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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第十二章 『堕ちた神父と血の接吻 ― Die Geschichte des Vampirs ― 著・譚月遊生季』
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定番の漫画飯をここで一つ、二つ紹介しながら

「お嬢様、桜フィズお待たせでありんすよ!」

「わぁ、汐緒くんありがとう! 綺麗!」

 

 満席近く客層が増えてきた事で、汐緒を独り占めするのは悪いかと蘭とメジェドは端のテーブル席に代わる。カウンターはすぐに埋まり。せっせと汐緒はオススメと注文を受けた限定ドリンクを作っていく。

 

「このお店中々やるっすね!」

「恐らく単価の取り易いアルコールを主力にしつつ一番売って割にしたい商品を限定商品として提供されています。恐らくオーナー・トトの手腕でしょう」

「それだけじゃねーですね。汐緒さんカクテル作りも紅茶を淹れるのも相当デキるっすよ」

 

 この店をなぜか経営者目線で話す二人に声をかけられる。

 

「二人とも営業妨害はよしてもらおうか?」

 

 流石に捌ききれなくなったらしく、ここでヘルプの登場。神保町のバイト戦士・木人もくじん。彼女はスーツスタイルで登場、響き渡る黄色い声、さしずめ男装の麗人とでも言ったところなんだろう。

 

「店長、変わろう。ラウンドして紹介を続けてくれ、ドリンクは私が提供する」

「助かるかや木人ちゃん。学校が終われば大友も来てくれるでありんすよ! この戦場、しのぐでありんす!」

「当然」

 

 木人得意のフレアバーテンディングで盛り上げながら皆、テーブル備え付けのタブレット、あるいは自前のデバイスで『堕ちた神父と血の接吻 ― Die Geschichte des Vampirs ― 著・譚月遊生季』を開く。

 

「心の殺人とも言えるような、耐えがたい暴行。ヴィルの死姦まがいの報告。されどコンラードはここにきても神父としての役割をやめる事はなかったでありんすな? ここから逃避行かや。むしろ、それ故に吹っ切れた感も……」

 

 悟りというのは業が深いが、彼は救いをくれと懇願している。ストッパーの役割が逆転していると考えていいだろう。

 

「ヴィルという救い、もといストッパーがどう働くのか、物語はどちらの方面でも考える事ができるでありんすよ」

 

 ハッピーエンド、バットエンド。この矢印の行方はコンラートではなくヴィルという青年の結末に左右されやすくなる。

 なぜなら、いくつかの意味でコンラート自身は終わってしまっている部分があるからだ。そのコンラートが壊れるとすればヴィルの喪失となる。

 

「いずれにしても処刑台が用意された二人だ。逃げ切れるとも思えないが、死と隣り合わせの愛はいつでもドラマがある」

 

 木人はカウンターから見えるモニターに映し出された文章を見ながらラウンドをして朗読と紹介をしている汐緒にそう言った。

 火遊びの方が燃え上がると言うのは人間の痴情も変わらない。そういうものを律する為に当初宗教概念は生まれたとも考えられる。

 

「木人さーん、コンラート神父が痛み止めに飲んでたお酒に近い物が飲みたいなぁ〜!」

 

 吸血鬼になってからのコンラート神父は異様に酒に弱くなったという。結果として痛みを騙すのに多飲しているのだろう。このお店の女性客のワガママな注文、オーナーのトトはお嬢様の申し付けであれば何なりと! と答えるようにと言われているので、木人はスマホを取り出す。

 

「お嬢様のお申し付けであれば何なりと……もしもし、師匠ちゃんか? 今、かまわないか? あぁ、『堕ちた神父と血の接吻 ― Die Geschichte des Vampirs ― 著・譚月遊生季』のコンラート神父が飲んでいそうな物は何か分かるか? あぁ、二番目の奥にあるこれか? すまない助かった……飲み方? ふむ、参考になる」

 

 当方、この作品に合う、音楽は? お酒は? など色々と考察していたわけだが、今回本作のイメージしたお酒を師匠ちゃんが考え、大人メンバーはそれに舌鼓を打ちながらミーティングを楽しんだ。

 

「店長、こちらを三番テーブルのお嬢様に」

「かしこまりでありんすよ!」

 

 薄いピンク色にやや粘度のあるショートグラスに入ったカクテル。


「うわぁ、綺麗……ッ! おいし、これ何が入ってるの?」


 木人は一つのボトルをドンと取り出した。


「コンラート神父が痛みを忘れる時に飲んでいたのではないか、と思われるお酒はこちらだ。ドイツ・ジン。シュタインヘーガー。これをストレートで飲んでいたんじゃないか……と思うのだが、それだと少しお嬢様には火遊びがすぎるからな。シュタインヘーガーとピンクグレープフルーツジュース、そしてハチミツを混ぜてシェイクした当店オリジナルカクテル。アポクリファだ」

 

 所謂漫画飯、そう言う物に食いつくのは消費者の悲しい性であり、次々に注文が入る。


「木人、私と、メジェドさんにも同じものよろしくっす!」

「かしこまりだ!」

 

 皆がカクテルに舌鼓を打ったところで、汐緒はマイクを入れて続きを話す。


「コンラート神父はお酒に酔った時、どんな風にエロくなるのか興味津々のお嬢様達、ヴィルは“ど“がつくほどのエロガキでありんすな? そして、ここにお集まりの皆様もまた、“ど“がつくほどのBL好きかや、ここで5分、自分の世界に入るでありんすよ!」

 

 ガシャンと木人は電気を止める。作品の楽しみ方として一度目を閉じて作品を感じてみる。想像も妄想も感想も全ては自由なのだ。

 思考する5分は長い、なんなら寝てしまっても構わない。実際にミーティングでもブレインストーミングの時にたまに行われる。

 

 5分経つと、木人がゆっくりと語り始めた。彼女もまた過酷どころではない幼少期を大陸で過ごし、名前の通り使い捨ての凶器として扱われてきた故に共感できる部分があったのだろう。

 

「ヴィルは野生を生きていると記載があるな? PTSDの一つだろう。温もりを求めているのだ。逃げる先、休まる先、そして自分が優位になれる先……と言ったところか? シンプルな話をすると、こういう人生を歩んだ物は親を求める」

 

 その愛情表現が性行為になるというのは、逆に考えるとヴィルはそれしか知らないからという事になる。

 戦後の日本でも十に満たない子供がタバコを吸って博打を打つ写真を見た事があるだろう。あれもそれしか楽しみを知らないからである。

 

「まっ、国の汚れは一番子供に影響が出やすいっすからね。にしてもコンラートさん、下手っぴっすねぇ、キスしてあげるなんて言ったら次はもっと大きな物がご褒美になるんすよ」

 

 本作においてコンラートは愛らしい、なんという当初からややポンコツ気味なのである。元々、神職者として彼は人の前に立ち、導くべき存在としての自分を作り上げていたハズだが、その頃から割と雑念が多い。

 そして吸血鬼となった彼は、その神という存在に疑念を感じていた。

 これには機械人形であるメジェドが一言。

 

「信仰心というのはある種の自我、悪く言えば自己洗脳に近いものです。神がいるのか? という議論をした時。物理的な存在としてはノーですが、概念としての精神的な存在といえばイエスです。吸血鬼になったというより、自分に起きた衝撃的な事件が、神という存在を深層心理から打ち消し、焼却したと考えられます。そして、第二の神はヴィルとも言えるでしょう」

 

 果たして、官能的であるBL小説を前にこれほどまでに機械的に考える者がこの店に他にいるだろうか?

 

「そうっすね。“我が身は彷徨う“ これは親からの自立、神との決別とも言える言葉っすね」

 

 他にいた。

 女子である以上耽美的な、あるいは野生的な男性同士の絡み合いが嫌いない女子は機械だろうと、国際的犯罪者だろうといない。

 大事な事なのでもう一度記載するが、

 BLが嫌いな女子はいない。

 が、その読み方は千差万別である。

 

「コンラート神父はヴィルの言葉通り、血肉を味わう事を覚えたかや、ある種メジェドさんの言う通りヴィルはコンラート神父の信仰の対象とも言えるでありんすな? でも、このヴィルに対して態度では主導権を握っていたいような発言は……滾るでありんすな?」

 

 汐緒がそう言ってウィンクする。コンラート神父のツン具合は後に言及されている。照れ屋なのである。この主人公、どれだけ役を乗せれば気が澄むのだろう?

 

「イケメン、神父、真面目の三翻にツンデレ、受け、ポンコツ、背神、寂しがりで今の時点で倍満はあるな。このまま話が進めば数え役満も夢じゃない。物語の主人公とはこうあるべきなのだろうが」

 

 木人が、ここにきてキャラクターの基本形について語った。

 それを麻雀の役に例えるので、麻雀なんてルールを知らないお嬢様方もクスりと笑う。


「失敬、少し冗談が過ぎた。ここは私がお嬢様方に奢らせてもらおう」

 

 そう言って、シェイカーを取り出すと本作にオススメなカクテルを師匠ちゃんからもう一つ教わっていたのでそれを人数分提供。

 

 それを一口飲んだ蘭は一言。

 

「コープス・リバイバー(死者の生還)っすか? の、オリジナルっすかね?」

 

 あるいは最後の乾杯とも言われたブランデーベースのカクテル。その木人による新しいチョイス。

 

「シェリーを少し、今回はお店にあった赤玉ワイン……多分、ダンタリアン様の物だと思う物を使わせてもらった。当店今月限定カクテル。コープス・リバイバー・フォウ・べローヌング・ヴィル」

 

 要するにコンラートからのご褒美キスという名の洒落たお酒を提供してきた。飲めない方にはフルーツティーのモクテルでそれらを再現。

 

 お酒が少し回ってくるとBL作品の深みにハマり出す。そしてそろそろ中高生がやってくる時間となり、その時間になれば最後のヘルプがやってくるのである。

 

「お疲れっす! うわっ! めちゃめちゃ繁盛してんじゃん!」

 

 普段は女装しているのに、本日のイベントの為にちゃんとした学生服で学校に出ていた自他共に認める女子より可愛い男子、大友。

 本店のヘルプ出勤としてやってきては女性客を逃さない。

 

 そう、ブックカフェ『ふしぎのくに』かき入れどきスタートとも言える。

『堕ちた神父と血の接吻 ― Die Geschichte des Vampirs ― 著・譚月遊生季』ブックカフェ『ふしぎのくに』で提供させていただいているカクテルは簡単に作れるらしいですから、興味がある方は是非作ってみてくださいねぇ!

 作品にあった音楽や、食べ物や飲み物、これは小説を読む際に思考以外で作品同化を楽しむ物と当方では考えています。是非、一度お試しくださいね!

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