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序章【転生、そして呪いのアミュレット】

「熱っ!」

それは一瞬の出来事だった。


 バイト先の町工場でプレス機が不具合を起こしたので、のぞき込んだ瞬間だった。

工業機械の安全対策の手順なんて、かったるいと思っていたことを後悔する時間すらなかった。


「ハガネッ!」

「え?」


 工場のおっちゃん達のオレの名を呼ぶ声と共に、ゴリッと何かが砕ける音が聞こえた刹那。

僕の意識はブツっと途絶えた……。


 オレは死んだのか……。

何も見えず、何も感じない。

漆黒の闇の中を漂うな感覚。


 次に気がついた時、その目に飛び込んできたのは、真っ青な空だった。

なるほど、これが天国か……。

冷静に考えて、プレス機に頭挟まれて生きているはずも無いし、死んでしまったという運命は変わらないよな。

よし! オレは死をを受け入れるほかないと結論を出した。

なるほど、こうしてオレは天に召されるわけか……。


 あっけないものだったな……思えばつまらない人生だった。

三人兄弟の末っ子として生まれ、勉強もろくにしなかったおかげで、オレが入れた唯一の高校は底辺男子工業高校。

陰キャが災いして入学してすぐに学園カースト最下位に位置づけられ、パシリされる日々。

遊ぶ金もないので零細の町工場にバイトで入って一カ月。給料日の前日にプレス機に頭を潰されて……。

金も受け取れず働き損じゃねーか……。

とはいえ自業自得なのは自覚している。

オレは人生共々、何事も適当すぎたんだ。


 結果、安全確認を怠ったばっかりに、こうして死んだわけだが、どうやら死後ってものが本当にあったらしい。

オレは、天に召される……そこが花咲き乱れる楽園だといいなぁ~。

可愛い女の子とかいればいいけど……。


 こうして見上げる天国は、空高く、雲の上に……って、あれ?

よく見ると確かにすごい勢いで雲が遠のいていく、オレ、落ちてねぇか?

天国って下にあったっけ? んなわけないよな……。 

待て待て落ち着けオレ。

えーっと……天から堕ちた先にあるものと言えば……。


地獄?


 この無学なオレの記憶が確かなら、天国と対を為す存在といえば、地獄ということになるのだが、うーむ。

わかった! どうやら、オレの行先は地獄らしい。


って、待ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!


 間違いだろ!? マジかよ……オレ、なんか悪いことしたっけか? 子供の頃、蟻んこ踏みつぶして歩いたのがダメだったのか!? でも、そんなこと言ったら、人類のほぼ全員が地獄行きじゃね?

って、そんなことどうでもいいから助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。


 あぁぁぁぁぁぁ……なんか雲がどんどん遠のいていく。

落ちたら死ぬぅぅぅぅ! ってもう死んでるんだっけ!?


どうなるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!


トスッ……。


 ずいぶん軽い音と共に、落下が止まった。

どうやらオレの体は落着したようだ。

さすが死後の世界。

特に痛みなどないまま、オレは天を見上げている。

地獄の空は曇天だ。

どれくらい時間が経ったのだろう……。

いつの間にか夜になっていた。

周囲が暗くてよく見えない。どうなってんだ? と思い周りを見渡そうとして、初めて気がついた。


 オレ、まったく体が動かないじゃん……っていうか、体の感覚がないんですけど……。

見えるのは、暗い曇天の空と、周囲に生えている雑草らしき草だけだ。

花咲き乱れる天国じゃなく雑草生い茂る地獄が、死後の世界とは……。なんか地味だなぁ……。


ん!? 何か近づいてくる。


 あれは……アリだ! アリがやってくる。

あぁ……やっぱり、あの時、オレが殺したアリがオレを罰しに来たのか……。


御免なさい。謝るから許してぇぇぇぇ!


って、あれ?

蟻は、オレの事など路傍の石のごとく行ってしまった。

でもどうせ、この後、鬼が現れて、血の池とか針の山とか溶岩の風呂とかにつれていかれるに違いない……。


……。

……。

……。


っておい! 待てども待てども誰も来ないじゃねーか!!

見えるのは周囲に生い茂る雑草だけ。

どうなっているんだ? 状況がまるでわからない。

うーむ、本当に、ここが地獄なのか?

地獄というには、随分とのどかな場所に思える……っていうか、どうやっても身体動かねぇ。

本当に、オレにどうしろっていうんだ!

叫びたくても声も出ず、体も動かない……あれ? これ、完全に詰んでね?

ずっとこのままだったらどうしよう……ある意味、本当の地獄はこれからだって感じだ……。

こうなったら、どこかの不死生命体のように考えるのをやめるべきか……。

あーあー何も考えたくねーっ

って、考えてるじゃねーかっ!

考えるのなんて止まらねぇよっ!!


と、その時だった。


うぉっ! 突然、視界が動いた。


体が、ふわりと持ち上げられたと思った途端、眼前に現れたのは、シワシワの老婆だった。


ば、ババア!?


 オレの事を覗き込むように、グイっとババアの顔が近づいてくる。

ちょ、ちょっと……ば、ばばぁ、近いっす……(汗)。

あれ? 地獄の番人、閻魔大王ってばばぁだったっけ? 大王っていうくらいだから、おっさんだよなぁ……。

ばばぁは、オレを覗き込むように見つめると、吐き捨てるように言い放った。


「しけた魂じゃな……完全に失敗したわい……じゃがワシにはもうサモンソウルを行う魔力は残っておらぬ……残念じゃ……」


 ばばぁは、心底残念そうに天を仰いだ。


しけた魂ってオレのことか?


ババアは改めて、オレのことを覗き込むと、


「無理は承知で、ヌシに頼む。孫を守るのじゃ、孫が死ぬ時は、貴様も砕けて消える……よいな」


はぁ? 砕けて消えるってなんだよ! いいワケねーだろババァ! だいたい、なんだよ孫を守れって、てめぇの孫くらいてめぇで守りやがれ!


「まったく、口のきき方も知らぬ魂とは……この程度のサモンしかできぬとは、我ながら老いたものじゃ……情けないわい……」


え? あの……オレの声って、聞こえてるんスか?


「当たり前じゃ、ヌシの魂を呼び寄せたのは、このワシじゃからのぉ……」


はぁ……なるほど……婆さんがオレを……って、えぇ!? 何? どういうこと? あの……全然、事情が読み込めてないんですけど、どうなってるんでしょうか? かいつまんで教えていただけるとありがたいんですけど……。


「やれやれ、悪態をついてみたり、へりくだってみたり、ヌシは落ち着きがないのぉ」


はぁ……この状況で落ち着けって言うのも無理かと思うんですよねぇ。

そもそも、小学校のころから、通信簿に落ち着きが無いって書かれてましたしねーっ!


「何を言ってるのか、よくわからんが、混乱するのもしかたあるまい」


ババアは手鏡を取り出しオレの前にかざした。


「これが今のヌシの姿よ」


ん? その手鏡に俺は映っていない。

っていうか、人ですらない。

手鏡に映っていたモノ……それは、ただの赤い石だった。


はいっ! 絶賛混乱中。


えーっと……オレは今、どうなってるんでしょうか?


「見ての通りよ。ヌシの魂は、ワシのサモンソウルの術で、この魔法石に封じられたんじゃ……」


サモンソウル? 魔法石? 封じられた? ちょっと待って。

えーっと……つまりは、その赤い石がオレってことでしょうか?


「さよう、この魔法石が今のヌシよ」


なるほどー……って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーっ!

わからない、わからない。

マジで意味が分からない。


「よいか? もう三度目は言わぬぞ、孫を守るのじゃ。孫が死ぬときはヌシも死ぬ時と心得よ」


ちょ、ちょっとまってくれ。

展開が急すぎやしませんか?

情報が多すぎて、交通渋滞がひどいんですけど。


「なんじゃ、ごちゃごちゃとうるさい奴じゃの!」


ごちゃごちゃって、いきなりお前は石だって言われて納得できるわけないだろ!

さらに孫を守れってなんだよ!

あーあー知らない知らない……。


「落ち着け……仕方のない奴じゃな、何が知りたいんじゃ? ワシが説明してやろう」


マジですか? ようやく歩み寄ってくれた感じですね……。

って、何がわからないかすらわかってないけど、どうしよう……。

あっ、そうだ、こういう時は5W1Hってので確認しよう。


「ごだぶりゅう? なんだって? ヌシが何を言っているのかさっぱりわからん」


 中学生の時、習いませんでした?

って、知らない? ですよね、ごめんなさい。

えっと、じゃぁ今から六つだけ質問します。


「石ころの癖に、ごちゃごちゃうるさいのぉ……」


石ころ言うなっ!

勝手に呼び出したっていうなら質問くらいさせろよっ!


「まっ、それもそうじゃな……はよ質問せい」


じゃあ、質問一つ目、【魔法石】って何?


「ふむ……それもそうじゃな、魔法のない世界からきたんじゃろ? 魔法石のことも、わからぬじゃろうて……魔法石とは、魔力の源であるマナを封じる石のことじゃ……ヌシの魂もマナとして、この魔法石の中に封じられておる」


へー……。

じゃあ、質問二つ目、ここはどこ?


「ここはドラコニスと呼ばれる大陸じゃ……細かく言えば右の森の奥……国でいえばフローレン王国領ということになるじゃろうて」


ドラコニス? 右の森? フローレン王国? ん? 聞いたことないけど……。


「それもそうじゃろう、ここはぬしがいた世界とは異なる世界じゃ……」


つまり、ここは地球じゃないの? 要するに異世界ってこと?


「ふむ。確かにヌシのいた世界から見れば、ここは異世界じゃな……この世界はアングスティアと呼ばれておる。それは、三つ目の質問か?」


あっ、違います。えっと、三つ目の質問は……今はいつですか?


「ヌシの世界とは暦も異なる。竜峰歴五一四年じゃ。帝国歴でいえば千十四年になる」


ううむ、わからん。

地球じゃないなら、時代とか聞いても意味ないか……。

では質問四つ目、婆さんは何者だ?


「名はグナ。魔導士じゃよ……俗世では魔女とも呼ばれておるがのぉ」


ま、魔女……魔導師!? つまり魔法使いみたいなものか………じゃぁ質問の五つ目と六つ目の一緒に聞く。

何故、俺を、どうやって魔法石にした?


「方法は様々じゃが、今回は魔法じゃ。禁忌の魔法・サモンソウルによって、異界の魂を召喚したんじゃ。これは死霊術の領域よ。手持ちの魔法石に適合する魂を召喚したらヌシが来ただけ……。これも孫を守るためじゃ……」


うーむ……。六つ質問したが、さっぱりわからない。

つまり、俺は異世界に転生したってことなのか? この石っころに……。

だいたい、まだ状況もわからないのに、サモンソウルだ魂だとか言われても、わかるわけないだろ! つーか、孫って誰だよ?

そもそも、守るって、自分の意思で動くこともできないのに、どうやって守れって言うんだよ!?


「いずれわかる……しばしの時間はあるからな」


と、その時、遠くから少女の声が聞こえてきた。


「おばあちゃん!」


誰かが駆け寄る音と共に、その声も大きくなってくる。

どうやら、声の主である少女が近づいてきているようだ。

彼女が、婆さんの言うところの孫ってことか?


「ダメでしょ、寒い外に出たら……体に障るよ」


現れたのは、まだ小学生くらいの女の子だった。


「大丈夫じゃ……戻ろうか……ヒルダや……」


ヒルダ……それがこの子の名前か……。


「おばあちゃん、この声は何?」

「おぉ……ヒルダには、こやつの声が聞こえるのか?」

「うん。ヒルダって言った」


えっ!? 俺の声聞こえるの?


「うん。聞こえるよ」

「声の主は、この魔法石じゃ」

「魔法石?」

「さよう……この魔法石はな、ヒルダを守るアミュレットとなるんじゃ。次の誕生日には渡せるじゃろう」


アミュレットってなんだよ……。


「え? ウチのアミュレットになるの? わーっ! やったーっ!」


って、オレのこと、無視して何を勝手に進めてんだ!


「あ、魔法石さん御免なさい」


ぺこりとお辞儀するヒルダは、屈託のない笑顔を見せる。

うーん。ロリは守備範囲外だが、何かに目覚めてしまいそうな気すらする。

それもまたいいかもしれない。


「ろり?」


あっ……ごめんなさい。何でもないです。全部聞こえちゃうのか……。


「せっかくじゃから、自己紹介でもするがいい。これから長い付き合いになろうて……」

「はい。ウチの名前はブリュンヒルデ。おばあちゃんは、長いからヒルダって呼ぶの。だから魔法石さんもウチのことはヒルダって呼んで」


ブリュンヒルデだからヒルダなんだ……ヒルデじゃなくヒルダ。その辺のルールはわからないな。


「魔法石さんは、なんて呼んだらいい?」


オレ? えっと、オレの名前はハガネ。

ただの工業高校の高校生……いや今は、魔法石のハガネか……。

よろしくね。ヒルダ。


「はい。よろしくお願いします。ハガネ!」


こうして、オレの異世界転生した第二の人生は赤い石として始まった。

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