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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第十二章 『堕ちた神父と血の接吻 ― Die Geschichte des Vampirs ― 著・譚月遊生季』
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錆びない機械少女は腐女子たりえるか?

 古書店『ふしぎのくに』、その姉妹店であるブックカフェ『ふしぎのくに』。セシャトさんの弟分のトトさんがオーナーとして、妖怪の汐緒が店長、アルバイトの大友。

 一部のお姉様方には美少年カフェとしても有名なその場所に、ある人物というべきか、一体。

 あるいは一機が訪ねてきた。

 

「失礼します」

 

 よく見るとカメラアイを持った少女型の機械、重工棚田で秘密裏に開発され、社長の棚田クリスの助手兼、デバイス。通称ノベラロイド・アリス型。

 その名も……

 

「メジェドさん、いらっしゃいませでありんすよ!」

 

 燕尾服を着た店長、その正体は女郎蜘蛛の大妖怪。

 汐緒はメジェドを適当な席に案内する。機械人形が訪ねてきても何もおかしくはない、時には歴史上の偉人、時には人外、時には物語の登場人物ですらやってくるこのお店、古書店『ふしぎのくに』

 その姉妹店ブックカフェ『ふしぎのくに』はいつもオススメの作品を店員たちが朗読、あるいは作品について説明し来客を楽しませる。

 そして本日のイベント。

 

「BLフェスタに興味津々、本日の稼働は沢城女史に伝え休暇をもらっています」

「メジェドさんは本当にカラクリでありんすか? まぁいいかや! 平日の開店。オーナーはまた旅に出てるので他のお客さんが来るのはお昼以降かや。貸切で楽しんでいくでありんすよ! メジェドさんは何か読みたい作品は?」

「店長汐緒のオススメを!」

 

 少し考える。汐緒に性別があるとすれば雄。されど、オーナーであるトトに好意を持っている。リアルBLを体現した存在。オーナーの帰りを待ちながら悶々とした日々を送るのに、様々作品は読み進めてきた自負はある。

 

「であれば、メジェドさんには『堕ちた神父と血の接吻 ― Die Geschichte des Vampirs ― 著・譚月遊生季』なんてどうでありんす? 大概、この西洋の教会をモチーフにした物語は、主よ! 導きたまえ! というところから始まるでありんすな?」

「キリエエレイソン」

「そうでありんす! 典礼の最初の一節。映画やアニメ、漫画に小説。あるいは日曜学校などで聞き知った事が固定観念のようになっているのかもしれないでありんすな?」

「店長汐緒。元々教会の典礼や聖書は物語ですから、あながち間違ってません」

 

 本作は教会に関してがメインの物語というわけではないが、この物語も例に漏れず始まりの口上は分かり易い。

 

「BLと吸血鬼物のシナジーは割と高いでありんすよ。これも遺伝子に刻まれた固定観念かもしれないかや、下手すれば最初に食欲と性欲、まぁこの場合は生きる方の生欲でありんすな? を混同させた表現が吸血鬼作品でありんすな? あと……歪な愛の形もよく表現されるでありんすよ。ゲーテなんかが得意かや」

「コリントの花嫁、あれは実にいいですね」

「メジェドさんと話すと説明がほとんど入らないので楽な反面、あちきの仕事がなくなりそうでありんすよ……本作の神父は赤い、赤い液体を飲み干すでありんすな?」

 

 そう言って汐緒はワインではなくブランデー用の広く深いグラスを取り出すとそこに真っ赤な甘い香りがする何か出した。

 

「搾りたての、人間の生き血でありんすよ!」


 一口口をつけるメジェド。


「アサイージュース70%、アセロラエキス少々、人参、20%、リンゴジュース10%のフルーツスムージですね。確かに視覚的には人間の生き血に近い色合いです」

 

 せっかく雰囲気を楽しんでもらおうと思ったが、苦笑してメジェドとグラスを合わせる。

 

「何やら、育ちの良さそうじゃないあれくれ者らしいヴィルと、始まりから何かやらかしたのか、やらかされたのかあまり穏やかではない神父様との掛け合いから始まってるでありんす。この礼儀の良し悪しで差をつけるのはBLの関係上、常套句であり世のお姉様方はこの時点で趣味嗜好が分かれるでありんすな?」

「どちらがウケで、どちらがセメか」

「いや、早いでありんすな。まぁ、そうなのですが最近はBLに“や・お・い“の概念が段々なくなってきてるでありんすよ。ストーリあっての同性愛が昨今の基本かや、ここまででそこまではないと思うでありんすが、質問は?」

「Mein Gott」

「言うと思ったでありんすよ」


 本作はドイツ語言方面の作品である。MEIN GOTTは信仰神、言葉通り私の神。我が主は、私の父、目上の者なのでMEIN HERR。

 正直、これは日本の翻訳に問題もあるだろう。語呂がいいので本作と同じ意味で使う事があるが宗教的理由がある部分なのでここは指摘しておこう。

 

 日本で願掛けする際、神様仏様! みたいな強調する言葉があると思うが、ドイツ語でも強調する際、Mein Herr Mein Gott ! と強調する言い方があるので明確に違う意味なのである。日本は異音同義の言葉が多すぎるのでこの認識になっていると思われる。

 

「日本語はその特異性故に第二言語に対して、非常に弱い部分があるのは確かでありんすな。これは逆に海外の方があまりにも同音異義語が多すぎて困惑するのと似ているでありんすよ。あと、我が神よ! でもいいでありんすが、我が主よ! の方が深く感じるような気がするかや、これは音と意味の逆転現象でありんす」


 小説というのは、情景の感じ方を楽しむ創作物である為、言葉の選び方は重要であり、感じ方としてなぜかすがっている様に感じる我が主を! を選んだ方が、花丸なのだろう。

 

 第二話より、少々主人公の神父コンラートともう一人の主人公ヴィルの絡みと言うか本作で言えば食事というのか、もっと原始的に考えればコンラートが生きていく為の儀式が行われるわけだ。

 

「カトリック系譜のコンラート神父は、神の創造した物ではない何かになった事にか、それとも、単純に同性愛について赦しをえたいのか、それとも赦しとはこのいつまで続くかも分からない関係が続く事への願いなのか、それによって見えてくる展望が変わりますね」

「そうでありんすな。メジェドさん、あちきは思うかや。コンラート神父にとってヴィルはストッパーでありんすな? ヴィルはコンラート神父をそれはそれは大変慕っているでありんすよ。赦しとはこのささやかで必ずいつかやってくる快楽、ここは幸せと正直に言った方がしっくりくるかや。幸せへの許しと捉えるのがベストかや」

 

 コンラート神父はヴィルに対して辛辣でややふてぶてしい。これは一つの愛情表現なのだろうが、だがコンラート神父、彼が彼の弱さに見栄を張るように見えて愛おしくも感じる。

 

「確かに、コンラート神父は可愛らしいと言えますね。依存体質でありながら神父という立場上それなりの識者である自分も取り繕うとしているようにも見れます。兄弟がいたという事で頼られる事には慣れている」

「いいでありんすな! 今まで神父という頼られる事にリソースを割っていたから、護ってくれる。頼っていいヴィルという存在はそれこそ、血液を啜るくらいに麻薬なのかもしれないでありんす」

 

 本作において、コンラート神父が非常に精神が幼いという部分について考えてみたい。現時点では彼はおそらく同じ宗派あるいは、別宗派とのなんらかのトラブルで命を落としているらしい。

 それだけにフォーカスを当ててみてもそれら襲撃者の撃退も盗賊たるヴィルが行っている。そんなヴィルとの距離の取り方もなんだかおかしい。

 

「避けているというわけではないみたいです。言葉の反面、ヴィルに触れられる事に救いを感じているとも取れます」

「具体的な意見と行動に落とし込むとそういう事になるかや。コンラート神父本人もこの関係は良くないとわかっているでありんすよ」

 

 アサイードリンクに口をつけるメジェド、彼女はどれだけ人間に見えても機械である。味を識別する機能があったとしてもそれは仮初の物。

 

「吸血鬼という存在の設定はこの日本で大幅に独自の進化を遂げています。そして、本作でも生と性をかけるようにある種のエロテックさを醸し出そうとしているのにはある種、韻を踏んでいるとも言えますね」

「それはどういう事かや?」

「吸血鬼とはこの日本に近年入ってきた考え方ですとモーラのような食い意地の貼っている夜な夜な美しい女性ばかりを襲う。きちんとした身なりの顔色の悪い男型というのが最初に考えつくでしょう。まさに目の前の店長汐緒のように」

「あちきは妖怪でありんすよ。それに吸血なんて品のない事はしないかや、言われて思い出したでありんすよ。そういえば、この国にも大陸から今なら吸血鬼と呼ばれるような妖怪が入ってきたかや……確か名前は」

 

 飛緑魔……というと知らない人も多いだろう。が、こう話を聞くともしかしてアレかな? とも思えるかもしれない。

 古代の中国で妲己と名乗り、天竺にて華陽と名乗り、再び古代中国にて褒姒と名乗り、そして我らが日の本で玉藻御前と呼ばれ討ち取られた大妖怪。

 

「日本では淫魔に近い扱いを受けていて、女性ではなく男性を襲っているケースが異様に多いです。これはヨーロッパと日本の男性や女性への価値観が違うからです。そして、BLを愛する女性の宇宙の拡大率よりも早く、広く濃い創造力はあらゆる物をウケとセメの概念で再構成させます。妖怪など格好の創作ネタと言えるでしょうね。古くは日本神話、近代では幕末の女性でもBL的書物を愛でていた可能性が歴史的な部分で見えてきました。海外では紀元前です」

 

 ボーイズラブの奥は深い。同性愛だけでない、異性愛も同じく、全てが美しい物ではないが創作物となると違う。

 や・お・いという長く暗いBL暗黒期からその界隈を守り続けてきたお姉様方に敬礼の上語っていこう。

 本作は類に漏れず、もはや“やおい“の概念はない。しっかりと物語にいかにしてコンラート神父は吸血鬼になったのか? そして、この禁断の二人の関係の行く末は……読者はどう感じるのか? 

 小説としての三拍子は揃っている。

 

「触りの部分まで読んだでありんすが、イケメン同士の絡みというのは読む手が進むでありんすな? 昔風に言うとご飯三杯かや」


 コクコクと頷きながら続きをと思った時、まだお昼前のお店に入店する影。

 

『堕ちた神父と血の接吻 ― Die Geschichte des Vampirs ― 著・譚月遊生季』さて、始まりましたね! もう一年の半分が終わってしまいましたねぇ! さぁ、それでは女性読者の皆様、お待たせしました! BL系作品の紹介第三弾です。大変、ストーリーがしっかりとした中に、決して許されないであろう二人のこれは一つの純愛かもしれませんし、あるいは逃亡なのかもしれません。一ヶ月間一緒に楽しめていければ幸いですよぅ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ご紹介いただき、誠にありがとうございます! 「Mein Gott」の件と言い、知識面でもめちゃくちゃ勉強になります。参考になりますね…… これから1ヶ月、何卒よろしくお願いいたします!!…
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