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25話 Me too

 モランの叫びが病室に、そしてロザリタの頭の中に響きわたる。


(え?)


 ロザリタはゆっくりと瞬きをして、目の前にいるよく知った男をみた。男は、これまたよく知った顔で困ったように笑っている。



(あの夜?)



 それは、ロザリタがエルを見つけた夜だ。

 雨粒に打ちつけられて、真っ赤に染まった身体を横たえる、少しおかしな男を拾った夜だ。

 ロザリタの脳に、濁流のように一気に記憶が流れていく。



 ジェシカはなんと言った?


『どうすんだよ! コイツがここにいるってバレたらカポネの連中やってきちまう』



 目覚めたエルが最初に心配したのはなんだった?



『キミはルチアーノ一家に飼われてる?』



 どうして、カポネファミリーではなく、ルチアーノを警戒する必要があったのか。



 最初から出ていた答えを逃したのはロザリタだった。



「先生ごめんね、言ったら面倒な事になると思って」



 悪びれる様子もない男は、見逃した真実を告げる。



「僕のカルテにはガブリエル・カポネと書いてくれ」



 笑って言ったエルが、とても遠くに感じた。

 あの笑顔も、鼻につく言葉も、肩を竦める仕草も、感じた温度も鼓動も遠く、遠くに行ってしまったようだった。



 いつものように肩を竦めて笑ったエルは、申し訳ないような、悪戯がバレたような無邪気な声で笑った。


「騙していたわけじゃないんだ、だって僕は一度も自分がカポネファミリーに喧嘩売った馬鹿だなんて言ってないだろ? 勘違いしてくれて、都合がよかったことは認める……でもまさか、自分を撃ったヤツと同じ病院で枕を並べるなんてびっくりだよ」


「こっちの台詞です」


 痩せ男のリーが盛大にため息をついた。

「大怪我しているくせに、一人でいなくなったと思ったら……こっちの身にもなって下さい。カポ」

「そう言うな、リー。おかげで色々面白いことが聞け……先生なにしているの?」


 エルが眉を寄せる。

 胸から血を流したスキンヘッドにロザリタが応急処置をしていたからだ。


「弾を取りだして……縫合して……」


「ああ、ローズ」


 エルが呆れたように笑った。


「そいつはキミを殺そうとしたんだ、助けてやることはない」

「うるさい!!」



 悲鳴のごとく叫んだロザリタはエルを見ようともせず、白衣の裾をビリビリと破き、血があふれる傷口をおさえつけた。


 再度、銃声がひびく。


 エルがスキンヘッドの頭を撃ち抜いた。

 ロザリタの白衣に鮮血が飛んで、生臭い鉄の臭いが鼻腔を支配する。


「僕が殺すと決めた人間を生かすことはできない」


 呆然とするロザリタの前にエルが膝を折った。


「言ったよね、僕と先生は同じだって」



 血だらけの細い手をとり、愛おしそうに自分の手を絡ませ、ささやく。


「自分の都合で他人の命をあつかう。奪う側ではあるけれど、僕の思い通りにならない命はない」

「……アナタは傲慢だわ」

「そう、キミと一緒。嬉しいよ、僕と同じ場所に立っている人にやっと出会えた」


 口元を震わせて、ゆっくりとロザリタは首を横に振った。


「違う、同じじゃない。私は人を殺して平気でいられる人間じゃない」

「キミは誰かを助けて罪の意識を感じた? 自分の都合で命を助けるのと自分の都合で誰かを殺すのは、実は同じほど残酷なんじゃないか?」


 違うと言えなかった、違うと分かり切っている筈なのに、エルの声が甘い毒の様に鼓膜を震わせてグルグルと思考が回って何も考えられない。


「僕達はね、ローズ」



 エルが愛をささやくように熱い吐息で名前を呼ぶ。


「同じ場所に立っている。他の誰も僕たちの境地には辿り着けない。これはね運命なんだよ。僕と君は、出会うべくして出会ったんだ」


 その時、診療所の入口からロザリタを呼ぶ声が聞こえた。

 すぐに、浅黒い肌のドレッドヘアの少年、ロイが病室にひょこりと顔を出す。



「大兄貴、こいつは殺していい?」

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