第38話 Family
「いいやあぁぁぁぁーーー! 降ろしてーー!」
「ちょっと姐さん、耳元で叫ぶなって!」
銃弾が顔の真横を掠めて行ってまた悲鳴を上げる。
ロイに助力を求めたことを、ロザリタは一分と待たず後悔した。
走るのが遅いと言われて、ワイン樽のごとく担ぎあげられると、ロイはなんと銃撃戦の真っ只中を爆走し出したのだ。
反転して流れていく世界で、ヒュンヒュンと銃弾がロザリタの周りを飛び交い、怒声と銃声が止まない中で、グルグルと振り回されて目が回る。
「降ろして! 降ろして! きゃあ!」
頭スレスレの所を銃弾がまたかすめ、赤い毛先が数本散った。
血気盛んに応戦していくロイにロザリタは慌てて彼のドレットヘアを引っ張った。
「いててて!」
「殺しては駄目! 絶対駄目よ!!」
「はぁ? 何言ってんだよ!」
ヒュンっと音がするとロイの頬に赤い線が浮んだ。
一筋の傷ができた瞬間、ガラリと彼の空気が豹変する。
「あー、のやろっ」
「ダメー!!」
「びゃぁ?!」
今にも暴れ出そうとしたロイの首を、ロザリタが渾身の力を込めて、曲げてはいけない方向へねじ曲げた。
反撃の機会を失い、痛みに涙を浮かべたロイは襲ってくる銃弾を避けて逃げおおせた。
ロザリタを投げ出さなかったという対面だけはなんとか保てたロイは、痛めた首を擦りながらわめく。
「なにすんだよアブねーじゃん!?」
「そっちこそ!」
ロザリタは黙っていなかった。
「薬はもう無いって言ったじゃない! 私の目の前で患者を増やそうとするなんて何考えているの?!」
「家族じゃないいからいいじゃんか!」
「家族?! 家族ですって?!」
「そうだよ家族! ファミリー!!」
ロイは当然だと言わんばかりだった。
「俺達は家族なんだ! 血は繋がってなくても、肌の色が違っても! 大兄貴が作ってくれた家族なんだ! 家族を維持できりゃ他なんてどうでもいい! 誰が死んだってかまうもんか!」
頭にきたロザリタは担ぎ上げられながら闇雲にロイを叩いた。
「どのっ口が!そんな事を!! 貴方達は!!」
「痛い! 痛いって! 乱暴ヤダ! 暴力反対!」
「じゃあなに? この馬鹿げたお祭り騒ぎも、人をゴミ屑みたいにする麻薬の商売も、なにもかも家族ごっこの為なわけ? たかがそんなことで私を煩わせているの!?」
「そんなこと?!」
「えぇそんなことですとも!」
髪を振り乱し、ロザリタは叫び続けた。
「何が家族! 血のつながりよ! そんなものが私の仕事を邪魔するなんておこがましいわ!! だいたい、アナタたちは……」
ロザリタの言葉はドーンという大きな爆発の音と銃撃に掻き消された。音の方に素早く目をやると、ちょうど今ロザリタ達が逃げてきて路地から二組の男女が煙を振り払いながら数十人の敵と撃ち合いをしているところだった。
「リー兄貴! バルサ!」
明らかな多勢に無勢で。
ロイが二人に加勢しようと一歩踏み出したが、途端にその場に縫い止められたように固まった。
突っ立っているだけのロイに、ロザリタは怪訝な顔をして怒った。
「ちょっと何してるの!? 助けなさい!」
「駄目だ、姐さんとの約束が先だ、大兄貴のところに連れてく」
「そん……」
「男が一度した約束は守り通さなくちゃ駄目だって大兄貴が言ったんだ!」
ロザリタを担ぐ腕に痛いほどの力が込められる。
悔しさを払うようにロイが仲間たちから背を向けると、ロザリタは追い詰められていく二人の最後の姿を視界に入れた。
あの二人は、このままだと死んでしまうかもしれない。
「……降ろして」
命じても、ロイは降ろさなかった。
「降ろして頂戴」
もう一度言うと、躊躇いながらもロイはゆっくりとロザリタを降ろした。
地に足がついて少しホッとしたロザリタは真っ直ぐに悔しさで涙ぐんでいるロイを睨んだ。
「いきなさい」
ピクリっと少年の身体が動く。
「約束ですって? アナタと約束した覚えなんて無いわ。行きなさいよ、行って私の仕事を増やして、持ってきなさい! 治療してあげるから!」
ロザリタの言葉に一瞬ポカンとしたロイは、言われた事を理解すると、頬を紅潮させて、破顔し、ぎゅっと抱きついて頬に素早くキスをした。
「ありがと姐さん!」
手を振ったロイは俊敏な獣のように駆けていく。
呆然としていたロザリタは我に返ると遠くなっていく背中に叫んだ。
「誰も殺しちゃダメよ!」
ロイが手を振った気がしたが、その姿はすぐに路地の向こうに消えいった。




