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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第一章『隻眼隻腕の魔女と少年 著・麻酔』
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お泊まり会の相場はカレーか焼肉で決まっている

 さてティータイムの代わりに牛乳を飲む時間があるのです! 師匠ちゃんはプロティンを入れて飲む時があるのですが、なんつーか牛乳の飲み方としては邪道なのですよ、

 レシェフさんは味付きのストローで牛乳を飲むんです。これもどうかと思うんですけどね

 カレーパーティーという物を不定期で古書店『ふしぎのくに』は開催される。神保町名物、本を読みながらカレーという日本独自の文化である。

 この会はカレーを作る者をあらかじめ決めて、各々独自のレシピのカレーを食べる事になる。


「マフデトくん、玉ねぎはどうするの?」

「薄切りとざくぎりと、半月切りで頼むのです」


 そこには二人のショタ達が母屋でカレーを作る様。当然、古書店『ふしぎのくに』の現・店主。マフデト。そしてその常連、倉田秋文。二人は手際よくカレーの準備を始める。


「てぇてぇ! 男の子がエプロンつけて料理はシーサー、てぇてぇね?」

「ちむどんどんすりゅ、たまらなさん!」


 マフデトは変な二人組を入れてしまったと激しく後悔する。せっかく秋文が泊まりにきたのに、カレーの取り分が減るし、邪魔すぎる。


「カレー粉はどうするの?」

「バーモンドとコクまろを半々で使うのです! 水の代わりに赤ワイン半分とトマトジュース半分なのです。そして隠し味に……」


 コップ一杯の牛乳と缶コーヒーを半分入れる。


「マフデト君。『隻眼隻腕の魔女と少年・麻酔』教えてくれてありがとうね! 二周目に入っちゃったよ」


 マフデトは猫みたいな目をして秋文に反応。


「秋文くん。そういうところなのですよ! それにしても、秋文くんは、本作を総評していくとして、何を評価するのです?」


 秋文は、牛肉のブロックを切り分けて牛脂で茄子と共に手際よく炒める。そしてうーんと考えてから答えた。


「そうだね。まずは読みやすい文体かな。小説らしさとしては大事なところだと思うんだよね。Web小説って自由だから、小説の体をあえて成していない物も沢山あるでしょ? あれはあれで斬新で面白いと思うんだけど、やっぱり違和感なく読めるというのはインプットしやすいし、マフデト君達と話す時も感想をアウトプットしやすいよ」


 マフデトはカレーの付け合わせはどうしようかと考える。母親があれだけにマフデトの料理はそこそこ上手。


「私も小説を趣味で書くので、秋文くんのいうことはよくわかるのですよ。カルチャーショックは起きないというやつなのです。そういう好みではこの作者の作品は読みやすいのですね。ところで、白菜の漬物でカレー食べれる派なのです?」


 マフデトは冷蔵庫からジップロックを取り出すとそれを秋文に見せた。


「うん、大好きだよ! それマフデト君が漬けたの?」

「クソ簡単なのですよ。なんならレシピを教えてやるのです」


 マフデト流。白菜の浅漬け。マフデトは語る。用意する物。白菜半分。そして大量の塩。鷹の爪一袋。軽く洗った白菜の繊維部分に塩をこれでもかと塗りこむ。そして、一枚一枚、葉と葉の間に塩をこれまた大量に塗り込む。そして親の仇でも締め上げるように白菜をもむ。そしてザク切りにして、潰した鷹の爪と共にジップロックに入れる。ちなみに、空気を完全に出してやり、このジップロックも思いっきりもむ。翌日には美味しい白菜の漬物の完成である。


「うわぁ! これ、美味しいよ! マフデト君」

「そんな事言っても牛乳くらいしか出ねーんですよ!」

「料理ってさ、例えばこのカレー煮てる鍋とかさ、なんか魔女っぽくない?」


 料理は化学。魔法は化学? とは言い難いが、研鑽し、研究していくものなのである。


「カンザキに拾われることでリンフはまともな教育をうけるに至ったのですよ。でもまた繋がらない部分はあるのです」


 マフデトが小皿にカレールーを入れて一口。なかなかの味に満足し、秋文がいためた牛肉と茄子を投入。


「秋文君、味を見て欲しいのです」

「あっ、はーい!」


 マフデトが差し出したスプーンに秋文はパクリとカレーの味見をする。それに「美味しいね」と言う声が聞こえないくらいに……


「てぇてぇええええ! 男の子二人の共同作業っしょや! シーサー!」

「カームー! たいとぅんかみぶさーーん!」


 うるさい。

 うるさすぎる。それにマフデトは睨みつけた。


「てめーらうぜーのですよ! もう田舎に帰るのです」


 しかし、カムイとシーサーはしっかりと、『隻眼隻腕の魔女と少年・麻酔』を予習してきていた。


「私と、シーサーが考えるに、魔女という存在。彼女らは超心理学とかそっちの方面の存在じゃないと思うのよ」


 カレーを作っているマフデトと秋文がそれに反応した。オカルトではないとそう言うのだ。


「どういう事なのです?」

「僕も気になります。お姉さん達」


 マフデトとは違う。日本産の最高のショタ。倉田秋文。それにカムイとシーサーは深いため息を吐きながら、説明してくれる。


「あんじゅんな! ちびっく……」

「シーサーは通じないから私が説明するしょや。要するに、突然発現した魔法を使える人間ではなく……不思議な事に亜人としての魔女と読んでいるのよ。要するに、悪魔としての側面の魔女ね」


 悪魔という言葉を聞いて、それに何色を示したのはもちろんWeb小説が大好きな倉田秋文。カンザキ達が悪魔なわけないのだ。

 しかし、隣のマフデトは少し納得していた。


「あぁ、なるほどなのですね……腐ってもそっち方面なだけはあるのですよ」


 どういう事なのか、という顔をしている秋文の為にマフデトが捕捉した。


「秋文君。単純にクソ悪いやつが悪魔じゃねーんですよ。例えば、カムイさん。彼女は北のど田舎では自然信仰の神様なのです。でもよその宗教体系に組み込まれるとそれは信仰してはならない力を持った異教の神、悪魔なのです」


 カンザキ達“魔女”という人たちは人間と別体系を持つ亜人ではないのか? とカムイたちはいうのだ。


「なるほど、魔女という種とでもいうのでしょうか? そういう事をお二人は言いたいのですね。だからこそ、人類は大きなエネルギーを得ようとして、そして文明一つを犠牲にしてしまった。それは一重に人間側の問題だったのに、戦争に発展と……人類はクソですからね。すぐに自分達の理解できない物を排除しようとするのですよ」


 三角巾を外して、マフデトは小さな王冠を頭に乗せる。そしてその位置が自分の気にいる場所に合わせたところで自分の意見を述べようとしたが……

 ぷー!

 と、ご飯が炊けた音が鳴る。セシャトが半年給料をやりくりして購入した最高級の炊飯器。羽釜で炊いたようにお米が立ち、そしてお焦げまで任意でつけることができる優れもの。


「とりあえずカレー食うのですよ! あと、てめーらはカレー食ったら帰るのですよ!」


 マフデトのトマトジュースカレー、ちなみにこのマフデトレシピで作るカレーは東京の某カレー屋さんの味になるので、一度お試しいただきたい。


「美味しい!」

「まーさん! まーさん!」


 カムイとシーサー、二人はガツガツとカレーライスを食べる。そんな二人を見てマフデトは呆れながら……


「てめーら、白菜の浅漬けもあるのですよ……」


 それをカレーライスに乗せてさらに食べる。マフデトははっ! と思い出したのだ。今日のゲストはこんな二人のギャルじゃない。マフデトのお気に入りの倉田秋文なのである。


「秋文くん! たーんと食べるのですよ!」


 マフデトはカレーライスをよそうと母屋のテーブルに自分の分と秋文のカレーが盛られた皿を持っていく。


「秋文君、セシャト姉様のカレーとは一味違う私のカレーなのです!」


 秋文はスプーンですくって一口。そして咀嚼。カレーを食べると同時にタブレット端末の画面を開く。


「じゃあカレーを食いながら、再度読み込みを開始するのですよ!」


 マフデトがそう言って、自分のタブレットを取り出すと、カムイにシーサーも同じく『隻眼隻腕の魔女と少年・麻酔』を開いた。カレーをもふもふと食べ、時折、水を一口。


「まーふーとあっきー的にはこの作品の気になるポイントってどこなん?」


 カレーを一口食べて、秋文は無意識に語った。


「リンフはカンザキさんに好意を持っています。それは母親から姉、そして女性へと意識してきていることです」


 そう、マフデトは先に言われたなと思って捕捉する。


「そうなのです。逆に、言えばカンザキは子供だと思っていたリンフが弟に、そして一人の男へと成長を遂げたのです。ですが、リンフとカンザキには決定的な違いがあるのです」


 それは?

 人と魔女。恐らくは二人は生きている時間の体感が違う。少なくとも三百歳以上である。そんな二人がどんなアンサーを出すのか、読者が納得する結末なのか、それとも想像もしないような終わりなのか……

 あるいは予想しうる物なのか……


「ちーんかいんないん! うかわりん!」


 カレーライスのおかわりを所望するシーサーもまた本作の結末が気になるとそういった。


「完結していない作品の終わりを想像するのってなんだかドキドキしますよね!」


 秋文の笑顔にシーサーとカムイはハートを射抜かれる。そんなカレーパーティーもたけなわに……


「もう九時なのですよ。さっさと帰るです!」


 これからデザートにお風呂にそしてパジャマパーティーと興奮していたシーサーとカムイだったが、半ば強引に追い出される。

 古書店『ふしぎのくに』の母屋には湯船に浸かる風呂はない。シャワーしかないので、マフデトは先に秋文に使うように進めて仮眠室に布団を二つ並べ敷いた。そして秋文を待っているとうとうと……


「マフデト君、シャワーお先でーす!」


 髪を乾かして、仮眠室に入ると、指を咥えて眠っているマフデト。時間はまだ二十二時、まだまだ中学生の秋文ですら宵の口だが、マフデトは可愛い寝息をクゥと立てて眠っている。秋文はマフデトを布団に寝かせて掛け布団をかけると、iPadを開いた。そして一人で『隻眼隻腕の魔女と少年・麻酔』を読み始める。


「魔女と少年か、僕はここでセシャトさんに出会ったんだ。そしてそのセシャトさんは今はいなくて、代わりに、なんだか放っておけない。ミニマムセシャトさん」


 つんとマフデトの頬をつついてしばらく『隻眼隻腕の魔女と少年・麻酔』を楽しむと、秋文はあとどれだけ自分はこの古書店『ふしぎのくに』に通えるんだろう? とふとそんな事を考えて、眠くなった。

 電気を消してマフデトにこう言った。


「また、明日たくさんお話ししようね?」

 

『隻眼隻腕の魔女と少年・麻酔』本日を持って月間紹介を一旦終了とするのですよ。これからのリンフとカンザキがどうなっていくのか、一緒に追いかけていければ嬉しいのですよ! 

 さて、私たちはさらにもう1周読み直すのですよ!

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