったもんじゃない。
閉口しているとまたダンタリアンが一つのネタに食いつく。
「ほら、出たよでた出た! 授業参観における家族についての作文ネタ」
「……なんですかそれ?」
「内容は至って普通の優しい家族を読んでいるんだけど、気づく人が聞いたらそれは悍ましい虐待からの心の叫びってやつさ」
「いきなりエグいなぁ……にしても遠足の写真選びって小学校の頃ありましたっけ?」
「さぁ、アタシはこの国の義務教育は受けてないから知らないけど、普通親御さんとかが買うんじゃないの? 子供とか自分の写真とか買わないかもしれないし」
それはさておき、この写真も不思議な事がある。間違いで入れられたにしては異様にピンボケした写真が一枚入っていたりする事があり、ちょっとした怪現象だ。学校大嫌い師匠ちゃん曰く。PTAの粘着的なイジメだそうだが真実は誰も知らない。
「なんか朝陽くんえらい遠慮がちじゃん! アタシだったら、お願いなんて何個でも叶えてもらうよ! なんかさ四十日超えたあたりでいい感じにこの作品歪んできたよね?」
「えぇ本当にね。次は、昔いた自分だけ覚えているあの子ネタですね。これ、僕も覚えはあるんですよ。なんか幼馴染の同性の友達と公園で遊んでた時にもう一人誰か確実にいたんですよ。女の子で、ただ。子供の頃って恥ずかしくて女の子と遊なんて事ないじゃないですか……名前も覚えてないんですけど、幼馴染に聞いても知らないの一点張りですし、あれなんなんでしょうね?」
半分は夢、あるいは実際にその瞬間その女の子と遊んだんだろう。だが本当に他人すぎて名前も一日で忘れ、友人の方はその記憶すら忘れ、該当の女の子もその記憶は忘れ完全に迷宮入り。このネタを使った恋愛ラブコメ等も多く作られているくらいにはメジャーな状況である。
が……それだけだと面白くないので、獣のような縦割れしたパープルアイを輝かせてダンタリアンはこう囁いた。
「別の世界軸の証明じゃね?」
ダンタリアンは悪魔でテラーである。面白おかしくない物は大嫌いなのである。だから、物語の中の世界とはいえ、全焼してしまった神社なんて見に来ても一ミリも面白くなかった事に手を出して可愛らしく笑ってこう言った。
「双葉、飲み直さね? ちょっと次はワインバルにでも行ってさ。まだまだ深淵の折り返しにもきちゃいないんだから! アタシの妹にねバッカスってのがいるのよ! それがこの辺で多分店開いてると思うから! 大丈夫! アタシの奢り、ね! 行こう!」
双葉はタソガレモモカの結末も気になるし、まぁいいかとはしゃぐ自称大悪魔の後を追う。
知ってる? 読み始めたら最後まで読まなければいけない物語『タソガレモモカ 著・桃原カナイ』って作品なんだけどさ……最後がどうなるかって? それは懸命な判断じゃないな。きっと今語られる結末は君にとって納得のいかない物だろうし、最後まで読み理解し、今ではなくその時の君がどう思うかを感想としてほしい。
私は誰かって? 名乗る程の者じゃない。ついに半分深淵を覗き込んだ諸君らに最高の敬意を込めて




