PROLOGUE
僕は君に逢うために生まれて来たんだ。
その日は視界が霞むほどの雨が降っていた。
バケツをひっくり返したような豪雨は地面に音を立てて跳ね上がり、滝の様に流れ込んで汚れた水路を溢れかえらせている。
そんな中で僕は何をしていたかというと腹部からドクドクと湧き上がる血を感じながら固い地面に横たわる事しかできずにいた。
凍てつく雨がまるで矢のように身体に降り注ぐのを感じつつも、自分の血の温かさに驚きつつも……頭の中は妙な倦怠感に満ちていた。
(あぁ、これで死ぬのかなぁ……なんか大して感慨も湧かないな……)
雨のせいで流れ出た血の量は定かではなかったが、周りを見渡せば相当量の血液が流れ出ている事は明らかだった。
失血死なら死体の仕上がりは綺麗かなとぼんやり考えていると、降り注ぐ雨が小ぶりになった。
緩慢に目だけを動かすと、長い真っ赤な髪をずぶ濡れにした女がジッとこちらを覗きこんでいた。
それが君との出会いだったね。
今にして思えば全部運命だったんだ。
僕が死にかけていた事も、君が傘も差さずに歩いていた事も、数年に1度の記録的な大雨も、僕達の出会いをより劇的に、ドラマチックに、誰の目にも触れさせる事のない様に運命が用意したちょっとした一幕だ。
君がなんと言おうと僕には分かっている。
僕は君に逢うために生まれてきたんだ。