第22話 Emergency 2
ロザリタは頷くと、少年は信じられないとばかりに叫ん。
「なんだよそれ! おっ死んじまっただと!? んなわけあるか、これからようやく、くそったれの人生とおさらばできるってのに! ✕✕✕!」
汚い言葉にエルが不愉快に眉を寄せる、
わめいて暴れる少年をなだめながらロザリタは続けた。
「手は尽くしたんです」
「うるせぇ! 相棒を連れてこい! 金ならあるんだ! なのに死ぬなんて……どうせ見殺しにしたんだろ、このヤブ医者のクソ女! てめぇ! この……!」
少年はそれ以上わめくことができなくなった。
ロザリタを罵倒する口を、エルが鼻ごと塞いだからだ。
少年は太い腕で呼吸をうばうエルの手を引きはなそうとするが、ビクともしない。それどころか顔を押さえつける力は増すばかりだった。
「やめて! エル、やめなさい!」
「いいじゃないか、どうせこいつに、金なんてない。助けられて礼のひとつも言えないんじゃ、くそったれの人生とやらもまだまだ続く。ここで終わらせてやったほうが本人の為だ」
息ができない少年の顔が、どんどん真っ赤になっていく。ためらうことの無いエルにロザリタは焦った。
「ジェシカさん! 止めて!」
ジェシカは患者とエルを見比べた。
内心やっちまえと思っていたので、非常に悩む。
モタモタするジェシカの助けを諦め、ロザリタは渾身の力でエルの身体を引きはがしにかかった。
「やめなさい! 乱暴は駄目! やーめーて! 嫌いになるわよエル! いいの?!」
押さえていた手がパっと外れる。
少年が咳き込みながら大きく胸を上下させて息を吐いた。
エルはロザリタが聞いたことのない鋭い声で少年に忠告する。
「いいか、先生のことを今度そんな風に言ってみろ。たとえ彼女に泣きつかれたってお前を許さないからな。この診療所にいるあいだは汚い言葉を吐くな。先生の耳が汚れる」
射殺すように睨みつけると、エルはさっと身を離して壁にもたれた。
呼吸を荒くしながら、安堵にベッドのうえに崩れる。
「信じられねぇ、ここは病院だろ?」
「アナタ、お名前は?」
ロザリタがエルを牽制するように睨みながら少年に聞いた。
「ジョージ・モラン」
あえぐように名乗ったモランは、サッと顔色を変えてロザリタに目をぐわっと剥く。
「おっ、俺を売る気か? 怪我人だぞ!?金はあるんだって!」
「心配しないで、警察も教会も呼ばない。彼らがきて困るのが、もう一人いるから」
含みあるロザリタの言葉にエルが肩をすくめた。
不本意ながら、エルにとって、モランと自分はお互いさまな立場だった。
「アナタは私の患者です、途中で放り投げたりなんてしません、ただ言っておかなくてはいけないことがあります」
ロザリタはベッドの下から籠に入ったモランの衣類を取り出した。
「勝手だけど、持ち物を調べさせてもらいました。拳銃は、そこにいるエルが河に捨ててきたそうよ。そうですよねジェシカさん?」
ジェシカが大きく頷いた。
この手の処置はロザリタより、彼女のほうが的確だった。
「私の診療所では、そういったものは禁止です。治療に必要ありません」
モランは苦虫を噛むような顔をした。
「丸腰でいろってのか? 正気かよ、俺がなんで撃たれたかわかるか?! 俺を探してる奴らがすぐそこの通りにいるかもしれねーのに、どうやって安心して眠ればいいんだ?」
「眠剤を出します。それにひとりではないから大丈夫ですよ、エルが同室です、なにかあればすぐ言って下さい」
「なおさら眠れねーよ!そいつさっき俺を殺しかけたんだぞ!」
「ちょっとマナーを教えただけじゃないか」
大袈裟だと言わんばかりにエルがため息をついたが、ロザリタに睨まれて口を閉じた。
「そいつ追い出せ! 俺は金持ってんだぞ!」
モランの言い分に我慢ならないと、黙って聞いていたジェシカが大きな声で怒る。
「さっきから金、金、金うるせーな! おまえが無一文なんてとっくにバレてんの! 大口叩いてんじゃねーよ」
モランの持ち物からも、死んだワイスも、金はおろか売り払えるようなものすら身につけていなかった。
「本当にある!」
モランは必死になって叫んだ。
「今は持ってねーけど、すぐにでも払えるんだ! ルチアーノの親分に連絡してくれ! 俺はあそこの幹部だ!」
モランの言葉に一同が固まった。
一瞬、空気も止まったかと思えるほど、シンとした静寂を破ったのは、ジェシカの笑い声だった。
「あっはっはっは! おい! 嘘でももうちょいマシなもんつけよ! お前みたいなガキがルチアーノ一家の幹部? そりゃすげーや! あははははは!」
大きな腹を抱えて笑い転げるジェシカに、モランは顔を真っ赤にした。どうしたものかと悩みながらロザリタは遠慮がちに提案する。
「モラン、お金が無くたって追い出したりしませんよ。大丈夫、分割払いだって歓迎していますし……」
「てめーら俺がなにをしたか知らねーからそう言っていられんだ! そんじょそこいらのセコイしのぎとはワケが違う、ドでかいヤマをやってのけたんだって! 成功して戻れば金と幹部を約束するって親分が言ったんだ! 嘘じゃねぇ! 俺がちゃんと生きているってわかれば……いててててて」
声を張り上げたモランが呻いて腹部を押さえて丸くなった。
ロザリタが慌ててベッドに寝かしつけて傷の具合を確認する。
「モラン、とにかく今は休んで。無理をして動かないで」
腹部に痛み止めの注射を打つと、うめいたモランはしばらくして落ち着き、すぐに寝息を立てはじめた。
尊大な態度とはうってかわった、年相応の寝顔にロザリタはため息をつく。
「エル、彼に異変があったら知らせて。それとジェシカさんも、あまり患者さんを興奮させないように。嘘の一つや二つ聞き流してあげましょう、強がりが支えになるとしごろだわ」




