戦うシステム
○狩り初め
話し合いの結果俺たちはこの暑さ凌ぎと情報収集を兼ねて、中央都市を目指すことになった。
だが、自分たちが今どこにいるのか、中央都市がどこにあるのか全く分からない為、適当な方向に進み始める。
三時間程歩いただろうか、変わらぬ景色と変わらぬ暑さで二人は疲弊しきっていた。
砂埃が目に入って痛い。出てくる涙を拭いていると、遠くに黒い影が見えた。そしてその影は猛スピードでこちらに向かってくるようだ。
「幻覚か?」
すると淳が肩を叩いてきた。
「ねえ暁、僕には何かがこっちに向かってきてるように見えるんだけど君は見える?」
どうやら幻覚ではなかったようだ。
目を凝らしてよく見る。
「イノシシだ」
「イノシシ?」
砂漠にイノシシなどあまりイメージがないが、縄張りにでも入ってしまったのだろうか。
これはなんとかしなければならない。
「なあ淳、そこにある岩を持ち上げられるか?」
そう言って隣にある岩を指さした。
「岩?…多分出来ると思うけど、どうして?」
「あのイノシシが来たら俺が交わすから、その後にその岩をイノシシに打ち付けてくれ」
「分かった、やってみるよ」
俺と後ろにいる岩を持ち上げた淳は少し距離を開けてイノシシが来るのを待つ。
「来たぞ」
俺は突っ込んできたイノシシを全力のジャンプで跳び越えた。
するとイノシシは俺の後ろに淳がいることに気づかなかったのか、驚いて前足でブレーキをかけていたがもう遅い。
「うぉりゃ〜」
淳が全力で岩を目の前のイノシシの頭部に打ち付けた。
「ギィ〜」
そう鳴き、体力ゲージがゼロになったイノシシは砂の上に倒れた。
間も無くイノシシは消滅し、辺りにコインと肉の塊が散らばった。
「倒せたみたいだな」
「よかった。とっさにあんな方法が思いつくなんてすごいね」
「淳が怪力だったおかげだ」
「ありがとう」
淳は照れ臭そうにした。そして散乱物に近づく。
「敵を倒すとコインやアイテムがドロップするみたいだね」
「そうだな」
ドロップしたコインを全て集めると、数字の合計は1000になった。おそらく1000円相当だろう。
集めたコインと肉の塊をアイテムポケットにしまい、再び歩き出そうとすると、目の前にまた黒い影が見えた。
「また来たのか?」
しかしよく見るとその影は家の形をしていた。
「おい淳、あれを見ろ」
「どうしたの?…あれ街じゃない?」
「多分な、行こう」
「やっと着いたんだね。長かったよ」
俺たちは残りの体力を振り絞り、その建物に向かった。
○小さな村
着いた所は中央都市ではなく、小さな家が集まっている村のような場所だった。そこには数人の人がおり、明らかに学生ではないため恐らく村の住人だろう。
淳の先導で近くを歩いている男性に話しかける。
「すみません、お話よろしいですか?」
「ん?…おお、珍しい服装だなぁ、どうした?」
「僕たち中央都市に行きたいんですけど道に迷ってしまって…何か分かることはありますか?」
その男は考えこむように顎を押さえて話す。
「中央都市かぁ、俺も20年前までは中央都市で働いていたんだが今は行き方は覚えてないなぁ…」
「そうなんですか、中央都市とはどのような場所なのですか?」
「デカいなんてもんじゃないぞ。まさにこの世界の中心にふさわしいほど立派だ。これは行った者だけが体験できることだな」
男は自慢げに話す。
「なるほど…」
「しかし、うちの村長なら何か知ってるかも知れんな」
「村長ですか?」
「ああ、そこの一番大きな家で店を営んでいるが、多分なんでも知ってると思うから一度尋ねてみるといいだろう」
「はい、ありがとうございます」
そうして村長の営む店へ向かった。
「失礼します」
返事は無かった。
店の中に入ると部屋の中には武器や食料などがたくさん並べられていた。
「すみません、誰かいますか?」
淳が声を張って言うと、部屋の奥から足音が聞こえた。
「はいはーい」
部屋の奥から出てきたのは老人だった。
「いらっしゃい」
「あの、あなたはこの村の村長さんですか?」
「ええ、私はこのマヤ村の村長のです」
「僕たちは中央都市に向かおうと思っているのですが、道が分からなくて…村の人から村長なら知っていると言われたのですが、教えと頂けませんでしょうか?」
それを聞いた村長は立ち上がり、棚から古い紙を取り出して机に置いた。
「地図なら売ってるよ」
「つまり、情報提供にも料金が発生すると言うことだな」
「これが商売なのでね」
つまりこの村長が物知りなのではなくて、この世界のあらゆる情報をこの村長が持っていると言うことだ。
「因みに、その地図はいくらですか?」
「これは5000コインで売ってるよ」
俺たちの所持金は1000コインだった。
「足りないな」
そう呟くと、この村長が興味深いことを言い出した。
「そいいえば、この村の近くには最近、見たことのない祠のようなものが発見されたんだが、気味が悪くて村人の誰も行きたがらないんだ。私も年で行けないんだ」
祠というと確かこの世界についての説明で、クエストを受けれる場所だったな。
「もしかしたらクエストの祠かもしれないね」
淳が興味津々に言ってくる。
「ああ、行ってみる価値はあるかもな。だがそのクエストが俺たちが受けれれ最初の単元かは分からないが」
「そうだね」
俺たちの会話に首をかしげる村長。
「祠について何か知っているのか?」
「詳しくは知りませんが、僕達が行けば何か分かるかるかもしれません」
クエスト言うからには何かと戦うことが予想されるから無装備の俺たちじゃあ危険かもな。
「もし行くなら、武器があった方がいい」
「そうだね。この店で何か購入できないかな」
店の中を探すと、木の剣から鉄の剣まで様々あり、値段も様々だ。一番安い武器は木刀だが一本1500コインである為全く足りない。
淳が所持アイテムを確認していると、村長が話し出した。
「お前さんたちどうやら砂漠イノシシの肉を持っているようだな」
「え?」
「その肉は珍しいから売ってくれないか?もちろん高価で買い取るから」
どうやら俺たちが倒したイノシシは砂漠イノシシと言い、珍しいイノシシのようだ。今は肉の塊を持っていたとしても、料理が出来るわけではない為、コインに換える方が良いだろう。
「いくらになる?」
「ふむ、この店では10000コインで買い取ろう。他ではもっと高値で買い取るところもあるだろうがな」
「10000コインあれば地図も手に入るし、多少の武器も買えるね」
そう言い、淳は売却の手続きを始めた。その間俺は購入する装備を選ぶことにする。
所持金は11000コインで、5000コインの地図を買うとして残り6000コイン。1000コインは残しておくとして、食費を引いたら大体3000コインか。
この店で買える3000コイン以下の武器は1500コインの木刀二本しか無い。
「これだな」
俺は木刀二本と2000コイン以内の食料を手に取り、村長の元へ行く。
「武器は一人一本の木刀と、あとは食料を適当に選ばせてもらった」
「うん、ありがとう」
俺たちは、1500コインの木刀二本、5000コインの地図一つ、あと2000コイン以内の食料を購入し、所持金が1000コインという状態になった。
そして、店の中にあった椅子に腰掛け、食事と作戦を立てた。
「村長さんによると、その祠の場所はこの村から大体一キロメートルくらいの位置にあって、陽が落ちると付近には危険なモンスターが湧くらしいよ」
「なら、今から行くのはどうだ?」
「僕も早めに行った方がいいと思う。所持金も少ないならこの店で買い物も出来無いからね」
今の時間は午後の二時、これ以上遅くなると夜も近くなる為、食事を済ませて出発の準備をする。
「じゃあ村長、俺たちはその祠の調査に行ってくる」
「ああ、頼むよ。あと、木刀は切れ味が落ちるのが速いから使いすぎると、何も切れなくかるから気を付けてな」
「分かった」
○祠
疲れがまだ回復しきっていない俺は、祠に向かう途中にも砂漠の日差しにより疲れは蓄積していく。
淳の様子は元気そのものだった。やはり野球部は暑さに慣れているのだろう。
「見えた」
淳の一言で俺は顔を上げると、転がっている岩の中に一つ、高さが四メートルほどの大岩があった。
大岩の元に着くと、そこには扉のようなものがついていた。間違いなく祠だ。
「第一の祠、単元 数学1 数と式 って書いてあるよ」
「どうやらここが最初に受けなければならないクエストの祠らしいな」
「運が良かったね。まさか最初に発見した祠が第一のそれだったなんて」
「そうだな」
そうして、祠に書いてある説明に従って、祠の前にあった機械にスマホをかざし、参加メンバーを選択すると扉が開いた。
「地下か?」
開かれた扉の中には地下に繋がっているような長い階段が見えた。
二人が中に入ると、扉が閉まる。外とは違い、中はひんやりとしていた。
「寒いね」
先ほどの暑さで書いた汗が冷やされて、今度は体温を急激に下げていく。着替えがない俺たちにしては最悪だ。
下へと降っていくと、目の前に大きな扉が現れた。
扉の前に着くと、ブザー音とともに扉が開く。中には明かりが無く、一応中には入ったものの何も見えない。
すると、ブザー音と共に扉が閉まる。
俺たちは特に会話をする訳でも無く、静かに待機した。すると突然、奥から順に松明らしきものに火がついてゆき、祠内の全貌が分かる。
「うわっ、何かいるよ」
「げっ」
そこにいたのは、体長が五メートルほどで見た目は全身が鉄の鎧のようなもので覆われたトカゲのような怪物だった。
「僕はてっきり人間を相手にするのだと思っていたよ。それがまさか怪物だったとは」
「そうだな。だがもう騒いでる暇も無いぞ」
この戦いで、今後淳と旅を続ける価値があるかどうか見定めよう。
俺たちと怪物との距離は十メートル程、こちらから仕掛けるべきか、相手の出方を待つか、そう考えていると、怪物の口の中に何か光る鋭いものが見えた。
「ねえ暁、まずは何をするべきだと思う?」
危険を感じる。
「伏せろ淳」
「え?」
俺の言葉に瞬時に反応した淳は身を伏せた。そしてその真上を怪物の舌が勢いよく通過する。
「うわっ」
淳を標的にした怪物がカメレオンのように舌を伸ばして淳を攻撃したのだ。舌の先には鋭い刃物が付いており、それを勢いよく伸ばして相手を切り裂き攻撃するようだ。
怪物が舌をしまう。
「ありがとう暁、殺されるところだったよ」
「俺は様子を見るから、指示に従ってくれるか?」
個人戦を得意とする俺は、淳に指示を飛ばして戦ってもらうことにした。
「分かったよ」
相手の攻撃パターンを分析する。
まず、離れている相手には舌で攻撃してくる。
俺の指示で前に進んだ淳は鎧の付いていない目元を狙って木刀で突こうとする。
「淳、全力でジャンプしろ」
「うぉりゃ」
淳は突く動作をやめ、上に高く跳ねた。
直後、怪物の鎧の付いた鉤爪のような前足が淳の真下を通過した。
もし俺の指示に反応できていなかったら、怪物の目を潰すのと引き換えに淳が引っ掻き殺されていたところだ。
「また助かったよ」
その後、声の出所を聞きつけた怪物が俺に向かって長い舌をこちらに勢いよく伸ばしてきた。
幸運にも先程の舌の攻撃直前の動作を見て覚えていた俺は、危なげなくその攻撃を右へと交わす。
またもや攻撃を外した怪物はムカついたのか俺の方へと突進してきた。
「淳、今だ」
怪物の標的が俺になった隙に、淳に指示を飛ばす。
「分かった」
淳に隙を見せた怪物の鎧がついていない前脚の脇の付け根に全力で木刀の先端を突き刺した。
太い血管でも切ったのだろうか、血が溢れ出す。
「うわっ」
驚いた淳は木刀を抜き、後退した。
怪物は悶え苦しみ、暴れ出す。どうやら脇の下が急所だったらしい。
そして、鎧の付いていない腹を上に向けて隙を見せる。
「淳、今がチャンスだ。首元を狙え」
「よし」
俺たちは怪物に駆け寄り、暴れる前足や尾を交わし、怪物の喉に深く木刀を突き刺した。
血が溢れ出る。
木刀を刺したままその場を離れ、様子を見ていると怪物の動きが止まった。間も無く以前のイノシシのように、怪物は消滅し、共に祝福の音楽が流れできた。
「倒せたみたいだね」
「ああ、ほとんどが淳のおかげだけどな」
「いや、暁の指示が的確だったからだよ」
相変わらずの謙遜を見せる淳。
こんなやり取りをしていると、怪物が死んだ場所にアイテムがドロップした。それを淳が拾いに行く。
「えっと、ドロップ品は5000コイン、舌の怪物の舌、あと数1の単元 数と式 がそれぞれ二人分だね」
パーティーメンバーとは共闘ができて、報酬も人数分となる為、非常にありがたいシステムだ。
報酬を受け取った俺たちは村に戻る。
これは高校生たちが、生き残りをかけたサバイバル高校生活の物語である。