01 スタートはどん底
白河花音、18歳。
彼氏なんか当然いなければ、財布に入っているプリクラも無い。
教室で私に話しかけるのは、同じ部活の部員か先生、クラス委員のみ。
…一人、例外はいたけれど。
体育の授業では大体先生と組んでいたし、美術の授業では先生の似顔絵を描いていた。
絵に描いたような陰キャ、喪女だった。
それはもうひどい高校生活だった。
中学時代の先輩に引きずられ強制入部した吹奏楽部が、これまたひどいブラック部活で、週休一日…を騙った週休0日、朝練昼練も当然あり、折角お母さんが作ってくれたお弁当を五分以内で食べねばならない日が続いた。何なら食べられなかった日もあった。
昼休み教室にいることを許されなかったため―そして私の持ち前のコミュ障も合わさって―友達など出来なかった。
もちろん放課後も9時まで練習があったため、友達とプリクラや帰り道の買い食いなどしたことが無いし、そういえば私服も、最後に着たのはお正月だったか。
毎日のように顧問の理不尽な言葉の暴力に晒され、笑うのが億劫になった。
ますます友達ができなくなった。
…こんな私でも話しかけてくれた人がたった一人いたけど、結局親しくなれずに終わったし。
せめて大学からはこんな生活を変えたい、と今までの高校生活を思い返して改めて感じる。
そう思って今日まで勉強してきた。
大丈夫、そう言い聞かせながら机の上に広げたノートをしまい、深呼吸しながらはじまりの時を待った。
「はじめ!」
わたしの意気込みは、その合図からものの数分でいとも簡単に折られた。
(嘘………)
出題傾向が全く違う。
いちおう、必死で勉強してきたから悲惨な結果だけは免れると思う…けれど。
予備校とかで対策した人たちと比べたら多分ひどいものだろう。
家に帰り、お母さんに何も言えず、部屋に直行して布団に突っ伏してしまった。
(はぁ………出来ることなら、3年間やり直したいよ……)
制服のままにもかかわらず、襲ってきた眠気にそのまま身を任せた。
まぶたの裏で、一瞬、くす玉が割れるのが見えた。