第一話 『ダメ男と私とハムスター 著・嫘李─Lay』より牛乳を飲みながら
2月なのです! けいオース!
人類ども、ご自愛するのですよ! 寒かったり、暑かったり、風邪引くんじゃねーぞ!
私ですか? ホットミルクとぬるめのお風呂でアロマを炊いて映画とか見てるのですよ。この前セシャト姉様にお風呂で使うオイルをもらったので気に入っているのです!
マフデトは今、東京の某牧場に来ている。
「わー! 牛さん! 牛さーん!」
ご存知、マフデトは牛肉が好きだ。牛乳が好きだ。地球の所有は牛がするべきだとそう主張するくらい牛が好きだ。今年の干支が牛である事に喜びを覚え、今年はマフデトの年だと信じているくらいには……
「マフちゃん、一人で走っていたら危ないよ!」
マフデトを気遣う中学生女子達。パッと見、同じくらいの見た目なのにマフデトは小さい子のようにホルスタインを見て興奮する。
何をしているのか? マフデト、彼は今、中学一年生に編入し、そして校外学習中なのだ。牧場見学をして、学友達と親交を深める為のそんな1日である。マフデトは恐ろしく愛くるしい。日本人ではないが、異様に整った顔立ちに、女子の母性と生存本能を擽る獣的瞳。転校初日から女子達にちやほやされ、別のクラスにいる秋文の教室に行く暇を与えてくれない。
「うぜーのですよ……」
「マフちゃん牛乳のも」
が、牛乳という言葉を聞いて、瞳を大きくするとついていく。牧場の牛乳はとにかく美味い。休憩所で牛乳を飲みながら女子達がマフデトにあれこれと聞いてくる。
「マフちゃんの好きな事って何?」
「Web小説よむ事なのですよ」
「何それ? 例えば?」
「そうなのですねぇ……短編で『ダメ男と私とハムスター 著・嫘李─Lay』恋愛依存症の社会にでて疲れ出した女が、怪しげなURLをクリックするとこをから始まるのです」
マフデトの斑は女子が三人。クラスの女子は抜け駆けをしないようにと、順番でまだ日本の学校に疎いマフデトのお世話をすると勝手に言い出した。
「出会い系とか引く!」
「人類というものは、心のどこかで生存戦略を立てる物なのですよ。別に同じ生物同士であれば、見知らぬ者でも構わずにつがいになるのです。この作品にも書かれている通り。女性の出会い系を使用するに対してのサクラ以外の反応は割と高いのです6割くらいなのですね。これが逆に男に対してのサクラの反応は8割以上なのです。出会い系とは男性を騙すためにあるような物と考えておけばいいのですよ。でも主人公は妙にせっぱつまってるんですよ」
両サイド、そして目の前にも同じ斑の女子に囲まれて、お前達もそうなのですよと言わんくらい据わった目でそう言うマフデトだが、女子達は事恋愛話は好きなのだ。
「続きは?」
「連絡が来るんですよ。“こう“って男の人なのですね。この作品の上手いところは、主人公はダメ女なのですよ。何がダメかというと、ダメな男を好きになる典型的なダメな女タイプなのですね」
再び、てめーらの事なのですよ? という視線を送るが気づいていないらしい。
「お前達はメイクしているですけど、フアンデだけなのですか?」
と聞くと、最近の中学女子。プチプラからどうしてそんな高額な物を? と思えてしまう化粧ポーチ。通称悪魔の袋を取り出した。化粧水、美容液、そしてリキッドタイプのファンデ。実はマフデトも化粧をする。古書店『ふしぎのくに』で店主として働く時は店内のライト焼けを防ぐ為である。
「ガキの内から化粧は肌を壊すのですよ。こうみたいな男に引っかからない事なのですよ! 世の中で一番付き合ってはいけない男が、ギャンブルをする男。バンドマン、そして芸能人と相場は決まってるですよ」
「えー、でもギャンブルは嫌だけど、芸能人と結婚は憧れない?」
憧れるー! と女子達は盛り上がる。俳優の誰がとか、アイドルの誰がとか、聞いてもないのに、マフちゃん嫉妬してる? とか聞かれるのが、マフデトは発狂しそうになる。
今回のライターである筆者は職業柄、ギャンブラーにもバンドマンにも皆さんがよく知る芸能人とも関わる事がある。もちろん。どの職種もしっかりと生きている人はいる。ギャンブラーで最高年収二千万程、現在は年収が大幅に減り引退をされた方や、仕事の片手間に音楽の道を志す方。ドラマやバラエティーに出演する某大物と、しっかりとしている人も知っているが……大体彼らは人生を、世間や世論を舐め腐っている割に、ご都合的思考をしている方がこれら職種には多いのでおすすめはしない。
「案の定、典型的なクソ男と付き合う事になった主人公なのです。俗に8割還元というパチンコというクソギャンブルにハマる典型的な生活パターンなのですよ。リアルすぎて、さすがは実話……というより進行形なんじゃねーかと感じるくらいなのです」
前頭葉が感覚麻痺しているので、怒りやすく、落ち着きやすい。そして嘘をつきやすくなり、凹みやすい。典型的なギャンブル依存が日本で多いのは本人によるところが多いが、パチンコや、パチスロによる映像と音楽による刺激が問題であると言われている。
「たまにお父さんパチンコに行くけど大丈夫かな?」
「家計や生活を壊さなければギャンブルだって息抜きにはなるのですよ。負けるつもりで遊ぶならまだしも、こんな事で生計立てようと思うなんて馬鹿なのですよ。このこうという男は女を落とす的を得ているのですよ」
さながら、キャバレークラブやラウンジのように、マフデトは女子が注いでくれる牛乳を飲みながら話を続ける。
「マフちゃんそれってどういう事なの?」
「女の子を落とすまでは誠実に、落としてからは適当に……そしてたまにサプライズの飴。これが大体のダメなくせに妙に頭の回るゲスの極みの男子の手口なのです」
女子は自分のスマホを出して、マフデトが読んでいる『ダメ男と私とハムスター 著・嫘李─Lay』を開いてよむ。
「私、この主人公好きだな」
私もーと、男性趣味に関しては共感できないけれどという意見はあるが、女性に好かれやすいのか、それとも女性が造形する主人公のパターンで一番多い。
男性のようなという表現を使えば一度ジェンダーな人たちにごちゃごちゃと言われるかもしれないが、ひらけた性格と態度をした女性キャラクター、少女漫画の鉄板である。
「そしておもしれー表現があるのですよ! 豆ご飯を一人で一合食べる……これは女性が見ればお茶碗二杯、多いのです。が、男性からしたらよく食べたな。というのは2合なのです。大食いだなというので3合なのですよ」
男性読者と女性読者でこういうところで感じ方が分かれる。是非、男性作者は女性作者の作品を、女性作者は男性作者の作品を読んで後学をしてほしい。
新しい感性を知識として手に入れれるかもしれない。
「まぁ、こんなダメな男と過ごしていれば、緩やかにやってくるのは破滅なのですよ。それをないないで済ませていた主人公の生活にも歪みが始まるのですよ。しかも正直、いくつか考えられる事があるのですよ。何かわかるのです?」
マフデトが女子達にそう聞く、いつしか三人の女子はマフデトが話す作品について読み込み考える。テーブルには持ち込んだお菓子などを広げてである。マフデトは安いショートニングで作られた市販のビスケットに微妙な味だなと思いながら八重歯を入れる。サクサクとそれを一枚食べてから三人を見つめる。学生服を着崩さず、しかし頭には王冠が乗っているマフデト。文化の違いと認められたその位置を直しながら、マフデトはさすがは進学校だけあって馬鹿っぽいけど賢い女子達だなと思っていた。
「これさ、結末の落とし方がなんか最後急だから半分以上想像になっちゃうけど、このこうさんって……病気か何かかな?」
異様に痩せている。三十八キロは異常と言えるライン。胃下垂でこんなに痩せない。ガンなどを想像してしまうが、この痩せ方、それなりに食事はとる事からして、糖尿病などの糖質吸収能力が極めて低い病気を患っているように感じられる。
「それに過去形だよね……もう主人公の女の人と別れた後なのかな?」
正直な意見が飛び交う。マフデトは先ほどまでボディタッチが酷かったこの人類の少女達に不快感を全力で表していたが、作品を楽しみ、考察し、語るこの様子を見て、少しばかり彼女らのことが気に入りだしていた。
「まぁ、実際に事実を元にしていると作者が語っているのですよ。だから現実の結末は全然違うのかもしれねーです。それでも最後まで語られてないWeb小説の作品内の結末なのです。私は一応考えているのですよ」
マフデトの考えとは何なのか……小さい子みたいに可愛いマフデト。先ほどからお腹は緩くならないのかと思えるくらい牛乳を飲み、中学生が喜ぶ事はない牛のパンフレットに満足している彼は静かに話し出した。
「作品はタイトルを回収するというのですよ。ダメ男と私とハムスター。そして二人と最後に綴られているのです。ハムスターが主人公の家族であるというのであれば、仮定をするのであれば、ハムスターの寿命なんて一年から長くて三年くらいなのですよ。要するに、ハムスターの寿命と同時期、あるいは待たずしてこうは帰らぬ人となったのかもしれねーですね」
病気の痩せ方という物には特徴がある。筋肉すら消耗される。本作品内では筋肉が付いているんだよなぁ? という曖昧な表現しかなされていないので、どちらとも取れる。実際のところ、こうがチャランポらんにギャンブラーとして生きているかもしれないし、こればかりは想像の域を出ないが、本作が小説であるという点。
「起承転結がある物語として描かれているのですから、結末はこう読むのがベターなのですよ。これは前後関係を合わせた一般的な読み込みにすぎないのですけどね。結末を書かれていないので、読者の自由にエンドであっても一応筋が通っているのです」
そこまで語り終えると、女子達はさらに笑顔になる。今まであまり多くを語らないマフデトがとにかくよく喋るのだ。
「マフちゃん、次は? 何か他にない?」
「仕方ねーですね。じゃあ次は……どの物語にしようかなのですよ」
まだまだ、課外学習は終わらない。
『ダメ男と私とハムスター 著・嫘李─Lay』短編として、Web小説らしからぬ、リアリティ、そしてまぁまぁえげつない内容に読む手が止まらねーのですよ。私、こと主人公に幸あれ! と読者はおもっちまうんじゃねーでしょうか? ぜひ一度楽しんでみて欲しいのです!




