第30話 GodBlessYou
「すげぇ」
アタッシュケースの中身を見てモランはゴクリと喉を鳴らした。
見たこともない精巧な時限式の爆弾が、コンパクトに収まっている。
「この水銀計が金属に触れると爆発するようになってる。水銀がゆっくり落ちてるだろ? これが全部落ちたらドカンだ」
バルサは一応のカモフラージュに白い粉の入った袋を敷き詰めてから、アタッシュケースを閉じ、モランに手渡す。
「20分後に爆発。あんたはこれをルチアーノの事務所に置いてくるだけでいい。簡単だろ?」
「怪しまれないか?」
「カポネからくすねた麻薬だって言っとけ。クスリも一応本物だしね。もしかしてビビってんの?」
鼻で笑ったバルサにモランが取り繕うように言った。
「そんなわけねーだろ! すげーよ! こんな、爆弾なんて戦争でしか聞いたことねーのに」
「カポネが大陸戦争で使かわれてる新型を手に入れたんだ。戦地以外で使うのは今日が初めてだとさ」
「ははっ!これで俺もカポネファミリーだ!」
アタッシュケースを抱えたモランが鼻息荒く歩き出した。
煙草をプカリと吸ったバルサも後に続く。
モランは不安そうに、一度だけバルサを振り返ると、向かいの通りに面しているルチアーノ一家の事務所へと歩いて行った。
モランが事務所に入ったのを確認したバルサはすぐに通りから離れ、角を曲がった所で身を潜めた。
アタッシュケースを丁重に抱えたモランが、事務所の入口で見張りについていた顔見知りを見つけて手を振った。入り口の番をしていた少年は信じられないと言ったように口を大きく開けた。
「モラン! ジョージ・モランか?!」
「他に誰がいるってんだ兄弟!」
大仰にハグを交わした二人は背中を叩きあった。
「お前生きてたのか!? どうやって……」
何よりの朗報だと顔を崩した少年にモランは少し引きつりつつも笑顔を作った。番をしている彼はモランと一緒でこの街の出だ。物心ついたころからの知り合いを騙すことに後ろめたさを感じてモランは言葉を濁した。
「まあ、な。詳しいことはなかで話したい、親分はいるか?」
「とにかく入れ。お前よく生きてたな」
モランの帰還で事務所の中は騒然とした、絶対死んだものと思っていた面々は、動揺と興奮を隠しきれない。
幹部が集う部屋に通されたモランは手にかいた汗をシャツで拭った。
集まった幹部のなかにルチアーノはいない。
これから現れるのだろうか。
(何分経った……? 早く来いよ)
モランが焦り始めた頃、相談役のドミニク・トムが部屋に入ってきた。
「兄弟、良く帰ったな。今までどこにいた?」
モランはあらかじめ用意していた答えをなるべく不自然にならないように言った。
「まっ、街の女医のところです、ドミニク・トム。俺も撃たれたので」
合点がいったという様にドミニク・トムが頷いた。
「ドクター・コフレドールか、そうかそれで……俺もあの先生には世話になった。相変わらずみたいだな、変わり者は。……その荷物はなんだ?」
きた。ここが正念場だ。
はやる心臓をなだめモランは笑った。
「カ、カポネが持ってたケースです。中にはヤクが……あの、親分は?」
「パトロンの屋敷が襲われてそっちに行っている。ルチアーノ親分もお前を誇りに思っているぞ。カポネについての話が聞きたい。座れ」
ルチアーノがいないばかりか、腰を据えて話をしなければならない流れになっていることに、モランが焦りはじめた。
「あの、実は俺、先生に金を払ってなくて……すぐに戻らないと」
「そんなもの!あとで人をやって十分な額を払ってやる! 早く座れ!」
仕方なくモランは促されたソファに腰を落としてアタッシュケースを床に置いた。同時にカチッと金属の当たる音がする。
「え?」
ブワゥンと大きな音が衝撃と爆風と共に髪をバルサの髪を舞い上がらせる。
火柱の上がったルチアーノ一家の事務所は轟々と燃え続け、周辺には爆発に巻き込まれた人間たちが倒れている。
パチパチパチと真後ろから拍手がしてバルサは慌てて振り返った。
「いやー、派手だねぇ。すごいすごい」
「ボス! ビックリさせないで!」
爆風で煽られる帽子を抑えながら見事に上がった火柱にエルは口笛を吹いた。
「ちゃんと爆発してよかった。モランは?」
「あのなか」
バルサがクイッと首を動かした。あの爆発では生きてはいないだろう。
「これで俺もカポネファミリーだ! 喜んでたよ」
「おめでたいな、本当にカポが自分を仲間に引き入れると思っていたんだろう」
エルの後ろにいたリーが、煙草をくゆらせて、細い目をさらに細めた。
「アイツをファミリーに迎えるなら、牛のほうがマシですよ」
「さて、騒ぎを聞きつけたおっかない親分が帰ってくる前に行こうか」
エルは満足したように笑った、長居は無用だ。
「そういえばロイは? この車どうしたの?」
見知らぬ車に平然と乗り込んだエルとリーに、バルサは怪訝な顔をした。
金持ちが好きそうな装飾が施されていて悪趣味で、おまけに血で汚れている。
エルが肩をすくめて笑った。
「拾ったんだ」




