表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第七章 教団決戦
99/114

教徒たちの末路

「……………………」


 そこにいるのは、教徒ではなく獣鬼。先ほどまでこの聖堂で祈りを捧げていた者たちだ。その中には神父の姿まである。奴らは次から次へと入り込み、既に二十体はくだらない。


「な、ぜ?」


「なんのために私が極秘の情報を晒したと思う? 我々が常に、千里鬼眼という鬼の眼で監視されているからだ。オニノトキシンは、秘密を知った者を生かしておかないようプログラムされている。外には他の建物にいた教徒たちもいるだろう。これで君の援軍も期待できない。つまり、どうあがこうとも私の勝ちだ。ふははははははは!」


 郷田が顔を歪め大声を上げて笑い出す。全て郷田の思惑通りだった。あそこまでの情報を簡単に話したのは、獣鬼を覚醒させるため。教徒たちをこの一帯に集中させていたのは、このためだったのだ。あまりの周到さに舌を巻く。


「……ア、アァァァ……」

「キキッ」

「グッ…………」


 すぐ近くで獣鬼が立ち上がった。林、白尾、気を失っていたはずの古谷まで。


「……すまない、お前たち」


 清悟は悲痛に顔を歪め剣を握ると、迷いなく駆け出した。淀みなくまっすぐに部下三人の首を刎ねる。

 清悟は林の耳から落ちたインカムを拾い自分の耳につけた。指揮官用のものだ。これが副主任まで配備されていたことが幸いした。


「萱野、聞こえるか」


『成田G長、ご無事だったんですね。先ほど各地で獣鬼の接近情報が寄せられていたところです。そちらへも向かっていると思われますので、すぐに退却してください』


「そうか」


 これも郷田の影響だろうか。どちらにせよ、一刻の猶予もないということだ。


『成田さん、内村です。すぐにそちらへ向かいますので、情報を共有したのち退却しましょう』


「ダメだ」


『え?』


 清悟はキッパリと言い切った。祭壇の前で愉悦に満ちた笑みを浮かべる郷田、倒れた部下たちの遺体、のっそりと押し寄せる獣鬼たちを順番に見回していく。


「教会はもう獣鬼に囲まれている。お前たちは審脳を捨て、他の拠点を守りに行け」


『待ってください! 成田さんはどうするんですか? 鬼穿のバーニアだけでは街から逃げきれませんよ』


「心配するな。心苦しいが、戦死した林たちの鬼穿を持っていくさ」


『っ! 彼らは死んだのですね……』


「郷田が鬼人だった」


『鬼人!? 奴らがっ!!』


 悠哉が声を荒げた。鬼人は彼の尊敬する先輩『姫川彩』の仇だ。無理もない。


「詳細については後でまた話す。今は少しでも多くの人間を救うんだ。萱野、内村、任せたぞ」


 その指示を最後に通信を切る。


「……遺言はもう終わりか?」


「まだだな」


 清悟は立ち上がると床に刺していた大剣を抜く。

 獣鬼がゆらゆらと迫りくる中、清悟は郷田だけを敵と認めバーニア噴射全開で飛びかかる。郷田も獣鬼に邪魔されずケリをつけようと、全力で地を蹴った。


「「はぁっ!!」」


 清悟の蹴りが郷田の左脇腹へ直撃。左腕がないためにがら空きだ。郷田は構わず拳を繰り出す。清悟は大剣の刀身で受け、衝撃で後ろへ押し戻される。郷田は着地と同時に清悟へ飛び掛かった。小刻みに立ち位置を入れ替え、連続で拳を繰り出す。清悟は刀身を盾にして受けるが、厄介だった。大ぶりな攻撃の方が反撃しやすいからだ。大剣で反撃する隙などどこにもない。もし郷田が左腕も健在であれば、完全に押し切られていただろう。


「うおぉぉぉ!」


 清悟はバーニアを噴かせ押し返す。全速力でそのまま背後の壁へと叩きつけようとするが、鬼人の腕力で押しとどめられる。郷田は右腕を突き出し踏ん張っていた。足は床に食い込んでいるものの、そこから先へは進まない。


「それならっ!」


 清悟は右足を捻り瞬発噴射で緊急後退、そして左足を捻り背後へ噴射し再度突進。


「しまっ!」


 郷田は急に引かれたことで前のめりによろけ、二度目の突進で顔面に刀身を叩きつけられ突き飛ばされた。すぐ背後の柱へ衝突する。


「がっ」


「くらえっ!」


 清悟はすかさず大剣を振り抜き柱ごと薙ぎ払う。


「ちぃ!」


 しかし郷田は柱を蹴り、上空へ飛び上がった。


「まだだ!」


 清悟は逆さまに滞空している郷田を見据え、大剣を右後ろへ振りかぶった。そして、右鍔から噴射音を響かせ、薙ぎ――


「――まさかっ!?」


 その手を離した。噴射の勢いで回転速度を増した大剣は、ねずみ花火のように火をまき散らしながら郷田へ迫る。

 そして――


「ぐあぁぁぁぁぁっ!」


 その刀身は見事、郷田を上半身と下半身に両断した。

 ぼとりとあっけなく落ちた郷田は、右腕で仰向けに転がり天井を見上げる。


「バカな……この私が人間如きに……」


 悔しげに顔を歪めた。声は明瞭であるものの、致命傷であることは日の目を見るより明らかだ。清悟はゆっくりした動作で大剣を拾い上げると、近くの柱へ寄りかかる。すぐそこまでうじゃうじゃと迫っている獣鬼たちを見て呟いた。


「獣鬼、呼んでおいて正解だったな。しかし、口封じなら俺を鬼化させれば済むんじゃないのか?」


「ふんっ……奴らも学習している。最強を作るのに、強い人間をでくの坊にしては意味がないだろ……鬼化するのは大抵、『弱き者』だ」


「弱き者、か……」


 清悟は憐れだと思った。争いを嫌い救いを求めた果てに、弱き者と見なされ獣鬼となる。これが、彼らの求めた救いだと言うのか。こんなもの、悲しく憐れな末路でしかない。


「ふふふ……人類がどこまで抗えるのか見もの、だな……」


 最後に不敵な笑みを浮かべると、郷田は静かに目を閉じた。

 清悟は大剣を床に突き立て獣鬼たちへと向き直る。


「……萱野、内村、聞こえるか?」


『はい』


 先に返事をしたのは萱野だった。


「準備が整ったら、予定通り『東京』を目指せ」


『は? それはどういう……』


「そこに最後の鬼人がいる。もしかするとそれが人類の最後の希望となるやもしれん」


『成田さん!? そっちはどんな状況ですか? 脱出は!?』


 清悟の言葉を遮り悠哉が叫ぶ。清悟は穏やかな表情で目を瞑った。


「すまんな内村」


『な、なにを言って……』


「お前は十五年も前から私の側でよくやってくれた。感謝してもしきれない。最後まで迷惑かけて申し訳なく思うが、後は任せるぞ」


 悠哉は清悟の状況を理解したのだろう。言葉が詰まった。清悟も沈黙していると、悠哉が声を震わせながら言った。


『部下は上司を選べません』


「ああ」


 その言葉が清悟の心に懐かしく響いた。どこかで聞いたセリフだ。


『でも、その上司に着いていくかを決めたのは自分です。私は、あなたの部下でいられたことを誇りに思います』


 清悟は「あぁ」となにかを思い出したかのように、しんみりと頭上を仰ぐ。しかしその胸にはじんわりとぬくもりが広がっていた。


「そうか……萱野」


『はい』


「これからはお前が飛鳥の指揮をとれ。人類存亡をかけた大勝負になるが、お前なら……いや、お前にしかできない。飛鳥を、私の大切な仲間たちをよろしく頼むぞ」


『かしこまりました。成田G長、今までお世話になりました!』


 その通信を最後に清悟はインカムを外した。その頬は場違いにも緩んでいる。


「ははっ、萱野があんなに大声を出すなんて珍しいな」


 清悟は大剣を肩にかつぎ、大きく深呼吸すると教徒だった者たちへ厳かに告げた。


「あなた方にとっては救いだったのかもしれない。だがそれは、今を懸命に生きている人たちまでも危険にさらす。それを許すわけにはいかない。だから、俺はっ、俺の正義を貫く――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ