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第23話  Deginning

 その夜、人が動く気配でエルは目を開けた。


 パーテーションで区切った新入りのベッドからは、微かなうめき声が聞こえてくる。


 心配はまったくしていなかったが、声が不愉快だった。


「いちいち痛がるな、男なら我慢しろ」

「ならアンタ変わってくれよ。腹に穴があいてんだぞ」

「僕だって三つほど余計な穴があいてるよ」


 パーテーションがカタカタと揺れ、モランが顔を覗かせた。

 少し脂汗の浮いた顔が驚いたようにエルを見る。


「お仲間かよ、てっきりあの医者の愛人かと思ったぜ。何したんだ?」

 モランの質問に答えずエルは黙って背を向けた。


「なぁ、おい。何やらかしたんだよ優男」

「うるさいなぁ、キミと同じだよ。馬鹿やらかした、それだけだ」

「俺のやったのは馬鹿じゃねぇ」

 モランが自信満々に言った。


「街を派手にひっくり返してやった。親分が前から計画してたんだが、誰もやりたがらなかった。度胸が無いからだ。俺は違う」


 興奮を隠さない声に興味を引かれてエルは顔を向き直した。

 モランはこの話がしたくてウズウズしていたらしい。


「皆が絶対不可能だと思っていたことをやってやった。並みの苦労じゃなかった、何日もまえから計画を立てて、準備して」

「キミひとりで?」


 感心したようにエルが聞いた。

 調子が乗ってきたのか、モランは芝居がかって首を振った。


「最初はそのつもりだった、でも肝心なところで手詰まりになっちまって……その時、声をかけてきたのがワイスだ」


 声にさらに熱がこもる。


「ワイスはコーザノストラに出入りしてた。親分達は角突き合わせちゃいるが、俺たちには関係ねえ。このヤマに成功すりゃ俺は幹部で、ワイスのヤツも、コーザで名があがる」

「たしかに」

「そうすりゃ俺達が新しく時代を築いていける。いつまでもこの狭い街で、いがみ合ってたってしょうがねぇ、一つしかないケーキを奪い合って馬鹿を見るのは、もうごめんだって考えだ、頭を使ったんだよ俺達は」


 モランの言葉にエルは吹き出した。

 どうみても、彼に使える頭があるとは思えなかった。

 小刻みに震えて笑うエルに、頭にきて怒鳴り散らしてやろうとしたモランはふと、既視感を覚えた。

 月明かりに照らされる男の顔を、どこかで見た事がある気がした。

 それもつい最近。


「おい、アンタどこかであったか?」

「さぁ? どうだろう、思い出してみようか」

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