正体
「っ! 総員、郷田を捕縛しろ!」
林、白尾、古谷が剣を抜き、郷田へと駆け出す。
しかし郷田はあくまで微動だにせず、迫りくる三人を楽しそうに眺めていた。
最初に白尾がその野太い腕で郷田の手を掴もうとする。郷田はそれを見向きもせずに、手の甲ではたいた。
「っ! 抵抗するなら暴力も厭わないぞ!」
額に青筋を浮かべ、バックステップを踏んで剣を振り上げる白尾。
しかし郷田は体一つ分の隙間を瞬時に埋め、白尾の顔面を片手で掴んでいた。
――グシャッ!
周囲へ血が飛び散る。
「……え? 白尾、さん?」
白尾の頭が一瞬で潰れ、唖然とする古谷。林は憎悪に顔を歪めながらも郷田へ斬りかかっていた。だが太刀筋が全て読まれ、傷一つ付けられない。
「くっ!」
清悟が背の龍断包丁の柄を掴み駆け出した。
古谷もすぐに我に返り、林の助勢をしようと足を踏み出す。
「白尾さんをよくも!」
郷田の背後から斬りかかる古谷。郷田は林の斬撃を紙一重で避けた後、左手でその手首を掴み体ごと背後へ振るった。
「きゃぁっ!」
「うっ!」
古谷は林の体で薙ぎ飛ばされ地面へ頭を強打し気を失う。
そして郷田は林の手首を離さず持ち上げ、右手でその心臓を貫いた。
「ごふっ!」
林の遺体が投げ捨てられ、会衆席を破壊し砂塵を上げる。
「郷田ぁぁぁ!」
清悟が大剣を振り下ろした。郷田は跳び退き、刀身が地面を叩き割ると同時に隙だらけの清悟へと跳び掛かる。
――バシュゥン!
清悟は即座にバーニアを噴かし郷田へと飛び出していた。間合いに入った郷田の腹へ膝蹴りを叩きこむ。
「がっ」
郷田は後方へ突き飛ばされるが、着地と同時に再び清悟へと飛び出した。清悟は着地で硬直、大剣も横へ振るうには間に合わない。
しかし、清悟は迫りくる郷田を睨みつける。
「我々を見くびるな」
直後、大剣が火を噴いた。水平に持っていた大剣の鍔の右側からガスが噴射したのだ。それこそ、鬼童と同じく噴射機構を搭載した武器だった。龍断包丁の広い刃幅はそのままに、鍔に噴射機構を搭載させ、柄に操作ボタンを設けている。
清悟は轟音と共に、大剣を右から左へと切り払った。
「なっ!?」
郷田は驚愕に目を見開き、慌てて地を強く蹴り清悟の頭上を飛び越えた。上手く着地できずゴロゴロと地面を転がる。すぐに立ち上がると歪んだ笑みを浮かべた。
「やるではなないか」
「こうも易々と飛鳥の精鋭がやられるなど……あの俊敏さ、圧倒的な膂力、尋常でない動体視力……お前はまさかっ!?」
清悟は憤怒の形相で郷田を睨みつける。郷田は膝蹴りを受けた際に奪い取った指揮官用インカムを握りつぶす。
「『鬼人』と言ったら分かるかね?」
「バカな! 奴らは生物災害以降、二度とその存在を確認されなかったはずだ。なぜ今更……」
「なるほど、君は生物災害以前から獣鬼と戦っていたわけか。どうりで強いわけだ」
「お前が鬼であるならば、本当の目的はなんだ? 鬼が人を集めてなにをしようと言うんだ」
郷田は顎に手を当て考える仕草をとった後、清悟に背を向けゆっくりと歩き出した。
「教えてやってもいいが、それを語るには君たちは知らないことが多すぎる。では聞こう。このオニノトキシンによる生物災害は、なにを以って完遂されると思う?」
「なに?」
清悟は困惑した。そんなことを知っていたらもっと人類は上手く立ち回れたはずだ。彼が喉から手が出るほど欲しい情報をこの男は知っているというのか。そして、そんな重要な情報を敵がペラペラとなんの躊躇いもなく話していることが不気味でしかない。
「それは『最強の鬼』が誕生することだ。それこそ、この人類全てを巻き込んだ人体実験『プロジェクト蠱毒』の最終目標。そして、私が生き残るための唯一の手段だ」
郷田は祭壇の前までたどり着くと清悟へと振り向いた。その瞳に宿る意志は強く、嘘を吐いていようには到底見えない。
「なん、だと? 実験だと言ったのか……そんなものがなんになる? そんなものになって、その先になにがあるというんだ!?」
「それ以上は知るべきでない。ただの人間ごときがね。今言えることは、首謀者が死のうともプロジェクトは最後まで止まらない。未だに獣鬼が進化を続け、人を襲い続けていることがその証拠だ」
「大山志郎のことか。だが、それと教団になんの関係がある。人は皆、オニノトキシンを持って生まれたなどと言って、人々を洗脳したのはなぜだ」
「オニノトキシンを持って生まれたというのは確かに嘘だ。だが、あれは『空気感染』する」
「っ!?」
清悟は目を見開いた。空気感染、それはつまり人類全てが既に感染している可能性を意味する。自分も例外なく。そしてまた、これから生まれてくる赤子たちも同様。だがそんなことを知ったところで、手の施しようはない。清悟は絶望に血の気を失い地へ膝を落とす。
「聞かない方が良かったか? おしゃべりで悪かったな。お詫びに教えてやろう。教団を作った理由は、人類滅亡を早めるためだ。君たちはこれだけ技術を失ったっていうのに、未だに新兵器を開発する余力があるだろう? なにが起こるか分からないから、邪魔してやろうと思った。抵抗する意志と力を取り除いてしまえば、あとはこちらのものだ」
郷田は語り終えるとゆっくり清悟へと歩み寄る。清悟は俯き微動だにしていなかったが、やがて、
「……ふふっ……はははははっ」
急に肩を震わせ笑いだした。郷田は足を止める。
「なんだ、あまりの絶望に気がふれたか?」
清悟は答えず立ち上がると龍断包丁を握り、郷田へ目を向けた。その瞳に宿るは闘志。
清悟は約二十年もの間、いつ終わるかも分からない戦いを続けてきたのだ。彼にとって、今こそ好機。
「感謝する。お前のおかげでようやく光が見えた。俺は、今ここでお前を倒し、人類に希望を灯してやる」
郷田は表情を消し、圧倒的な覇気を纏い地を蹴った。
「やってみろ!」




