思えば怪異に掴まれていた。読ませるテクニック
「おじさーん! 大根、はんぺん、こんにゃくにごぼ天。えーっとお酒は冷やで何かおススメある?」
見知らぬ場所、数十分前までは古書店にいた筈なのだが、今や見知らぬ通りの見知らぬ“おでん“と書かれた赤提灯をくぐった先だ。
物怖じせずにダンタリアンはおでんに日本酒を頼む。
「異国のお嬢さん、十四代なんてどう?」
「あぁ、悪くないね。じゃあそれで! 双葉は?」
とりあえずビールという雰囲気ではない店内。
常連らしい年配の男性が独特な間で升酒を煽る姿は様になる。「そして、主人。紀土、お代わり」なんて言うものだからよけい頼みにくくなる。メニューを見ても漢字で書かれた日本酒なんてどれもほとんど知識がない。「ダンタリアン店長、日本酒なんて殆ど飲んだ事なくて……」と言うので、店主が代わりに答える。
「山田錦原酒なんてどうです? お若いから辛口が合うかもしれませんね」
と出してくれたそれ、山田錦、日本酒最高級品種の酒米。
東北の某ロボットアニメで有名になった“獺祭“も山田錦が使われている。兵庫県で多く作られ、日本全国の酒造が高級日本酒として使うそれ、そのバストさんおススメ、同じく灘郷で使われる日本最高級品種の酒水、宮水を使って仕立てられた。大吟醸山田錦原酒。
余談ではあるが、西の古書店店主“おべりすく“シア姉さんの日本酒セラーより今回のお酒ネタは提供してもらってます。幻の十四代を飲んだ大人メンバー曰く、“次元の違う美味さ“としか感想が出なかったとか……手が出ない高級酒で飲んでみたいなと思ったらシア姉さんにご相談ください。
そんな山田錦原酒の冷やを出されそれを一口、「うわっ、美味し……」と独り言が漏れる。さぁ、双葉はようやく今、摩訶不思議な場所で御神酒を飲んだわけだと気がつく。そこでダンタリアンに聞いてみる。
「『タソガレモモカ 著・桃原カナイ』の世界に今僕らはいるので、そのよもつえぐいにならない為の御神酒って洒落ですか?」
と聞くと、店主は口元を緩めてがんもどきをコトンと置いてくれる。
「結構普通の子供会話が続きますね。コッペリアとか、僕全然知りませんね。バレエとかしている女の子だからこんな会話になるんですかね……」
人形技師と少女人形の掛け合いが実にコミカルな演目であり、日本の狂言に近い作品である。また、この作品は流れこそあるが、独創できる事も魅力で子供のバレエ発表会でもたまに見られる。当然、子供も知っているから使えるわけであり地味にこの掛け合いもリアルだ。当方ミーツでも、ピアノを習っている子供が難しい楽曲を披露して聞いたことのない作詞家の名前を言われた事があったとかなかったとか……
「子供の承認欲求とマウントを取る癖は、大人の数倍だからね。前頭葉の成長途中だからだけど、まぁ上手く子供という怪物の特徴を捉えつつ、伏線を張ってるよね」
本作の既視感の強さは、戦争映画のアニメを学校で教材として使用しているなど、1990年〜2000年代に小学生を行っていた方々に強く刺さるだろう。所謂日教組暴走時代、道徳という授業を勘違いし、教師の好む答えに誘導されていた時代である。本作の子供達の感想、見たくないでも目を逸らしてはいけない。
という洗脳教育。
身も蓋もない話をすると、これを行うべきは欧米諸国であり、我が国日本ではない。いじめっ子といじめられっ子の隔離すべきはいじめっ子論と同じである。
「日本は戦争を仕掛けたから謝罪しなければならない。反省しなければならないという恐ろしい洗脳教育だよねー。実際は戦争を起こさせるように仕向けられたのに、そういう根本を教えないわけだしね。さて、双子の神秘性、双葉はどう思う?」
双子を簡単に説明すると、一卵性双生児はクローンである。
と言えばあまりにも非人道的だろうか? ほぼ同じ遺伝子情報を持った兄弟であり。逆に言えばクローン人間を作ったとすれば、歳の離れた双子と言った方が良いだろう。そんな双子はよくシンクロすると言われてる。これはオカルトか?
いいえ、本能です。
年の近い兄弟が兄の真似をする弟や、姉の真似をする妹。要するにアレであり、元来人間は先入観や宗教観で色眼鏡を使った結果、双子のみ片方が片方の真似をしている事をシンクロしていると語る。
されど、全てを数学で片付けてしまうのも面白くはない。もしかすると双子という方々はお互いに特定の周波数や脳波みたいな物を感じ取れるのかもしれない。それは、人間が動物に近かった時代、大人になる事が容易ではなかった為、どちらかでも生き残れる為の本能のような物の残滓だとすれば一気にリアルになる。
そしてここも双子信仰を否定するわけではなく……
「いやぁ、なんかありましたわ。双子が……とかじゃなくて、突然授業中に泣き出す子とか小学校の頃いました……」
とか、過呼吸に陥ったりとかね……あれは一種の小学校の魔力である。校庭に犬がゲストとして登場したりとか、あそこは一種の異世界なのだ。
無意味にギザ十を集める者も中学生くらいまで続けていた者もいただろう。これらに関して、ダンタリアンは語る。
「そう、本作はそういう。意味不明な子供の頃のジンクスやネタ。これも一つの都市伝説なのよね。この頃にしか通用しない、横断歩道の白線以外を踏むと死ぬ。とかね? そういうの、実しやかに囁かれ出して、噂は都市伝説になり、そして信仰になり、そういう思い込みは時として、魔となり毒となり、人を蝕み殺すんだよ」
オガミサマ以外に当方は焦点を当てると、本作は幼少期あるあるがたくさん散りばめられている。本作にあるギザ十を使い特定の組み合わせで購入すると当たる。これらの有名なネタは黄金の公衆電話でギザ十を使い電話で好きな人に告白すれば成就するという物の亜種と思われる。
そして、自動販売無限大当たりという嬉しいのか不気味すぎるのか分からないこれも実は実在した。
昔の乱数調整が本当に適当で、現在は大当たり時は当たりフラグは打ち止めになるが、何故か昔は大当たり後にも抽選フラグが立ち、特定のバグで前回抽選フラグを参照する為永久に当たり続ける。かつては防犯カメラが自動販売機にないので、全部掻っ払われるというメーカー大打撃、ちなみにこの亜種として、硬化が引っかかると内部の釣り銭が切れるまでお釣りを吐き続けるジャックポットバグもあったりした。
これらを持ち帰るのはカメラがあろうが、無かろうが窃盗なのでちゃんとメーカーと警察に報告しましょう。
いい感じで冷や酒を楽しんでいると、赤い顔をしたダンタリアンが「おじさーん、カップ酒、おでんの出汁割りで! あとちくわぶ!」
と大分ぐでんぐでんになってきている。
タソガレモモカ本作は西日本の文化をベースにした色が強い。
文章から、内容から文化圏からそんな中、ダンタリアンが口ずさむように、
「まひるちゃんは何に気づかれたんだろうね?」
「オガミサマですかねぇ?」
安物のカップ酒を煽りながらダンタリアンはテーブルに膝をついて据わった目。彼女の瞳に映るのは黒い鳥居、一瞬、双葉はギョッとしてもう一度見つめるがその瞳は縦割れした普段の人ならざるダンタリアンの瞳。
飲み過ぎたか……と思った時、ダンタリアンは語る。
「なんでもない日常、そんな話を数話読んでから突然不思議なお話を入れる。なんでもない日常は終わったんだと、読者の興味を戻す技法だよね。Web小説としてはとても良い。引き込み、世界に夢中にさせる。当然、次のページを双葉同様クリックするわけさ! これがセシャトさんなら、はっひゃー! とか言って、私のマフちゃんなら、気になるですよー! とか言うのかな?」
一足先にまひるは深淵に足を踏み入れた。
二十一日目、三週間という事になる。人間が習慣づく約半分に到達したその日付より物語の温度が一度下がったように本作では感じる。
そして感じるだけでなくやはり物語は“何か“に侵食され始めている。
「開かずの踏切に、対面の怪異だよ。これまたなんだかノストラジックを感じる組み合わせだね?」
「確かにかつてはテレビなんか見ると時々そういうの放映されてましたよね?」
単純に昔の人のオツムが悪過ぎて出来上がった下手すれば小一時間近く出られない踏切がニュースに取り沙汰されていたり、踏切、ホームの怪異は昔放映されていたホラー番組では鉄板のテンプレートでもあった。
「双葉の守護霊は、生まれてくる事ができなかった双葉のお兄ちゃんだね!」
お冷やをもらいながら酔い覚ましをしてダンタリアンが言うその言葉に、「いやいや兄とかいないですから」と答える。守護霊という物は氏神信仰的な物から来ているのだろうが実は実在する。
……と言えば興味が湧く方も多いだろう。
守護霊というのは、自分の家系に対する誇り、要するにプライドのことだったりする。ご先祖様に顔向けできない。ご先祖様が見ていると自分を律するアレであると超リアリストの師匠ちゃんが語っており、現実に守護霊という物が後ろに立つ霊的な何かでいた場合、原初の守護霊はどうなる? と鳥か卵か理論とデカルトで否定してきました。
ただそんなクソ野郎の師匠ちゃんでも、本作におけるまひるが暖かいと感じる作中の守護霊、これに関してはスタンダートかつ、テンプレートであり、まひるだけでなく読者としても一つの救い。作中にオカルトな力を持った莉奈氏への綺麗に繋げる要素であり非常に物語としては分かりやすく次が気になる良い作りであると語る。
「なんかまひるちゃん、ヤベェのが見えるようになってきちゃったね? 双葉ならヤベェのに声をかけられたらどうする?」
当然、得体のしれない怪異に声をかけられた普通する事は一つだ。
「無視するに決まってるじゃないですか……」
「いやぁ……双葉。ざぁんねぇん! もうアタシってヤベェのと関わってんじゃん! おじさん、おかんじょ! 鱈腹ヤベェ場所の食べ物を食べたわけだから、ちょっと散歩しようか? 作中の“こうべ町“をさ!」
暖簾をくぐって外に出ると、どんな異空間かと思ったが、ただの外。しかし見え覚えもなく神保町どころか東京ですらなさそうな田舎ではないが、衛星都市と言った場所。
紛れもなくヤベェ奴と、深淵の宵の口を覗いてしまったなと双葉は苦笑する。
嗚呼、昔母親だかにアンタ、本当はお兄ちゃんいたのよとか言われた気がしたなと思って。
第二回『タソガレモモカ 著・桃原カナイ』ご紹介となります。今回は物語の興味の持たせ方ですね。桃原カナイさんは気付けないのような不自然さを日常に書き込んでいき、気づける。むしろ分かりやすすぎる変化で読者を飽きさせません。これは実は後者より前者が大事で。気付けない不自然さの方のお話も非常に、面白く興味深いからできる芸当と当方は捉えますよぅ! 気がつければ思わずニヤリな本作を今月は楽しみましょうね!




