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第21話 Emergency 1

翌日の最初の患者はロザリタだった。


青い顔で頭を抱えて診察室に入ってくると潰れた声で呻いた。


「頭が痛い。気持ち悪い……死んでしまいそう」

「どうしたんですか? 昨夜は、あたしが寝ずの番を替わったっていうのに」


 疲れたように、それでもいつもよりはだいぶマシな顔で、エルと戻ってきたロザリタを気遣って、昨日は早め休ませたというのに。


「寝る前に少し、お酒を飲んでしまって」

「まさか二日酔い?」

「そうです」


薬だなから黄色い粉薬を取り出してひと匙飲んだロザリタはぐったりと机に突っ伏す。


「いったいどれだけ飲んだんですか?」

「グラス一杯だけ」

「なんだよ、下戸か」


やれやれと呆れたジェシカが、水差しを持ってきてコップになみなみと注いでやると、ロザリタは一息に飲み干し、大きくため息をついた。


「患者さんの容体はどうですか?」

「安定してますよ。ただ……」


言葉を濁して渋い顔をするジェシカに、ロザリタは眉を潜めた。

彼女がこうして言葉を濁す理由は大概決まっている。


「アルコール以外で頭痛の種が増えたようですね」


察したロザリタに、ジェシカが肩を落としたとき、診察室の扉が開いて、エルが顔を出した。


「ジェシカさん、言われたとおりに河に捨てて……ああ、先生、おはよう。残念だなあ、せっかく寝顔を見に行こうと思っていたのに」

「や、屋根裏は立ち入り禁止よ」


かぁっと頬を熱くして、ロザリタはエルから顔を背けた。


「それがいいですよ先生、絶対に寝顔を見られるだけじゃすまなくな……」


ジェシカの声はガシャンと何かが割れる音で遮られた。


急いで音のした病室へ駆けつけると、床には割れた水差しと小さな水溜り、そのすぐ横でベッドから落ちた少年がのたうち回っていた。


「いてぇ! くそ……早く起こせ、愚図!!」


少年が包帯の巻かれた腹部を押さえ、冷や汗をかきながら悪態をつく。

ロザリタとジェシカは、年のわりに恰幅のよい少年の身体を二人がかりで抱え起こした。


「痛ぇよ! どこ掴んでんだこのデブ! しっかり持て!」


唾を飛ばす少年に、ジェシカは口元を引きつらせながら、少し乱暴に少年をベッドに寝かした。

ロザリタが腹部の具合を見る。


「気分はどう?薬がまだ効いているとは思うけど、傷口は痛まない?」

「痛いに決まってんだろ! 全然効いてねぇ!」

「それだけ喋れれば大丈夫、薬も在庫があと僅かなのよ。アナタの前の患者に大盤振る舞いしちゃったから」


チラリとロザリタがエルを見た。

病室の入り口に凭れたエルが肩を竦める。

忘れがちだが、彼もまた大怪我を負った一人だ。


「俺のまえの患者?」


少年が眉を潜めて病室の中を見回した。


「おい、もう一人はどうした?俺の連れの、ハイミーワイス? どこにいんだよ?」


首をめぐらす少年に、ジェシカとエルはロザリタに顔をむける。

一瞬、口をきゅっと結んだ医者は、おごそかに告げた。


「助けられませんでした」


一瞬、言われた事が理解できないかのように、少年は口を喘がせ、掠れた声を出した。


「た、助けられなかった? ……しっ、死んだのか?」


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